12 ダンジョンさんたちの安全確認
僕は、パンを持って第一ダンジョンに向かった。
行く途中、僕の前を、二人組の冒険者が歩いていた。
それから一分くらい時間をあけて、僕も入った。
「ダンジョンさん?」
「ナリタカ!」
すぐ第一ダンジョンさんが出てきた。
「おはよう」
「おはよ!」
今日もワンピースで、笑顔だ。
「こっち来なよ!」
と彼女に連れられ、僕はダンジョン内を歩く。
「今日はどっか行ってきたの?」
「あ、ごめん。ちょっと他のダンジョンに」
「なんで謝るの? いいよ?」
「うん。これは僕の問題っていうか、最初に第一ダンジョンに来ようと思ってたから」
「それはうれしいけど、無理しないでいいよ!」
彼女はにっこり。
「そういえばね、さっき来た人が、第百ダンジョンでなにかあったって言ってたけど」
「そうそう、第百ダンジョンのダンジョンさんがケガして」
「ケガ?」
「頭に剣が刺さってて、ダンジョンの形を変えられなくなってたんだ」
「うわー、いたそー!」
彼女は顔をしかめる。
「また変なことにならないようにするために、大事な部分はなにかで守ったほうがいいなかって思ったんだけど。まず、第一ダンジョンさんはどうすればいいかな」
「私はだいじょうぶ!」
彼女は胸を張った。
なんの自信だよ。
「なにかあったらナリタカに助けてもらうからだいじょうぶ!」
「僕がいなかったら?」
「待ってる!」
「じゃあ、一発で死ぬようなことはない?」
「ないとはいえないよね!」
「だめじゃないか!」
「第一ダンジョンで、ここをやられたら危ない場所っていうと、どのへん?」
「私の大事なところ見たい? ナリタカなら、いいよ……」
誤解を招く言い方だな。
五分くらい歩いて、立ち止まった。
「あそこかな」
壁の一部、よく見ると、数ミリへこんでいる、円形の部分があった。
大きさとしては手のひらくらい。
高さは、僕の肩くらいだ。
「ここが当たったらまずいところ?」
「そう!」
「これ、通る人がうっかり、肩とか、武器とか当たるんじゃ?」
「この道は封印してるから、うっかり通すことがなければだいじょうぶだよ!」
「最近うっかり通したのはいつ?」
「うーんと、一ヶ月前!」
まあまあ最近だな!
「さわるとどうなる?」
「さわってみて」
僕は円形の部分をさわってみた。
「んっ」
彼女が悩ましげな声を出す。
「あ、ごめん」
僕はすぐ手を離した。
「いいけど、急にさわられたからびっくりしちゃった……。人間でいったら、心臓みたいなものだから」
「なんでさわらせた!」
そんなものがむき出しだったら、いずれ大変なことになるだろう。
「じゃあ、町でなにか、軽い鎧になるものとか探してくる」
「いいよいいよ、ナリタカのお金がなくなっちゃうよ!」
「だいじょうぶ。最近僕、結構お金があるんだ」
僕は100ゴールド硬貨をいくつか見せた。
「おおー!」
「あ、そうだ」
僕はさっき第百で拾った腕輪とネックレスを出した。
「これってなんだかわかる?」
「あ、これ知ってる!」
彼女はネックレスを手に取った。
「移し身の首輪だよ。ダメージを、他の場所に移せるの!」
彼女が言うには、このネックレスをしていると、ダメージを受けた瞬間、ダメージを別の場所に振り分けることができるという。
「ちょうどいいね。じゃあこれをあげよう」
僕が言うと、彼女は首を振った。
「これはナリタカが使いなよ」
「え?」
「危ないときにぴったりでしょ。すごいんだよ」
そう言って、彼女は僕にネックレスをつけてくれた。
抱きつく寸前くらいの距離感なので、まんまと緊張してしまう。
「ほら、いくよ」
と彼女が僕の腕を、指で弾く。
軽い痛みがあった。
「これを移すわけ?」
「そう! はいっ!」
ともう一度、彼女がもう一度指で弾く。
軽い痛み。
「これっていつ移すわけ?」
「ん?」
何度かやった結果わかったのは、攻撃を受けた場所を移すという感覚をつかむために、基礎的な武術訓練みたいなものを積んで、ある程度のモンスターを倒すくらいのことはできないと、無理らしいことだ。
「できるよ」
そして彼女はできるらしい。
……。
「じゃ、使ってていいよ。貸しておくということで」
「ありがとう!」
ということで第一さんジョンさんに、移し身の首輪をあげた。
ついでにポーションも三つと、パンもあげた。
「じゃ、第十ダンジョンにも行ってくる!」
「うん、また明日!」
というわけで第十ダンジョン到着。
僕があげた学ランのカラーは、服の腰の部分にアクセサリーみたいにつけられていた。
「第十ダンジョンさんもなにか対策をしたほうがいいと思って」
「ふーん。で?」
「この腕輪って使える?」
第百で見つけた腕輪を出す。
「あ、もーらい」
第十ダンジョンさんは腕輪を装着した。
第十ダンジョンさんによると、こちらは瀕死の腕輪というそうで、死ぬダメージを受けたときに、瀕死の状態でとどまることができるというものだった。
「でも、あんたが使う分はあんの?」
「あ、まあ」
「ふーん」
まあ、本当のところないんだけど。
ダメージを移す技術もないし、僕の場合、瀕死になるようなシチュエーションになった時点でもうおしまいっていうか、手遅れっていうか。
ポーションとか脱出石を使う前に死ぬと思う。
ポーションもいくつかあげておく。
「使ったら言ってよ」
「ありがとね」
「まあ、ダンジョンさんあっての僕なので、ダンジョンさんたちにはできるだけ、生き残れるようになっていってほしいものですので」
「いい心がけじゃん」
そんなことないよ、とかいう気持ちはないのだろうか。
「あれ、パンは?」
「じゃ、また」
「おい! パン!」
そろそろ昼なので、、僕はギルドにもどって、ご飯でも食べることにした。
「パン持ってこいよ!」
……ところで、あの首輪とか腕輪を売って、鎧を買ってあげた方が安くすんだんじゃないだろうか。