買い出し? デート?
時間が無かったので、少し誤字が多いかもです……
顔合わせを終えたのち、夕食を済ませた隼人は、貸してもらった部屋で、自分の荷物を整理していた。
宿のテーブルでは狭すぎて、全ての道具を並べられなかったため、これまでしっかりとした管理ができなかったが、貸し与えられた部屋は、これまでの部屋の優に三個分はあるかという大きさだ。当然テーブルも大きく、たとえ四人分の料理が並んでも十分余裕がある広さだ。
今はそのテーブルが、今まで集めた魔導具や、鍋などの調理道具、テントのフレームや寝袋などで埋まっている。
明後日から再び塔に登るということで、明日のうちには必要な物を揃えなくてはいけない隼人は、今日のうちに魔導具に不備が無いかなどを確かめ、もし異常があれば明日のうちに修理を依頼しなければならないからだ。
現状、すでに調理道具やテントの確認は終え、残るは魔導具だけとなっている。
テントの布に一部ほつれや破れかけの場所もあったが、ロウナに頼んで借りた裁縫道具でササッと直している。
挑戦者にとって、服が破れることなど日常茶飯事。裁縫はある意味必須スキルだったりするのだ。
「後は魔導具か」
ずらっと並んだ魔導具は、ランプやコンロ、水筒だ。魔法陣で問題の有無を調べることが出来ない隼人は、とりあえず魔石を入れてみて、正常に動くかどうかを調べる。
魔導ランプに魔石を入れ、灯りをともらせる。
とりあえず点灯するのが確認できればいいため、光量を最小限にしてスイッチを入れた。
部屋の明かりにほとんど負けてしまっているが、ランプがうっすらと光っているのを確認できた。
調節ネジを捻り、光量が変化するのも確認する。
「うし、ランプは問題ないな」
問題ないことが確認できたので、魔石からランプを取り出そうとした時、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開けて入って来たのは、ロウナだ。
ロウナは扉を開け挨拶だけすると、廊下へと出て行ってしまう。そしてすぐに入ってきたとき、ロウナはタイヤ付きのテーブルを運び込んできた。
その上には、ティーカップやポット、ケーキなどが置いてある。
「少し休憩されてはいかがですか? もうかなりの時間になりますが」
「え!?」
驚いて手元の時計を確認すれば、二十二時を回っていた。道具の整備を始めてから、すでに四時間以上経過しているのだ。
「もうこんな時間だったのか」
「ずいぶん集中していらっしゃいましたので」
「まあ、もうすぐ終わるから、そこまで一気にやっちゃうわ。悪いけどお茶だけ貰える?」
「はい、すぐにご用意いたします」
ケーキといっても、現代のクリームがたっぷり使われたものでは無く、どちらかといえばクッキーに近いベイクドケーキだ。今日食べなくても、すぐに悪くなってしまうことはない。
ロウナはケーキの皿に銀の蓋を被せ台車の中段にしまうと、ポットのスイッチを入れる。
このポットも、隼人の水筒と同じく魔導具だ。冷やす能力こそ付いていないが、その分加熱に特化されており、隼人の物より遥かに短い時間で沸かすことが出来る代物である。
ロウナが茶葉を用意している間にも、ポットからは湯気が出始め、ぐつぐつという音が聞こえ始める。
その間に、隼人はランプの魔石を採り出すと、コンロや水筒へと入れ替えしっかりと動くことを確認した。
さすがに数回しか使っていないこともあり、異常はどれにも見当たらない。
「こっちは終了だ」
テーブルの上の道具を片付けながら、隼人はロウナに声を掛ける。
ロウナはそれを聞いて、ティーカップにお茶を注ぎ、隼人の前に置いた。
立ち上る湯気から、ミントのようなスーッとした匂いが漂う。
「良い匂いだな」
「ハーブティーです。眠れなくなることが無いので、夜にも気軽に飲めるのが特徴ですね。あと、よく眠れるとレンゲお嬢様は言っておりました」
「へー」
説明を聞いて、一口飲んでみる。
