奪う者・奪われる者
荷物を背負い直し、二人は草原を疾走する。
当初こそは、歩く速度とさほど変わらない速さで進んでいた二人だが、しばらくするとブレードギアの操作や、体感速度に慣れてきたこともあって、バイクとまではいかない物の、蓮華でも馬や自転車程度の速度は悠々と出せるようになっていた。
「風が気持ちいいわね」
蓮華は長いポニーテールを風に靡かせながら、隼人の隣を走る。隼人が片足ずつで一般的なローラーブレードのような走り方をするのに対し、蓮華は腰を落として車輪の回転の力だけで進む。
「バイクや馬もこんな感じなのかしら?」
「スクーターはこれより早かったな。馬だともっと体力使うって聞いたぜ」
隼人の体験では、スクーターは今よりももう少し速度が出る為、体感速度では二倍近い速度を感じることになる。
馬を走らせる場合は、常に腰を浮かし、足のバネを使って常に衝撃を吸収しながら走らなければならないため、かなりの体力を使うと異世界のことを調べている時に知った。
ただ立ってバランスを取ればいいブレードギアとはかなり違っているのだ。
「なら私はこれが一番いいわね。けどさすがに森の中は歩かないと無理そうだわ」
正面に森が見えてきたところで速度を落とし、森に入る直前にはブレードギアを解除した。さすがに衝撃吸収の機能があるとはいえ、木の根がうじゃうじゃと地面に這い出している森の中では、まともに走ることはできない。
「ここからは注意して進みましょう。一応見張りがいるかもしれない」
「おう」
暗がりの中、ゆっくりと森の中を進んでいく。空がゆっくりと白みはじめ、遠くの山脈に朝日が差し始めた。
「こんな森の中で良く迷わずに進めるな」
手の付けられていない森は、枯葉が積もり蔦が茂っており、季節的にも熱くなる時期とあって虫も多く非常に住みづらい環境だ。
道も、あるのは獣道ばかりで、人が通るにはやっとといった印象を受ける。
しかし、その中を先に進む蓮華は迷いなく進んでいた。その事を蓮華に尋ねると、蓮華は振り返ることなく答える。
「確かに獣道しかないけど、よく見ると分かるわよ。ほらこことか」
蓮華が指差したのは木の幹。そこには小さく切り傷のような後が付けられていた。
「これは?」
「目印でしょうね。獣道の中でも、どれを使えばアジトに帰れるのか、しっかりマーキングがしてあるのよ。それさえ分かっちゃえば、後はそれを辿っていくだけ。道自体は獣道って目印があるしね」
「けどこの暗がりだぜ? 普通見逃すだろ」
今でこそやっと空が白みはじめ、周囲を把握できるようになってきたが、森に入った当初などは完全な暗闇が辺りを支配していた。唯一の明かりである月も、木の葉に遮られている。
「まあ、目印だけ探せばそうなるかもしれないわね。けど、ここを通る人の人物像や、心理を踏まえながら探せば大分しぼめるもの」
「人物像や心理?」
「ここを通るのはだあれ?」
「盗賊だろ?」
「そう盗賊。なら、一般人とは違って武器を持っているはず。それに、襲った後なら略奪品だってある。場合によっては人を攫ってる可能性もあるわ。そうなると、細すぎる道は通れない。だから道は絞れる」
「なるほど」
「心理的には、歩きにくい道は避けるはずよ。戦利品を持って転びたくないだろうし、だから足もとに根の少ない場所を通る。けど、道は隠しておきたいから、葉っぱは豊富な場所になったり、わざと枝を折って道を塞いでいたりする。そこには大抵目印があるの。そうやって絞っていくと、意外と難しくないわ」
「そんなこと考えながら歩いてたのかよ」
「ただボーっとしてるんなら、猿にだってできるわよ」
