19 冒険者狩り
とはいっても、もう合成するものがないので、今日は帰ることにした。
「じゃ、えーと、また明日来るかもしれないです」
「はーい」
僕は第百ダンジョンを出た。
外は、空がオレンジ色になってきていた。
もう夕方? という感じだけど、考えてみると今日は、カジルたちと第百をクリア、それから第千をクリア、もどってきていま第百をクリア、と長めのダンジョンをクリアしたり、武器屋に行ったり服屋に行ったりいろいろ忙しかった。
一日を振り返ってみると、なんとなく体がだるくなってくるから不思議だ。
さ、帰ろう。
「なあお前」
不意に、声がかけられた。
木陰から、黒いフードをかぶり、黒いマントをした人が、すっ、と三人同時に現れた。
三人とも背が高く、こちらから顔を見ることはできない。
「生きてるのと死ぬの、どっちが好きだ?」
男の声だ。
すらりと、マントの下から剣を抜いた。
「え……」
ダンジョンにもどろうとしたが、出口からは入れない。
ダンジョンさんが中から不安そうな顔を見せた。
「……生きてるほうが、好きですけど」
「なら荷物をすべて置いていけ」
「すべてって……」
「全裸になれ。服はこちらで用意した物を与える。まずそこに入れろ」
剣を抜いたのと別の男が、黒いマントの下から布袋を出し、僕の足元に投げた。
「早くしろ」
これは。
強盗、ということだろうか。
僕は腰の杖に手をやった。
ふわり、と浮かぶ。
が。
「う!」
左腕に激痛が走り、バランスをくずして倒れた。
腕に細いつららのようなものが刺さっていた。
信じられないほど痛い。
血が流れてきた。
三人目のマント男が杖を持っていた。
魔法か。
「おかしな行動をとったら、次は殺す」
痛い。
こわい。
こわいけれども、頭はなぜか冷静だった。
これが、自分の身に起きているできごとではないような気がしたからかもしれない。
モンスターならともかく、人間相手に殺されるというのは、まだ考えが追いつかない。
僕はカツアゲだってされたことがないタイプの人間なのだ。
次は殺す、ということは、殺すつもりはないのか。
いや、おとなしい態度を取らせておいて、殺すつもりかもしれない。
僕がやぶれかぶれになって、いろいろ道具を使ってしまったら取り分が減る。
あるいは道具の状態が悪くなる。
さらに、強盗被害にあった、と僕がギルドに報告したりしたら、あまり彼らにとっていいことではないはず。
こいつらとしては、殺して、魔法で証拠を焼却処分とかしたほうが、面倒がないだろう。
ということは、殺される……?
え、ちょっとちょっと!
「時間稼ぎは無駄だ。待っていても、お前の次にダンジョンに入った冒険者はいない」
本当だろうか。
でも確かめる前に死にそうだ。
「……ケガにポーションを使ってもいいですか」
「お前が言うとおりにしたら、最後にポーションは与えよう」
どうする。
なにがベストだ。
「逃げてー!」
ダンジョンさんの声だけ聞こえる。
ダンジョンさんの声が聞こえない男たちの反応はない。
逃げられるものなら逃げたいけど。
……あれ?
いや、そうか、手はある!
失敗したら、さらに男たちのご機嫌を損ねてしまうかもしれないが、そのときは、女神の雫で交渉でもするか。
「言うとおりにします」
「いいだろう」
僕は上着に手をかけ、その内側にある、さっきつくったばかりの離脱石を握って念じた。
すると僕は光りに包まれ、飛んだ。
「うわっ」
着地し、勢いあまって、ごろん、と地面に転がる。
急いで立ち上がって周囲を見る。
ギルドの前だった。
人に囲まれた状態でも脱出できる、という条件に該当したようだ。
通行人に、なんだこいつ、というような目で見られてしまったが、そんなことはどうでもいい。
僕はギルドにかけこんだ。
そのままカウンターへ向かう。
「リーナさん!」
「わ、どうしました……、え、どうしましたそのケガ!」
リーナさんは腰を浮かせた。
「いま、第百ダンジョンに行ってきたんですけど、出口のところで三人組の男たちに襲われました。左腕を魔法で打たれて」
僕は、まだ刺さっている氷を見せた。
「冒険者狩りですね! ソフィさん、お願いできますか!」
「はいよ」
カウンターの奥から、真っ白の髪をした女性がやってきた。
白髪、だけれども年齢は若々しい。
せいぜい二十代、もしかしたら十代、という感じだ。
ちょっと皮肉っぽい笑みを浮かべつつやってくるのは、ビシっとかっこいい美人だ。
宝塚っぽいっていうか。
「ちょっと失礼」
ソフィさん、は僕の腕に刺さっていた氷を引き抜いた。
「いてえ!」
「ごめんね」
まったくすまなそうではない。
すると、あいてる左手が白っぽく光る。
それを僕の左手にあてると、みるみる治っていった。
「おお……」
「この氷、特徴あるね」
ソフィさんは氷を見て言った。
「たぶん、最近他から来たやつらのだろ。リーナ、ちょっと三日、いや四日以内に登録したやつらの冒険者証の控え、調べな」
「はい!」
「あんた、仲間はどうした」
「仲間はいませんけど」
仲間はいませんけど。
なんてさびしい言葉だろう。
「三人組と一緒にいたんじゃないのかい?」
「あ、僕は個人でやるので」
「あんた……、見たとこ、てんで弱いだろ」
「あ、はい」
「どうやって逃げてきたんだい?」
「えーと、離脱石っていうやつで」
「離脱石?」
ソフィさんはキッ、と僕を見る。
なにかしでかしてしまったのだろうか。
「あんた、離脱石なんかぽんぽん使える金持ちかい?」
「は? いえ、宿代にも困ってましたけど」
「はー……、なるほど。あんたわかってないタイプか」
「え?」
「リーナ、氷魔法使いはわかったか」
「はい!」
「じゃあ、アタシが仕留めてくるから、リーナはちょっと奥で、この僕ちゃんに、物の価値ってもんを教えてやんな」
「はい!」
なになに?
なにされるの?




