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奴の魔法は物理的!  作者: 凜乃 初
第一歩
27/60

レンゲ・ヴァロッサ・イゾイー

 ビー!ビー!ビー!


「んあ……」


 トランシーバーの音で、隼人は目を覚ました。

 外は完全に明るくなっており、太陽はほぼ頂点に達っしようとしている。

 バザロの拠点を破壊した後、隼人は民家の屋根を使って誰にも気づかれることなく宿に戻ってくることに成功した。

 自分が窓の鍵をしっかりとかけない性格が幸いし、窓を開いてそこから侵入することで、すでに働き始めていた宿の従業員にも気づかれなかったのだ。

 とは言っても、夜中に拉致され明け方にかけて暴れまわっていた隼人は、睡眠時間の短さから二度寝を決意。空が白み始める中、ベッドへと潜り込んだのである。


 ボーっとした意識の中、ベッドの中から手だけを伸ばして鞄の中に入っているそれを取り出し、応答する。


「もしもし」

(もしもし、久しぶりね)


 隼人の持っているトランシーバーにかけてくる人物などこの世界に一人しかいない。蓮華である。その声を聴いて、眠気が少しずつ覚めていく。


(声がだいぶくぐもってるわよ? まさか寝起き?)

「おう、昨日遅くまで遊んでたからな」

(そうね、大分騒ぎになってるわよ)

「んあ?」

(その様子だと気付いてないみたいね)


 蓮華はトランシーバーの先でやれやれといった様子でため息を吐いた。


(昨日の深夜から今朝にかけて、北区画外壁付近の挑戦者(アッパー)チームバザロが何者かによって襲撃され壊滅。団員の大半は死亡し、生き残ったメンバーはすぐに逃げた非戦闘員とたまたまホームにいなかった者のみ。壊滅させられたチームは、素行こそ悪くとも、実力は割とあるチームだったため、兵士団とギルドは襲撃犯に関してかなりの実力を持つ危険人物と判断し、騎士団への応援要請も視野に入れ、調査に当たっている。今町中噂で持ちきりよ?)


 蓮華のまるでニュースを読み上げるような報告を受け、隼人の意識はやっと完全に覚醒した。そして、昨夜の出来事がことのほか大事になっていることに焦りを覚る。

 蓮華は、そんな隼人の様子を知ってか知らずか報告を続ける。


(生き残ったメンバーの話によると、襲撃犯は一人であり、手には琥珀色の不思議な剣を二振り持っていたという。年齢は十代半ば、短髪の黒髪――だそうだけど、どう考えてもこれ、あなたよね?)

「はい、おっしゃる通りです」


 この世界、短髪や黒髪程度ならばそこまで珍しい存在では無い。十代半ばなど、町を歩けばいくらでもいる存在だろう。

 しかし、琥珀色の不思議な剣を武器に使う者は、世界広しといえど隼人しかいない。隼人のことを知る人がこの情報を知れば、誰もが隼人だとすぐに特定できる情報量である。


(暴れるにしても、もう少し上手くできなかったわけ? かなりの危険人物って判断で、公表はされてないけど、対策騎士団が発足されてるわよ)


 ベルデ、というよりもシャノン王国には、騎士団と兵士団という二団制の警備態勢をとっている。兵士団は言ってみれば現代の警察であり、国に仕え町の治安維持などが主な仕事だ。

 そして、少し特殊な存在が騎士団である。

 騎士は、貴族の持つ私兵に対して与えられる呼称であり、ベルデのように数多くの貴族がいる町ではかなりの数の騎士が存在している。

 そして、騎士は兵士では荷が重いと判断した重大な犯罪が発生した場合に、貴族たちが集まって、騎士達を派遣し専門の部隊を編制するのである。これがシャノン王国における騎士団だ。

 感覚的には○○対策室が近いものだろう。それを専門に対応し、解決すれば解散されるのがこの騎士団である。

 もちろん、騎士たちは貴族が個人的に雇うだけあって戦闘や調査のエリートであることは間違いない。彼らが動くということは、それだけ危険だと判断された証拠なのだ。


(せめて目撃者を殲滅するぐらいのことはしておきなさいよ)

