30 ドラゴンスーツ
「やった、これで第億ダンジョンもクリア!」
「グッジョブ!」
と第億ダンジョンさんも言ってくれて。
床に、青い部分が現れた。
よし、とふむと、宝箱が出現した。
なんだか大きい。
「よっと」
開けてみると、中にあったのは……。
なんだこりゃ。
服なのか?
ドラゴンの頭っぽいフードが一番上に見えてみる。
「それ、ドラゴンスーツね!」
「ドラゴンスーツ?」
「まさにラッキーボーイね」
まさに、がなんなのかという説明がかなり不足してます。
「着てみなよグッドラック」
「お別れみたいになってますけど」
「いいからいいから!」
と強くすすめられて、ぐいぐい上着を脱がされて、しょうがなく着てみたけど。
なんだこれ。
「ぴったりね」
「ていうかこれ、きぐるみですか?」
といっても、ゆるキャラみたいなきぐるみではなく、子どもが着るファンシーな全身パジャマ、みたいなやつ。
頭の部分はフードみたいになってて、それをかぶると、全身が覆われる。
ドラゴンの口にあたる部分が透明素材で外も見える。
だからなんなんだ。
生地は薄めで、スウェットくらいの感じの着やすいやつ。
だけど心理的には着にくいやつ。
高校生は着ないんじゃないかな。
お腹部分に四次元ポケットみたいなポケットがあるので、最低限の物はそこに移せるようだ。
「これで君はドラゴンと同等の力を手に入れました。ユーアードラゴンボーイ!」
「はい?」
「物理守備力、魔法守備力、炎、吹雪など特殊攻撃に対する守備力を手に入れました」
「えー……」
信じられない。
さわっても、やわらかい布製品だ。
「火も吹けます」
「はい?」
「吹いてみて!」
「え? が、がおー」
ぼわっ!
「うわっ」
顔の前に火が出た!
「あっぶな」
「もっと吹いてみたらいいのに」
「危ないでしょ」
しかも火。
杖と、ガッチリかぶってるし。
「あ、脱いじゃうの?」
「こんなの着て歩けないですよ」
「もったいない」
「僕、もう行きます」
体育館みたいに広い、ドラゴンがいた部屋の先に行ったら、もう出口に通じる最後の直線通路になっていた。
「また来てねー」
「あ、はい」
あんまり気がすすまないけど、今度こそちゃんとしたドラゴングッズがもらえるかもしれない。
「今度はなにか、食べ物とか持ってきますので」
「太るものはやめてね」
「あ、はい」
なにがいいんだ。
こんにゃくとか?
あるのかな。
僕は雑にドラゴンスーツを抱えて外に出ると、ライトさんがそれに目を留める。
「ドラゴンスーツ! すごいじゃないか」
「有名なんですかこれ」
「すごいよ。ドラゴンなみの守備力になれるんだから!」
ちょっと興奮してる。
なかなか見ないテンションだ。
というかさっきの話はマジなのか。
「着てみなよ!」
「えー……」
「ナリタカ君を襲ったやつらは捕まってない。いまナリタカ君は狙われる身なんだよ。安全第一なんだから!」
「はあ」
勢いに押されて、また着てみる。
「……なんか、パジャマみたいじゃないですか?」
「パジャマっていうものがなんだかよくわからないけど、すごくいいよ」
「はあ」
「ナリタカ君、もしかして……、ドラゴンスーツの性能、信じてない?」
「信じてるか信じてないかでいえば、信じていません」
「しょうがないな。じゃ、これでどう?」
ライトさんは僕にステップして近づくと、いきなり中段に蹴りをかましてきた。
「ぐはっ!」
僕は地面に倒れ込む。
そして地獄の痛みに身を焼かれ煉獄の苦しみに……。
ん?
