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奴の魔法は物理的!  作者: 凜乃 初
第一歩
24/60

横の繋がりって重要

 再びギルドに訪れ、カウンターに光の消えた魔導ランプを差し出す。


「光が消えたから来たんだけど」

「はい、ではギルドカードをお願いします」


 ギルドカードを渡すと、機械に差し込み、情報を読み取る。

 受付嬢はそれを確認して、査定の終わった魔石の資料から隼人のものを取り出した。


「カードお返ししますね。査定金額は全て合わせて金貨一枚に銅貨三枚と七百ファンとなりました。内訳も聞きますか?」

「一応お願い」


 噂のコッケ先生の魔石と、最初の方で倒した比較的大きな魔石の値段が気になったため、尋ねることにする。

 受付嬢は、手元の資料を読み上げていく。


「まず一番大きな魔石、この大きさだとコッケ先生ですかね? これが銅貨六枚、二番目に大きな魔石が銅貨五枚です。十階層でこんな魔石を二つも手に入れられるなんて、凄いですね。コッケ先生も倒してるとなると、この塔の二十階層までなら問題ないでしょうね」


 受付嬢は、魔石のリストを見ながら感嘆の声を上げる。

 コッケ先生も強さ的には第一歩の中で上位に位置する存在だ。それを狩れてしまった以上、隼人のレベルでは魔物の強さで危険な存在はかなり限られることになる。それこそ、二十階層までの魔物の統括、三十階層の統括レベルでなければ、苦戦することは無いだろう。

 ただ、受付嬢が二十階層までといったのは、統括の存在以外にも、その階層のフィールドに適応した魔物に対して、苦戦する可能性があるからだろう。

 常に地上にいるコッケ先生を倒せたからといっても、地面の下から来る魔物にも対処できるとは限らないのだ。


「魔物に関しては確かにそうかもしれないけどな。けど、フィールドの踏破の仕方とかまだ知らないし、しばらくは第一歩を進むだろうけどな」

「それが良いと思いますよ。第一歩はその辺りも考えられて作られてるみたいですしね。下手に次の塔に行っちゃったりして、何もできずに死んじゃったなんて話も、結構聞きますから。っと、話が逸れちゃいましたね。他は意外と小さな魔石が多いので、纏めちゃいますが、中サイズの魔石が銀貨八枚と銅貨二枚、小サイズの魔石が銀貨一枚と七百ファンになりますね。小サイズのは、魔石の量的には銀貨二枚あってもよかったんですが、傷が多くて魔力が漏れ出しちゃってるのが多かったみたいで、結構減額になってますね」

「やっぱりか」


 魔石は、その石自体に傷がつくと、そこから中の魔力があふれ出してしまい、少しずつ魔力が減少してしまう。そのため、買い取りの際には大分安くなってしまうのだ。

 小サイズの魔石を手に入れた時、隼人は周辺の魔物を吹き飛ばしながら戦っていたため、その衝撃に巻き込まれて結構な数の魔石が砕けてしまっていたりもしたため、減額は予想出来ていた。

 ただ、そもそもが小サイズであまり金にならないため、それほど気にしなかったのだ。


「以上が内訳になります。何か疑問等ありますか?」

「いや、大丈夫」

「では課金額をお支払しますね。こちらの同意書にサインをお願いします」


 課金の値段で後からもめることが無いように、銀貨一枚を超える課金には同意書にサインをする決まりになっている。

 隼人は手早くサインを書き込み、受付嬢にそれを返す。


「はい、ではこちらが報酬になります」


 プレートの上に乗った銀貨三枚と五百ファン。隼人はそれを受け取り、財布袋の中へとしまう。


「では、お疲れ様でした。またのご活躍を期待していますね」

「ありがと」


 テンプレの挨拶を受け、隼人は受付を後にする。

 とりあえず課金が終わったので、この後何をするか考える。と、言っても特に何かやらなければいけないことがあるわけでもなく、しかし連続で塔に登るには少し疲労が残っている。


「さて、何するか」


 ギルドを後にし、大通りでグッと伸びをしながら考えていると、ちょうどランプの明かりが消えたダイゴンとクレアがやってきた。


「やっほー、さっきぶり」

「おう、そっちは今から受け取りか?」

「うん。新人君はもう終わったみたいだね。いくらになった?」

「金貨一枚だな。四日拘束でこれっていい方なのか?」


 現実なら、丸々四日拘束されて、衣食住は自分で用意、その上で報酬が十万という計算になる。それだけなら、まあまあな仕事かもしれないが、ここに命の危険まで合わさると、かなり微妙な線だ。


