プロローグ
暖かい陽気が心を和ませる春。
そんな季節の、ある太陽が照る朝。
施設の門のところで、一人の男の子が眠っていた。
その子はまだ言葉も満足にしゃべれない文字をまともに書くこともできない、お父さんとお母さんに、まだほとんど何も教えられていない。なのに、門のところで白い毛布にくるまれて男の子は眠っていた。
朝施設の人にその存在を気づかれたとき、男の子は全く悲しそうな表情すら見せず、平然と笑っていた。でも、その笑顔にはぎこちなさがある。今自分がどんな現状に置かれているか分からないであろう男の子にも隠そうとする感情が、気のせいかちらちらうかがえた。
「お名前は?」
施設の人が聞く。
「ゆう」
3才くらいのその男の子はそう言った。
「ゆう、ちゃん?」
「ゆう、ゆういち」
かわいらしい声でそう自分の名前を言う男の子。親指を口で加えながら光った小さな目で話すその子は、あまりにも親と離れるには幼すぎた。
名前しか言葉を知らずにここまで育ったこの子に与えられた最後の愛情。それは白い毛布。男の子の体を包んでいた毛布。そして、その毛布に赤い糸で縫われた「友永祐一」という名前。
「友永、祐一くん・・・・・・」
施設の人は言葉も喉が詰まって出ず、ただ男の子をぎゅっと抱きしめていることしかできなかった――
施設に男の子が入ってからも太陽と月は入れ替わりを続け、そして10年の時が経った。
彼はもう男の子とは呼べないほど成長し、現在14才。
心が育ち複雑に絡み合う年代。
そんな時期彼はずっと前から疑っていた一つのことに確信を持つようになり、やがてあることを実行しようと決意した。それはとても恐ろしく、なのに100%全て悪いと言い切れないほどの繊細さと愛しさがある。間違った行為といってしまうだけでは済まない、戸惑いの決意だった。
連載が遅くなることもあるかもしれませんが、
もし気に入っていただけたら幸いです。