第1章−4話
「どうしたの、これ」
麻里を友達と思えるようになってから数週間後。
朝わたしがかかとを踏む上靴のまま教室に入ったら、麻里は待ち望んでいたかのように近づいてきて、
「ジャッジャジャジャーッ、ジャッジャッジャッ、ジャッジャジャジャーン」
「な・・・・・・に?」
「びっくりした? あのね、これ、お守りなの。持っていれば、二人は一生大丈夫。どんなことがあっても絶対に離れないんだって」
そう言ってビー玉よりは格段にキラキラ青で光る小さな水晶にオレンジのひもがついたストラップを、わたしの手に置いた。
「まぁセットで300円だから、本当に離れないかなんて保障できないんだけどね。でも、きれいでしょ。あ、もしかして青より赤のほうがよかった? でも残念。これ、香織が青の持ってないと意味無いんだ。渡すほうは赤を持つことって、説明書に太字で書いてたの。どっちでもいいんじゃないかって最初は思ったんだけどさ、でももしその油断でわたしと香織が離れちゃったらって不安になって。ちょっと大げさなんだけどね」
『香織』って呼んでくれる、呼び捨てで。
麻里といっしょにいるようになって、いつしかそう呼ばれるようになって、そのたびに感じていた深く温かいものが、今になってゆっくり、そして徐々に滝のような豪快さであふれ出てきた。
「・・・・・・ありがと」
気がついたら、涙が出ていた。
泣いている今のわたしには、周囲の視線すら感じれない。
ただ、率直に嬉しかった。
「ど、どうしたの」
「ううん。何でもない、ごめんね、わたしこういう経験今までほんとになくて」
「いや別に謝る必要はないんだけど・・・・・・ちょっとびっくりして。でも嬉しいな、香織が喜んでくれて。まさかここまで感謝されるとは思わなかった。こっちこそ、ありがとね」
「・・・・・・うん」
ストラップを汗にじむ手で優しく包み、わたしはうなずいた。