29 脱出するのは僕じゃない
僕は第億ダンジョンの入り口から入っていった。
第億ダンジョンさんが、天井を歩いてやってくる。
「すぐいなくなって、どうしちゃったの?」
「ここ、ドラゴンいるんですか」
「そうよ。冒険者は好きでしょ」
「好きっていうか」
敵対関係にならなければ好きかもしれないけど。
「あれ、攻撃してきますよね」
「それはそうでしょ」
「がーって炎を吐いたりします?」
「するする」
「ズバッ、って爪で切り裂いたりしてきます?」
「するする」
「がぶってかみついたりします?」
「するする」
「また来ます」
僕は外に出た。
ドラゴンって。
あんなのまともに戦うわけにはいかないでしょ。
武器屋のおじさんも面倒だったけど、ドラゴンは命の危険が……。
あれ?
待てよ。
そんなに変わらない?
「あの、ライトさん、ちょっとききたいんですけど」
「なんだい?」
「ダンジョンの中にいるモンスターって、外に出たらどうなりますか」
「外に? 出ることはないから安心していいよ」
「わかりました、どうも」
わからないのか。
これは実験してみないと。
僕はギルドにもどった。
「リーナさん、脱出石とポーションを買いたいんですけど、後払いでいいですか」
「はい、かまいませんよ」
問題があったら預けてある腕輪を売ろう。
「ポーション五個と、脱出石五個で」
「はい」
合計1500ゴールドかな。
日本円で15万円か……。
考えないようにしよう。
物陰でポーションと脱出石を合成し、脱出液を作成。
とりあえずはこれだけでいいかな。
そして第一ダンジョンに向かう。
ダンジョン入り口、出口、それぞれの前にはライトさんがいた。
本当にすべてのダンジョンの前を守ってくれているのか。
「おつかれさまです」
この、口先だけになりがちな言葉を、けっこう実感を込めて言った。
「やあ、どうしたんだい?」
白い歯キラリ。
「あの、ちょっと実験したいんですけどいいですか」
「ん?」
…………。
「ふうん、なるほど。おもしろいことを考えるね」
「よろしくおねがいします」
僕はライトさんに愛想よく笑顔で言って、ダンジョンに入った。
「あれ、ナリタカ。どうしたの?」
「うん、ちょっと。すぐ出るんだけど、一回いい?」
「いいよ!」
ジョギングくらいのスピードでさくさくさくさく進んでいって、ポーションと脱出石を一個ずつ拾った。
そろそろ終わりだ。
僕は赤い床をふむ。
「あれナリタカ! 赤いのふんじゃったよ!」
「うん」
僕はウエストポーチに手を入れる。
「戦うの?」
「ううん」
僕は首を振った。
角から、スライムがぽよんぽよん弾みながら姿を現す。
ここからが実験だ。
「よし。これでもくらえっ、と」
僕は小ビンごと脱出液を投げた。
これでスライムは……。
小ビンは、スライムの表面でぽよん、と弾んで床に落ちて割れた。
「あ」
もったいない。
僕は急いでもう一個脱出液を作って、フタをあけてスライムにふりかけた。
スライムが消える。
「おお!」
「おお?」
僕とダンジョンさんが同時に声をあげた。
「ナリタカ、いなくなったよ!」
「じゃ、外に出てみる」
「え? うん、バイバイ!」
僕はすぐ外に出る。
ライトさんはこっちを見た。
「スライム、外に出てきました?」
「いや?」
「そうですか!」
ライトさんとの打ち合わせは、もしモンスターが出たら倒してもらう、ということだった。
「じゃあ、脱出液をかけられたモンスターは、消滅する、ってことで良さそうですね」
「うん。これは必殺技だね。すごいよ」
言われてみればそうだ。
ドラゴンをなんとかするためだけに考えたものだけれども、やり方としては、どんなモンスターにも応用できることになる。
強かろうと弱かろうと、脱出液をかければおしまい。
楽勝だ!
「でもいちおう、やるときはやるって言ってもらわないと困るね」
「どうしてですか?」
「もし、そのまま外に出てしまうモンスターがいたら、危ないだろう?」
「あ、そうか」
ライトさんがいるからいいけど、そうでない場合。
特に人がいるほうに行かれたら相当まずい。
「とはいっても、ドラゴンくらいなら出してくれても平気だけどね。第京ダンジョンあたりからは注意してほしいかな」
ドラゴンくらいって。
すごい大きいですよ、ドラゴン。
どんだけですか。
「じ、じゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
今度こそ第億ダンジョンへ。
「おや、また来たのかい?」
第億ライトさんが迎えてくれる。
「はい」
僕は第一で話した事情を説明した。
さすがにライトさん間でも、分裂を解除するまでは、記憶は共通ではない。
「なるほど。もしドラゴンが来たらボクがすぐ倒せばいい、と」
「はい」
「任せて」
そして中に入る。
「お、きたきたー」
「よろしくおねがいします」
あいかわらず第億ダンジョンさんは天井にはりついていた。
進んでいく。
すぐにドラゴンの部屋の入口だ。
僕は脱出液を合成する。
「あら? 合成できるの? やるじゃないボーイ」
集中しているふりをしてダンジョンさんを無視する。
陰からドラゴンの姿、位置を確認。
「とりゃ!」
一歩だけ出て脱出液のビンを投げた。
ドラゴンなら体の表面がかたそうだし、割れてくれるはず!
「ガウ」
と思ったらドラゴンが軽く火を吹いて、脱出液が空中で燃え尽きた。
おお……。
「おもしろい考えじゃないボーイ。ちょっと遠かったけどね」
とダンジョンさんがウインク。
「だめか……」
「そうね、惜しかったわね」
「どうすれば……」
と思いつつ、ダンジョンさんを見る。
「あの、ダンジョンさんはドラゴンに襲われたりって、します?」
「まさか。ここは、わたしのダンジョンよ?」
オーバー手振りで表現してくる。
僕はもうひとつ脱出液を作った。
「あ、じゃあ、これ、ドラゴンの上から落としてもらってもいいですか?」
「いいわよ」
ということでダンジョンさんにドラゴンの真上から脱出液を落としてもらったら、ドラゴンが消えた。
やったぜ!




