23 ポイント三次元化
「すいませーん……」
しばらく待っても第万ダンジョンさんが出てきてくれなかったので、しょうがなく、僕は杖を使って進んでみることにした。
杖を持って念じると、ふわりと浮かぶ。
床がモンスター出現ポイントなのだから、クリアできることはできる。
いったんクリアして、それから考えよう。
と、ふわふわ進んでいった。
鍾乳洞の中は涼しく、広さにも余裕があるので、天井からのつららみたいな石にぶつかることもなく、平和に進んで行けたのだった。
なんて思っていたら、急にコウモリが出てきた。
「うわー!」
前後からたくさんのコウモリがわさわさ出てきて、僕は急いで脱出石でダンジョンを出た。
「あーびっくりした」
視線を感じる。
白い人が笑顔でこっちを見ていた。
「どうだった?」
「あ」
そういえばさっきこの人、浮いていてもここはクリアできない、とか言っていた。
「吸血コウモリにやられたかい?」
吸血!
即逃げ判断大正解!
「ええ、まあ」
どうしようか。
ダンジョンさんと話ができないと進めない。
何度も呼びかけるしかないか。
入ろうとすると、白い人から声がかかる。
「ナリタカ君、また行くのかい?」
「はい」
「なにか勝算はあるのかい?」
「ないです」
「はっは!」
白い人は笑っていた。
「がんばって!」
「どうも」
僕はもう一度中に入った。
「ダンジョンさん! ちょっとお話いいですか!」
脱出石を使わない範囲で、呼びかけてみるしかない。
「ダンジョンさん! ダンジョンさん? ダンジョンさーん! ダンジョンさんダンジョンさんダンジョンさん!! ……ダンジョン、さん……」
「あのー、協力していただきたいんですけども」
「僕は、ダンジョンさんに、モンスターが出るところや、宝箱が出るところを教えてもらわないとクリアできないもので……」
「なにか欲しいものとかあったら、持ってきますけど。本、お好きですか?」
「パンとか、ダンジョンさんたちに好評なんですよー」
呼びかけるたび、ちょっとだけ反響して静かになるダンジョン内。
この手応えのなさ!
好きの反対は無関心とかよく言うけど、この反応の無さは心が折れますね!
きっかけのきっかけ、くらいの部分もなにも見えません!
僕は、さっきダンジョンさんが座っていた岩に座った。
どうしようかな。
脱出石はあと……、あれ、二個しかない。
また落としたか?
すぐ使えるように雑に上着のポケットに入れておいたのがよくなかったか。
「って、え?」
財布を入れておいた方の、内側のポケットに穴があいてる!
脱いで、何度も探ってみたけれどもない。
クーポンとか全部入れておいたのに。
ポーションとかも。
あれやばいぞ、金が。
いやいや、ギルドに高い腕輪と女神の雫をあすけてあるからお金には困らない。
なんか最近こればっかりだな。
財布ってみんなどうしてるんだろう。
あとできこう。
もう、なんのために服を買ったんだか!