「良い方も良い方。かなりの値段だと思うよ」

「そうだな。十階層で金貨一枚まで行くのはかなり稀だ」

「私たちはその頃だと二人で銀貨七枚とかが限界だったし……上の方に登れるようになれば、換金の効率も上がるんだけどね」


 そういうクレアの表情には哀愁が漂う。


「その銀貨も山分けだったからな。最初のころはかなり厳しかった……宿が取れなくて、馬小屋を借りるなんてこともあったぐらいだ」


 ダイゴンは、昔を思い出すようにうんうんと頷いていた。今でこそ優秀な挑戦者(アッパー)になっているが、駆け出しのころは相応の苦労があったのだろう。

 上層階になればそれだけ魔力を持つ魔物も多くなり、相対的に魔石の換金額も上がってくる。

 挑戦者(アッパー)として生計と立てられるのは、だいたい十階層を超え十五階層まで安定して登れるようになればなんとかといったところだ。

 そう考えると、最初から物質魔力なんていう半ばチートな能力を持っている自分自身は、かなり恵まれているのだろうと隼人は今更ながらに感じる。

 もしこれが無ければ、隼人もダイゴン達と同じように、低階層で剣を振り回しながら苦労していたかもしれないのだ。


「なるほどな。幸い俺は馬小屋生活を体験しなくてもよさそうだ」

「むむむ、若者が苦労を知らないのはいけないことだぞ!」

「そうだな。一度はあの藁の感触を知っておくのも経験だと思うぞ? どうだ、一週間ぐらい馬小屋に泊まってみないか?」

「断る! 俺は断固として人間らしい生活を享受するぞ」

「チッ」


 クレアに露骨に舌うちされた。


「それより、少し聞きたいことがあるんだけど」


 いい加減この話を続けるのも面倒だと、ちょうど聞きたいこともあった隼人は話を変えることにした。


「なんだ?」

「十階層超えると、魔石だけでも大量になるだろ? あれって持ったまま進むの大変じゃないか? なんか便利な道具でもあるの?」


 隼人が聞きたかったのは、魔石の持ち運び方だ。

 十階層まで到達した時点で、隼人の魔石袋の中には、拳以上の大きさの魔石が二つに、中魔石、小魔石だけでもかなりの量が放り込まれてパンパンになっていた。

 ここからさらに二十階層、三十階層と登るとなると、その魔石の大きさも必然的に大きくなるだろうし、量も増える。そんなものを持ったまま塔を登っていくのは、苦行としか思えない。

 この世界、重力魔法や収納魔法なんて便利なものは存在しないため、魔石の持ち運びは目下最大の課題となっていた。

 それを聞いたダイゴンは、感心したようにうんうんと頷く。


「もうその問題に辿り着いたか。まあ、金貨を手に入れるようならそれも当然か」

「どういうことだ?」

「その疑問に辿り着いたら、挑戦者(アッパー)としては駆け出しを卒業したってことだ。魔石をそれだけ手に入れられるようになったってことだからな」

「なるほど。んで、解決方法は? その言い方だとなにかあるんだろ?」

「ああ、普通なら十階層か二十階層のサポーターに教えてもらうのが普通なんだがな。まあ聞かれたなら答えてやらないことも無い」


 その言い方は、塔の下で打ち上げをした時と酷似していた。そしてその目線は、ギルドの近くにある料理屋に伸びている。


「普通サポーターんとこ行けば聞ける話で報酬求めるか?」

「いいだろ、金貨一枚なんて稼げるんだ、少し奢るぐらい」


 ダイゴンも地味に隼人の苦労知らずを根に持っていた。


「先輩としての矜持は無いのかよ……」

「強い奴らはすぐに上に上がって行っちまうからな。取れる時に取るのが挑戦者(アッパー)だ」

「はいはい、じゃあ昼飯奢るから、さっさと課金してこい」

「マジ!? やった~! 新人君大好き~」


 今までそっぽを向いて、頬を膨らませていたクレアが、奢ると言った瞬間隼人に抱き着いてくる。


「現金な奴め」

「ふげっ……」


 抱き着いてきたクレアを、一本背負いで投げ飛ばしながら、隼人はため息を吐いた。




「ではでは、隼人の駆け出し卒業を祝って!」

「「かんぱーい!」」「乾杯……」


 一件の食堂。そのテーブルで三人の挑戦者(アッパー)がジョッキを打ち合わせる。言わずもがな隼人たちだ。


「にゃはー、お昼から飲むお酒は最高だね~」

「まったくだ! おごりってのがまた美味くする」

「はいはい、精々しっかり楽しんでくださいよ。たく、俺より遥かに稼いでんのに普通奢らせるか?」

「これは情報料だぞ。しっかり情報を売ってるんだから、問題ないさ」


 ダイゴン達の魔石の査定金額は、合計で金貨三枚と銀貨二枚となった。山分けしても隼人より遥かに多いのだ。そんな連中が自分の奢りで飯を食っていることに、納得のいかない隼人は、初めてのビールを煽りつつ、憂さ晴らしに焼き鳥を齧る。


