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32 ギルド会議


 その日はギルドの通常業務は打ち切りとなり、いつもはいろいろな冒険者でにぎわっている一階の、テーブルがたくさんならんでいるところに、十人くらいの、有力な冒険者が集まっていた。

 ウィンディさんとか、ウィンディさんの仲間も、青い魔法使いの人もいる。


 僕はその中心で小さくなっています。



「やつらがそこの彼を狙ってるってのはまちがいないのか?」

 大きな剣を床に置いている男が言う。

「うむ」

 ギルド長のソフィさんは言った。


「ナリタカ君を逆恨みし、一度は武器屋ごと焼き討ちしようとした。今日はさらに直接的な攻撃だ」

 ソフィさんは言った。

「はい質問」

 背の高い男が手をあげる。

「なんだ」

「ナリタカ君はふだん、どこで生活してるんですかー」


 すっ、とみんなの視線がこっちを向く。

「あの、知り合いの宿屋に……」

「月の宿だ」

「あー。あんまり流行ってないところか」

 イケメン系の人が言う。

「……これから流行ります」

「あ、ごめんごめん、けなすつもりとかそういうことじゃなくて、流行ってない宿なら、客に偽装して来てもわかりやすいってことね。あとは、君の知り合いに偽装されたらかなり危ないかな、とか」

「やつらの変装技術については?」

「特に報告は受けていない。今回もこれといって、知人に化けるようなマネはしていなかったのだろう?」

 ソフィさんは言う。

「はい」

 ラントさんは言った。


 冒険者たちが口を開く。

「いまの時点では変装技術について考慮はしないが、当然、そういったことをしてくる可能性はあるのでは」

「もちろんある」

「あいつら、あまり集団行動をとってなくないですか?」

 ウィンディさんが言った。

「そうだな。ただ、暗殺をしようとしている傾向からすると、多人数行動にはあまり向いていない能力構成なのかもしれない」

「それがワナって可能性は?」

「ワナはないだろ。ギルドを本気にさせてなんか得するかよ」

「決めつけは良くないが、可能性はやや低い」


「基本は、釣り、でいくんすよね?」

「ナリタカ君を、決まった時間内で自由に動かせ、襲ってきたところを狩る」

「でも、今日みたいなことがあってこれじゃ、向こうにも警戒されんじゃないすか?」

「そこだな。こうして会議をしているのはあちらもわかっているだろう」




 ソフィさんは腕を組んだ。


「ナリタカ君には、念のため祝福をかけてある。一度死亡しても、それからしばらくは攻撃を受け付けない時間があるから、釣り自体は有効だ」

 ソフィさんは僕を見る。

「死ぬんですか、僕」

「一瞬だが」

「まあ、でも、僕にできることがそれくらいなら、しょうがないですけど」


 復活してすぐ即死、という連続死亡はないようなので、その意味では安心である。

 また、今日の感じだと、敵さんも僕をなぶり殺すわけではないと思われる。

 ということは、本当に一瞬のできごとで終わってくれるのではないだろうか。

 痛くもなくなんともなく終えてくれるのではないか、そのように思うのである。

 というか思いたいのである。

 死にたくないのと同時に、苦しみたくもないのである。

 僕のわがままである。


「でも、ナリタカ君にそこまでする価値があるんすか?」

「ある」

 ソフィさんはすぐ言った。

「おっと? それは?」

「彼は優秀なハンターだ」

「それは見りゃわかりますよ。ドラゴンスーツ一発ゲットなんでしょ?」

 ちなみに僕はまだドラゴンスーツを着ている。


「でも、そこまでみんなで守るほどかなーって」

「彼は第千で女神の雫も取ったし、第万で鉄壁の腕輪もとってる」

 ライトさんが言った。

「女神の雫?」

「最近ギルドに預けられただろう。あれがそうだ」

「女神の雫ってあれ、どこかで取引されるもんだろ? 新しくハントしたなんて、なんて聞いたことねーぞ」

 金額以上に貴重なものなんだろうか。


「あれ、なんでライトさんが、僕が女神の雫をとったことを知ってるんですか」

「だいたいの話は立ち聞きしているからね」

 白い歯キラリ。

 いや、キラリじゃないから。


 どこに分裂ライトさんがいるかわかったもんじゃないぞ。


「でも、女神の雫をとった人もいるって」

 ダンジョンさんが言ってたような。

「誰が言ってたんだー?」

「あ、いえ」

 知り合いのダンジョンさんが言ってました。

 もしかすると、ダンジョンさん的にはまあまあ最近のつもりで言ってても、実際は、百年単位の昔の話だったのかもしれない。

 とするとびっくりアイテムゲットだ。


「それがもし本当の話なら、なかなかのもんかもしれねえが」


「問題は、ナリタカ君を襲っているやつらが、そんなことも知らずにやっているということだ。あきらかに、利益というより、自分の気持ちを優先させている。1ゴールドも儲からなくてもいい、というつもりでいる。それもグループで」

「めんどうなこった」



 大変な敵だ。

 金じゃない、気持ちの問題だ!

 とか言うとちょっとかっこいいけど、考え方ひとつでこんなにも犯罪者感が強まる人格紹介になってしまうのか。


「具体的に、どうすんだ」

「ナリタカ君にはこれまでと変わらないように生活をしてもらって、ボクたちがいつ襲われてもいいように、陰ながら警備をする、ということになるかな」

「やつらの情報はねえのか」

「ソフィさん」

「ないね」

「今日現れたときも、黒ずくめの姿ではなかったが、顔はかくれていた。おそらく三人組、スレイヤー並み、個人行動が多い、というくらいだね」

「そうかよ」


「あの」

 僕が言うと、みんなこっちを見た。

「なんだ」

「すいません、僕のために」

「お前のためではない」

「ギルドのためだ。こうして力を合わせるっていう形ができてることで、おれたちはちゃんとやっていけてる。これまでも、これからも。つまり、お前は、今度誰かが困ったら協力をするって約束すりゃ、それでいいんだ。わかったか」

「は、はい」


「ま、そもそもお前みたいなペーペーに期待してねえがな。それともなにか? 人数分の離脱石でも用意してくれんのか? おれは金目のものより、そういう実用品のほうがいいな。はは」

「あ、わかりました」

「あ?」

「ちょっと、こっちの方にありますので」

 僕はちらりとソフィさんを見る。


 それだけでソフィさんは察してくれたようで、僕が一昨日泊まった部屋に入ると、そこに脱出石をたくさん持ってきてくれた。

 とりあえず二十個つくって、そのうち十個を、スレイヤー、準スレイヤーたちに配った。

「おい、本物じゃねえか」

「はい」

「やべえなこいつ。離脱石取れるのはともかく、その数やべえな。え、俺とパーティ組むか?」

「おーい、いまそういうのじゃねえぞ」

「そうだ。ナリタカは我と組む」

「おい! まあしょうがねえ。言ったからには、おれはやるぜ」

「ありがとうございます!」

「おれのためでもあるんだ、おれに礼を言うな」

「はい、二度と言いません!」

 僕が言うと、他の冒険者がどっ、と笑った。


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