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21 冒険者狩り対策

 案内された、ギルドの二階の部屋はたしかに広い。

 十畳くらいあって、ベッドとソファとテーブルがあるし、シャワーとトイレが、ちょっと詰め込んだ感じではあったけれども、ユニットバスになっていた。すごい。


 ここから出ずにゆったりできる。

 閉じ込められてるようでもあるけれども。


 しばらくすると、部屋のドアがノックされた。

「はい」

 開けると、お盆を持ったリーナさんがいた。

「どうぞ、お夕食です」

 お盆の上には皿にのったサンドイッチとコップがあった。

 サンドイッチは、レタスっぽい野菜とあふれんばかりの肉が挟まっている大きなものだった。


「どうも」

 お盆を受け取ると、リーナさんは深々と頭を下げた。

「お引き止めする形になってしまい、もうしわけありません」

「リーナさんは別に悪くないですよ」

「しかもナリタカさんは被害にあわれたのに、まるで犯人のような扱いを」

「それも、まあ、言い分としてはわからなくもないので」

 とても嫌でしたけども。


「まあ、貴重そうなものももらえたので」

 僕は腕輪を見せた。

「これ、転送の腕輪ですね」

「はい。これですぐギルドに逃げられるそうです」

「よかったですね」

 とリーナさんのにっこりがいただけたので、まあゆるそう。


 僕は、あふれんばかりのサンドイッチを食べてから、満腹で眠った。



 そして翌日。

「監視ですか」


 部屋から、いつものギルドの空間へとおりていくと、リーナさんが、カウンター越しではなく下のテーブルで待っていた。

 まだギルド開店時間前ということで、冒険者の姿はない。


 リーナさんによると、これから何日かはダンジョンの出口を、ギルドで派遣した冒険者で監視することになったという。


「冒険者証登録をしていない人だったようで、単純に追跡するしかなかったのでまだ見つからないと。もうしわけありません」

「そんな。どっちみち、そこまですぐに見つかるとは思ってませんでしたし」

「すいませーん」


 ギルドの扉が開いた。

 顔を見せたのはカジルだ。


「あ!」

 僕を見つけて走ってくる。


「カジル」

「なにやってんだお前! だいじょうぶなのか?」

「ん? ああ、うん」

「ケガはなかったのかい」

 スランス、ミミもいた。


「すぐギルドに避難されたので」

 リーナさんが補足した。

 離脱石については、うまくごまかされていた。

 僕がそれほどの貴重品を持っているという話が広まったら、という警戒はしてくれているのだ。


「体はだいじょうぶでも、心の方はどうだい?」

 スランスが言う。

「平気だよ」

「なら良かった」


「やっと起きたのかい」

「うっわ、ギルド長だ」

 カジルが小声で言った。

 有名人なのか。


「いいお部屋で、よく眠れました」

「そりゃ良かった。でだ。これからは、もっと冒険者が安心して活動できるようにしていきたいと思ってる。いいんじゃないかと思うやり方があったら、どんどん言っていってほしい」

「なるほど」

「あんたたちも、他人事だと思わないように。特に嬢ちゃんはかわいいからね、……かわいい子はいろんな使い方があるんだよ」

「……は、はい……」

 ミミはうなずいた。



「しばらくは、出口にスレイヤーを置いておこうかと思ってるけどね」

「聞きました。スレイヤーって、すごい強い人なんですよね?」

「そうだよ。だからいいだろ」

「でも、もったいないんじゃ」

「ソフィーさん! どういうことですか!」


 とやってきたのはウィンディさんだった。

 今日も赤い鎧を着ている。


「うちのパーティー、冒険できなくなるじゃないですか!」

 入り口のところには、真っ白の鎧を着た男や、青いローブに身を包んだ魔法使いがいる。

「ウィンディー、行こうぜ」

「待ってて!」

 カラフルな人たちだな。


「さ、こっちに行きましょう」

 僕らはリーナさんに連れられ、座席についた。


 僕らは、カジルたちと、リーナさんと一緒に朝食をとった。


 問題行為があっても、こんなふうにきちんと対処をしてくれる。

 これなら僕はこれからうまくやっていけそうだ。


「リーナさんはどこにいたんですか」

「ギルドに住んでるんですよ」

「あ、そうだったんですか」


 今朝はシチュー。

 野菜が中心だったけれども、物足りなさはない。



「お前、今日は行かないんだよな?」

「え? 行くよ」

「バカなのか?」

「でも、これもらったし」


 僕は、左手につけた腕輪を見せる。


「なんだこれ」

「……これ、転送の腕輪……?」

「あ、知ってる? ギルド長にもらった? 借りた? んだけど」

「知ってる……」

「どういう効果だよ」

「どこからでもギルドに飛べるって」

「……30万ゴールドくらいする……」


『はあ?』


 僕とカジルは同時に言っていた。


 3000万円?

 家? 家?


「……行き先を自由に変えられる……。……誰でも転送魔法が使えるようになるんだから、高い……」

「お前、これ持ってたら逆に襲われるんじゃねえのか」

「ちょ、やめてよ」

 僕はちょっとまわりを見る。

 会話を聞いている人はいない気がするけど。


「……ちゃんとつければ、見えなくなる……」

 ミミが、僕の腕に手をのばし、腕輪をちょっと回してから、丸いところを押した。

 すると消える。


「おお!」


「……出したいときは、丸いの、押す……」

 

 うっすら見えてる丸いのを押すと。

「おお!」

 出た!


「ミミはものしりだね」

「……へへ……」

 ミミは頭をかいた。


「ちゃんと試したのか?」

「まだ」

「やっとけよ」



 僕はギルドの外に出た。

 いい天気だ。


 五十メートルくらい歩いていって、念じてみた。


「うおおお!」


 一瞬の転送かと思ったら、光りに包まれて飛ぶ感覚だった。

 

「うおっと!」


 ゴローン、とギルド前に転がった。


「よし、いいじゃねえか」

「うん。じゃ、あらためて行ってきます」



 僕は第一ダンジョンに顔出ししてから、第万ダンジョンへと出かけることにした。



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