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奴の魔法は物理的!  作者: 凜乃 初
第一歩
12/60

数時間ぶりの合流

 三階のワープゲートは、門のすぐ横に設置されていた。

 周囲を柵で囲ってあり、すぐに分かるようになっている。


「これか。中に入れば勝手に転移されるんだっけ」


 サポーターから受けた説明では、ワープゲートも塔と同じように誰が設置したのか分からない物で、その原理もいまだ解明されていないらしい。

 普通、魔法陣を使って魔法を使う場合、発動する人物が魔力を魔法陣へと流す必要がある。それを魔石で代用した物が魔導具だ。

 しかし、このワープゲートはそのどちらにも属さない。

 ただ地面の上に淡い水色の魔法陣が描かれているだけであり、その陣の上に乗って二秒程度すると勝手に魔法が発動し一階へと転移させられるのだ。

 どこから魔力を供給しているのか、研究者の間ではこの魔法陣は塔と直結しており、塔が魔力から魔物を生み出すように、魔法陣にも塔から魔力が供給されているのではないかというのが、今一番有力な説だ。


「まあ、俺には関係ないけどな。使えりゃいいし」


 隼人は光っている魔法陣の上へと移動する。すると魔法陣の輝きが強くなり、光の壁のような物が魔法陣から浮かび上がり隼人の周囲を囲む。

 光が満ちて周囲が見えなくなった瞬間、浮遊感と共に隼人の視界が一変した。


「これで転移したってことか」


 便利なものだと感心しながら、光の収まった魔法陣から降りて周囲を見渡す。そこは入ってきた時に使った林道のすぐ脇だ。

 もう日がだいぶ傾いて来ているためか、隼人の後からも次々とテレポートしてくる挑戦者(アッパー)たち。

 中には酷い怪我を負って、担架に乗せられている者もいる。

 駆け足に出口へと向かう彼らを尻目に、隼人は近づいてくる二つの影に視線を向けた。


「やあ新米君。調子はどうだったかな?」

「あんたらはこんなところで何やってんだ? 上に行くんじゃなかったのか?」


 近づいて来たのは、馬車の中で一緒だったクレアとダイゴンだった。二人とも特に苦戦した様子もなく、別れた時とほぼ同じ様子だ。


「今日は軽く登ってウォームアップしただけだよ。本格的に上るなら、朝から動いた方が効率良いし、今日は外に泊まって、明日の朝本格的に登って行くの」


 どちらにしても塔内での野営は免れないが、それでも朝から登るのと昼から登るのでは、野営の回数が一回少なくなる可能性がある。

 夜間に魔物と戦う危険性を考えれば、少しでも長く日のあるうちに登るのは当然のことと言えるだろう。


「なるほどね。俺は上々ってとこかな。三階まで登ったが、特に問題なかった」

「そうか。魔物が強くなってくるのは四階からだ。そこからは魔物の中にも魔法を使う連中が現れるから気を付けろよ」

「そうだよ! 火だるまになったり、氷漬けになったり、串刺しにされちゃうんだから!」


 魔物が死ねば魔力の塊である魔石となる。ならば、魔物も魔力を持っているのは当然だ。そして、強い魔物は自分の魔力を使って人と同じように魔法を使用してくる者たちもいる。

 それを聞いた隼人は、物理魔力の防御実験に仕えそうだと考えた。

 現状、物理魔力で魔法を防げるかどうかは未だ不明だ。早めに調べることが出来るのはありがたい。

 ダイゴン達と塔から出れば、市場は入ってきたときとは打って変って挑戦者(アッパー)たちの活気にあふれていた。

 いたる所で路上に机が並べられ、そこでは酒盛りが行われている。


「じゃあ私たちは取ってある宿に戻るから」

「俺は馬車だな。色々アドバイスありがとよ」

「新人君には頑張ってほしいからね。じゃあ機会があればまたね」

「そうだな。塔を登っていれば会うこともあるだろう」

「じゃあまたなっつっとくよ」


 市場へと消えていくダイゴン達を見送り、隼人はベルデ行きの馬車へと乗り込んだ。


 道中何事も無く無事ベルデへと戻ってきた隼人は、初めて来たときとは違い、ギルドの会員証を見せるだけで入町金を払う必要も無く簡単に町に入ることが出来た。

 そのままの足でギルドへと向かう。

 町の中は夜の顔を見せ始め、挑戦者(アッパー)らしき人々が溢れている。

 日も暮れるこの時間はちょうど挑戦者(アッパー)たちが魔石の換金に来る時間なのだ。そして、その金で疲れをいやすために町へと繰り出す。

 金が入り、酔いも回った挑戦者(アッパー)は商人たちからしても上客である。彼らを一人でも多く捕まえようと、酒屋や食堂、宿などは店の前に立って呼びかけを行っていた。それが町の活気に拍車をかける。


