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奴の魔法は物理的!  作者: 凜乃 初
知識と技術の集まる地
51/60

交渉

前話で、護衛の一人が盗賊に取り押さえられていましたが、話しがおかしくなったため、少し変更しあっさりと亡くなりました。

内容自体は変わっていませんので、読み直しの必要はありません。

申し訳ありませんが、ご理解お願いします。

 馬車から引きずり出されたフリーデは、近くに座っていた盗賊の頭を見て、ヒッと小さく悲鳴を上げる。それも当然だろう、盗賊の頭はその巨大な図体と、粗野な恰好も相まって、ザ・盗賊とでも呼べるような一目で分かる姿をしているのだ。その上、横には巨大な斧が置かれているのだから、戦う力も無い一般人に怯えるなという方が無理な話である。


「お、出て来たか」


 頭は、フリーデが出て来たのに気付くと、のっそりと熊のようにその巨体を持ち上げ、近づいてくる。

 一歩近づくたびに、フリーデの肩がビクッと跳ねあがるのは愛嬌だろう。

 頭もそれを見て怯えさせ過ぎるのはマズイと考えたのか、数歩近づいた時点で足を止め、あえてリュンに話しを振る。


「それで、交渉はさせてもらえるのかい?」

「うむ、私たちが同席という条件付きじゃがな」

「それぐらいなら全然かまわねぇさ。今回は脅し取るつもりも無いからな。あんたらが一緒じゃ、こっちは手出しできない」


 それは、あえてフリーデを安心させるように言った言葉だ。


「で、交渉はどこでやるんだ? さすがに地べたでってのは嫌だぞ?」


 そこに、馬車から出てきた隼人が尋ねる。今出てきた馬車も、中は人一人が何とか横になれるスペースがあるだけで、他はほぼ荷物で埋まってしまっている。かといって、もう一台の馬車は横転してしまっているのだ。座って落ち着いて話せる場所など、どこにもない。


「そうじゃのう。ならば先に横転した馬車を戻し、中身を外に出すかのう。どれぐらい被害をこうむっておるのかもわからんと、値段が付けられんじゃろ」

「俺も賛成だ」

「わ、私もそれで……」


 全員がリュンの意見に賛成し、先に馬車の中身を確認することとなった。


 隼人と盗賊たちが協力して馬車を元に戻す。そして、ぐちゃぐちゃになった荷物を一つずつ外にだし、内容物を確認する。

 大半は野菜や穀物などの食料であり、三割程度が魔導具に使うための魔石。そして少量の本である。

 フィリスタの塔では魔石が生産できないため、商人がベルデで買い取った魔石をフィリスタで販売するのである。

 学院国だけあって、魔導具関連の技術は高く、その魔石はなかなかの高値で買い取られる。それを見越して、多くの商人がベルデや他の塔から魔石を運ぶため、フィリスタで魔石が足りないということは少ない。

 購入された魔石は、学院国の技術者たちが新たな魔導具を生み出すのに使われ、便利な魔導具は再び周辺の国へと輸出されるのだ。


「さて、分類が終わったが」


 地面に布を引き、馬車の中身を一通り並び終えた。

 野菜類は多少傷んでいるが、食べるには問題ない物ばかりで、ほとんどが買い取りということになる。魔石はここではほとんど役に立たないため、買い取りは無しとなり、もう一台に詰め込まれることになった。本も同じだ。

 そして、馬車は車軸が折れており、このままでは使い物にならない。応急修理でもどうにもならないため、かなり安く買いたたかれることになる。

 馬も、一頭はさほど怪我も無く、矢も刺さり方が浅かったため簡単な治療で問題ないため比較的に高い値段で買い取りとなる。逆にもう一頭は怪我が酷く、治療にも時間がかかるということで、かなり安い値段となった。

