初依頼
街を見て回ることにしたが、まずはサリアに教えてもらった宿に向かうことにした。
宿に向かいながら街の様子を見ていると、魔王が治める国の首都にふさわしい賑わいを見せている。
露店が立ち並び、串焼きなどが売られている。
リアリスに送られたのが朝方で、街に着いた時には昼を過ぎていたので目に付いた串焼き屋で簡単な昼食にすることにした。
「親父さん、五本頼むよ」
「まいどあり!すぐに焼きあがるから少し待ってな」
「そういえばこの肉は何の肉なんだ」
「この肉はワイルドボアだ、兄ちゃんは強そうだがしっかり食って力をつけな」
「そうさせてもらうよ」
店主と話していて魔物の肉だと分かった。
リアリスからも聞いていたが魔物と魔族には明確な違いがあり、魔物には魔石と呼ばれるものが心臓にあるが魔族にはない。
なのでゴブリンやオークなどは魔石を持ち言葉も通じないため、魔物に分類される。
しかし高位の竜など知性を持ち、力が強いものの中には魔物に分類されていても人型になって魔族と暮らすものもいる。
店主が言っていたことは、魔力を持つ生き物を殺したり魔力を含むものを食べることで魔力を取り込み力を増すことができるといった事だろう。
もちろん、食べるよりも殺したほうが手に入る魔力は多い。
そして魔力を一定量取り込み力をつけることで、より高位の種へと進化していく。
俺以外の魔王はそうした過程で力をつけ魔王になったものだろう。
俺も街に来る途中で盗賊を殺しているが、盗賊五人程度では実感できるほど力の増加は感じない。
「おまちどう、串焼き五本で銅貨五枚だ」
店主に金を払い串焼きを食べる。
タレにつけられて焼かれたワイルドボアの肉は、地球で食べたどの肉よりも美味く感じた。
魔力を含むものは普通の食材よりも美味いのかもしれない。
五本の串焼きはすぐに食べ終えてしまったので、宿に向けて移動を再開した。
しばらく進むと目的の宿が見えた。
止まり木という名前で、サリアの話では清潔で食事のおいしい宿らしい。
早速宿に入ってみると、カウンターには恰幅のいい中年の女性がいた。
「いらっしゃいませ、止まり木にようこそ」
「部屋を取りたいんだが空いてるか」
「空いてますよ、一人部屋なら朝食と夕食がついて一日で大銅貨七枚です」
「それでは、十日分頼む」
「ありごとうございます。大銀貨一枚ですね、おつりで銀貨三枚です」
「俺はヤコウという、これからよろしく頼むよ」
「ヤコウさんですね、私は女将のマーサといいます」
とりあえず部屋を取ることができたので、街の見物の続きをすることにした。
街を歩いていると雑貨屋や服屋など生活用品を売っている店から、武器や防具などを売っている店があった。
雑貨屋で歯ブラシやコップ、調理器具、ロープなどを買って異空間に入れておき服屋では替えの服や下着を上下四組買った。
武器や防具は、今の物よりいい物はないと分かっていたので適当に見て何も買わなかった。
途中で宝石商を見つけたので、盗賊のアジトで回収した宝石を売り払った。
数が少なかったがいくつか高価なものがあり、金貨十二枚になった。
これでしばらくは金に困ることはないので、ギルドで仕事をしながら自分の能力の把握と勇者共を殺すための力を蓄えよう。
その日はほかに見る物もなかったので、宿に帰ることにした。
宿で夕食を食べ、無属性の魔法で汚れを落とすものがあったので汚れを落とし就寝した。
サリアに聞いたとおり止まり木の食事は美味く、部屋も清潔であった。
翌日、目を覚まし美味い朝食を食べた後でギルドに向かうことにした。
ギルドには昨日、来た時よりも多くの傭兵がいた。
昨日ギルドに来たのは昼頃だったので多くの傭兵は仕事でいなかったのだろう。 幾人かの傭兵がこちらを見て何か話しているが、どうせ昨日のことだと思ったので気にせずに依頼が貼られているボードを見に行く。
ボードにある依頼を見てみると、街中の雑用から魔物の討伐まで幅広くあった。 しかし戦争への参加の依頼はなっかた。
元からすぐに戦争に参加する気はなく、勇者たちの情報が分かるまで力をつけるつもりなので魔物の討伐を受けることにした。
初依頼ということで肩慣らしとして、常時依頼のゴブリンの討伐とおまけで薬草の採取依頼を受けることにした。
サリアがいるカウンターに行こうかと思ったが列がほかの場所より長かったので、列の短い中年の女性のカウンターに並ぶ。
俺の番が来たので、ゴブリンの生息場所と薬草の特徴を聞いてからギルドを後にする。
ギルドを出るときにサリアのほうを見ると、頬を膨らませてこちらを見ていたのは俺の気のせいでなければ嬉しいことである。
街を出てゴブリンが生息している森に来た。
