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34 僕の目的はそれじゃない

 まず、僕は僕っぽい相手をよく見る。

 相手も同じだ。


 そっくりだ。

 フードをかぶっていないから顔も同じだとわかる。

 ううむ。

 戦うと言われても、という顔をしている。


 もし、もし彼が僕とかなり共通した人間なら、痛い目にあいたくはないはず。

 痛くなく、時間もかからず、楽に、勝敗だけ決することができる方法。

 そんな方法を考えるだろう。

 でもそんな方法が……。

 ある!

 日本伝統のやつ!



『あの』

 声のタイミングがかぶった。


 ひと呼吸おく。


『……作戦が』

 あるんだけど、と言おうとしたけど、そのタイミングもぴったり。

 話そうとしても、相手も同じことを言おうとしてるとなると……。

 ん?

 それなら話が早いじゃないか。

 いちいち言う必要がないってことだ。



 僕が右手を出すと、相手も右手を出す。

 ドラゴンスーツは手の部分が手袋のようになっているので、細かい作業でなければ、大体のことはできる。


 手をにぎって、振る。


『じゃんけん、ぽい!』

 どっちもグー。

 

 やっぱりこれだ。

 勝敗をつけろとしか言われてないんだから、なんだっていいはず。


『あいこで』

 パー・パー。

 

『あいこで』

 パー・パー。


 やっぱりあいこになりやすい。

 でも永遠にあいこになるなんてことはないだろう。

 僕と相手がたとえコピーだったとしても、鏡のように完全に同じ動きをしているわけではない。

 彼は別人なのだ。


 結果はすぐ出た。

 パー・チョキ。

 負けた。

「負けました」

 僕は、ダンジョンさんたちに向かって手をあげる。

 勝った相手はなにも言わずダンジョンさんたちの様子をうかがっていた。



「勝った方はこっち」

「負けた方はあっち」


 新しい扉が二つ開いた。

 

 勝った相手は左へ。

 負けた僕は、右へ案内された。

 ダンジョンさんと一緒に入っていく。


 ぐるーっ、と右側へ、ゆるくカーブしている道だった。


 ダンジョンさんはもぐもぐと、僕があげたサンドイッチを食べている。


「あの、ダンジョンさん」

「はい?」

「負けたらどうなるの」

 僕は脱出石を準備する。

「おしまいですよ。出口につながる道を歩きます」

「敵とか、出ないの?」


「敵は己自身ですよ」

 ダンジョンさんが、決まった、みたいな顔をする。


「あ、はい」


「なら、敵が出るポイントはない感じ?」

「はい」

「なるほど。宝箱が出るポイントはどうなってるのかな」

「勝ったら行けますよ」

「勝ったら」


「ダンジョンさん」

「はい?」

「このダンジョンってもしかして、敵が出る床の色とか、宝箱が出る床の色とか、そういうのはない感じ?」

「床の色?」

 そもそも知らない感じですか。


「サンドイッチ……」

「すごくおいしいです!」

「あ、良かった」


 サンドイッチというワイロは、なんの役に立ってなかったんですね。

 喜んでくれてる顔はとてもかわいいのでいいですけど。



 歩いていくと、外の光が見えてきた。

「外です」

 ぎりぎりまで歩いていくと、スーツの中で冒険者証が光った。


「クリアしたことになってるけど」

「はい、でも、このダンジョンはクリアしただけじゃ意味がない、双子ダンジョンなんです! 冒険者の方々が欲しがるあんなものやこんなものが手に入る夢の場所でもあるんです! さあ、さあ、次回、お待ちしてます! 敵は、己自身です!」


 最後のセリフはよっぽど気に入ってるらしい。

 手を振るダンジョンさんに手を振り返して外に出た。



「やあ、どうだったナリタカ君」

 出口の前にはライトさんが立っていた。

「なんていうか……、変わったところですね」


 内容について話そうとして、ちょっと待つ。

 僕はダンジョンさんが見えるからなにをすればいいのか説明してもらったけど、他の人たちって、中に入ったら、どういう手順で、なにをしてるんだろう。

 変なことしゃべったら僕のスキルがバレるぞ。



「自分が戦いを挑んでくるっていうのは、変な感じだよね」

 ライトさんは言った。

「ですね」

 よし、ライトさんが勝手に言ってくれた!