「……蓮華ってサラッとえぐい事言うよな」

(そうかしら? それぐらいしないと、バックがいない隼人なんて、この世界じゃ簡単に潰されるのよ? 慎重を期すぐらい当然じゃない)

「それで俺に何人殺させる気だよ……」


 目撃者を殲滅。実際にやってやれないことはないだろう。

 実際、ギルドのホームにいたメンバーの中で、武闘派だったメンバーはあらかたあの場で殺してしまっており、見逃したのは、真っ先に逃げていった女性たちなどの非戦闘員である。追いかけて殺すことも出来たし、そもそも最初の一撃で隼人の魔力を全開で注ぎ込んだ魔力剣ならばホームごと吹き飛ばせただろう。

 ただ、さすがの隼人もそれは躊躇った。

 悪意には殺意が心情であっても、無防備な弱者にまで殺意を向けるほど気は触れてないつもりである。


(今更十人も百人も変わらないわよ。むしろ、周辺の街並みごと吹き飛ばしておけば、貴族には感謝されたんじゃない? あの辺り、治安悪くて町の住人からは改善要望が結構出されてたみたいだし。案外そっちの方が騎士団は発足されなかったかも)

「んな無茶な。つか、その情報だけなら、まだ俺だとは特定できないだろ。琥珀色の剣だって、持ち歩いちゃいないし」


 蓮華の情報からすると、明確に犯人だと分かる証拠は、琥珀色の剣以外には存在しない。その剣は、基本的には体内にしまっているため、腰に下げていてバレたりする心配も無い。ならば、黒髪の少年ということで注目されることはあっても、捕まることは無いはずだ。そう考えた隼人に、蓮華はもう一度大きなため息を吐きながら、もう一つの情報を持ち出した。


(なら隼人、ギルドに最近多くの挑戦者(アッパー)から同じような苦情が来てるのは知ってる?)

「なんだ急に? 知らないけど、なんか関係あるのか?」

(大有りよ。その苦情は、琥珀色の剣を持った挑戦者(アッパー)らしき少年が、低階層の林道を土煙を上げて疾走している。魔物と間違える可能性や、周辺の魔物を刺激する可能性を鑑みても、ギルドでその挑戦者(アッパー)に対し注意をして欲しい。なんだけど、心当たりはないかしら? 主に、ブレードギアを使った強引な進行に関してなんだけど)

「はい、あります」


 どう考えても、十階層まで登る際の激走である。

 実際に魔法を撃たれたりしていたのだから当然だろう。そして、その苦情の内容が問題だ。

 琥珀色の剣を持った少年の挑戦者(アッパー)。ギルドホームの襲撃犯とまったく同じなのである。

 これでは、この人物が襲撃の犯人だと公言しているようなものだ。

 この情報はもちろん挑戦者(アッパー)ギルドから騎士団にも提出されている。つまり、最近登録した冒険者のなかで、人相などを合わせれば、隼人まで特定されるのは割と時間の問題なのである。


(あなたが今置かれている現状、理解できたかしら?)

「つまり、俺ピンチ?」

(ありていに言えばそうね。犯人確保まで秒読み段階って所かしら? 一応この情報は貴族とギルドの上層部のみに配布されている情報だから)

「おいおい、そんな情報を持ってるってことは、蓮華も結構ヤバい所に足突っ込んでるんじゃないのか?」


 問題を解決するためにしばらくゴタゴタすると言っていた蓮華だが、それが、貴族やギルドにしか回っていないはずの情報を持っているということは、そんな人物がすぐ近くにいるということである。


(まあ、その辺りも含めて、少し情報の交換が必要だと思うのだけど。一度合流しないかしら?)

