表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/50

24 急襲



 第万ダンジョンを出ると、すぐ前に白い人がいた。

「うわっ」

 僕がさがると、白い人は苦笑いをうかべた。

「ボクは、うっとりされることはあっても、そんな態度をされることはないんだけどな」

「あの、入り口にいるのかと」

 と思って入り口の方を見ると、白い人がいる!


「え? え?」

 なにこれ怖い話?


「ああ、ボクは分裂できるんだ」

「はい?」

「スキルだよスキル。だから、第百から、千、万、億、兆、京、垓、杼、と全部の入り口と出口を、ボクが警備しているよ」

「そんなバカな」

「ほら」

 と白い人は目の前で分裂して見せた。

 すぐもどったが、たしかに二人になった。

 なんというスキル……!


 だからウィンディさんは、うちのパーティーが冒険できなくなるとか言ってたのか。

 他の、監視をする人たちも同じじゃないかと思ったけど、全然そうじゃなかった。


「分裂って、それはその、どうなってるんですか?」

「みんなボクさ。本物だよ。だからかわいい子猫ちゃんたちをさびしがらせることはないのさ」

「はあ……」

 一瞬気が遠くなった。


「あらためてですけど、そのスキル強すぎませんか」


 五人になれば五倍、十人になれば十倍?

 コンビネーションも考えるとそれ以上?

「増やせば最強じゃないですか!」

「君は素直だね」

「はい?」

「世の中、そんなに都合のいいことばかりじゃないよ」

「うん?」


 どういうことだろう。

 増やす数に限界があるのか?

 デメリットがある?


 白い人は、僕の手元を見る。

「それが今回の戦利品かな?」

 ポケットが破れている、と思ったらなんとなく、魔法石や腕輪はそのまま持って出てきてしまった。


「いい腕輪じゃないか。鉄壁か」

「鉄壁?」

「つけてから、戦闘が楽にならなかったかい?」

「いえ別に」

「ふうん? 君は、戦闘をしないで切り抜けるタイプなのかな」


 ん?

 戦闘をしない?

