18 合成実験
「すごい、ぴったり」
できあがるまでにしばらくかかるのかと思ったら、店にあった革のひもみたいなものを捕ったおじさんは、ガガガっと金属の部品と組み合わせて作ってしまった。
学ランの上着を脱いで、内側に着るというか、首、肩、ウエストを通る革ひもを留める、という感じだった。
脇腹あたりに魔石が入れられる革の箱がきた。
さっそく、ハンカチで巻いただけだった女神の雫を四つ、入れておく。
脇腹に40万ゴールド、4000万円が入っていると思うと震える、と思ったけどそうでもない。
額がでかすぎて、なんかよくわからない。
そして太いベルトを、いましているベルトの上にしてみると、ちょうど腰に、杖がすぽっ、と入るようになっていた。
すっ、と抜いて、さっ、としまう。
スムーズ。
すっ、と抜いて、さっ、としまう。
スムーズ!
「気に入ってくれたみたいだな」
「使いやすいです!」
「そんなに喜んでもらえるとうれしいな!」
武器屋のおじさんは笑って言う。
「ええと、50ゴールドでしたよね」
僕はポケットから硬貨をジャラジャラ取り出す。
「お前、財布持ってないのか」
「え? ああ、気にしてませんでした」
財布を気にするより宿代を気にしてたから。
「どこに売ってますか」
「服屋に行ったらどうだ。その服も変えたほうがいいと思うが」
戦闘がなかったから良かったけれども、学ランはたしかに動きにくい。
この先に服屋があるという。
「あ、じゃあ行ってみます。これ、100ゴールドです」
「じゃあこれが釣りだ」
「どうも。また来ます」
僕は頭を下げて、武器屋を出た。
それからふと気になって、お金を見直す。
あと、10ゴールド硬貨が二枚、50ゴールド硬貨が一枚、100ゴールドがあと五枚……?
あれ? もっとなかったっけ?
もしかして、第千ダンジョンで飛ぶ練習をしてたとき、くるくる回ってたからあのときポケットから落ちたのか?
まずいな。
100ゴールド硬貨って、日本円で万札だからな。
すぐ財布買わないと、死活問題になるかも。
僕は早足で服屋に行った。
「ここかな……?」
入ってみると、いろいろな服がならんでいた。
「いらっしゃいませ」
女性店員がやってくる。
「どういったものをお探しですか」
「魔法使いが着てるようなやつがいいんですけど」
武器を使うわけじゃないし、必要なものはすっぽりかくれるようなのがいい。
「ローブですね」
店員がちらっと、腰の杖を見る。
「こちらにそろえてありますが、ご希望は?」
「汚れに強いとか、あります?」
「ございますよ。あとは、マントタイプ、スリットタイプなどがありますね」
マントタイプは、手を使いやすくするため、上着とマントの中間みたいな感じになっている、ということだった。
「なるほど」
着やすかったので、マントタイプにした。
それから、ローブの中で使える肩掛けカバンや、中に着る服なども買った。
「510ゴールドです」
あぶない。
ギリギリだ。
着ていた制服は、安い、トートバッグみたいなやつに入れて、宿にもどって置いてきた。
さて、どうしようか。
所持金が60ゴールドしかない。
いちおう、女神の雫もあるし、あと前に拾ってギルドに預けてある腕輪もある。
あれがたしか2万ゴールドだったはず。
売ればすぐ現金化できるから、いざとなったら安心か。
でも2万をゴールドを持ち歩くのは不安だな。
お金って預かってくれるんだっけ?
うーん。
そうだ。
僕は第百ダンジョンに行ってみることにした。
「ダンジョンさん?」
「あ、また来てくれたのー」
ダンジョンさんは壁から貞子っぽく出てきた。
「さっきはすいません。事情を話せなくて、雑にすませちゃって」
「いいよいいよー。新しい服だねー」
「はい。さっき買いました」
「それでどうしたのー?」
「ちょっと宝箱拾いにきました」
「いいけど、明日のほうがたくさん出るよー?」
宝箱は、一日の間に出る量が減っていく。
「いいんです。お金もほしいし、なにか拾って、試してみたいんで」
「? いいよー」
ダンジョンを二人で進む。
すくなくなったとはいえ出てくる宝箱をパカパカと開けていくと、現金130ゴールド、ポーション二個、脱出石二個が手に入った。
「減ってるし、腕輪とかもないねー。やっぱりあんまりだったねー」
「充分すごいですけどね」
拾ったものが半額で売れたとしても、300ゴールド。
これだけで時給200ゴールド以上はまちがいない。
おいしい。
「さてと」
僕は懐から、合成小袋を出した。
「合成するのー?」
「はい」
杖の合成が思ったより良かったので、これからちょっと、合成で遊んでみたい。
僕は、いま出てきたばかりの脱出石を二個、入れてみた。
軽く袋を振っても、ぶつかりあう音はしない。
合成できたらしい。
出してみると、二倍の大きさの脱出石だった。
ポーションと同じパターンかな。
もう一個、脱出石を追加してみる。
そして出すと。
「おっ」
大きさは脱出石一個分だけど、丸っこい形が、ごつごつとした形に変わっていた。
「離脱石ですねー」
「え?」
「いろいろなところから脱出できるんですー」
聞けば、ダンジョンからの脱出はもちろん、家や、誰かに囲まれている状況でも使えるらしい。
「便利! なのかな?」
あんまり具体的な使用例が思いつかない。
戦いっていうと、ダンジョン内だろうし。
脱獄に使えるってことか?
それに、脱出石三個分って、600ゴールド分だっけ?
ちょっと、雑には使えないな。
ポーションと脱出石を入れたらどうなるだろう。
「お」
中身は小ビンだけになっていた。
「それは、脱出液ですねー」
「液?」
「体にかけると、脱出できます」
「それ、なんか意味ある?」
脱出石の方がかんたんだし、脱出石一個ですむような。
「ほら、手が離せない人にも使えるんだよー」
「なるほど!」
気を失ってる人とか、脱出石が使えない状態にある人を脱出させることができるのか。
ロンリーな僕には関係ないけどね!
逆に、脱出石を入れて、ポーションを入れてみる。
入っていたのは、白っぽくなった脱出石だ。
「これは?」
「回復脱出石だよー。脱出と同時に回復できるの!」
「ふーん」
ふーん……。
もっといろいろやってみたいな。




