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03 第一ダンジョン難易度ゼロ化


 ひとりだ。

 足元から、さびしさが這い上がってきた。

 

 町を出て、来た道をもどる。


 歩いていたのが、だんだん早足になってしまって、最後は走って第一ダンジョンに入っていた。


 どこに行くところもない。

 ここしか来る場所がなかった。



「あの、ナリタカです! あの……」

 僕は入ってすぐ、石の通路に話しかけた。


「どうだった?」

「うわっ」

 すぐ真横の、壁の中から彼女が出てきた。



「ナリタカ?」

「全然知らないところだった」

「やっぱり! 私の言ったとおりだったでしょ! ナリタカは異世界人でしょ!」

 彼女は胸を張る。


「うん……」

「あ……、ごめんね。不安だよね……。知ってる人もいないし、知らない場所だし」

「それはいいんだ」

「え?」


「まあ、不安は不安なんだけど、そもそも僕、友だちってそんなにいないし」

「おっと」

「家族もいろいろゴタゴタしてて、学校でも家でもひとりっていうか」

「おっとっと」

「異世界でも元世界でもひとりきりっていうのは変わらないし」

「おっとっとっと」

 彼女の目が泳ぐ。


「だからまあ、異世界に来たって言われても、別にそんなに嫌じゃないんだけど」

「ふ、ふうん……?」

 彼女の目がすいすい泳ぎ続ける。



「でも……、冒険者、にならなきゃいけないんだよね? それってつまりさ、さっきの人みたいに、戦ったりするわけ?

「うん」

「ちょっとそれは、苦手かなあ……」

「ナリタカ、平和主義なんだね!」


「他の仕事ってあるの?」

「あるけど、そういうお店をやる人って、その家の人とか、この町に元々住んでた人がやるものだから。ダンジョン町に来る人って基本、冒険者だからね。他の町に行くにも、お金かかるしね!」



「じゃあ……、まずは冒険者になって、ダンジョンで稼ぐしかないと?」

「うん!」

「終わった……」

「え?」


「だって無理だよ。命がけで戦って、生活を良くしてくなんて」

「ナリタカならできるよ」

「そんな無責任な」

「だって、ナリタカはすごいスキル、持ってるじゃない!」

「スキル?」



「ダンジョンと話ができるスキルだよ!」



「ダンジョンと話をしてどうするわけ?」

「ふふん」

 彼女はなんだか偉そうにする。


 つま先を、ぽん、と床で打った。


 すると、床の一部の色が変わった。


 一メートル四方くらいの、赤い面がいくつか出たのだ。


「これが、モンスターが出てくるポイントだよ!」

「え?」

「これを私が教えてあげたら、ナリタカは安心して冒険できるよね!」

「なるほど……」


「それで、これが」

 またつま先をぽん、とやると、青い床も出た。

 といっても大きさは十センチ四方くらいで、しかも一か所しかない。


「ふんでみて」


 赤い床をさけて、そこまで行ってふんでみる。



 ……なにもない。


「角まで行ってみて」


 言われたとおり行ってみると、角の先には宝箱があった。



「開けてみて」


 といっても、弁当箱サイズの宝箱の中には、10、と書かれた硬貨が入っていた。

 10円玉よりもだいぶシンプルなデザインだった。



「これは?」

「10ゴールドってこと」

 通貨の単位はゴールドなのか。



「宿屋は、安いところなら50ゴールドで泊まれるみたいだから、もうちょっと探してみようか」

「そっか、泊まる場所……」


 今夜の宿泊場所という危機が迫っていたのか。

 サバイバル感あるな。


「すごいね、君」

「へへー!」

 ダダダダ、と彼女が走ってくると、いきなり抱きついてきた。

「え!」

「私、ナリタカのこと気に入っちゃった! きっと他のダンジョンたちも、ナリタカのこと、気に入ってくれると思うよ!」

「そ、そそそそう、それはうれしいななななな」

「じゃ、続き行こう!」


 彼女は何事もなかったみたいに離れると、歩きだした。

 異世界ではこれくらいのスキンシップ、ふつうなのか?

 ふっ。

 ドキがムネムネするぜ。

 


 赤い床をさけて、青い床をふんで、と進んでいく。


 そうしていると、まったくスライムが出ない。


 5ゴールド、10ゴールド、5ゴールド、5ゴールドと見つけて、お金の合計は30ゴールドだった。


 出口の直前で見つけた宝箱には、石が入っていた。


「なんだこれ」

 青くて透き通っていて、きれいな石だった。

「あ、それ脱出石だよ。強く握って、脱出、って念じると、すぐ外に出られるの。やられそうになったら便利だよ!」

「へえ」

 僕はさっそく、石を握って念じてみた。


「うわ!」

 激しい光に包まれた。

 と思ったら一瞬あとには、もう外にいた。



 崖のように高い岩壁にぽっかりと空いた出口。

 出口の中を見ると、僕を見つけた彼女が手を振っていた。

 第一ダンジョン出口、という看板もあった。



 こうなるのか。


 これって、すっごい平和だな。


 これなら異世界生活をしてもいいかもしれない。


 つまり、ダンジョンとの交渉次第ってことか。



「おいおいお前、脱出石使ったのかよ」



 声の方を見ると、ちょっと離れたところに、僕と同年代くらいの三人組がいた。

 男子、男子、女子だ。

「あ」

 そのうちひとりは、さっきすれちがった、鎧を着たコスプレの彼だった。

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