「さて、少し急がないとな」


 隼人は西門の入口付近で買った串焼きを一気に食べきり、そんなことを呟く。

 時計を見れば、時刻は五時過ぎ。夜に一回合うことを考えても、そろそろ蓮華が指定した宿に向かった方が良い時間だ。

 換金の時間を考えれば、少し遅れるぐらいかもしれない。

 速足にギルドへと向かえば、そこには長蛇の列が出来ていた。

 並んでいるのはもちろん挑戦者(アッパー)たちで、受付はやはりというか、魔石の買い取りカウンターである。

 それを見て、隼人はもう少し早く切り上げて来るべきだったと考える。

 少しずつ列は動いているが、それでも一人一人でかかる時間はやはり長い。金銭関連のため、多少受付ともめる場面も見られる。

 それを見て、隼人は魔石の買い取りを諦め、先に蓮華と合流することにした。


「確か満月の宿だっけ」


 蓮華は誰かに聞けばすぐに分かると言っていた。

 隼人は、適当にフロアを歩いている係員らしき人物を見つけ、声を掛ける。


「すみません」

「はい、なんでしょう?」


 書類を持った女性が、隼人の声に気付いて振り返った。見事な営業スマイルだ。


「満月の宿ってどこか分かります? そこで友人と待ち合わせしてて」

「満月の宿ですか。それなら南区画の一番大きな宿ですね。馬車で南区画行きに乗っていただいて、降りたらすぐに分かると思いますよ? 大通りの一番目立つ宮殿みたいな白い宿です」

「ありがと」


 蓮華が泊まる予定の宿が、町で一番大きな宿と聞いても、隼人はそれほど驚かなかった。何となく、蓮華ならそれぐらいのいい宿に泊まるのだろうと思っていたからだ。

 そもそも、あの蓮華が挑戦者(アッパー)が泊まるような安い宿に泊まるとは思えない。金が無いのならば、最終手段でそれも考えるのだろうが、今の蓮華には大量の宝石と数日分泊まれるだけの金銭を保有している。故に、その選択肢はあり得ない。


「まあ、あいつらしいな」


 一人高級な調度品の並ぶ部屋で、お茶を飲みながらくつろぐ蓮華の様子がありありと思い浮かび、またそれがえらく様になっていることに小さく苦笑し、ギルドを後にした。



 ベルデの町は大きく五つの区画に分かれている。

 この町の行政を司り、交通の要でもある中央区。

 一般市場や医者、服屋、道具屋など、町内に住む人のための商品を扱う東区。

挑戦者(アッパー)ギルドがあり、必然的に彼らに必要な薬や武器、防具の店が多く集まる西区。

 町人の住宅が集まっており、中心から貴族街、平民街、貧民街と自然に区分けされ、外側に向かうにつれて犯罪率の上がる北区。

 そして、町を訪れた旅人や挑戦者(アッパー)に安らぎを与える、宿や料理店、一本裏道に入れば娼館が建ち、気品と野蛮が混在する南区だ。


 馬車を降りた隼人は、南区でその意味を嫌というほど理解する。

 大通りには他と同じように人が溢れ、賑わいを見せる。

 だが、出店のような物は無く、良い匂いは扉を解放した料理店の中から漂って来ていた。しかし、その視線を少し横に向ければ、路地の入口から大きく服をはだけさせた美女が手招きをしている。おそらく娼館への呼び込みだろう。


「さて、降りればすぐわかるって話だが」


 目的の宿を探して、隼人は周囲を見渡す。そして、一件の宿が目に入った。

 そこは、宿と言うには大きすぎる建物だ。ホテルと言った方が正しいだろう。

 白亜の壁は夜の闇の中でも周囲の光を受けて白く輝き、外壁にも届きそうなほどの高さの建物は、その全ての窓から明かりがこぼれている。

 ギルドの係員が宮殿と言った理由も頷けるというものだ。


「あそこか」


 見れば分かる。その言葉が示す通りの建物だった。

 入り口付近から中を覗いてみると、二階まで吹き抜けになったダンスホールのように大きなフロアに丸テーブルがいくつも置かれている。二階へは壁際にある階段から登れるようで、その先にはいくつもの扉が並んでいた。一階は料理屋も兼ねているようで、商人らしき人たちや、少し高級な服を着た者達が優雅に食事を楽しんでいた。