「まあ、僕は負けちゃったんですけど」

「そうか……。ナリタカ君、どんな戦い方したんだい?」

「はい?」

「負けたというわりには、汚れもないし、ケガもなにも……」

 おっとやばい。

 負けたらもっとボロボロになってないとまずいのか。


「えーと、僕の場合はその、戦闘じゃないっていうか」

「戦闘じゃない?」

「もっと頭脳ゲームみたいな」

 グーとチョキとパーをどう出すかという高等な、その、運の勝負ですけど。


「ライトさんの場合はどうでしたか」

「ボクらは、パーティーのコピーが出てきて、三対三で戦ったよ」

「あ、そうか、ライトさんってふだんはパーティー組んでるんでしたっけ」

「いきなり戦いを挑んで来なかったのかい?」

「僕の場合は、はい」

「へえー。そんな話初めて聞いたよ」

 さすがの僕である。

 戦闘意識0である。


「じゃあ、次はがんばらないとね」

「ここって、勝つとそんなにいいものがもらえるんですか?」

「そうだね。一生ものかもしれないよ」

「そんなにですか。じゃ、もう一回行ってきます」

「いってらっしゃーい」


 ライトさんに見送られて入った。

 今度は右側の入り口。

 ダンジョンさんに案内されて進む。


 そして。

『じゃんけん、ぽい!』

 負け。


 出てきてもう一回、今度は左の入り口だ!


『じゃんけん、ぽい!』

 負け。


 出てきてもう一回、あえて続けて左だ!


『じゃんけん、ぽい!』

 負け。


『じゃんけん、ぽい!』


 負け。


『じゃんけん、ぽい!』

 

 負け。


 こんなに負ける?

 僕は出てきて、考え込んでしまう。

「苦労してるみたいだね」

 ライトさんが言う。



「ライトさんたちのとき、ここで勝つの苦労しました?」

「そりゃ苦労したよ。ボクらと同じ力を持ってるんだから。……いや、正確にはちがうかな。ボクらよりも、ちょっとだけ上の力を持ってる」

「上?」

「うん。ちょっとヒントを出すなら……、入った時点での能力を見て、中のコピーはつくられるみたいだよ」

「え? じゃあ……。中に入って、コピーが出てくる前の段階で鍛えれば、勝てる?」

「ナリタカ君は頭がいいね。そのとおりだよ」

 ライトさんは本当に感心したような声で言った。


 でも。


 えー……。

 正攻法、大変。


 ていうか僕の場合、じゃんけんでどうすればいいの?

 相手の方が常にちょっとだけ運がいいってこと?

 ちょっとちょっと。


 かといってふつうに戦う気はまるでないのでね、僕は。


 困ったぞ。


 ここをクリアしないと先に行けないわけだし……。


 ……。


 ……。


 あれ?


 クリアはしてるぞ?


 みんなはここですごいお宝をほしいから何度も挑むけど、僕、別にそこまでお宝がほしいわけじゃないぞ。


 そもそもは生活を支えられるだけのお宝があればいいわけだし。


 この先のダンジョンにもいいものあるでしょ。


「あ、じゃあ僕は行きますね」

「もうやらないのかい?」

「はい。次の第京ダンジョン行こうと思って」

「いいのかい? ここはクリアすると誰にとってもいいものが出るっていう話だし、第京でそれがないと苦労すると思うけど」

「まあ、苦労してから考えます」


 僕が言うと、ライトさんは笑った。


「やっぱりナリタカ君だね」

 どういう意味だ。

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