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奴の魔法は物理的!  作者: 凜乃 初
第一歩
22/60

暇つぶし

「くそっ、馬車に酔ったか。きもちわりぃ」

「いや、どう考えても二日酔いだろ。あんだけ飲みゃそうなるって」

「ダイゴンも意外とお酒弱いのに、意地張って飲むから~」


 ベルデへと戻る馬車の中、二日酔いに顔を青くするダイゴンを見ながら、隼人は呆れたようにため息を吐く。

 昨夜、情報を得るためにダイゴンに酒、クレアに魚を奢る羽目になったのだが、ダイゴンは隼人が奢った後も酔いがいい感じに回ったせいで気が強くなり、クレアの制止も無視して酒を呷り続けた。結果が今の青い顔である。

 クレアは呆れ顔でダイゴンを眺めながら、水筒から水を取り出しダイゴンに渡す。


「すまん」

「よくこんな感じになるのか?」

「まあね」


 呆れ顔ではあるが慣れた様子のクレアに、隼人が尋ねるとクレアは苦笑しながら頷いた。


「飲むと気が強くなっちゃうみたいなんだよね~。もともと混血って酔いやすい人多いけど、ダイゴンはその中では強い方なんだよねぇ。そのせいで、余計もてはやされて飲んじゃうわけ。完全に自業自得」


 やれやれと言った感じで首を横に振るクレアに、なんとも言えない表情のダイゴン。長年連れ添った夫婦のような息の合い方に、隼人は少し興味が湧いた。


「二人はチーム組んでから長いのか?」

「そうだね。一応挑戦者(アッパー)になった時からずっとチーム組んでるし、長いと言えば長いかな。でもまだ五年ぐらいだけどね」

「なった時から?」

「私たち、同じ里の出身だったんだ。混血はその血で村が別れてるのは知ってるよね?」

「ああ」


 混血族は、その種族の特性上変化する獣の同じ人たちが集まって村を作る。そうすることで、混血の血を薄めることなく、近親になる可能性を下げるためだ。


「けど私たちの村は、もう一つの種族だとギリギリだったんだよね。だから、混猫族と混熊族の村が合併してたの」

「つまり幼馴染?」

「そんな感じかな。年も近かったし、気付いたら一緒に遊んでた。って言っても結構大人は大変だったみたいだよ」


 何せ、一人は熊で一人は猫である。興奮すると、その特徴が勝手に発現されてしまうため、ダイゴンとクレアが喧嘩などしようものなら、ダイゴンの一撃でクレアは死にかねない。

 そのため、村の大人たちは二人が一緒に遊んでいる所を見るたびに、ヒヤヒヤさせられていたそうだ。


「まあ、真相は真逆だったんだけどね」

「真逆?」

「私がダイゴンをボコボコにしてたもん」

「あれは嫌な思い出だ」


 顔色の悪いダイゴンは嫌なものを思い出したと言わんばかりに、苦虫をかみつぶしたような表情でつぶやく。


「確かに俺たちは何度か喧嘩したこともあった。けど、熊の俺が猫の素早さに敵うはずが無かったんだよ」

「全部躱して、背中登って頭を後ろから引っ掻きまくってやったの」


 喧嘩するということは、お互いが興奮状態になるということだ。

 ダイゴンだけでなくクレアもしっかりと猫の特性を発動させることになる。そのため、しなやかな身のこなしでダイゴンの攻撃は全て避けられ、逆に一方的に攻められる結果になっていたのだ。