鼻に抜ける香りは、やはりミントに近いものがあるが、味は少し甘味の強い紅茶だ。
変な癖も無く飲みやすいと隼人は感じた。
「いかがですか?」
「ああ、俺も結構好きかも」
「よかったです。今後も夜はこちらをお出ししますね」
「たのむわ。ロウナは飲まないのか?」
一向に自分の分を注ごうとしないロウナに、隼人が尋ねる。ロウナは驚いたように首を横に振った。
「まさか、お客様と席を同じにするなど、あってはいけません」
「ああ、そういうことか」
ロウナの答えで、隼人は自分とロウナの考え方の違いに気付いた。
「一応客扱いってことになってるけど、実質居候だからな。そんな気にする必要ないぞ?」
「ですが……」
「それに俺も蓮華と違って下手に出られるのは慣れてないしな」
昔から女中に囲まれ育った蓮華は、誰かを使うということや、甲斐甲斐しく世話をされながら食事をとるということにもなれているが、隼人は一般家庭で育ったごく普通の子供なのだ。誰かにじっと見られながらお茶を飲むことにはなれていないし、そもそも敬語で懇切丁寧に扱われること自体もあまり得意では無かったりする。
「だから頼むわ。俺が落ち着くためにも、一緒に飲んでくれない?」
「そう言うことでしたら……失礼します」
隼人の懇願により、ロウナはもう一つあったティーカップにお茶を注ぎ、隼人の正面に座る。
「なんならさっきのケーキも食べて良いぞ?」
「いえ、食事は先ほど頂いたばかりなので」
メイドの食事は、主人の食事が終わったのち、階級の高い者から順番に交代で採ることになっている。ロウナは一番新人のため、どうしても食事の時間が遅くなってしまうのだ。
「隼人様は明後日の準備ですか?」
「ああ、必要な物は明日買い出しに行かないといけないから、今日のうちに調べとかないとな。とりあえず壊れてるものは無かったし、明日は食料品とその他少しって感じだな」
メモ帳から切り取った買い物リストを見つつ答えると、ロウナはそのメモが気になるのか、少しそわそわとする。
それに気づいた隼人は、ロウナにメモを差し出した。
「食料とかは挑戦者用の簡単なのが多いんだけど、どこか安い場所とか知ってる? ロウナって買い出しも担当してたよな?」
ロウナはそのメモを嬉しそうに受け取り内容を確認する。
ほとんどは乾物だが、中にはスープのベースや生でも日持ちのする根菜なども入っているため、市民の使う市場の方が安い場合もあるのだ。
「根菜は東区画の市場の方が安いかもしれませんね。乾物は西区画でいいと思います。スープベースはどこもさほど変わらないので、隼人様が気に入った味の場所が良いと思いますが。よろしければ、こちらで用意も出来ますよ?」
貴族の屋敷だけあって、スープも出汁からしっかりと取っているイゾイー家の厨房ならば、煮詰めるだけのスープベースを作ることも難しくはない。
「確かに今日のスープは美味かったな」
夕食に出てきたコンソメスープを思い出しながら、隼人はここのスープでもいいかもと考える。しかし、そうなると問題になるのは値段だ。
「いくら位になるかが問題だな。あ、無料ってのは蓮華の性格的に無理だぞ?」
一般の民宿と違い、貴族の屋敷ならば食品にもそれ相応の食材を利用している。当然それは高価なものが多くなってしまうため、ただのスープでも材料費だけで結構な値段になってしまうはずなのだ。
ロウナならば、無料で提供すると言い出しそうだが、蓮華がそんなことを許すとは到底思えない。
きっちり料金を取ってくるはずであり、迂闊に頼むは危険だと考えた。
「ただのベースだけですので、そこまで高くはならないと思いますよ? 一リットルで五百ファンもあれば大丈夫かと」
「そうなの? なら頼もうかな」
「分かりました。用意は当日の朝で大丈夫ですか?」
「いや、明日の昼には頼む。夜のうちに塔の下まで移動するから」
「分かりました」
今回は学習して、前日のうちに塔の近くで一日を明かし、日が昇るとともに塔の攻略に勤しむつもりだった。