 その光景は、挑戦者(アッパー)たちが集まって酒を煽る食堂は全く別物。まさしくレストランである。

 自分の衣装に場違いな雰囲気を感じながら、隼人は鞄の中からトランシーバーを取り出した。


「あーあー、蓮華聞こえるか?」

『聞こえるわ。宿に着いたのかしら?』

「ああ、今宿の正面にいるんだけど」

『分かったわ。今から行くからフロアの席取っておいて。カウンターはだめよ』

「了~解」


 カウンターに一人座り、後から謎の美少女がその横に腰掛ける。何となく小説でありそうな場面だけに、再現してみようかとも考えた隼人だったが、蓮華によってあっけなく潰された。

 通信を切って、トランシーバーを鞄の中にしまい、宿の中へと足を進める。

 入口付近で怪しげな道具に話しかけていた隼人の姿は意外と目立っていたようで、フロアに入るとすぐにウェイターらしき男が話かけてきた。


「いらっしゃいませ。お泊りでしょうか、お食事でしょうか?」

「ああ、ここに泊まってるツレと待ち合わせしてるんで、食事かな? テーブル席空いてます?」


 隼人が宿泊客の知人と聞いて、少し安心した店員は、丁寧な態度で隼人をテーブル席へと案内する。

 そこは、フロアの中でもやや隅の方にある丸いテーブルだ。さり気なく隅に追いやられたのは、隼人の服装が原因なのだが、当然隼人はその事に気付かない。

 五人程度が座れそうな広いテーブルには、三つの椅子が置いてある。なんとも贅沢な使い方だ。

 

「お連れ様をお呼びしますか?」

「いや、もう来ると思うから――――っと、来たみたいだ」


 話している最中にも、二階の通路から蓮華が姿を現す。服装は隼人と同じようにこちらの物に着替えたのか変わっているが、その艶やかな長いポニーテールは特徴的に蓮華の後に続いてゆらゆらと揺れていたので隼人にはすぐに分かった。 そして、そのポニーテールの後ろにトコトコと付いてくる真っ白な塊がある。

 ウェイターは通路を歩く蓮華の姿に一瞬視線を奪われ、すぐにハッとして隼人に視線を戻す。


「それでは後程メニューをお持ちいたします」

「お願いします」


 店員がテーブルを離れたところで蓮華が階段を降りてやってきた。


「数時間ぶりね。ギルドは楽しかった?」

「おう、結構楽しめた。なかなか異世界ファンタジーしてたぜ。そっちは――ってかその子なに?」


 蓮華が席に着くと、当然のようにその白い塊、十歳くらいの金髪の少女を膝の上に座らせる。


「この子は私の人形。完璧な人形のひな形、アリスよ」

「人形って、どう見ても人間……」


 そこまで言って隼人はある可能性に気が付いた。

 それは、蓮華の使っていた糸の魔力。

 蓮華はそれを使って人を縛り、死体を人形のように操っていた。

 ならば――――


「まさか人間を人形にする気か? さすがにこの世界でもヤバいだろ」


 実際に生きている人間を人形のように扱う。現代ならば完全にアウトどころか、精神科への通院を進められるレベルだろう。

 さすがにそこまで行くと、この世界でも忌避する人間は少なからず出てくるはずである。

 しかし蓮華はそんなことを気にした様子も無く、少女の頭を撫でながら答える。


「問題ないわ。だってアリスは奴隷だもの」

「奴隷? ああ、市場行くって言ってたもんな。いや、でも無理ないか?」

「奴隷は道具よ。それを所有者がどう使おうと所有者の勝手。別に人体実験に使ってるわけじゃないんだし、見た目もこんなに綺麗にしてるのよ。傍から見たらただ可愛がってるだけだと思うわ」


 アリスの姿は確かに奴隷とは思えないほど整っていた。

 きめ細やかな肌は、平民とは思えないほど白く滑らかで、傷の一つも見当たらない。

 さらさらとした金髪も、テーブルに設置された魔導ランプの明かりを反射してキラキラと光り、天使の輪が出来ていた。

 衣装も奴隷に着せるとは思えないほど凝った作りで、どこぞの国のお姫様が舞踏会にでも着て行きそうな、フリルのふんだんにあしらわれた真っ白なドレスである。

 この少女が街中を歩いているのを見て、奴隷だと気付けるものはほぼいないだろう。


「でも人形にするなら死体にしないと無理なんだろ? 感情が邪魔するっつってたじゃん」


 盗賊で実験した際、生きたままの人間では自分の意思で動こうとしてしまい蓮華の思うようには動かせなかった。

 それをさせないためには意思を奪う。つまり気絶させるか殺すしかないのだ。

 戦闘中に意識を取り戻されることを考えれば、人形として使うには殺すしかなくなってしまう。

 しかし、蓮華はその辺りの答えもしっかりと出していた。


「私がそんなことを予想していない訳ないじゃない。アリスはね、心を完全に閉ざしてるのよ」


 蓮華は頭を撫でていた手を顔へと降ろしていき、少女の目を覆い隠す。

 しかし、アリスはピクリとも動かない。

 そこで隼人は初めて気づいた。アリスは先ほどから身動き一つしていないのだ。ただ蓮華にされるがままに頭を撫でられ、目を隠され、それでも呼吸一つ乱さず、頬の筋肉一つすら全く動かない。


