第2章−1話
「明日、ヒマ?」
金曜日の帰り道、別れ際にわたしは言った。
「うん。まぁヒマかな。あ、でも午前中クラブある」
「そうなんだ。じゃぁわたしもお昼までクラブだし、終わる時間はほとんど変わらないよね」
「まぁ、そうよね」
「じゃぁ2人で、午後からでいいからどっか行かない?」
もうこの時、麻里がわたしを裏切った事は発覚している。だからこそ、わたしはこんな誘いを持ちかけたのだ。
「どっかって、どこに?」
「さぁ・・・・・・。麻里が決めていいよ」
わたしはこのとき行きたい場所を決めていたけど、ついあと一歩を踏み出すことができず、話しの流れをあくまで自然に、自然に望む方向へもっていくことにした。
「麻里の行きたいとこって?」
「そりゃぁやっぱ、旅よ旅。電車乗って遠くいって・・・・・・」
「やだ、ぜーったいやだ。わたし今お小遣い止められてるの。ただでさえ高い電車賃は中学生になって2倍になったんだから、たまったもんじゃないの。だから、できるだけ無駄な出費っていうやつはしたくないの」
「あぁ分かった、この前のテストでしょ。そりゃあの点数じゃねぇ。自分が汗かき働いてかせいだ金を、ただのおバカさんに使われるなんて全く、たまったもんじゃないわねぇ」
「・・・・・・はいそうですよ、どうせわたしはバカですよ」
「そんな、冗談なんだから怒んないで」
「だってマジでやばかったんだもん、テスト。なのに『大丈夫だよ、これくらい』の慰めなしにバカバカばっかり言われて。言われたほうはたまんないよ」
話それてる。
出来れば、このままそれてほしい。
でも本当にそれたらわたしは壊れてしまう。ただでさえ、今我慢の限界なのにこれ以上耐えるようなことがあったら、わたしは何をするか分からないだろう。
「はいはい、ごめんごめん。特別に謝るからかわりに香織が場所決めていいよ」
思わず迷った。
チャンス、というものをわたしは自ら逃す性質なのかもしれない。もしくは変な優しさがあるのかもしれない。この前起こった事件、それをきっかけとして麻里を本気で恨んだ、はず。なのにまだわたしは麻里を許している。ひどいことをした麻里なんだから、どうなったって構わないのにわたしは躊躇している。
どうしようもない感情が体をかけめぐり、わたしは途方に暮れ遅刻した昨日の日のことを思い出していた。