 入り口で話したときは、ダンジョン探索能力を持っているとか言ってきて、僕の反応を見てたような。


 そうか、本当に分裂してるんだ。

 だから入り口の白い人が持っていた記憶と、出口の白い人が持っている記憶がちがう。

 記憶は、統合されるときに集まるんだろうか。


「この腕輪はどういうものなんですか」

「鎧を着ていなくても、鎧を着ているみたいな防御力が得られるんだ。つまりね」

 白い人は、僕にデコピンをした。

 すると、カキン! という音がした。

 デコピンの力は感じたけれども、指で打たれたんじゃなくて、押されたみたいな力の加わり方。


「鋭く衝撃を与えられたとき、攻撃と判断して、腕輪が体の周囲に薄い鉄壁を発生させて、守ってくれるんだ」

「へえ、便利ですね」


 でも、白い人は鎧を着ている。

「この腕輪は持ってないんですか」

「いや、持ってるよ」

「だったらどうして」

「鋭い力、早い力には強いんだけどね。ゆっくりした力には効果がない。たとえば、剣をゆっくり押しつけたらふつうに刺さるよ」


 なんだそのシチュエーション。

 やるならひとおもいにやってほしい。


「こっちの魔法石はなんですか?」

「それはペンに使う石だね」

「ペン?」


 聞けば、これを使って、あのボールペンみたいなものの、インクが作られるらしい。


「いちいちインクをつけなくても使える便利なあのペンの材料だ」


 僕が欲しいという気持ちがダンジョンに伝わったんだろうか。


「その大きさなら、千本は作れるんじゃないかな」

「そんなに!」

「ふつうはもっと、粒みたいな形で見つかるんだけどね。君のハンターとしての才能を感じるよ」

「書き放題じゃないですか」

 バカみたいな感想を言ってしまった。


 すると、白い人は、くっくっく、と笑い始めた。

「笑わなくても良くないですか?」

「いや、君は本当に素直だよね。君みたいな相手は、無理やり奪おうとするんじゃなくて、相談したら、高価なものがもらえるんじゃないかと思えるよ」

「なんの話です?」

「そんなふうに、戦利品を平気で見せるっていうのは、危ないことだっていう話だよ。ボクは手を出さないけど、冒険者っていうのはいろいろなやつがいるからね」

「あ、はい、気をつけます」


 僕はごそごそとしまった。

「その服、ポケットの数、すくないのかい?」

「ちょっとやぶれてまして」

「早く買ったほうがいいね」

「はい。武器屋で作ってもらった道具入れは頑丈でいいんですけどね」

「へえ。だったら、武器屋で頼んだら?」



 ということで武器屋に行った。


「すいません」

「おお、どうした」

「あの、この前、小物入れを頼んだじゃないですか」

「おお」

「それの延長というか、ウエストポーチって作れます?」

「ウエストポーチ?」


 僕はおおよその形を説明した。


「そのままじゃなくてもいいんですけど、スマートに、がっちり、腰に入れておけるようなものがいいんです」

 普段は上着で覆っておけるので、外にさらすこともないから安心だ。

「そうか……。じゃあこういうのはどうだ。なんか書くものがあるといいが」

「どうぞ」

 おじさんに紙とペンをわたして、図で説明してもらいながら、僕はゴーサインを出した。


 素材は鎖かたびらを転用してもらえることになった。

 頑丈で、普段は上着の中なので透けてもセーフだし、なんなら布をかぶせてもいい。


「じゃ、これでお願いします! あの、お金はいま500ゴールドくらいはあるので、その範囲で」

 さっき拾った分だ。

 赤い床とかぶってる部分がなければ倍以上は拾えただろうけど。


「そんなにかかんねえよ。あとでまた来てくれ」

「はい!」

 と返事をしたときだった。


 バタン! と武器屋の入り口のドアがしまった。

「なんだ?」

 おじさんがそちらを見にいく。


「ん、んん?」

 おじさんがドアを開けようとするが、開かない。

「どうしたんですか」

「開かねえんだよ」


 パチ、パチ、と音が聞こえてきた。

 小枝が折れるような音……。


「おい、どうなってんだ!」

 おじさんが見た先。


「うわ」


 武器屋の奥から煙が流れてきていた。

 いや奥だけじゃない。

 あちこちからだ。

 

「燃えてる……?」


 うっすらと火が見える。


「おい、くそ、どうなってんだ」

 おじさんはあちこち走り回るが、ここも開かない、こっちもだ、と叫んでいる。


「くそ」

 おじさんは壁にかかっていた斧を持ち、窓に叩きつけた。

 しかし斧が弾かれてしまった。

「どうなってんだ……」


「おじさん」

 僕はおじさんの手をつかみ、転送の腕輪を起動した。


 光りに包まれ飛び立ったが、天井にぶつかって二人で落ちる。


「ぐあ」

「いってえ」


 じゃあ脱出石。

 起動しない。

 そうだ、離脱石だ。

 急いでつくって、おじさんをつかんで起動させた。


 外に出る。

 建物からも出られるという話通りだ。


「こいつは……」

 武器屋が燃えていた。

 炎が立ち上っている。

「おい、誰かこれ消してくれ!」

「人を呼んできます!」



 僕は転送の腕輪でギルドに飛び、魔法使いを連れてもどった。


 氷魔法で一気に炎が静まった。

 

 煙が静かに上がっている。

 燃えた範囲は、炎のインパクトからするとそれほどでもない。

 だが黒くなった外壁は、見た者の心にダメージを与えてくる。


「誰がこんなことやりやがったんだ……!」


「こいつだね」

 見ると、白い人がやってくるところだった。

 魔法なのか、光っている鎖で黒いマントの男を拘束していた。


「この人……」

「ナリタカ君を襲おうとした連中のひとりじゃないかな?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