森には薬草も生えているので(来る途中で気づいたが)鑑定を使って採取していく。
しばらく薬草を採取しながら森を進むと、小柄で緑色の人影が八匹いた。
それらは今回の討伐対象のゴブリンで、錆びたナイフを持ち腰布をつけただけの姿だ。
距離があるまま見つけることができたので魔法を試してみることにする。
今回は火の魔法を使うと討伐証明部位も燃やしてしまう恐れがあるので、風の魔法を使うことにした。
風の刃をイメージしゴブリンと同じ数の八枚用意する。
そして、それぞれの首を狙い一気に魔法を発動する。
風の刃は狙いを外すことなくゴブリンの首に吸い込まれるように当たり、一撃で絶命させる。
ゴブリンの死体に近づき、討伐証明部位の右耳と魔石を剥ぎ取る。
普通の魔物なら肉なども剥ぎ取るが、ゴブリンの肉はまずいので他に剥ぎ取るものもない。
それからはゴブリンを見つければ他の属性の魔法を試しながら狩り、薬草を採取して過ごした。
依頼の達成には十分な数になったので街に帰ることにする。
街が近づいてくると、明らかに俺に向かって殺気を発している気配が八人分あった。
相手は気づかれても問題がないと思っているようなので声をかける。
「出てきたらどうだ」
「よう、また会ったなくそ野郎」
そこから出てきたのは、多少は予想したがゾンゲであった。
どうせ昨日の仕返しとして俺を殺しに来たのだろう。
そしてほかの七人は巨人の斧とやらのクランメンバーだと考えられる。
「昨日の礼に俺からきてやったぜ」
「昨日はお前がバカなことを言っていたから少し釘を刺しただけだろ」
「うるせえ!こっちは恥をかかされて黙ってられるか!」
会話をしながら全員のステータスを見ると、いくつか有用なスキルがあったので相手が仕掛けてきたら全員殺してスキルを奪うことにした。
「とにかくお前には死んでもらうぜ」
ゾンゲがそういった瞬間ゾンゲを含む五人が斧や剣で切りかかり、残りの三人が弓や魔法を撃ってこようとしたので、ゴブリンで試した魔法を使うことにした。
~ゾンゲ~
生意気な面のガキが、俺が前から狙っているサリアと親しそうに話していたのでぶちのめそうとしたが、返り討ちにされた。
他の傭兵や街の奴らの前で恥をかかされた。
絶対にぶっ殺してやる。
次の日、ガキが依頼で街を出たのでクランの部下を集めて街に帰るところを襲うことにした。
待ち伏せは成功し、立場をわからせようとしたが相変わらず生意気な面で、俺に口答えをしやがる。
一斉に斬りかかり、遠距離からも攻撃させた。
ガキに魔法や矢が当たり、俺たちの斧や剣がガキを切り裂く。
ガキを殺したところで、振り返って部下に処理させようとしたとき急に視界が逆さまになる。
何が起こったのかと確認しようとしたが見えたのは首のない俺の胴体だった。
俺の前には死体となった巨人の斧のメンバーがいる。
全員首をはねられて、何が起こったのかわからないといった死に顔をしている。
俺が使ったのは闇魔法で、相手に幻覚を見せていたのだ。
巨人の斧には俺を殺す幻覚を見せて、その隙に首を刎ねた。
他の方法でも余裕で殺すことはできたが、魔物でなくても効くのか試させてもらった。
実験は成功だろう、最後まで俺を殺したと勘違いしていた。
ステータスを確認してみるときちんとスキルを奪えている。
今の俺のステータスは
ステータス
名前:橘 夜行
種族:魔王
称号:『鬼才』『魔神の寵愛』
スキル:【武王】+(【身体強化】【短剣】【剣】【斧】【弓】【棍棒】)New【全属性魔導】【再生】【状態異常無効】【不老】【鑑定】【眷属化】【簒奪】【隠蔽】New【絶倫】New【気配遮断】New【気配察知】New
この様になった、いくつか統合されるようだが使えるスキルが増えた。
そしてよく見ると奪った覚えのない【絶倫】があり、気づかないうちにゴブリンから奪っていたようだ。
奪ったスキルはともかく、魔物からもスキルを奪えるのは喜ばしいことだ。
巨人の斧から金だけを回収して、死体はまた火魔法で処理した。
そのあとは何事もなく無事に町に着いた。
今は昼を少し過ぎたくらいで、昼食を食べてからギルドに行っても人はあまりいないだろう。
朝はサリアと話すことができなかったので、多少並んでいてもサリアに手続をしてもらおう。
そんなことを考えながら俺は昼食を食べる店を探して歩いた。
サリアにはどうして朝、自分のところで手続きをしなかったのかと怒られた。
俺にとってもサリアと話すことは嬉しいので、これからは少し遅くギルドに行くことにしよう。
明日は投稿が遅くなるか、明後日に投稿します。
次の話ではサリアを脅かす、ヒロインが出てくるかも?