そこで、明日の昼には全ての用意を終了させておきたいのだ。
「それでは厨房にはそのように伝えておきますね。あ、お代わりいかがですか?」
「いや、そろそろ寝るからいいや」
「分かりました。では私もそろそろ失礼します」
「おう、また明日」
「はい、お休みなさいませ」
ティーカップを片付け、ロウナが部屋から出ていく。
ハーブティーの残り香を僅かに感じながら、隼人は部屋のランプを消し、ベッドへと倒れ込んだのだった。
翌朝、朝食を食べ終えた隼人は、早速市場へと繰り出していた。そしてその隣にはなぜかロウナがいる。
「なんでロウナが付いてくるんだ?」
「レンゲ様が、ハヤト様の買い物に付き合うようにと。きっとハヤト様のことが心配なんですよ」
「んな訳ないと思うけどな」
あの蓮華がそんなことを心配するとは到底思えなかった隼人は、きっと裏があると考えるのだが、それが何なのかは全く分からない。
「それで、どこから行くのでしょうか?」
「とりあえずロウナの言ってた東区画からだな」
「分かりました」
隼人たちは、屋敷から中央区画へと徒歩で出ると、そこから馬車に乗って東区区画へと向かう。
最初ロウナが馬車を出そうかと尋ねてきたが、さすがにただの買い出しに貴族の馬車を使うのも悪いと、隼人が断ったのだ。
ロウナも買い出しには基本的に徒歩と乗合馬車を使っているらしく、特に問題を起こすことも無く市場へと到着する。
朝だけあって、採れたての野菜や肉が並ぶ市場は、主婦や料理人であふれていた。
「すごい人だな」
「この時間は一番物が並びますからね。少しでも良い物を買おうとすると、この中に突入するしかないですよ」
「なら行くか」
「え!?」
隼人は覚悟を決めると、ロウナの手を取って人ごみの中へと突っ込む。
人に押され、もみくちゃにされながら、隼人は人ごみをかき分けて商店を目指す。
最初に目指しているのは、根菜を売っている店だ。
ロウナからあらかじめおおよその場所は聞いていたので、人ごみで店に近寄れなくとも目的の店の前に着くことは出来た。
そこで、繋いでいた手を引っ張り、ロウナを人ごみから救出する。
スポンッと抜けるように飛び出してきたロウナを抱き留めた。高校生にしては体格的に少し小さい隼人だが、それでもロウナはすっぽりと腕の中に納まってしまう大きさだ。
ロウナは、隼人の胸元から目を白黒させつつ見上げてくる。その様子に少しおかしくなりながら、隼人は苦笑気味に問いかけた。
「大丈夫か?」
「ビックリしました。一声掛けていただいてもと思います」
ロウナは頬をプクッと膨らませて怒りをアピールする。
「悪い悪い。けど、手繋いどいたから逸れはしなかっただろ?」
「そうですけど」
「いらっしゃい、仲のいいお二人さん。何かお探しかな?」
店の前で抱き合う形になった二人に、店のおじさんがにやにやと笑みを浮かべながら問いかけてくる。
その声に、現状を思い出したロウナは、恥ずかしそうに隼人から離れ、俯いてしまった。
横から見えるその頬は真っ赤に染まっており、とても喋れる状態ではさそうだと判断した隼人は、とりあえず目当ての物があるか尋ねる。
「とりあえず玉ねぎと人参ある?」
「もちろんだ。朝一とれたてだ。どれぐらいいるんだ?」
「玉ねぎは五玉、人参も五本でいいや」
「あいよ。他に何かいるか? おすすめは高山ネギだ。旬のネギにも負けない太さで、焼くだけでスゲー甘味が出るんだ」
「ネギか」
冬になるにつれてだんだんと美味くなるネギだが、一年中温暖な気候の続くシャノン王国では、冬になっても日本のようにあからさまな違いが出るほど成長に変化が無い。
しかし、高山ネギはその標高による寒さを利用し、一年中丸々と太ったネギになるのだ。一般のネギよりも割高ではあるのだが、シャノン王国の貴族の屋敷では大抵このネギが使われている。
「このままだと何日ぐらい持つ?」