ということで所持品は、杖、ホルスターに入れておいた女神の雫四つ、脱出石二つ、転送の腕輪、合成小袋になってしまった……。
なにやってるんだろう、僕。
金があるからって出費を雑にやってたら、いくらもうけても足りない。
ちゃんとしよう、ちゃんと。
うん。
そう心に決めたとき、肩をとんとん、とたたかれた。
振り返ると、ダンジョンさんがいた。
「あ、あの」
僕が話し始めると、ダンジョンさんはさがった。
「あれ? ええと」
ダンジョンさんはさらに離れていく。
これは……、どうすれば……。
だめだ、手がない。
出直すか……。
僕は立ち上がった。
するとダンジョンさんは、もどってきて、僕の座っていた岩に座り、本を広げた。
読み始める。
「あの」
声をかけると、ダンジョンさんは立ち上がり、僕のことを不審そうに見ている。
しばらく待っていると、また座って読み始めた。
これはなんだろう。
彼女は本を読んでいるだけだ。
読んでいる。
読んでいる……。
僕はいったんダンジョンを出た。
「やあ、今度は中に入らなかったのかい? どうかしたのかな」
「いったんギルドにもどります」
「そう。気をつけて」
「平気です」
僕は転送の腕輪で即座にギルドに飛んだ。
ちょっと慣れてきたのか、足から着地することができた。
衝撃も大したことない。
これならいけそうだ。
僕はギルドに入って、リーナさんのカウンターに向かった。
「ナリタカさん、どうされました?」
「リーナさん、ちょっと貸してほしいものがあるんですけど。紙とペンなんですが」
「はいどうぞ」
リーナさんは紙を一枚とボールペンみたいな謎のペンを出してくれる。
「あ、もうちょっとほしいです。あと、ダンジョンに持っていきたいんですけど」
「かまいませんよ」
「すいません。あの、お代はあとで払いますので」
「でしたら、それもあとでまとめてのお支払いでもかまいませんよ」
「え?」
「ナリタカさんには、ギルド内の信用もあります。また、すでにお預かりしているお荷物がありますので、万一、ナリタカさんが悪意を持って、支払いをせず別の町に行ってしまった場合でも取り立てが可能です。まったく問題ありません」
「なるほど」
信用とかじゃなくて、預けてる物が高価だからギルド的には全然セーフ、と言われている気がするけど。
「えっと、じゃあ、ついでにパンを買ったりするのも、後払いでいけます?」
「はい」
「すごい」
「それと、本、なにか売ってくれませんか?」
「本? どういった本でしょう」
「なんでもいいです。そうだ、新しい方がいいです」
「新しい本ですか」
では、と出してくれたのは、モンスターの研究に関する本らしい。
これも後払い。
中は日本語だった。
「本って手書きですか?」
「これは手書きを魔法で複写したものですよ」
「へえ」
やっぱり、科学と魔法はあんまり変わらないな。
あと、一個5ゴールドのサンドイッチを二個買った。
フランスパンみたいにしっかりした、でも幅もあるパンにれ目を入れて、これでもか! というくらい肉と野菜をバンバン放り込んだみたいなやつだ。
第万ダンジョンに向かった。
白い人が迎えてくれる。
「おや、また来たのかい? ん、差し入れ? 悪いね、サンドイッチを買ってきてくれたのかい?」
「あ、すいません」
僕は会釈して通り過ぎ、ダンジョンに入った。
さっきまでと変わらず、ダンジョンさんは本を読んでいた。
すぐ前まで行っても、こちらを見もしない。
僕は紙を出し、書いた。
『お話があります』
紙をダンジョンさんの前に置く。
しばらくは本を読んでいたダンジョンさんだったが、紙に気づいて目をとめた。
そして僕を見上げる。
『ダンジョンさんは、ダンジョンの中に、モンスターが出る場所、宝箱が出る場所を見分けることができますよね? 良かったら、協力してもらえませんか?』
さっきの文に続けて書き、ペンをわたした。
すると、ダンジョンさんは書いた。
『忙しいんですけど』
『この本、よかったら、さしあげます』
僕はさっきギルドで買った本を出す。
するとダンジョンさんの目の輝きが変わった。
『くれるの?』
『どうぞ』
『ありがとう……』
ダンジョンさんは本をしっかり抱くと、にっこり笑った。
古い本ならダンジョンさんが持っているとか、思って新しいのを選んだのが正解だったようだ。
ダンジョンさんは立ち上がった。
『早く終わらせましょう』
『はい』
彼女は本好きのダンジョンさん、もしくは文字好きのダンジョンさんだったんだ。
歩きだしてわかったのは、出現ポイントが三次元化していたということだ。
床が真っ赤になっているわけじゃない。
その分、空中に赤い部分が浮かんでいた。
それにさわると敵が出るらしいのだ。
多量のコウモリは、一定数、赤いポイントに触れると、時差でまとめて出てくるらしい。
『わたし、コウモリ嫌いだから、冒険者が来たら壁の中に入るの』
『なるほど』
冒険者が来ること自体に抵抗があるのか。
宝箱の出現ポイントはさわれたので、現金、腕輪、魔法石、脱出石など、いろいろな物を手に入れることができた。
最後にサンドイッチをわたすと、それも喜んでもらえた。
『また来てね』
『おじゃまします』




