第2章−2話
結論から言うと、麻里はわたしをだましていた。
そしてそのせいで、現在わたしも麻里をだまそうとしている。
そもそも孤独なわたしが、そうそう良い人生なんて送れると考えていたところから大間違いだったのだ。おそらく、わたしは前世ひどいことをしたのだろう。じゃないと、こんなに苦しむ理由が無い。
最初から疑っておけばよかった。麻里が不自然なほどの笑みでわたしに声をかけ、友達になろうなんて誘ってきたことに対して断っておきさえすれば、わたしは引き続いていじめられていただろうけどそれよりももっと辛い気持ちを味わうことはまずなかった。
「ねぇわたしのルーズリーフ知らない?」
昨日の夜、カバンに入れたのに。
雨が降る予告をしているかのような薄黒い雲が空をおおう。
休憩時間トイレに行って帰ってき、授業開始のチャイムと共に教科書等を準備してたら、横に薄い青の線が等間隔でひかれた、縦の端にずらっと穴が並んでいるあのルーズリーフと呼ばれる紙が1枚じゃなくてまるごと、全部なくなっていることに気づいた。
買ったばかりの紙。お小遣いピンチのときでも生活必需品は買わないといけない。しょうがなく105円出して買った、貴重な紙。それが無くなって、少しあせった。
いくら探しても見当たらないから、わたしは麻里に聞いたのだ。
「そんなの、知らないよ」
わたしの問いかけに麻里は冷たく答えた。
「でも・・・・・・昨日ちゃんと準備したんだよ。それに・・・・・・そう、朝学校に来たときあれ使って宿題やったんだから。絶対。、これは確信持っていえる。だから、学校のどこかにあるはずなの。ねぇ、本当に知らない?」
「さぁ。分かんない。やっぱ忘れたんじゃないの」
数学の先生は特に口うるさく、生徒に対して厳しいからなのか、麻里はわたしが後ろを向いて話しかけているのを迷惑そうにしている。その証拠に、麻里の顔は無関心に満ちていた。
こんなにも麻里が素っ気なかったことなんて今までにあっただろうか。
聞いても麻里は答えてくれなさそうだから、わたしはあえて黙ったまま前を向きなおし、先生が黒板に書いていく宿題の答えを丸つけのできない右手で持つ赤ペンを呆然と見ていた。
そして、
「やっぱり忘れたのかな・・・・・・」
と心の中でつぶやいた。
わたしの本心では、そんなことはない、そう否定していた。でも最終的にきっぱりと否定しなかったのは、やっぱり完璧な自信なんてわたしには持てなかったからだ。
それからなぜか、1週間に2回は物がなくなるようになった。それも決まって学校にいるときで、家の私物なんかは使ったままそこらへんにほったらかしにしていても容易に見つかるくらいだった。といっても、わたしはそれほど片付けが苦手じゃない。使ったら元に戻す、これくらいはわたしの中で当然のことだった。
なのに、物は持ち主から逃げるようにしていなくなる。あまりにも運が悪いとしか言いようがないくらい、物がリズミカルに消えていく。わたしは不思議に思いながらも、何かわからない未知数以上の怖いものが動いていることを、このときまだ感じていなかった。
そんな不安の中1ヶ月経って、わたしはやっとあることに気づいた。なくなるものはいつも買ったばかりの新品なのだ。だからこそわたしはしょうがないか、と行方不明の私物に対して簡単にあきらめることができず、少しあせってまで麻里に聞いてまで探していたのだ。
最初に紛失したルーズリーフだって、なくす前日に購入した春のにおいがするくらい新しいサラサラの紙だったし、その後行方をくらましたのりだって、ちょうど中身がきれて買った3日後のことだった。キャップをまだ一回も外されることなく、購入者の元から消えたのり。寂しかっただろうか。もしかしたら、のりはそれを望んでいたのかもしれない。
じゃぁどうして、逆にあれは無くなってくれないのか。中傷のことばが水で洗ったってこすったってどうにもならない、わたしが一番辛かった時期をそのまま表現している教科書などの、どうせなら破って深い沼に捨てたい物が、きれいなくらいさっぱり残っているのか。
わたしはもしかしたらいじめが再発したのかも、わたしにお金を無駄に浪費させようとしているのかも、そう一瞬疑いもした。でもそんな風なやり方で人をいじめるなんて話聞いたことないし、それに物が無くなったら誰かに借りるか自分で買うかのどちらかで補えばいいから、悩むほどのことでもなかった。
ただ、あれから麻里はわたしに対しての接し方が激変していた。お互いクラブ活動の無い日、「帰ろう」とわたしが誘っても麻里は、用事があるから、ちょっと無理、今日はそんな気分じゃないの。そればっかり。
そしてとうとう、裏切りの日はやってきた。