 普通なら怪我の様子などですぐに分かりそうなものだが、ダイゴンの怪我は頭、しかも髪の毛の下とあって、非常に見つかり難かった。

 おかげで、子供のころの上下関係は完全にクレアが上だった。


「まあ、そんな感じで子供のころから知り合いだったんだ。動きとかもよく知ってたからチーム組んで連携とっても凄い息合うし」

「なるほどな」

「新人君はチーム組まないの? てか独り身?」

「いい加減新人君っての止めて欲しいんだけどな……」


 確かに新人かも知れないが、しっかり自己紹介も済ませているのにもかかわらず一向に名前で呼ぶ気配のないクレアに、隼人は何となく無理だと思いつつも提案してみる。


「にゃはは、ならせめて二十階層は踏破することだね。そしたら新人君から隼人君に格上げしてあげよう!」


 しかし、案の定その提案はバッサリと斬り捨てられた。とりあえず二十階層踏破という明確な条件が提示されただけでも行幸だろう。


「はいはい。一応幼馴染はいるが、あいつは挑戦者(アッパー)になるタイプじゃねぇからな。後ろから人を操るのが似合うタイプだ」

「へー、新人君とは真逆のタイプだね」

「ほんと、なんであいつと幼馴染になったんだろうな。っと、そろそろつくな」


 今現在、トラブルの渦中にいるであろう自分の幼馴染を思い出しながら、隼人はだんだんと大きくなってくるベルデの外門を眺め、そう呟いた。


 馬車を降りた隼人たちは、そのままの足でギルドへと向かう。

 ダイゴンの二日酔いのおかげで、少し遅めの馬車に乗ったため、挑戦者(アッパー)達の集まるピークは過ぎており、ギルド内はだいぶ空いていた。

 隼人たちはそれぞれに手に入れた魔石を換金するため窓口へと顔を出す。


「換金をお願いしたい」

「はい、ではギルドカードをお願いします。魔石はこちらへ」


 二回目ともあって、スムーズに事が運ぶ。

 魔石を預け、魔導ランプを受け取り、隣の窓口を見れば、ちょうどダイゴン達も受付を終えたようだ。


「さて、これからどう時間潰すかね」


 前回より魔石の数が多いため、査定にかかる時間も伸びている。魔導ランプに入れられた魔石も、前の物より少し大きいものだ。

 ダイゴン達はチームの上に、三十階層まで到達しているため、魔石も大きく量も多く、かなり時間がかかりそうである。


「俺は宿で寝る。気持ち悪い」

「まあ、そうだよね」

「仕方ないか。クレアは?」

「どうしようかな……査定額でないと、迂闊に散財はできないしな~」

「散財前提かよ。貯蓄とか考えないわけ?」


 仕事柄、いつ働けなくなるとも分からない挑戦者(アッパー)が、一切の貯蓄無しはどうなのかと問いかける。


「ないない。むしろ、いつ死ぬか分かんないんだし、使わなきゃ損だよ?」

「そう言う考えもありか」

「まあ、どっちの考え方もあるし、貯蓄してる人もいるけどね。溜めるだけ溜めて、引退して後は悠々自適にって人、結構いるみたいだし」


 挑戦者(アッパー)としてやっていける年齢はだいたい三十までと言われている。それ以上になると、体力や判断力の低下で命の危険が格段に跳ね上がる。

 見張り番などで不規則な生活になるのも、原因だと言われているが、純粋にそれだけ塔が厳しい場所だということを意味していた。


「新人君は貯める派?」

「少しはな。けど、欲しいものがあれば、問答無用で使うぜ」

「そんぐらいでいいのかもね。とりあえず私も一旦宿に戻るよ。荷物置いて、遊びに行くか休むかはその時の体力次第かな~」

「了解。なら俺も宿に顔出しておくかな」


 とりあえず自分が生きていることを知らせておくのが良いかとも考え、隼人も宿に顔を出すことにする。

 それに、あの近くならば、料理屋も多く、適当に時間を潰すにもうってつけだ。


「じゃあ、また機会があれば?」

「おう、お互い生きてればな。ダイゴンも飲みすぎんなよ」

「おお……」


 覇気のない返事を受けながら、隼人はクレアたちと別れ、ギルドを後にした。


 その後馬車を使って南区画へと移動し、部屋をとっている宿へと戻ってきた。昨日が豪華な宿に泊まっただけあって、そのたたずまいからギャップが凄まじい。

 隼人は、もう少しいい宿に移動した方が良いかと思いながら、宿の中に入る。


「いらっしゃ、ああ、おかえり。予定通りじゃないか」

「おう、帰って来たぜ。約束の美味い飯頼むぜ」

「ああ、今晩楽しみにしておきな」


 軽く挨拶を交わし、鍵を受け取って自分の部屋へと戻る。

 そこで荷物を置き、ランタンと空の袋を持って再び食堂へと降りてきた。


「また出かけるのかい?」

「魔石の査定中なんだ。しばらくしたらギルドだな。何か時間潰せるような場所ってある? なるべく金のかからない所」

「そうだったのかい。時間つぶしなら、西区画にある遊戯場にでも行ってみたらどうだい? カードゲームやらボードゲームやら色々できると思うよ」

「へぇ、そんなところがあるのか。行ってみるかな」

「大通りに面した所にあるからすぐわかるはずさ。四階建ての建物で他より目立ってるしね」

「了解。ちょっと行ってみるわ」


 女将に有益な情報を貰い、隼人は再び西区画に向かった。


 馬車を降りて、周囲を見渡す。女将が言うには、四階建ての大きな建物と言うことで、すぐに気付けるはずだ。


「あれか」


 周辺にある建物の中で頭一つ飛び出した家が一軒。ギルドのように正面は開かれており、挑戦者(アッパー)らしき人たちが店の前にならぶテーブルでボードゲームを楽しんでいる。