 それでも、普通ならば食用として潰されるレベルの怪我の馬を買い取ってもらえたのだから、フリーデにとってはありがたい限りである。


「じゃあ、これだけで金貨二枚と銀貨五枚でどうだ?」

「こちらとしては、金貨四枚は欲しいのですが……」


 馬車は自分の物であったが、馬は商業組合で借りたものだ。そのため、使えなくなってしまえば賠償金が発生する。

 その損失を補うためにも、フリーデとしてはなるべく高値で売りたいところだった。


「それは高すぎるだろ。一頭は金貨二枚の価値はあるが、もう一頭は銀貨一枚の価値も無いぞ」

「その分こちらは鞍や轡、馬用の鞄などもそのままお渡しします。これが無いと、食料品を運ぶのも苦労すると思いますが?」

「むぅ……しかし、どちらにしろ一頭は使えない。治療のことも考えれば、金貨三枚が限界だ」

「三枚ですか……」


 賠償金が一頭で金貨一枚であることを考えれば、食料を合わせてもなんとか赤字は免れる。盗賊の頭もそれを分かっていてあえてこの値段を提示したのだ。


「分かりました。金貨三枚でお売りします」

「助かる。金貨はすぐに持ってこさせるから、先に荷物をまとめていてもいいか?」

「ええ」


 本来ならば、料金を払ってからでないと商品には触れせるべきではないのだが、隼人達がいる以上、持ち逃げされることは無いだろうとフリーデもそれを許可する。できることならば、さっさと山岳部の道は抜けてしまいたいのだ。


「おう、お前はすぐにアジトに戻って仲間呼んで来い。金を忘れるなよ」

「へい」


 残っていた部下の一人が、金と仲間を取りに行くためにアジトへと戻っていく。それを見送って盗賊たちは荷物を持ち運びしやすいように纏めはじめるのだった。


 三十分程度で盗賊たちが戻ってくる。その頃には、荷物の整理もだいたい終わり、後は運ぶだけとなっていた。

 フリーデは、隼人達と一緒に残っている馬車に魔石と本を積み込んでいく。

 荷物が増える分、馬には大変な思いをさせることになるが、ここは我慢してもらうしかない。


「悪いけど、よろしくね」


 フリーデが馬たちを撫でれば、ブルヒヒと馬は軽く頷く。商業組合の馬はよく訓練されている。だからこそ、賠償金も金貨一枚と高額なのだ。


「こっち準備出来たぜ」

「ありがとうございます」

「いいさ、こっちにも思惑があるからな」

「そろそろその事を話さないとのう」


 荷物を馬車に固定し終えた隼人たちが、馬車から降りる。その頃には、盗賊たちはすでに買った商品をまとめてアジトへと戻っていってしまっていた。

 静かになった山岳部で、フリーデは一人息を飲む。つい先ほどまで色々と助けてもらって忘れていたが、隼人達も国際指名手配を受けた犯罪者、国からしてみれば、盗賊よりもよっぽど危険な連中と判断された存在なのだ。

 それの要求が一体なんなのか、フリーデには予想もできない。


「とりあえず移動しながら話そうぜ。いつまでもここにいたら、別の盗賊に襲われかねないしよ」

「そうじゃな。フリーデ殿もそれでよいか?」

「あ、はい。じゃあ馬車を出しますね」


 フリーデが御者隻に座り、隼人がその隣を歩く。リュンは説明の為にフリーデの隣に座り、馬車はゆっくりと動き出すのだった。



 リュンが全ての説明を終えるころには、山岳部も終わりが近づいていた。

 すぐ先には森が広がり、その森を超えた先に目的の町エサルがある。


「つまり、塔の主を倒し、その封印されている魔人を倒さなければ、再び人類が滅びの危機に瀕すると?」

「大きくまとめてしまえばそう言うことじゃな。まあ、無理に信じろとは言わん。私も、実際に塔の主から聞いていなければ、頭のおかしなたわごとと切り捨てている所じゃ」


 実際に、ベルデの兵士達には笑い話と切り捨てられた。その事実があるからこそ、リュンも強く信じろとは言えない。

 ここで、フリーデの機嫌を損ね、取引を拒否されてしまうのは、二人にとって痛すぎるからだ。


「確かに荒唐無稽な話ですが、だからこそ真実のようにも感じますね……」


 当のフリーデも、リュンの説明に対し悩んでいた。

 上手く嘘を吐くなら、もっといい嘘などいくらでもあるはずだ。リュンにそれを考えられるだけの知能が無いようにも見えない。ならば、その考えを読んであえてばれやすい嘘を真実と言ってるのかと考えても、リュンからはそのような捻くれた感情はうかがえない。