「はいはい、すみませんでした」
「反省したのなら、今度は誠意を見せてもらおうかしら」
蓮華は足を止めて木の幹に体を隠す。そして、ちょいちょいと指を森の奥へ指した。
そこには、粗野な服を着た男が立っていた。
「盗賊か?」
隼人も急いで草陰に身を隠し、葉の隙間から男の様子をうかがう。
二十代後半から三十台といった所の、大柄の男だ。鎧等の装備はしていないため、警戒などではないことが分かる。
と、男はその場でズボンをおろし、小便を始めた。
「チャンスね。隼人」
その行動に、蓮華は動揺することなく笑みを浮かべる。
「おうよ」
蓮華が何を言おうとしているのか理解した隼人は、茂みからこっそりと相手の背後へ移動した。そして、物質魔力で剣を作りだし、一息に盗賊の背中へと突き刺す。
剣は抵抗も無く盗賊の背中から貫通し、その破壊力を伴って、胸を内側から破裂させるように吹き飛ばした。
木に大量の血が降りかかり、一瞬にして周囲に血の匂いが充満する。
「お疲れ。感覚はどう?」
「特に異常なし。動揺も無いな」
「問題なさそうね。あと九人よ」
「こいつは魔法使いだったと思うか?」
血に倒れる死体を見下ろして、蓮華は首を横に振った。
「おそらく違うわね」
蓮華が異界の書で確認した魔法使いのうち、一人は女性。その時点で目の前の死体は条件から外れる。残りの二人もローブをかぶっていることが多かったが、それでも何度かその姿を見ることは出来た。
顔まではよく分からなかったが、その二人ともがそこまで筋肉の隆起が激しくない体をしていたのだ。
しかし、今目の前に倒れている盗賊は、腕の筋肉からして伸ばしている状態ですらはっきりと隆起が見られるほど筋肉が付いていた。
これは、剣を主武器として使っているからだろう。
これらの条件から、蓮華はこの男は魔法使いではないと判断した。
「ならまだ三人残ってんのか。なるべく一人ずつ片づけたいんだけどな」
「まあそれは運次第ね。それより、盗賊がいたってことはアジトが近いわよ」
「おう」
再び気持ちを引き締め、二人は歩き出した。
すぐにアジトは見つかった。
さすがにただトイレに行くために何十分も歩くわけも無く、一分も歩かないうちに崖を見つけた。
そこには、洞穴が作られており、見張りが二人立っている。その二人も警戒している様子は無く、崖に背中を持たれかけさせ談笑している。不意を打てば簡単に倒せそうだ。
「俺右な」
「じゃあ左ね」
茂みから様子を窺い、一気に飛び出す。
葉の動く音で盗賊たちはすぐさま反応するが、武器を構える前に隼人が右の男を剣で突き刺し、左の男は蓮華の糸によって首を刈られた。
「蓮華はどうだ? 気持ち悪いとかあるか?」
「無いわね。いたって平常。それ以上に、この死体に興味があるわ。使えそうだし」
蓮華は、自分が首を落とした盗賊の死体を見ながらそうつぶやく。
「なにに使えるんだよ……」
「昔から意識のない人間って人形と同じじゃないかって思ってたのよね。けど、死後硬直とか倫理とか他にも色々問題があって試せなかったんだけど」
隼人が周囲を警戒する中、蓮華は指先から糸を伸ばし、死体の関節や胴体に巻き付けていく。そして、グッと引っ張ると、まるで人形が立ち上がるように起き上がった。
「出来た」
「うわ、不気味過ぎ」
体の節々から糸が飛び出している、首のない人が血を流しながら悠然と立つその光景は、ホラー以外の何物でもなかった。
隼人は自分の口元が引き攣るのを感じながらその死体を眺める。
「どんなもん動かせるんだ?」
「操り人形と同じ程度なら動くわ。たとえばこんな感じ」
