27 武器屋宿屋開店
「ふんふんふーん」
僕が持ってきたパンはダンジョンさんと二人で食べた。
するとダンジョンさんは僕の近くでゴロゴロ転がり始めた。
「ダンジョンさん?」
「ふんふんふーん」
ゴロゴロ。
「ごきげんだね」
「うん! 今日はナリタカが泊まってくれるっていうから、楽しいんだー!」
ゴロゴロ。
ゴロゴロ。
「誰かが泊まってことってないの?」
「ないよー! だって、人間がダンジョンに泊まったら、なにがあるかわからないんだもん!」
「ええ!?」
なにそれこわい。
「私もこんなこと初めてだから、なにが起こるかわからなくて、ドキドキするよー! 秘密の凶悪なモンスターが出たりして! ふふふ」
いや笑えないから。
スライムの長、みたいなやつが出てきたらどうしよう。
やっぱり外に出ようかな。
「ねえ、ナリタカって、夜はなにしてるの?」
「なにって、なんだろう。お風呂入ったり、食べ物食べたり、テレビ観たり、スマホやったり」
「テレビ? スマホ?」
「あ。僕がここに来る前の世界での話。僕がいたところにはそういうのがあって。なんていうかな。映像とか、音とか、記録しておけたり、遠く離れたところと話したり、瞬時に手紙をわたしたりできるもの? みたいなのがあって」
「なにそれすごーい!」
あらためて考えてみると、たしかになかなかすごい。
「ナリタカはそういうのやってたんだね!」
「僕はやってなかったけど」
「ん?」
「みんなはそういうことができたっていうこと。僕は使えなかったから。いろいろ事情があって……」
「ふうん。ナリタカもいろいろ大変だったんだね!」
「まあね」
ざっくりとまとめてくれた第一ダンジョンさん。
いまはありがたい。
「魔法ではそういうことできる?」
「あんまりそういうのは得意じゃないかもしれないね。ナリタカのいたところは、モンスターはどうやって倒すの?」
「僕らのいたところは、モンスターっていなかったから」
「え、すごい! モンスターがいない世界なんてあるんだ! じゃあ、ダンジョンは宝箱ばっかりなんだ!」
「ダンジョンもないよ」
「え?」
「ダンジョンがないならどうやっていろいろな物を見つけるの?」
「それは、いろいろつくって」
「武器とか?」
「モンスターいないから」
「あ、そっか。じゃ、テレビとか?」
「うん」
「ナリタカ、テレビつくれる?」
「つくれない」
「スマホは?」
「つくれない」
僕は杖を見た。
どこに行こうと、スマホをちょっとさわるか、杖をちょっとさわるかのちがいなのか。
「ナリタカ、元の世界に帰りたい?」
「うーん。ここの方がいい」
「どうして?」
「元の世界の方が僕にとっては便利だったとは思うけど、でも、あんまり暮らしやすくなかったんだ。ここがいい。ダンジョンさんもいるし」
「えへへ」
ダンジョンさんはゴロゴロした。
「ナリタカ、明日はがんばってね」
「うん? 僕はあんまりがんばることないけど」
「きっと武器屋のおじさんにおこられるよ」
「そうかな」
「私もついててあげようか?」
「だいじょうぶだよ」
「すぴー」
「え?」
「すぴー」
ダンジョンさんは目を閉じて寝息を立てていた。
こんな、電池が切れるみたいに寝るのか。
ダンジョンさんの寝顔を見ていたら、僕もなんだか眠くなってきた。
目を覚まして一瞬、ここはどこかと思った。
ダンジョンだ。
「う、うーん」
起き上がると、体がバキバキにかたい。
あっちこっちをのばしていたら、壁の中からダンジョンさんが現れた。
「おはよー!」
「おはよう……」
「起きるの遅いよ! もうおじさんたち来てるんだから」
「え?」
目がしゃきっと覚めた。
「来てるって、どこに?」
「出口の前にいるよ」
「もう?」
「ナリタカが私の中に入ってから、もう一日くらい経っちゃったからね」
「一日って、丸一日? そんなに?」
「つかれてたんだね!」
この世界に来てからたしかにいろいろあったし、心休まる時間はあまりなかった。
泊まったのも、ミミの宿とギルドだから、どうしても気が張ってしまうところはあっただろう。
でもこんなコンクリートみたいなところでぐっすり眠ってしまうとは。
ダンジョンさんの力なのか、僕が本当に限界だったのか。
とにかく杖で武器を浮かせると、僕は出口へ向かった。
「おい、やってくれたなボウズ」
外に出るなり、おじさんが僕にヘッドロックをかけてくる。
おまけに、兄ちゃんからボウズ。
なんとなく格下げされている気がする。
「す、すいません。それで、武器屋の方は……」
「うん、建物の方は痛み方が激しくて、ちょっと使えなくてね」
ライトさんが言う。
「いずれは直すがな」
「でもいい物件があってね。しばらくそこでやれることになったんだ」
「良かったですね!」
「さっそく行こう」
僕らは歩き出す。
「でも、ライトさんも二日連続で手伝ってくれるなんて、だいじょうぶなんですか?」
「そこはほら、ボクっていい人だから」
「はあ」
「なんだいその反応は」
そんな話をしながら向かった先は。
「あれ……?」
見たことのある宿屋が。
「ここって……」
「なんだ、知ってるのか」
「クーポンで泊まれる宿だね。ここに泊まったのかい?」
「はい」
「ここはちょうどな、ちょっと前に主人が死んじまって、うちでいくらか金を貸してやってるんだ。だから、ちょうどいいと思ってな」
カジルやスランス、ミミが表に出てきた。
「とまあ、こういうことになったわけだ」
カジルは言った。
宿屋は、武器屋が再開できるまでは休業状態。
「金を借りてる立場でもあるし、困ってるってんだから、協力しねえとな」
宿屋の裏手にある建物。
倉庫のような扱いをしているところを、荷物をできるだけ宿屋の方に移してあけたところに武器類を運び込み、そこでいまだけ武器屋、を展開することになったという。
「すみません。こちら、宿屋ですよね」
「あ、はい、こっちっすよ」
カジルが、話しかけてきた女性を連れていく。
「あれは?」
「うん。最近、女性に喜ばれるような宿屋にしようって、お風呂とか、部屋をきれいにしていったりとか、気をつけてるんだ。誰でも呼び込もうとしても難しいから、絞ったほうがいいんじゃないかっていう話になってね」
「へえ」
おじさんは腕を組んで考えている。
「うちも、女性客を呼べるといいんだがな」
「一緒にやったらいいじゃないですか」
僕は言った。
「うん?」
「ピンチはチャンスですよ」
「おもしろいこと言うな、ボウズ」
おじさんは、わっはっは、と笑っていた。