 しかし、商人としてもまだまだ未熟で、人を見る目にもなれていないフリーデには、どちらが正しいのか分からなかった。

 そこで、正しいのかどうかは一旦後回しにし、本題を尋ねることにする。


「それで、私に頼みたいことというのは何なのでしょうか? 小規模の商会ですから、国に手を回せなどと言われても、不可能ですが」

「私たちが頼みたいのは、食料の融通じゃ。お主が言うように、私たちは国際指名手配されておる。そうなると、町にはいるのも一苦労になるじゃろう。手配書が民にまで広がっているのなら、商店での買い物も困難なはずじゃ」

「つまり、その食料を私から買いたいと?」

「そう言うことじゃ。もちろん、市場価格よりは高値で買い取るぞ」


 話が速くて助かると、リュンは嬉しそうにうなずく。隼人と話していると、いちいち細かいところまで説明しないと理解できないため面倒なのだ。


「そうなると、私は指名手配犯に食料を供給したとして、共犯者になる訳ですね」

「その危険はあるのう。しかし、町の外で偶然会った冒険者に食料を売ったのならば問題無かろう?」

「確かに稀にそう言うことも起こりますが」


 別の町へ移動する際に、すれ違った冒険者に魔石や食料を販売することはある。それを考えれば、リュンの要求自体はさほど問題ない。

 問題は、その偶然を必然的に引き起こさなければならないことだ。


「私はあなたたちの行動に合わせて移動しないといけないのでしょうか?」

「そこまで縛るつもりはないよ。買い付けの時に移動先の予定を教えてもらえれば、私たちがお主に合わせる。もちろん、教えずに逃げてしまうのも手じゃ。危険が全くないわけではないからのう」

「……すこし……少し考えさせてください」

「危険な行為じゃ。エサルに着くまでに答えを出してもらえればよい」


 エサルまではまだ一日以上かかる。リュン達はそれまでに答えを出してもらえればいいため、フリーデにゆっくり考える時間を与えた。


 山岳部を抜け、森林部に入る。道もある程度舗装されたものとなり、馬車の揺れもある程度落ち着いてきた。

馬車を進めながらフリーデがリュン達の提案をどうするべきかと悩んでいると、突然馬車がガタンと揺れる。

 考え込んでいたフリーデは、突然のことに驚いて馬を止め周囲を見渡した。その様子をリュンが眠たそうに眼を擦りながら見ている。


「安心せい、ハヤトが馬車から飛び降りただけじゃ」

「ハヤトさんが?」

「周囲に盗賊どもが来とったからのう。それを潰しに行ったのじゃろう」


 リュンも、木々の間に盗賊が隠れているのは気づいていた。しかし、御者席に乗り、フリーデの護衛を務める手前いきなり動くこともできず、隼人が何とかするだろうと傍観したのだ。