蓮華が再び糸を引くと、死体は自分の腰に下げていた剣を引き抜き、構える。しかし、その構えは力の入っていないふにゃふにゃなものだった。到底人を斬れそうなものではない。
「使えるのか?」
「人形に人間の常識は通用しないわよ。ほら」
人形が蓮華の操作に合わせて歩き出す。その歩みも操り人形のようにカクカクで、不気味さを引き立たせていた。朝日が昇って来た今だからこそまともに見ていられるが、これが夜や墓場だったら、隼人でもダッシュで逃げ出す自信がある。
そんな人形は、隼人が倒した盗賊の前まで来ると、その剣を振り下ろした。
メリッとイヤな音がして、倒れている盗賊の体に剣が突き刺さる。その剣は体を貫通し、地面を貫いて死体を張り付けにしていた。
「どう、糸を引っ張ればそれだけで力を強引に引き出せる。死んでるからリミッターもないし、体は壊れちゃうけど、代えはすぐに作れる」
今の嫌な音は、人形となっている死体の肩が折れた音だった。蓮華の要求する力に体が耐えられなかったのだ。
「糸の動かし方も自由度が凄い広がってるし、動かし方を練習すればもっと上手くできそうかも」
「練習なら後でしてくれ。今はアジトを潰すのが先だろ」
「それもそうね」
隼人の意見に、蓮華は人形から糸を切り放す。支えを失った死体はその場にドサッと崩れ落ちた。
「あと八人。まだ魔法使いは無しか」
「幹部的な感じで奥に溜まってるのかしらね? それとも魔法使いはお寝坊さん?」
「どっちでもいいさ。出てきたら殺すだけだ」
隼人を先頭に、アジトの中へ足を踏み入れる。
アジトは、穴倉が奥へと続いており、自然に出来たものとは思えないほど壁が整えられていた。
一定間隔に備え付けられた松明が明かりをともし、奥の様子を見せてくれる。
少し進んだ先は、分かれ道になっているようだ。
「どっちに行く?」
「右」
「何でだ?」
「勘よ」
「はいはい」
特にどちらでもよかった隼人は、蓮華の案に素直に従う。
そして右の通路を進むと、話声が聞こえてきた。数名の男の中に、一人女の声が混じっているようだ。
緩やかに曲がっている道を進んでいくと、開けた場所があった。そこにはテーブルや机が並んでおり、五人の盗賊が談笑している。内一人は、やはり女性だ。
隼人たちは空洞の前で足を止め、作戦を考える。
「今の所、侵入はバレてないみたいね」
「一応瞬殺してきたからな。んで、五人いるけどどうする?」
「正面突破でも行けそうだけど、あの女性は魔法使いね」
「だな」
そうでもなければ、男性に力で劣る女性が盗賊の仲間になどなれるはずがない。それだけの力を持っていると言うことだ。
魔法のあるこの世界では、多少の男尊女卑はあるものの、小説の中にあるほど激しいものではない。
女性であっても実力があれば騎士にもなれるし、爵位も与えられる。純粋な実力社会なのだ。
それだけ、社会における魔法の比重が重いということでもある。
「他の連中は?」
「ここからだと分からないわ」
目を凝らして見るが、さすがに距離があって腕の筋肉がどうこうなどと分かるレベルでは無い。
「陽動に死体を持って来ておけばよかったわね」
通路に仲間の死体を放置すれば、二人ぐらいは釣れるだろうと考えた蓮華であったが、持って来ていない物は仕方がないと、考えを改める。
「突っ込むか? ブレードギア使えば一気に懐まで行けるぞ?」
隼人のブレードギアならば、初速からかなりの速度が出るため、相手に対応させる暇を与えずに数人を潰すことはできるだろう。だが、問題はその後だ。