「俺としてはありがたい限りだけど、外に出ても大丈夫かね? 外に出たらいきなり騎士に追いかけられるとかは嫌だぞ」

(それは大丈夫のはずだけど、まあ念の為に迎えを出してあげるわ。せっかく落ち着いたのに、厄介ごと持ち込まれるのも嫌だしね)

「なんか蓮華が貴族になったみたいな言い方だな」

(まあ、あながち間違いでもないしね。とりあえず馬車を向かわせるから、場所教えなさい)


 迎えをよこすだの、馬車を出すだの、まるで蓮華自身がある程度指示を出せる立場にあるような話し方に、一週間の間一体何をやっていたのか非常に気になる隼人だが、現状それを気にしている余裕はない。

 隼人は泊まっている宿の場所を教え、蓮華のアドバイスに従い、宿を引き払う準備を始める。

 といっても、荷物はほとんどなく、腰に剣を下げ、散らばっている荷物を鞄に押し込むだけだ。

 数分もしないうちに準備は完了し、隼人は荷物を全て持って一階に降りた。


「ずいぶん遅い起床だね。もう朝食の時間は終わっちまってるよ」

「分かってるって。実はちょっと用事が出来てさ、宿を出ることになりそうなんだわ」

「なんだい、まだ代金は残ってるよ?」

「仕方ないさ。こっちも結構急用だからな」


 まさか、騎士団から逃げる為とも言えず、適当にはぐらかしながら手続きを済ませる。すでに払ってしまった金額は、食事の材料費などの購入に充てていたりするため返金はされないが、これも仕方のない事だろう。

 そもそも、かなり行動が自由な方の挑戦者(アッパー)が、こんな急に宿を出るという方が珍しいのだ。


「いつごろ出るんだい?」

「迎えが来るはずだから、それを待ってだな。とりあえず果実水貰える?」

「あいよ」


 カウンターに腰掛け、荷物をその隣にどっさりと降ろす。まだこちらの世界に来てから少ししか経っていないにもかかわらず、その荷物の量は以外と多い。

 寝袋や、テントは仕方がないにしても、それ以外にも結構な数の魔導具を買っているのだから、当然といえば当然だ。


「おまたせ」

「あんがと、部屋の鍵返しとくな」

「確かに」


 もう戻ることのない部屋の鍵を渡し、果実水をチビチビと飲みながら蓮華の迎えが来るのを待つ。

 十分ほどすると、店の前で一台の馬車が停まった。

 乗り合い用の荷台が簡素な客席になった物では無く、しっかりと部屋が造られた貴族用の高級なものだ。

 御者も執事服をしっかりと着こなした初老の男性で、年を感じさせないピンとした背筋は、強者を思わせる。

 その御者が店の中へと入って来て、辺りを見渡すと、カウンターの隼人に目を止める。それで隼人も、この執事が蓮華の迎えなのだろうと理解した。

 執事は、隼人の元に近づき、声を掛ける。


「失礼ですが、ハヤト様でしょうか?」

「あ、はい。蓮華の迎え――でいいのかな?」


 執事の雰囲気に似合わない敬語を使ってしまう隼人。


「はい、レンゲ様のご指示でお迎えにあがりました。表の馬車へどうぞ」

「分かりました」


 店主に礼を述べて、荷物を手に馬車に向かおうとしたところ、執事が当然のようにその荷物を持って行ってしまう。

 魔導具やテントのフレームもあって、かなりの重量があるはずの鞄を、平然とした表情で持っていく執事に、隼人はささやかな畏怖を覚えた。

 その執事の後に続いて馬車へ向かう。

 荷物は馬車の屋根に乗せられ、紐で固定される。隼人はその間に馬車へと乗り込んだ。

 中は、対面席になっており、六人は優に座れる広さだ。座席もしっかりと布で覆われ、中に綿が詰められているのか座り心地はとても良い。乗り合い馬車とは完全に別物である。


「では出発します」


 外から執事が声を掛け、馬に鞭を入れる。隼人を乗せた馬車はゆっくりとベルデの中央に向けて進みだした。



 馬車が出発してから二十分程度経過した。どこに向かうのか聞いていない隼人としては少し不安だが、執事が蓮華の指示であることを明言しているため、とりあえず大丈夫だろうと思いつつ、窓から流れる風景を眺める。

 場所的には、ちょうど中央区画を通り過ぎた辺りだ。病院や教会、役所のような建物が並ぶ中央区画は見ていて少し退屈だったが、それを通り過ぎた辺りからは、より退屈になった。

