第5章−3話
「ふぅん。それでどうだったんだよ。渡辺麻里さんは本当にいじめられていたのかよ」
友永祐一は平然と言った。
「そう簡単に・・・・・・簡単に使わないで。いじめっていう言葉は繊細なの。その一言だけなのに敏感に反応して、あなたは違うようだけど人によっては怖くなったり怯えたりするの。だから、適当に口から出さないで。あなたみたいな人がいるから、麻里は・・・・・・」
「ということは、渡辺さんはいじめられてたんだな」
「あなたのせいよ」
「はぁ?」
「あなたのせい」
「だから何だって」
「わたし今までのことを麻里から聞いたの。あなたに口止めされていたこと全て、麻里はわたしに話してくれた。万引きの事も、いじめの事も飾らずに」
「あっ、そう。それじゃぁ聞かせてくれないか、市村さん、その真実っていうやつを」
香織が友永祐一追いつめるごとに徐々にあらわになっていく彼の本性。それがリアルすぎる近くの位置にあることが、香織の喉を詰まらせる。肩に恐怖がのしかかる。
「・・・・・・半年前」
「な、何?」
「半年前、友永祐一は何をしたか覚えている?」
「さぁ。分からない。あぁ、それがいじめや万引きに関係するのか。でもぼくはしてないよ、そんなこと」
「・・・・・・覚えてないんだ」
「いや、覚えてるとかじゃなくてやってないから」
「じゃぁ、話したくないけど、話す」
わたしは半年前の―靴箱に入っていた「死ね」の手紙から始まった地獄の日々から、少しずつ胸が苦しむことを承知で今日のこの日までの時間を思い出す。辛いのに容易く思い出せる。思い出したらもう、一気に出てきて止まらない・・・・・・。
・・・・・・過去を振りかえることは嫌い。特に苦しい過去ほど嫌い。でもその過去が思いとは逆に記憶からよみがえり心を、心を締めつけなかった日は一日たりともないはず。それがどれだけ涙が出るほど辛いものだとしても、勝手に過去は人を苦しめてしまう。
そうなのだ。
本当に耐えがたい過去ほど人は、忘れることを恐れ拒むのだ。
本当に耐えがたい過去ほど
人は、忘れることを拒む――
自分でも書いていて、意味深だと思いました。
正直、この言葉の意味は自分でも分かりません。
しかし、とても大切なことのような気がして、
このような後書きを書きました。
今月下旬にはこの小説も書き終えると思うので、
最後まで読みたい、という方は
ぜひ最後を期待して読み進めてもらえれば嬉しいです。