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33 ダブルダンジョン

 ギルドの会議が終わって、僕はギルドに泊まった。

 一昨日と同じ部屋で、他の部屋には他の強冒険者も泊まっていたらしい。



 すぴー、っとあっさり眠って翌朝になった。

 狙われる立場となってしまった僕なので緊張するかとも思ったわけだけど、よく考えるとなにもすることはないし、みんなに守られているわけだし、緊張するのは守っているみなさんだ。

 大変なお役目である。

 おつかれさまである。


 部屋を出ると、ドアの前にライトさんがいた。

「うおっ」

「やあ、おはよう」

「お、おはようございます。一晩中そこにいたんですか?」

「そうだね。まあ、ボクの場合楽なんだ。分裂したボクに警備をさせて、ボク本体が眠ってる、っていうこともできるからね。起きたら、分裂してたボクは合体して、また新しく分裂して」

「あ、はい」

 それは楽なんだろうか。



「おつかれさまです。あの、朝ごはん、食べに行きます?」

「いや、ボクはさっき食べたからいいよ」

「じゃ」


 一階に行くと、一般の冒険者はまだいないし、昨日の強い人たちもいない。

 もしゃもしゃとパンを食べ、受付に向かった。

 ふだんどおりにやらなきゃいけないんだよね。

 部屋でこっそりしてたい気分だけど、それだと話が進まないもんね。

 はあ……。


「あの、今日は第兆ダンジョンに行こうと思うんですけど」

「はい、どうぞ」

「僕はふつうに行っていいんですよね?」

「はい、だいじょうぶですよ」

「行かないでって言われたら行きませんけど」

「お気をつけて」

 リーナさんにっこり。

「……行ってきます」



 ボクは部屋にもどってドラゴンスーツを着て、杖のベルトを腰に巻き、外に出た。


 いい天気だ。


 こうしている間も、周囲には昨日の人たちがいて、じろじろ見られてるんだろうか。


 僕は第兆ダンジョンに向かった。



「ん?」

 最初はどういうことかと思った。

 近づくと、入り口がやっぱり二つあるようにしか見えない。

 二つの入口の間に、第兆ダンジョン、という看板があった。


「やあおはよう」

 入り口の近くにはライトさんがいた。

「おはようございます」

 このライトさんはさっき会ったライトさんなのか、朝からずっとここにいるライトさんなのかということを考えるとちょっとめんどくさい気持ちになるけど、でも冷静になると、まあ、どっちでも大差ないのかもしれない。



「あの、ここ、第兆ダンジョンなんですよね」

「そうだよ」

「こっちが出口ってことですか?」

 僕は、ならんでいる穴の、右側を指した。

「いや、どっちも入り口だよ。出口はあっち」

 ライトさんが指したのは、百メートルくらい離れたところにある、出口だった。


「じゃあ、どっちに入ればいいんですか」

「どっちでもいいんだよ」

「でも、出口はひとつなんですか」

 ぽっかりあいている穴はひとつだけ。


「まあまあ、入ってみなよ」

 ライトさんがニコニコしている。


 まあ、入りますけど。


 中は、岩っぽいゴツゴツしたところだった。


 まわりを見ながら声をかける。

「あの、ダンジョンさん、います? ダンジョンさん?」

 キョロキョロ。


「あれあれ、ぼくのこと見えるの?」


 現れたのは、ショートカットでショートパンツのダンジョンさんだった。

 一人称がぼく系の子だ。

 中学生くらいに見える。


「どうもこんにちは」

「こんにちはこんにちは! すごい、人と話ができるなんて思ってもみなかった」

 僕もダンジョンと話をすることになるとは思っていませんでしたよ。


「えっと、ちょっとご協力をお願いしたいんだけど」

「はいはい? どんなことですか」

「ダンジョンさんって、敵が出るところ、宝箱が出るところってわかるよね。それを教えてもらえたらすごく僕はうれしいんだけど、どうかな」

 僕はぬかりなく紙袋を差し出す。


「これはギルドで買ったサンドイッチなんですけど、よかったら」

「わわ、ありがとう」

 ダンジョンさんは受け取って、紙袋の中を見る。

 そして顔をくもらせる。


「うーんうーん」

「あれ? 嫌いなものだった?」

「えーとえーと、そうじゃなくて、一個だけ?」

「あ、はい」

「そっかそっか」

 一個じゃ足りなかったか。


「じゃあ、これも」

 僕は自分の分を差し出す。

「でもでもこれはあなたのでしょ?」

「いや、ちゃんと食べてきたんで。もしこの先が長いなら必要かと思っただけなんだけど、先は長い?」

 ダンジョンさんは首を振った。

「ううんううん、早い人はすぐクリアできるよ」

「なら、どうぞ」

「やったやった! こっち来て」


 と、ダンジョンさんはスタスタ歩いていってしまう。

「あ、ちょっと、どこでモンスターが出るのかとか教えてもらわないと!」

「出ない出ない、だいじょうぶ」

 僕は走って追っておく。


 道はゆるやかに左にカーブしていったが、九十度右に曲がるところに差しかかった。

 そのまま道なりに進んでいくと。

「え?」

 すこし広い部屋に入った。


 そこにいたのは、僕だった。


 向こう側にも、同じような出入り口があって、そこからドラゴンスーツを着てフード部分だけあけている僕と、ショートカットでショートパンツのダンジョンさんが入ってきていた。

 ダンジョンさんもそっくりだ。



「ここは」

「ここは」

『双子ダンジョン!』

 ダンジョンさんたちがしゃべりだす。


「入った人は」

「入った人は」

『自分と戦って勝ったら出口への道が開きます』


「さあ」

「さあ」

『どうぞ!』



 ダンジョンさんが、片手を広げてうながすポーズ。


 そして僕と、僕みたいな僕が、どういうこと? という顔で進み出る。


 僕とそっくりだけど、まったく同じ行動をとるというわけではないようだ。

 ただ、ドラゴンスーツを着て、杖を腰にさげて、居心地悪そうにしているのは同じだ。


『あの』

 僕は僕と同時に口を開いていた。


『戦う気、あります?』

 これも同時。

 さすが僕。

 戦う気なんて全然ないことが丸わかりのひとことだった。

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