 理由は単純、北区画の中央よりには貴族の屋敷が多く、その屋敷の周囲は当然高い塀で覆われているのである。

 多少の坂道で館の屋根が見えることはあっても、それ以外はほぼ塀が続き、時折見える門からも、一瞬しか中を覗くことはできない。

 座席の柔らかさもあってか、大きなあくびを一つして、目元に溜まった涙を拭う。

 すると、馬車がゆっくりと停止した。

 到着したのだろうかと、窓から外を覗けば、執事と門番が話しているのが見える。そして、門番が門を開き、執事が再び馬車に乗り込み、鞭を打つ。

 馬車はそのまま門の中へと入っていく。そこで初めて隼人は貴族の屋敷というものを理解した。

 三階建ての屋敷は、パッと見ただけでも数十の部屋があるのが分かる。庭にはメイドや庭師らしき人たちがおり、入って来た馬車に向かって頭を下げていた。

 馬車はそのまま扉の前まで来て停まる。

 外から扉が開かれ、執事と扉の前で待機していたメイドが頭を下げて隼人を迎えた。


「お疲れ様でした。荷物はこちらで部屋までお運びしますので、ハヤト様はレンゲ様にお会いください。部屋へはこのメイドがお連れいたします」

「案内を務めさせていただくロウナと申します」


 ロウナは白金の髪をした、まるで物語に出てくるエルフを思わせる美しい少女だった。年齢的には隼人や蓮華と同じぐらいだろう。


「よ、よろしくお願いします」


 二人の一介の挑戦者(アッパー)に対するにはあまりに丁寧な態度に、隼人は緊張しっぱなしである。

 一体蓮華はこの屋敷でどんな立場なんだと思いながら、隼人はメイドに続いて屋敷の中へ入る。

 入ってすぐは、大きな空間になっており、中央に二階への階段と、左右や奥へ続く廊下が端に見えた。壁には高そうな額縁に入れられた絵画が並び、花を飾る花瓶も、花に負けず劣らず色鮮やかだ。

 どれをとっても、今の隼人の全財産では手に入らない代物である。


「こちらです」


 ロウナは玄関で足が止まっていた隼人を促し、二階へと向かう。

 その際、ちょうど目線の高さにあるロウナの形のいいお尻に目が行ってしまうのは、思春期の少年には仕方のない事だろう。

 そんな光景に少しどぎまぎしながら、隼人は一つの部屋に案内された。

 ロウナが扉をノックし、中の人物に向けて声を掛ける。


「レンゲ様、ハヤト様をお連れしました」

「入ってちょうだい」

「失礼いたします」


 扉を開けて、ロウナが隼人を室内へと促す


「いらっしゃい、待ってたわよ」


 中に入ると、蓮華が声を掛けてきた。

 その部屋は、隼人が泊まっていた部屋の優に三倍はある広さだ。その中に、本棚や机、ソファーなどの家具が並び、部屋の隅には飲み物を準備するための小さな台所が備え付けられていた。

 そして、蓮華本人はソファーに座って優雅に本を読んでいる。目の前のテーブルにはティーカップが置いてあり、淹れたてなのか、まだ湯気が上がっていた。

 蓮華の横には、当然のようにアリスが座っており、その空ろな目で窓の外を眺めていた。時折瞬きをするのが、アリスが生きていることを証明している。

 隼人がその光景にどう反したものかと悩んでいると、蓮華が本を閉じて立ち上がる。


「ロウナもお疲れ様。下がって良いわ」

「失礼いたします」


 蓮華の指示に従って、ロウナは一礼すると静かに部屋から出ていく。それを見送って、蓮華は隼人にソファーに座るよう促した。

 隼人は言われるままにソファーに座る。


「さて、改めて久しぶりね」

「おう、なんかスゲーことになってんな」

「まあね。本当は貴族の屋敷に潜り込めればいいぐらいに思ってたんだけど、ことのほか環境が私に味方してくれたわね」

「んで今の蓮華の立場は? 見たところご主人様って感じだけど」

「簡単に説明するなら、今の私はレンゲ・ヴァロッサ・イゾイーという名の貴族令嬢かしら? イゾイーってのがこの館の主人の家名で、ヴァロッサは向こうのバロンやフライヘアと同じ意味よ」

「ヴぁ、ばろ? フライ……なんだって?」


 蓮華の口から次々に飛び出してくる聞きなれない言葉に、隼人は首を捻る。


「はぁ……要は男爵よ。私はここの主人をちょっと脅して、養女になったの。だから、今の私は男爵の令嬢ってこと。だから、メイドや執事に対して命令権を持ってるの。分かった?」