「常温なら十日は持つな。折ったり刃を入れると三日ぐらいになっちまうが」
「うーん」
そのままならば割と日持ちするのは良いのだが、そのままではどうしても持ち運びに難がある。
鞄の中からネギを突き出して塔の中を進んでいくのは、なかなかシュールな光景だ。それを考えると、折ったり切ったりして持ち運ぶのがベストなのだろうが、そうすると日持ちが極端に悪くなってしまうのだ。
「ロウナはどう思う? ……ロウナ?」
実際に使ったことがあるであろうロウナに、何かいい方法はないかと尋ねようと声を掛けるが、ロウナから返答はない。
横を向けば、ロウナは未だに顔を真っ赤にしたままもじもじとしていた。
「おーい」
顔の前で手を振っても、一向に反応する気配はない。何やら口元が小さく動いているので、ぶつぶつと何かを呟いているのは分かるのだが、いかんせん周囲の喧騒が大きすぎて何を言っているのか聞こえない。
隼人は、ロウナの口元に耳を寄せて、何を呟いているのか聞いてみた。
「い、いや、私は確かに抱きついたりしちゃいましたけど、それは不可抗力であって私が意識してやったことではないですし、そもそもレンゲお嬢様のお客様に、専属の私がそんな不敬な事をしてしまったら大失態なんてものでは済まされないですし。あれ、もしかしてこれって私クビになる可能性があります? いえ、レンゲ様なら素直に謝ればきっと……でもメイド長厳しいからなぁ……もしこんなことがばれたらどんなお仕置きされるか。あ、ハヤト様に黙っておいてもらえればって、そんなお願いできる訳ないですよね。私ただのメイドですし、お客様に黙っててくださいなんて最高の失礼ですよ。それこそ私クビ一直線じゃないですか。ああ、私八方ふさがり……こんなことならもっとしっかり抱き着いておけばよかったかなぁ。男の人に抱かれたのなんて、ってそもそも私手を繋いだのも初めてじゃない。男の人の手って意外と大きいんだ――あれ? もしかして私、男に飢えてる? いえいえいえいえい、今まで年の近い子と触れ合う機会が無かったから動揺しているだけよね…………」
完全にトリップしていた。
このまま放置しておいてどこまで行くのか試しても楽しそうではあるのだが、さすがに買い物の続きができないと周囲にも迷惑なので、隼人はロウナの意識を強引に引き戻すべく、ロウナの顔の前で両手を合わせる。
「秘儀、猫だまし!」
パンッと良い音がして、ロウナの目の前で手が打たれた。
瞬間、ロウナがハッとしたように我を取り戻し、周囲を見渡す。
「戻って来たか?」
「あれ?」
「とりあえず聞きたいんだけどさ、高山ネギを切ってから長持ちさせる方法ってある?」
「それでしたら、切り口だけ軽く炙っておけば長持ちしますよ。フライパンを熱して、そこに切り口を押し付けるだけでいいので、方法も手間がかかりません」
「なるほど。なら買えるな。おっちゃん、高山ネギは三本な」
「まいど。全部で銅貨一枚でいいよ」
「あいよ」
銅貨を渡し、商品を受け取る。現代のように袋になど入れてもらえないため、隼人はロウナが持って来ていたバスケットに野菜を入れていく。
「根菜はこれだけでいいんですか? かなり長く塔に登ると聞いていましたが」
「ああ、塔の中にも少し割高だけど、補給する店が出てるみたいだからな。そこで買うことになると思う」
「割高だと分かっているのにですか?」
「まあ、戦わなきゃいけないから、なるべく軽い荷物で行きたいしな」
「なるほど」
「んじゃ次は西区画行くか」
「分かりました」
隼人は再びロウナの手を掴むと、雑踏の中を進んでいくのだった。
場所は移って西区画。ここも案の定人によって埋め尽くされていた。違いがあるとすれば、東区画の市場にいた大半が主婦だったのに対して、ここにいるのは挑戦者だということだろう。
あちこちから脂の焦げる良い匂いが漂う市場は、それだけで腹を刺激され、何か買わなければならないような気持ちにさせてしまう。
案の定隼人も、ロウナと一緒に串焼きを齧りながら散策を行っていた。