「いたく、ない」
すっ、と立ち上がれた。
「だろう?」
結構な勢いで蹴られた気がしたのに、まるで痛みがない。
転んだことも痛みもない。
やわらかいクッションの上でじたばたしたような感じ。
「これも試してみるかい」
と剣を抜いた。
「いや、それはちょっと」
「まあそう言わず」
と剣を腹にぶすーっ!
「ぎゃあ!」
と思ったけど、全然刺さってない。
「ね? 全力で斬ろうとしても平気だと思うけど、うっかり切れたらまずいからやめておくよ」
「絶対やめてください」
ていうか、あなたドラゴンは楽勝って言ってましたよね。
じゃあ僕、死にますよね。
「……これってつまり、鉄壁の腕輪みたいなことですか」
「近いね。攻撃を受け止めるときに硬くなるんだけど、ドラゴンスーツの場合はゆっくりやってもちゃんと受け止めてくれるから、はるかに性能はいいよ」
「そうですか?」
「戦闘中は、フードをおろしておけば、あらゆる攻撃への耐性がかなり高まる。まあ、スレイヤークラスにしかやられなくなると思うよ」
「すごい」
「でもこれちょっと恥ずかしいですよ。やっぱり」
「なにが恥ずかしいの?」
「だって」
「これをかっこいいって思われることはあっても、恥ずかしいって思う気持ちは、ボクはわからないよ」
「ええ?」
このファンシーパジャマが?
「他の人にも見せてごらん。うらやましがられることはあっても、かっこ悪いなんていう人いないよ?」
「見せたらおしまい、な感じもありますけど」
「平気だって!」
「それに、そうだね。これならもう狙撃されても平気かな」
「狙撃?」
「ほら、ナリタカ君を襲ったやつらは、今度は問答無用で狙撃してくるかもしれないじゃない? でも、いまはギルド長があげたっていう、転送の腕輪に仕込んである、蘇生魔法が起動するから、一回死んでも平気じゃない?」
「ちょっと待ってちょっと待ってお兄さん。その話なんですか」
「ん? いや、だから、万一の準備をこっそりしてたわけだけど、これからはドラゴンスーツがあるからいらないねっていう話」
「あれ、僕、もっと安全なつもりでいました」
そんなに命を争う状況だったのか。
そのわりにフリーな状況だった気がするけど。
「覚えておきたまえ。完全に安全な冒険者なんてこの世にはいないのさ」
なんか名言風の言い方で言われた。
「はあ……」
「じゃあね」
「はあ……」
釈然としないものを抱えたまま、僕はギルドへもどることにした。
「う」
前から人が歩いてくる。
僕を見ている。
笑ってはいない。
人とすれちがうたび、視線を感じる。
でも笑われている感じではない。
そのままギルドに入ってみる。
ぱっ、とギルドの会話が止まって、僕に視線が集まった。
もしかして、これは本当に、僕のことをみんなかっこいい、素晴らしい、いかしてる、ヒーロー、って思っている?
僕がついに、異世界で花開いたの?
ちょっと得意気に、カウンターへ向かう。
リーナさんも驚いた顔をしていた。
「やあ、リーナさん」
「ドラゴンスーツじゃないですか! すごいですねナリタカさん!」
「そうかな」
「もう第億をクリアしたばかりか、あのドラゴンスーツを手に入れたんですね! 立派な冒険者になられて、うれしいです!」
「はっはっは、そんなこと、ありますよ」
これは本当にいいものだったのだ。
「普段からこれを着るにはちょっと抵抗があるかわいらしさなので、冒険者の方にはなかなかいないのですけど、ナリタカさんはお似合いですよ!」
「え」
「わたしもドラゴンスーツみたいな部屋着ほしいなってずっと思ってるんですけど、なかなか本物っぽいかわいさが出てるもの、ないんですよねえ」
「……」
だまされた!
異世界でも普通じゃないじゃないか!
よく見たらちょっとクスクスしてる人いるじゃないか!
あと僕はお似合いってなんだ!
くそ!




