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26 ダンジョン倉庫


「武器をダンジョンに持って行く?」


 おじさんとライトさんは疑うように僕を見た。


「ダンジョンに置いておけば、誰も持っていけないでしょうし」

「ダンジョンに物を置いておいたらなくなってしまうだろう?」

 ライトさんは言う。

「毎回形も変わるだろう。どうすんだ」

「それはなんとなくだいじょうぶなんです」

「なんとなくじゃ困るぞおい」

「なんとなくじゃないです」

「なに言ってんだ?」


 ふうん、とライトさんが勝手に納得する。

「そこはあんまりきいたらいけないところなのかな?」

「きいたらいけないって、大事な売り物だぞおい」

「彼のスキルに関することなんでしょう」

 ライトさんが言うと、おじさんは、む、と口ごもる。


 それくらい、スキルに関して突っ込んだ質問をするのは、まずいことなのかもしれない。


「そんなに高くなくて、かさばる商品はダンジョンに、貴重なものはダンジョンではなくて、ギルドの一室とかそういうところで管理すればいいんじゃないかと思うんですが」

「なるほどね」

「ギルドに置くのか?」

「僕が昨日泊めてもらった部屋とか、空いている部屋に置かせてもらったらいいんじゃないでしょうか。ギルドと提携してるお店なんですよね?」

「ギルドに頼りたくは」

「ボクがきいてこよう」

 ライトさんが分裂すると、そっちがギルドへと歩いていった。


「それで、ダンジョンに置くっていうのは」

「その前に、ちょっと試したいことがあるので、協力してもらえますか?」


 僕はいったんギルドへ走る。

 それから武器屋のおじさんで協力し、ダンジョンに置くつもりの武器をロープで縛って、いくつかのかたまりにしていった。

 それからそれらをロープでつなぐ。

 そして、僕は杖を使う。

 自分の体を浮かせるような感覚で……。


「お」

 おじさんの声とともに、ふわふわと、たくさんの武器が浮き上がった。

 さっきダンジョンさんにきいたとおり、ひとかたまりになっていれば、この杖の魔法石は、ものを浮かせることができるようだ。

 戦闘面でも強さが発揮できそうな気がする。 

 僕は無理だけど。


 ライトさんがもどってきた。

「ギルドに置いてもいいってさ」


 まず、おじさんはライトさんと一緒にギルドに貴重品を、ふつうに運んだ。


 それから もどってきたライトさんと協力し、僕らはふわふわ浮いている武器類をダンジョンに運ぶ。

 水に浮いているものを引っ張るような感覚だ。


「あれ? なんだかガサガサ鳴ってるね」

 ライトさんは僕を見る。

「気のせいです」


 そしてダンジョンに入った。

「第一ダンジョンなんて久しぶりだなあ」

 ライトさんはしみじみ言う。

「たしかにな」

「おじさんも入ったことあるんですか?」

「ああ。若い頃はそれなりにやったもんだ」

「知らないのかい? 元スレイヤーだよ」

「え、そうなんですか?」

「昔の話さ」


 おじさんが遠い目をする。

 このまま突っこんだ話をするとめんどくさいテンションで武勇伝を聞かされそうなので、その件に関して今回はあまり立ち入らないことにしておこう。


「ナリタカ、このおじさん、昔はすっごいこわい人だったんだよ!」

 ひそかについてきているダンジョンさんが思わぬ情報をくれた。


 そんなことを言いながら進んでいく。

 さすがライトさんはスレイヤーというだけあって、出てきたスライムは素手で真っ二つに切っていた。


 そしてダンジョン終盤。

 僕は立ち止まった。

「ん? このへんにするかい?」

「はい」

 僕はゆっくり武器類を降ろした。


「ここで、本当に明日になってもなくならないんだな?」

 おじさんが念を押してくる。

「はい。帰ったらなくなりますけど」

「は? なんだと?」


「このまま帰ったらなくなってしまいますけど、今日は僕がここでずっと見てますので、なくなりません」




 さっきダンジョンさんに交渉してきた。

 

「ダンジョンさん、実は村で火事があって、武器屋の人が困ってるんだ。商品を何日か、置かせてもらえないかな」

「いいよ! でも、置いたままいなくなったら、道具は私が吸収しちゃうよ?」

「どうにかそのままにはできない?」

「無理だよ! あとから来た人は、同じ道に入らないようにはできるけど」

「そっか……。じゃ、僕がいればいいんだね」




 つまり、僕が帰らなければいいのだ。

 ガサガサというのは、ダッシュでギルドで買ったパンとサンドイッチの紙袋だった。


「僕が原因で武器屋が燃えたようなものですし」

「だからな、それはお前のせいじゃないってさっき言ったろうが」

「それがおじさんの言い分なら、これは僕の言い分です」

「そういうことなら、俺も残るぞ」

 

 おじさんは腕組みをして床に座った。

「だめですよ。おじさんは明日からどこにするのか、武器を置くところとか見つけないと」

「お前は俺がそんな薄情者だと思ってるのか!」

「思ってません。なので」

 僕は、小ビンを取り出し、おじさんに中身をふりかけた。

「うわ、なにを」


 おじさんは光りに包まれ、外へと運ばれた。

 僕が最初に合成したときのやつだ。

 脱出石とポーションを組み合わせた、脱出液。

 こういう使い方もできる。


「いまの、脱出液かい?」

「はい」

「そんなレアアイテム使っちゃって……」

 ライトさんは笑っている。


「おじさんの新しい武器屋を探すのか、修理するのかわかりませんけど、それまでは商品をしっかり守りたいと思って」

「いいよ。すぐ見つかるよう、ボクも力を貸そう」

 ライトさんはみるみる増殖した。

 二十人くらいになったんじゃないか。


『これで、新しい物件を探すにも、修理をするにも活躍してみせよう』


 ダンジョンさんがひいている。


「じゃあ、僕は一日くらい経ったらいったん出て、見つかってなかったらまた入るので、第一ダンジョンの外でも監視してもらっていいですか?」

「しょうがないな」

 ライトさんはどこか楽しげだった。

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