二人の距離が離れてしまえば、各個撃破される可能性もある。人殺しに関して何の忌避も感じないからと言って、二人は人殺しのエキスパートではないのだ。戦闘の経験は相手の方が圧倒的に上なのだから、孤立して囲まれるのは避けておきたい。
「いえ、突撃はやめましょう。私の糸で引っ張ってみるわ」
相手に意識がある以上、糸で完全に人形とすることはできないが、それでも体を引っ張ることぐらいはできる。
「それで三人は引き倒せると思うから、それと同時に攻勢に出るわよ。相手の魔法にだけは注意してね」
「おう、こんなところで死ぬつもりはねぇよ」
「じゃあ行くわよ」
蓮華は指先から糸を出すと、地面を這わせゆっくりと盗賊たちの足もとへ向かわせる。そして椅子の下から背中、首元へと這い上がらせ、気付かれないように糸を巻きつけた。
隼人は、手に剣を生み出して、ブレードギアもいつでも加速を掛けられるようにスタンバイする。
無言でうなずき合い、お互いの準備が完了していることを確認して、蓮華は糸を思いっきり引っ張った。
「グッ」「おわっ」「ガッ!」
とたん、糸を結び付けられていた男三人が椅子から後方へ倒れ込む
一人は距離がギリギリだったため力が入らなかったのか、軽く背後に倒れるだけだったが、残りの二人は、思いっきり首を絞められたこともあって、かなり苦しんでいる。
そこに隼人がブレードギアで加速し切り込む。
「おら!」
「襲撃だと!?」
突然の襲撃に慌てながらも、そこはさすが少数精鋭、素早く武器を構え隼人を撃退しようと前に出る。
振り下ろされる隼人の剣。無事だった男の盗賊がそれを受け止めようと前に出た。
ただの剣ならばぶつかり合うだけだっただろう。しかし、隼人の剣は物質魔力で出来た特別製。
まるでガラスの棒を砕くように、いとも簡単に盗賊の剣を破壊し、そのままの勢いで男を切り裂いた。
「魔法なの!? このっ! ファイアボール!」
残った女が手を隼人に向ける。そこに火球が現れたのを見て、蓮華が動く。
男たちを縛っていた糸を切り放し、新たに生み出した糸で女の手を縛ると、その方向を別の方向に向ける。
放たれた火球は地面へとぶつかり小さく爆発を起こして消滅した。
「あんたたち! 大丈夫かい!」
「俺とゲイツは大丈夫だ。ジットはもうくたばってるよ」
糸から解放された男たちが起き上ってくる。しかし、入口の一番近くにいたジットと言う盗賊は、転倒の際に首の骨が折れていた。
女盗賊は、口から泡を噴いて白目を剥いているジットに小さく舌打ちして、隼人を睨みつける。
「あんたら何もんだい」
「ちょっとお金が欲しくてね。あんたらの財宝を貰いに来た」
「盗賊狩りかい」
盗賊が商人や村人を狩る立場ならば、それを狩る立場の者達も存在する。主に傭兵などがそれを兼用していることも多いが、場合によっては、盗賊の溜めた宝を狙って盗賊専門のハンターなども存在していた。
「別に専門じゃねぇぜ。ちょっと金が欲しいだけさ。全部くれるなら見逃すよ?」
「何言ってるのよ。後腐れ無いように全員殺すに決まってるでしょ」
隼人の後ろ、出入り口から姿を現した蓮華に、盗賊たちも警戒を深める。
「この糸はアンタの魔法かい」
「そう、便利でしょ」
蓮華が糸を引っ張れば、女は腕に力を込めてそれに抗う。しかし、自分の手首に糸が食い込んでいることに気付いて、慌ててナイフを抜くと糸に向かって振り下ろした。
蓮華の糸はナイフによって簡単に切り裂かれてしまう。
隼人のように剣を形成するほどの魔力量ならば、大抵の物には負けないほどの強度を誇る物質魔力だが、気付きにくいように細くした糸ではナイフでも斬られてしまうようだ。
それを確認した蓮華は、糸を新たに生み出し、自分の手元にだらんと下げた。