 近寄って見ると、騒がしさに拍車がかかり、中は相当な喧騒に満ちていた。ゲームセンターのようだ。

 しかし、現代のような機械が置いてあるわけではない。

 ビリヤード台やエアホッケーのような物の台が店内には並び、壁際にはダーツらしき物がずらっと並んでいる。

 客がやっているゲームを見てみても、おそらくほぼ同じ物だろう。

 入口に店員が立っており、そこで料金を払う仕組みのようだ。


「いらっしゃいませ」


 近づけば、ディーラーのような制服を来た女性店員がニコニコと笑みを浮かべながら、頭を下げる。


「ここってどんなシステムなんだ?」

「初めての方ですか?」

「ああ」

「ではご説明しますね。ここは入場の際に金額を支払っていただき、この中でのみ使えるチップと交換します。この中では、そのチップを使いゲームをすることが出来ます。一ゲームでチップ数枚の物もあれば、ボードゲームのように、ボードを借りる際に数チップいただく物もございますので、詳しくは近くにいる専門の係員にお尋ねください。その他にも、お客様どうしで勝負をして、チップを掛け合うというのも自由でございます」

「なるほどね。レートは?」

「最少が百ファンでチップ一枚となります。ボードを借りるだけなら、三チップ程度からございますし、キューヒット(ビリヤード)では一ゲーム五チップ程度となっております。十チップ、五十チップでそれぞれ別のチップを用意してございますので、必要であればお申し付けください」


 説明を聞いて、ここが大衆カジノであると理解する。客どうしの賭けが認められている辺り、かなり自由度が高い。


「とりあえず銅貨一枚で」

「はい、十チップ分ですね」


 店員は、銅貨を受け取ると、カウンターの下から10と書かれた木製の十円玉のようなものを取り出し隼人に手渡した。これが、この中で扱える貨幣と言うことだ。


「ごゆっくりどうぞ」

「ありがと」


 店の中はやはり凄い活気にあふれていた。挑戦者(アッパー)が多いせいか、どことなく気温も高く感じられる。


「さて、何やるか」


 とりあえずルールの把握も必要だと感じながら、ビリヤードらしきものをプレイしている所を覗いてみる。壁際に書かれたルールを見ながら、プレイを見学してみると、ほとんどビリヤードと変わらないことが分かった。

 せいぜいが、玉が木製だったり、全部で六個だったりとその程度の違いである。

 同じようにダーツも確かめてみたが、ルールがカウントアップとカウントダウン以外無かったり、ダーツ版が昔ながらの木製で、矢もしっかりと針の付いたものだと言うことぐらいである。

 ゲームセンターのプラスチック製の物に慣れている隼人としては、少し重く感じた。

 一番違ったものはボードゲームとエアホッケーのような物だろう。

 ボードゲームはそもそも見たことのないようなコマを動かしており、ルールも結構難解ですぐに覚えるのは難しそうだ。

 そして、エアホッケーはどちらかといえば、巨大なボードサッカーのような感じだった。

 台の上にある人形を棒で操作して、転がっている玉を相手の陣地の最奥に持って行った方に点数が入る形式だ。

 とりあえず二人から四人でプレイが可能なようである。

 他にもゲーセンのバスケットゲームや、ストラックアウトのような物があり、比較的に体を動かすものが多い。


「すぐに出来そうなのはダーツかね?」


 場所も空いており、わざわざ相手を見つける必要も無い。

 隼人はダーツ版の近くにいた、受付の店員と同じ服を着た女性に話しかける。


「これやりたいんだけど」

「はい、ボードを貸し切る場合はチップ五枚、フリーで試合を受ける場合はチップ三枚となります。飛び込み参加はチップ一枚となっております。矢はこちらで用意した五本を使用してください。壊しても特に弁償などはありませんが、なるべく壊さないようにお願いします」

「じゃあフリーで試合受けるわ。最初は少し練習したいんだけど」

「分かりました、では半刻程度からお客様を誘導しますね」

「お願い」


 チップを払って、矢と木の板を受け取る。この板は、プレイ中のボードにかけて、フリーを募集している場所か、貸切の場所かを分かりやすくするための物だ。

 隼人は指定されたボードに向かい、そこに板を掛けて離れる。床に引かれた線を目印に、ボードと向かい合った。


「やっぱ重いな」


 尖端が金属で出来ている矢はやはり重い。

 いつもと違う感覚に若干戸惑いながらも、隼人は第一投を投げた。


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