交感神経と副交感神経とのクリスマスパーティー及びプレゼント交換会
十月に大枠は考えていましたけど、まさかこんなことになるとは思わなかった。
その日、僕が二駅離れた場所にある温泉から帰ってくると、家の中から『きゃっきゃ』という騒がしげで楽しげな声が聞こえた。
「・・・はえ?」
室内からその声が聞こえた瞬間、僕は多少きょどった。きょどったもののすぐに『誰かがいたずらで忍び込んでいるのか!』とか『年末年の瀬に増加する強盗とかの類似の空き巣か!』とか『もののけか!』とか『霊的なものか!』って思って家の鍵を開けて「こりゃー!」って言って室内に飛び込んだ。
すると、
「あ・・・おかえりー」
「おかえりなさいー」
そこには十代後半くらいの少女が二人いた。その二人は僕の部屋でブタミントンをして遊んでいた。
「え?」
僕は混乱した。何で?どういう事?え?何?この展開、エロゲー?混乱した。
「まず、外から帰ってきたら手洗いしなさい」
呆然としている僕に向かって少女達の片方が言った。
「うがいもね」
もう一方の少女も言った。
「あ、はい」
確かにそうだと思ったので、僕はとりあえず洗面台に行って、そこで手洗いとうがいをした。ミューズで手を洗って、イソジンでうがいをした。
二人の少女はその間ずっと僕の後ろに立ち、その様子を伺っていた。何が楽しいんだか知らないけど、でも二人のその様子は洗面台の鏡にちらちらと映った。右から出てきたり左から出てきたり、まるでアーケードゲーム『つるりんくん』の様だった。あるいはこの二人の少女は明確に意図してそれをパロっているのかもしれない。
その二人の少女はとても似通った容姿をしていた。だから、もしかしたら双子なのかもしれないと僕は手を洗いながら思った。赤い蝶みたいに。あるいは単に似ているだけなのかもしれない。阿佐ヶ谷姉妹みたいに。
あと、鏡に映るという事は幽霊ではないんだろうか?いや、鏡に映る幽霊もいるしな。僕はうがいをしながらそう言う事を考えた。ただでもしかし上記で上げた可能性はまだどれも除外できなかった。
「でさ、どういう事でしょうか?」
手洗いうがいを終えてから、リビング的なところに戻ってコーヒーを飲みながら僕は目の前に並んで座った二人の少女に聞いた。
「何が?」
「どっちが?」
二人の少女はそれぞれ左右対称の、シンメトリーの動きをしながら言った。
「何が、って、まあ、そうね・・・」
その二人の言わんとしている事は僕にも分かった。だから僕は室内を見回した。温泉に行く前は普通の何でもない飾り気の無い単なる一人暮らしの汚部屋だった僕の部屋は、帰ってくるとクリスマスの飾り付けにまみれていた。漬物を作る為に野菜がぬか床にまみれるように、味噌漬けを作る為に野菜が味噌にまみれるように、鮒寿司を作る為に鮒が塩にまみれるように、いぶりがっこを作る為にがっこが煙でまみれるように、僕の部屋はクリスマスの装飾でまみれていた。
四方の壁全部に電飾が走っており、四方の壁全部に何かしらのツリーの装飾があり、四方の壁全部にサンタがはしごを上っている飾りが付けられて、四方の壁全部にジャック・スケリントンがいた。
しかも部屋の一角にはアパート住まいの僕の部屋にとっては、場違いなほど大きなクリスマスツリーが置かれており、そこにも●だの☆だのラッピングボックスだのという装飾がこれでもかと吊るされていた。
僕のその汚部屋はクリスマスになっていた。蛍光灯の紐すらなんかリースの掴みにくそうなものがくっついていた。聖剣伝説3じゃなくて、達郎さんのあの曲のジャケットの奴みたいのが。
「・・・」
「今日はクリスマス・イブよ」
呆然と心落ち着ける場所じゃなくなったマイベストプレイスを僕が眺めていると、目の前の少女の片方が言った。右が。僕から見て右がそう言った。
「はあ・・・」
だから何?って言うか何なの君達は?何?そういう嫌がらせ?あるいはエロゲー?
すると、
「私達は、貴方の自律神経です」
左の少女が言った。僕から見て左の少女が。
「・・・ふぉあ?」
僕の口からは意図せずにそのような息のようなものが漏れた。
「何何、何?」
「貴方から向かって右の私が交感神経、コウコ」
「そして左の私が副交感神経、フクコです」
いや、いやいや、そんなわけあるめえよ。おめえら。こら。何言ってるの?キチなの?え?何?
「いや、そういうのもういいから。大体この話のタイトルを見たら分かるじゃない?」
「うん、これはタイトルオチの話だからね、読んでいる人はみんな知っているよ?」
二人の少女は言った。
「・・・え?」
そ、それ・・・言うの?
「だって、待たされすぎたんだもん」
「この話『自律神経失調症』を上げた頃には考えてたもんね」
二人の暴露的なものはなおも止まらなかった。
「え、ええ、ちょっと、ちょっと待って」
僕は何とかそれを止めようとした。そういうのは即興さんのほうではよくやるけども、こっちでやった事は無いよ。ねえ?そういうある種の人が冷めちゃうような事はしたこと無いよ?確か、多分だけど、ねえ?
「いやだってさ、どうあがいてもこれはタイトルオチの話なんだもん」
「だから、もう無駄な抵抗は止めて、やりましょう」
何を?え?エロい事?
『クリスマスパーティーだよ』
二人の少女は言った。ハモって言った。
「プレゼントも準備したし」
「そうね、タイトルの通りプレゼント交換会をしないとタイトル詐欺になってしまうわ。サークルカット詐欺みたいに」
その時ふと、僕には気になったことがあった。
「ねえ・・・ところでさ、この装飾とか、そのプレゼント代とかさ、どうしたの?」
『・・・』
するとそれまで嬉々としてクリスマスのプレゼント交換会の準備をしていた二人は、突然黙って僕の事を見た。
いやな予感がした。
「・・・これ」
そう言ってコウコが出したのは僕のdcmxのカードだった。まだdカードに変更してない僕のdcmxのカード。クレジットカードがくっ付いている僕のドコモのdcmxのカード・・・。
「ど、どこで買ったの・・・」
僕は二人に聞いた。口の中がカラカラだった。
「東急ハンズ・・・」
「と、ロフトで」
二人は伏し目がちに言った。
「ダイソーかキャンドゥでよかったじゃないか!!」
僕は叫んだ。大声で叫んだ。年末年始と色々と入り用なのに何してくれてんだこりゃあああ!!
そしたら直ぐに隣の部屋から壁ドンされて、その壁面にかかっていたジャック・スケリントンが『がしゃん』と言って落下した。
タイトルとタイトル落ちが気に入っています。