ロウナも、最初こそ付き人メイドとしての立ち振る舞いを必死にこなそうとしていたが、隼人がそんな扱いをせずに、むしろ友人と食べ歩きする感覚で話しかけてくるため、次第に断りきれなくなったのである。
「それで、今はどこに向かっているんでしょうか?」
串焼きのタレが垂れないように注意しながら、ロウナは尋ねる。
「雑貨屋だな。そこで水筒を買って、その後乾物系を集める。乾物系なら急がなくても売切れる心配はないからな」
「そうですね。けど、普通の雑貨屋さんということは魔導具ではないのですよね?」
「ああ、魔導具の水筒は今持ってるのがあるから、もう一つは本当に水を入れとくためだけの水筒だな。必要になったら、魔導具の方に移し替えて使うつもりだ」
多少金に余裕はあるが、だからといってわざわざ値段のする魔導具の水筒を買う必要はない。
歩きながら雑貨屋を探していると、ちょうど串焼きを食べ終わる頃に、店を見つけた。特に特筆すべき点のない普通の雑貨屋といった感じで、色々な商品が雑多に陳列されている。買い物客は、その中から自分の気に入った物を見つけて、カウンターに持っていく形だ。
隼人とロウナも、店の中に入り商品を物色していく。水筒のほかにも、鍋やフライパン、ガラス瓶や火打石、はてはぬいぐるみまで、ありとあらゆるものが並べられた空間は、意外と調べているだけでも楽しい。
「ハヤト様、水筒見つけました」
「こっちはなぜかネックレスを見つけた」
ロウナが棚から二リットルサイズの水筒を取り出し、隼人は箱の中から銀細工のネックレスを取り出す。
水筒は状態も良くすぐにでも使えそうな物だったため、購入を決め、ついでに隼人は手に取ったネックレスをロウナの首元に合わせてみる。
「ハヤト様!?」
「ふむ――メイド服だとアンバランスだな」
メイド服の胸元は、エプロンで隠れてしまっているため、銀色が目立たない。
ただ、ロウナの銀色の髪にはそのネックレスがとても似合っているように思えた。
「うし、両方買うか。ネックレスはロウナにやるよ」
「そんな! 私はただの付き人ですよ!?」
「別によくない? 今日付き合ってくれたお礼だって」
隼人はロウナから水筒を受け取り、ネックレスと共にカウンターに持っていく。
「いらっしゃいませ。梱包は別料金ですが、いかがしますか?」
「ネックレスだけ頼むわ。いくらになる?」
「水筒は五百ファン、ネックレスは銅貨五枚、梱包に百ファン。しめて銅貨五枚と六百ファンになります」
「ほいほい」
料金を払い、店員が手早くネックレスを箱に詰めていくのをみていると、恐縮そうにロウナが近寄ってくる。
「本当によろしかったのですか?」
「おう。俺の自己満足だからな。もしかして迷惑だった?」
客から物を貰ってはいけないなど、そんな規則があったかと今更ながら心配になる隼人。基本的に感覚で動いているため、その辺りの考えは後になってやっと思い浮かぶのだ。
しかし、ロウナは首を横に振る。
「そんなことはありません。先輩方でも、面倒を見てもらったお礼にと銀貨程度なら貰うこともありますから」
それは現代のチップに近い考え方だ。
「なら良かった。メイド服には合わないかもしれんけど、私服の時にでも使ってみてくれ」
「はい、ありがとうございます」
店員が気を利かせたのか、綺麗にラッピングまで施されたネックレスの入った箱をロウナへと手渡す。
ロウナはそれを大切そうに受け取り、エプロンのポケットへとしまう。
「んじゃ最後に乾物買いに行くか」
「はい」
主目標である水筒もしっかりとゲットし、隼人たちは再び市場へと繰り出した。
そして数分後、隼人はロウナと逸れ、気付いたときにはポケットに一枚の羊皮紙が差し込まれていた。
・連れの女は預かった。無事に返してほしければ、旧バザロホームに一人で来い。
羊皮紙に書かれていた内容を読み、隼人は静かに怒りを蓄えつつ、紙を握りつぶすのだった。