「残念。あのまま手首を切り取ろうと思ってたのに」
「初めて見るタイプの魔法だね。ゲイツとガン、あんた達はあの男をやりな。私は女の相手をするよ。お頭たちがもうすぐ来るだろうし、それまで死ぬんじゃないよ」
「おう」「ケホッ、舐めたマネしやがって」
ガンは素早く剣を構えるが、ゲイツは最初のダメージが残っているのか少し苦しそうに咳きをする。
「そんなんで俺の相手が務まんのか?」
「俺達も伊達に盗賊やってるわけじゃねぇんだ。ガキ一人に舐められてたまるかよ」
「そういうことだ」
「なら精々楽しませてもらうぜ!」
アクセルを全開にして、隼人は二人の周囲を回るように移動する。その独特な動きに、二人は動揺を隠しきれなかった。
「なんだそれは」
「面妖な。これだから魔法使いは」
警戒する二人に、隼人は悪い笑みを浮かべ、剣を地面にぶつけて火花を散らす。
「さあ、どこから行こうか。まずはここかな」
背後まで一気に回り、二人との距離を詰める。二人は常に隼人を視界に入れるようにしていたが、その速度のせいで体まで向けている余裕はなかった。
接近する隼人に、二人はすぐさまそれぞれ逆方向に転がって回避する。
隼人は、二人が転がって出来た間を通り抜け反対側に出ると、そのまま壁まで直進し、スピンするように急制動を掛けた。
「いいね、しっかり回避に専念してくる」
「当たり前だ」
二人は、隼人の初撃で叩き斬られた仲間を見ている。そこですぐさま剣で受けるのを危険な行為と特定し、回避を中心に隙をついて攻撃することを選んでいた。
しかし、隼人の動きに予想が付かず、反撃に出れないでいる。
隼人は、それを楽しむかのように、再び二人の周囲を回り出した。そこに蓮華から野次が飛ぶ。
「無駄な事してないで、早くケリを付けなさい。増援が来るわよ」
「そう言うそっちはどうなんだよ」
「もう終わったわ」
その言葉に、仲間の二人が思わず女盗賊の方を見る。そこには、背後から剣で貫かれた女盗賊の姿があった。
そして、その剣を突き刺していたのは、先ほど隼人に斬られたばかりの仲間の死体。
「……ぐふっ…………なにが」
驚きの表情を浮かべたまま、女は口から血を吐き出す。
「ふふ、やっぱり人形を操るのは面白いわね」
蓮華は下げたままの手の指を僅かに動かす。それだけで、死体は女の体から剣を引き抜き、その場に崩れ落ちた。
女はその死体に重なるようにして倒れる。
「戦いなんて正面からやるものじゃないわ。隼人ももっと頭を使いなさいよ」
「悪いね。俺は頭より体を使う派なんだ」
「だったらお得意の肉体労働でさっさと片付けなさい。それとも私にやってほしいの?」
「はいはい、終わらせますよ」
「この野郎、舐めやがって!」
敵の目の前で悠々と会話する二人に、コケにされたと盗賊は逆上する。
しかし、その怒りは強制的に沈められることとなった。
逆上した盗賊が隼人に向かって切り込もうとした瞬間、自分の腹に熱を感じたのだ。
そして視線を下げると、そこには琥珀色の細い板のような物が突き刺さっていた。
その出所は、隼人の左手だ。
「まず一人な」
左手を動かし、板を引き抜く。その先端は、剣のように鋭利に尖っていた。
「くそっ……」
崩れ落ちる盗賊を尻目に、今度は正面から残り一人へと向かう。
その盗賊は、仲間が殺された時点で一人では無理だと逃亡に動いていた。
奥へ続く通路に向かって走る盗賊を、隼人がブレードギアを使って一瞬で追い上げ、袈裟懸けに切りつける。
「ほい、終わ――」
終わり、そうなると思っていた隼人は、自分の頬に風を感じた。次の瞬間、追いすがっていたはずの盗賊の背中が突然離れ、浮遊感に襲われた。