ギルド
街は高い防壁に囲まれているが、それでもなお魔王がいるであろう城が遠目に見える。
俺は今、街に入るために門の前に作られた列に並んでいる。
俺のほかにいるのは馬車に乗った商人や武装した集団だ。
武装した者たちが気になったので、前にいた商人の男にそれとなく世間話をしながら聞いてみると、傭兵だという。
魔族領には総合ギルドといわれる、国や住人などからの依頼をまとめ仲介している組織があるようだ。
そこで傭兵たちはそれぞれクランと呼ばれるチームを作り、仕事を受けているらしい。
そして人族には冒険者ギルドといった似たような組織があるという。
そんなことを話していると商人の順番が来て、俺の番になった。
「次の者、身分証を出して質問に答えよ」
「俺は田舎から出てきたばかりで身分証がないのだが」
「身分証のないものは街に入るために大銅貨五枚必要だ、それと街に入る目的は?」
門番に大銅貨五枚を渡して質問に答える。
ちなみに通貨は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨とあり、それぞれ十枚で次の貨幣一枚になる。
商人との話から考えると、銅貨一枚で現代の百円くらいのようだ。
今払った大銅貨は盗賊のアジトから回収したもので、他には銅貨や大銅貨、銀貨が三十枚ほどあり大銀貨が八枚、金貨が二枚あった。
「俺はこの街で傭兵になるために田舎から出て来た」
「よし、特に不審な様子もないためいいだろう。身分証がないと街に入るときにまた大銅貨五枚かかるので、なるべく早く身分証を作るといいだろう」
「わかった、ちなみに総合ギルドにはどう行けばいいだろうか?」
「総合ギルドはまっすぐ進んでいくと右手にある、剣と盾の看板がある大きな建物だ」
門番から話を聞いて総合ギルドに向かう。
俺が傭兵になることを決めたのは、手っ取り早く金を稼ぐのにちょうどいいからと国からの依頼に人族との戦争があり、勇者どもに復讐するのにも都合がいいからだ。
眷属を作りクランを作ってもいいだろう。
総合ギルドの前まで来て建物をみてみると、総合ギルドは二階建てで門番が言っていたように剣と盾の看板がある。
中に入ってみると、依頼が張り出されていると思われる掲示板と見た目のいい受付嬢がいるカウンター、飲食のできる酒場がある。
酒場にいる傭兵などがこちらを見ているが無視してカウンターに向かう。
「総合ギルドにようこそ、本日はどういったご用件でしょうか」
顔に満面の笑みを浮かべながら、紫色の髪と瞳で胸の大きな美人の受付嬢が対応をしてくれた。
「ギルドへの登録を頼みたい」
俺がそういうと受付嬢は一枚の紙を差し出してきた。
「こちらの紙に記入をお願いします、名前以外は任意で構いません。ついでに総合ギルドの説明をさせて頂きますと、総合ギルドは依頼を紹介するだけでそのほかのことに関しては一切責任を持ちません。しかし唯一ある例外は登録した傭兵が犯罪を犯した場合で、登録の抹消と賞金首としてギルドから賞金がかけられます」
いろいろ言いたいことはあるが種族が魔王な俺にとってはちょうどいいし、面倒事も自分で解決すればいいので問題はない。
名前だけ書いて種族や出身地などは白紙で出しておいた。
「ヤコウ様ですね、依頼を失敗すると違約金が発生するのでお気を付けください」
そういうと一枚のカードが渡される。
カードを見てみると表に俺の名前とFランクと書かれ、裏にギルドのマークが描かれている。
「傭兵と依頼にはランクがあり、Sが最高でFが最低です。傭兵のランクは依頼の達成状態により変わります。依頼は指定があるもの以外はどのランクでも受けることは可能です。他に何もなければ登録は終了です」
「大丈夫だ、ありがとう」
「何かあればいつでも聞いてくださいね、ちなみに私の名前はサリアです」
「ああ、これからよろしくサリアさん」
「てめえ、サリアになれなれしくしてんじゃねえよ!」
そんな風にサリアさんと話していると急に怒鳴り声をかけられた。
振り返ってみると、斧を背負った大柄な傭兵がいた。
「だれだ、おまえは」
「サリアの男だ、人の女に手を出してんじゃねえよ!」
サリアさんのほうを見てみると勢いよく首を振りながら否定の言葉を口に出した。
「ゾンゲさんいい加減なこと言わないでください!」
「いい加減じゃねえよ、そのうち本当になる」
にやにやしながらゾンゲというらしい傭兵が言う。
「お前の妄想か、頭が残念にできているんだな」
見かねて俺がそういうと顔を真っ赤にして睨み付けてくるのでさらに煽る。
「そうか、頭の中身は空っぽだからいくら考えようとしても無理なのか」
「てめえ、言ってくれるじゃねえか俺がクラン巨人の斧のリーダーだと知って言ってるのか」
「巨人の斧?知らないな、ゴブリン並みの頭とかじゃないのか」
「死ねよ、くそ野郎!」
そうすると切れて斧で斬りかかってきたので、半身になって斧をよけ片手で首を絞めながら持ち上げる。
「サリアにこれから手を出すな、わかったな?」
首を絞められつつも何とかうなずいたので、そのまま外に向かって投げ飛ばす。
外で何やら悲鳴が聞こえるが気にしないでおく。
ギルド内では人が水平に飛んで行ったことに驚いて皆呆けている。
俺の見た目は身長百八十センチ程でそこそこ筋肉もついているが、そこまで力があるとは思われていなっかようだ。
するとサリアさんが気が付いて話しかけてくる。
「いいんですかヤコウさん、後で報復されるかもしれませんよ。前からからまれて困っていましたが」
「大丈夫だ、さっきも見たように俺は強いしサリアさんが困っていたなら丁度いい。そういえば途中で呼び捨てにしてすまなかった」
「ヤコウさんが構わないなら、これから呼び捨てでもいいですよ」
サリアが頬を赤くして微笑みながらそんなことを言う。
やっぱり美人は笑うとより美しい。
それからサリアにおすすめの宿を聞いて、今日は依頼を受けずに街の中を見てみることにした。