「ああ、了解。つまり、向こうにいた時と立場的にはあんまり変わらない訳か」

「もうその理解でいいわ」


 正確に言うのなら、現代にいた時はただのお嬢様であり、父親(・・)が雇っていた女中だったため直接指示を出せるような立場では無く、現状はイゾイー()が雇ったメイドたちのため、養女の蓮華にも指揮権が発生しているのだが、隼人にその事を細かく説明しても、どうせ理解できないだろうと、蓮華は説明を放棄する。

 そして、紅茶を一口含み口を湿らせると、話しを続ける。


「ここの主人がね、結構なクズでいろんな女の子を買い漁ってたのよ。それで、私のアリスにも目を付けてたわけね。それを横から私が奪ったみたいになっちゃったから、目を付けられたの。アリスを手に入れるついでに、私も手に入れようとしてたみたいね」


 蓮華はそれを逆手に取った。

 アリスと蓮華を捕まえようとしたイゾイーの手の者を逆に拘束し、持ち前のぶっ飛んだ精神で尋問もとい拷問を敢行。イゾイーが首謀者であることを吐かせたのち、わざと捕まったフリをして、屋敷の中まで案内させたのである。

 その後は、簡単に言ってしまえば脅迫だ。目の前にやってきて、自分の体をいやらしい目で眺める男爵を、糸を使って物理的にも精神的にも徹底的に締め上げ、精神を壊れるまで拷問したのち、自分を養子にさせるように指示、見事イゾイー家の養女となり、家督の継承権を得たわけである。

 そんなことをすれば、イゾイーの家族が黙っていないのが普通だったのだが、幸いなことにイゾイーの子供には女子しかおらず、男爵自身の女好きも相まって夫婦仲は冷め切っており、妻は今の生活が続けられることを条件に蓮華に従い、子供も最近怪しくなってきた父の目から逃れられると、喜んで蓮華に継承権を渡したのだ。


「ちなみにさっきのメイドのロウナだけどね、男爵が庶子の子を脅して関係を持った時に作った子供らしいわ。見た目が良かったから子供だけ引き取って、親は殺しちゃったみたいね」

「マジかよ……本当にクズじゃねぇか」

「まあ、そんな男爵も今は私の言うことを聞くだけの人形になってるけどね」


 人形と聞いて、隼人は男爵がすでに死体になっているのか、それともアリスのようになっているのか悩む。

 それを察した蓮華が、生きているわよと付け足した。


「今は自室に放り込んであるわ。必要なときだけ呼び出す感じね。だから実質的に今イゾイー家を運営しているのは私ってこと。今の私の立場理解できた?」

「ああ、よく理解したよ。男爵様」


 だから、貴族とギルドの上層部しか知らないはずの情報を手に入れることが出来たし、隼人をかばうために屋敷に招待するなどということも出来たわけである。

 騎士団は貴族の私兵から派遣されているため、立場上貴族に強く出ることはできない。そのため家宅捜索などできるはずも無く、いる可能性が分かっても調べることが出来ないのである。その上、蓮華は今回の騒動がすぐに隼人の仕業だと確信し、イゾイー家の騎士も今回の調査騎士団に派遣しているのだ。まさか、騎士を派遣した貴族がその犯人を庇っているとは誰も思うまい。


「部屋を一つ用意してあげたから、しばらくはそこを使いなさい。じっとしてろって言ってもどうせ無理だろうし、塔に行くのは自由だけど、ギルドに行くのはやめておきなさい」


 隼人の性格を理解している蓮華は、下手に隼人を拘束するのではなく、ある程度自由を確保しつつ、危険な場所に近寄らせない方向でアドバイスする。ある意味、子供に注意するのと同じ方法だ。

 そんなことは知らない隼人は、塔に行くのは自由だと言われて、内心ほっとしていた。


「ありがとよ。とりあえず借り一だな」

「この貸しは高くつくわよ。後できっちり請求してあげるから」

「なるべく早く返せるように努力します」


 何かしら見つけて、早めに借りを返す。

その事を心に刻み込んで、隼人は頷くのだった。


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