「んで、さっさとその魔石を運ぶ方法を教えろよ。飯はちゃんと奢ったろ?」

「おう、そうだったそうだった。まあ、簡単に言っちまえば、サポーターが輸送してくれるんだよ」

「輸送?」

「そう、十階層、二十階層、三十階層のサポーターは、挑戦者(アッパー)から魔石を預かって、塔の外に運んでくれるの。それで、塔の近くにある専門の魔石倉庫で保管してくれるわけ」


 転送陣は人が乗らなくとも発動する。そこで、サポーターは定時ごとに魔石を一階層に運び、そこで別のサポーターに受け渡す。受け取ったサポーターは、それを塔の外にある保管庫へと運び、挑戦者(アッパー)がでてくるまで管理するのだ。

 そのおかげで、上層階へ登る挑戦者(アッパー)たちは重たい魔石を運びながら、塔を登る必要が無くなり、生存率も上がる。

 もし、死んでしまったら、その分の魔石はギルドのものとなり、ギルドにも利益が出る。

 塔の中で魔石を持ったまま死なれるより、遥かに助かるのだ。


「そんなことまでやってるのか」

「まあ有料だけどね。安いから、それほど気にならないよ」


 運賃は一階の転送につき五百ファン。他の国の塔でもだいたい同じ値段で転送を請け負っている。


「なるほどな。だから、大量の魔石を確保できるわけか。けど、それでも二十から三十とか、それ以上だときつくないか? 一体倒しても拳大の大きさとかになるんだろ?」


 コッケ先生が第一歩の塔で強い方だと言っても、上には上がいることも確かだ。

 二十階層、三十階層ともなれば、そんなレベルもわらわらいるだろうし、そうなると、手に入る魔石も必然的に大きな物になってしまい、袋がすぐにパンパンになってしまうはず。

 そう考え隼人は尋ねたが、クレアが即座に否定した。


「そうでもないよ。魔石ってだいたい最大でコッケ先生ぐらいの大きさにしかならないもん」

「そうなのか? なら上の連中って強くなるだけでうま味が無い?」


 強い連中を倒しても、大きな魔石を落とさないのでは、倒す意味が無くなってしまう。それなら低階層で大量の雑魚を狩った方が効率が良くなってしまう。


「そう言うことじゃなくてね、魔石の魔力濃度が上がるんだよ」

「魔力濃度?」

「そうだ。同じ大きさの魔石でも、魔力の入ってる量が違うんだよ。上の連中は、大きさが小魔石でも、魔力的には中魔石や時には大魔石と同じ量の魔力を保有してることもある。だから、魔石の大きさが岩並みになって持ち運べないなんて心配も無い」

「へー」


 初めて知った事実に、隼人は焼き鳥を頬張りながら相槌をうつ。


「ちなみに、今隼人の手に入るレベルの魔石だと、緑色の光が漏れてるだろ?」

「ああ」


 手に入れた魔石は、罅が入った部分から、緑色の光が発行していたことを思い出す。


「濃度が濃くなると、あの色が次第に赤く変わるんだ。三十階層を超えた辺りだと、魔石はほとんどが赤色に光ってる」

「そんなことになるのか」

「どうだ、奢ってよかったと思える情報だろ」

「いやいやいや」


 確かに情報としてありがたいことはありがたい。しかしだ


「この情報、サポーターから全部もらえそうなんだけど」

「隼人はもう十階層のサポーターにあったんだろ?」

「ああ」

「なら分かるはずだ。奴らのがめつさは俺達以上だぞ」

「一瞬の油断が命取りになるよね……あの人たち」


 二人の言葉に思い出すのは、お茶一杯に金をとられたことだ。

 あんなことをするのは、あのサポーターだけだと隼人は思っていたのだが、ダイゴンの言い方からすると……


「もしかして上の階のサポーターも?」

「あいつらは俺達の隙を見逃さない。絞れるところは確実に搾り取ってくるぞ。情報なんて当たり前のように料金請求してくるし、食料の補給は値段五割増し、嫌われるものなら、魔石の転移に銀貨一枚とられたって話も聞く」

「えげつねぇな」

「だから、挑戦者(アッパー)どうしの情報交換は割と重要だよ。これがあるとないとじゃ、懐の余裕がだいぶ変わってくるしね。新人君も、チームは組まなくても、よく話すぐらいのチームは何個か作っておくといいよん」

「分かった。アドバイス感謝する」

「ならもう一杯だな」

「はいはい」


 ニヤリと笑みを浮かべたダイゴンに、隼人は呆れながら店員を呼ぶのだった。


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