 案の定隼人は、盗賊の存在に気付くと喜び勇んで馬車の屋根から飛び出していった。

 馬車が大きく揺れたのは、その時の反動だ。


「リュンさんは手伝わなくてもいいんですか?」

「私はお主の護衛じゃからな。このように――」


 一瞬の風を斬る音と共に、フリーデ目掛けて矢が飛来する。それを、リュンは掴んで受け止めた。


「御者席は狙われやすい。矢が飛んでくると危険じゃから、とりあえずお主は馬車の中に入っておれ」

「わ……分かりました」


 立っていたせいで、余計に目立ったのだろう。最初の矢に続くように、数本の矢が飛来するが、それも全てリュンによって防がれる。

 フリーデが慌てて馬車の中へと入っていく頃には、矢の飛来は止まり、森の中に悲鳴が響き始めていた。


 しばらくしてリュンが馬車をノックする。すると、フリーデが恐る恐る顔を出した。


「もう大丈夫じゃよ。盗賊は全て殺した」

「お二人とも強いんですね……」


 素手で矢を受け止めたり、盗賊の集団を一人で薙ぎ払う隼人に、フリーデは純粋に驚いていた。


「それぐらい出来ねば、塔の頂上など目指せんよ。私もハヤトもまだまだじゃがな」

「はぁ……」

「それより、出発してもらっていいかのう?」

「あ、はい。分かりました」


 フリーデが再び御者席に戻ると、ハヤトが森の中から戻ってくる。その姿のどこにも、血に濡れた様子はない。


「歯ごたえねぇなあ。やっぱ所詮は盗賊か」

「ホウロウの塔に行けば、嫌というほど戦えるぞ。それに今後は、騎士団とやり合うこともあるかもしれんからな」

「それもそうか。楽しみだ」


 隼人は嬉しそうにそう言うと、再び馬車の屋根に上がってしまう。それを見送って、フリーデはゆっくりと馬車を進ませる。


「そう言えば、一つ聞きたいことがあったのじゃ」

「はい、なんでしょう?」

「なぜ山岳部を通っておったのじゃ? あそこは盗賊のアジトも多く、危険だと分かっていたはずじゃ」


 本来ならば、海岸沿いか、悪い選択で森林地帯を突っ切る。山岳部は元から選択肢に入らないようなルートのはずなのだ。

 だから、何故あんなところを通っていたのか、リュンには分からなかった。


「あれは、護衛についていた傭兵さんたちの提案だったんです」

「あ奴らの?」


 リュンは、必死の形相で馬車を守っていた男たちを思い出す。最後の一人も、結局はフリーデが眠っている間に死んでしまったため、気負わない様に処理してしまったが、彼らの意見であの道を通っているのだとすれば、完全に自業自得である。


「最近は森林地帯も山岳部と同じぐらい襲撃が頻発してて、安全だと言われていた海岸沿いにも、盗賊が出るようになって来てたんです」


 それは、単純に隼人達が荒らしまわり食料が減った結果、盗賊の行動範囲が増えた結果だ。

 食料を求めて行動範囲を広げる野生動物と同じ原理である。


「私も最初は海岸沿いを行こうと提案したんですが、傭兵さんたちが今なら山岳部が手薄なはずだからそこを行こうと。距離も山岳部が一番近いですから」

「なるほどのう」


 傭兵たちは、海岸沿いまで襲撃が広がったのは、単純に盗賊たちが森林地帯にアジトを変更したためだと考えた。

 そこで、距離がもっとも短く、彼らの予想が正しいならば盗賊の数が減っている山岳部を通ることで、時間と戦闘する苦労を最小限に抑えようとしたのだ。

 しかし、現実はただ盗賊たちの行動範囲が広がっただけで、むしろ山岳部での食料争いは激化していた。

 なにせ、たった二台の馬車に対して、三つの盗賊団が襲撃を企てていたのだから、もし最初の盗賊団をしのげていたとしても、奪われるのは時間の問題だっただろう。

 その事をフリーデに話せば、フリーデは顔を真っ青になった。


「そ、そんな状態だったのですか……」

「お主と交渉した盗賊団も、元は襲うつもりじゃったからのう。あ奴らが退けた盗賊もあわよくばと数人の監視は残しておったようじゃし」

「うう……お二人にはなんとお礼を言えばいいか」

「礼はいらんよ。原因は私たちにないとも言えんからのう」


 むしろ、完全に原因は隼人達なのだが、そこは黙っておくのが賢明だろう。


「分かりました。では、食料調達の話はお受けしようと思います」

「む? 気遣いは不要じゃぞ? お主にも危険が及ぶことじゃ。下手な謝礼気分で動くと痛い目を見ることになる」


 思わぬ回答に、リュンは思わず考え直すように説得してしまう。

 しかし、フリーデは首を横に振った。


「分かっています。ずっと考えていたんですが、やっぱりお二人がただ塔の主を興味本位で襲っただけとは思えないんです。確かにバトルジャンキーな所は見られますが、それでもリュンさんは損得勘定がしっかりと出来ています。だから、リュンさんの話にも真実味が出る」


 実際は、隼人に乗せられての突撃だったため、リュンはフリーデの高評価に顔を俯かせて頬を赤く染めた。


「もしこのままなら、塔の攻略ができなくて魔人が復活するんですよね?」

「う、うむ」

「それが事実ならば、大きな商会の主になって、男どもに言うことを聞かせる私の夢も意味が無くなっちゃいますから。だから、私たちはリュンさんたちに付いてみることにします」

「本当に良いのか?」

「ええ、その代りリュンさんたちが世界を救ったら、フリーデ商会が陰ながらサポートしていたことを、しっかりと表明してくださいね。それで、私は一躍有名人です」

「…………クックック、逞しいのう」

「フフッ、それが商人ですからね」


 二人の笑い声が森の中に吸い込まれていきながら、隼人達は学院国フィリスタへと入国したのだった。


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