「PTSDってやつか?」


 心的外傷ストレス障害。何らかの出来事により、心に深い傷を負わされた者達が、発症する病気である。

 症状は突然パニックを起こしたり、常に不安に付きまとわれたり、不眠になったりと様々だが、その症状により死亡する可能性もある危険な状態だ。


「まあそれに近いわね。この子はPTSDから自らを守るために閉じこもったのよ。心の殻にね」

「だから何も考えない。余計な力が入らないってことか」

「ええ、最低限の命令には従うけど、放っておくと食事もとらないから勝手に衰弱死するわ。なかなか人形にはピッタリでしょ。異界の書でアリスを見つけてから、手に入れるチャンスをずっと狙ってたのよね」


 故に、隼人の希望にも沿ったベルデの近郊に転移したし、手っ取り早く大金を手に入れるために盗賊のアジトを襲って財宝も手に入れた。

 そのほとんどはアリスを購入する資金と、アリスが今着ている服などに消えてしまっているが、それでもまだ所持金の余裕はある。


「向こうにいた時からの計画かよ……えげつねぇこと考えてるな」

「何言ってるのよ。どうせ隼人だってもう何人か殺してるんでしょ? ファンタジー満載ってそういう意味も含めてるんでしょうし」

「まあそうっちゃそうだけどよ」


 ただ襲い掛かって来た奴らを返り討ちにするのと、人間一人を人形にするのとでは次元が違うのではないか。そう思ったが、隼人はこの後相談したいこともあるので、言わないでおくことにした。


「まあ今後は、この子を壊さないように操作するための練習かしらね。人形だけど修復には時間がかかるから、あまり壊したくはないし」

「まあそこは普通の人間だからな。つかそれだと死体使った方が強いんじゃね?」


 人間の限界を超える力を出せないのならば、わざわざ人間を人形にするよりも使い捨ての死体を人形として使った方が効率はいいはずだ。


「まあ確かにそうなんだけどね。けど隼人みたいに戦って生活するってわけじゃないし、いつも死体を身近に置いておくのも嫌じゃない。女子高生が死体を操るってイメージ的にも悪いし。それなら少し脆くても可愛いお人形を置いておきたいものよ」

「イメージの問題かよ」


 ただ、蓮華の言うことも尤もでもある。

 さすがに街中に死体を持ちこむことなどできないし、常に死体を使って戦っている姿など見られたらどんな噂が広がるか分かった物では無い。

 最悪新手の新興宗教か何かと勘違いされて、排斥の対象になりかねないのだから、予防線を張っておくのは無意味ではないはずである。


「私はそんな感じね。それで隼人はどうだったの? 結構なファンタジーを楽しめたって話だけど」

「俺は軽く塔を登っただけだから、割と余裕だったな。まだ魔法を使う敵もいなかったし。ただ次の階層だと魔法を使う魔物もいるみたいだし、物質魔力で魔法が防げるかも調べられるな」

「それは良いわね。分かったら教えてちょうだい」

「了解。けど少し問題も発生したんだよな」

「問題?」


 隼人は、塔の最上階が立ち入り禁止になっており、塔の守護者と戦うことが出来ないことに悩んでいることを相談した。

 すると、蓮華は驚くほどあっさりと答えを返す。


「そんなの、気にしなければいいじゃない」


 あまりに無責任な答えに、隼人は面食らった。

 確かに他人事と言えば他人事なのだから無責任なのは当たり前だが、幼馴染なのだからもう少し真剣に考えてくれてもいいだろうと、顔を歪ませる。


「なっ……さすがに無理だろ。一応エネルギー源だぜ? 発電所襲ってぶっ壊すようなもんだし」

「確かに守護者を倒すのは不味いかもしれないけど、倒さなければいいんでしょ? 発電所だって見学は無料で出来る所もあるじゃない」


 それは、隼人からしてみれば目から鱗の答えだった。


「最上階に行くのだって、ソロなら簡単にはばれないだろうし、半殺しだって十分倒した事にはなると思うんだけど?」


 つまり、ばれなければ犯罪は成立しないのである。

 そして最上階に登ったという証拠は、守護者を倒すことでもしない限り証明できるものではない。

 つまり、ソロで誰も見ていない時にこっそりと最上階へ上り、そこで守護者と戦っても殺すことさえしなければ問題ないのだ。

 相手を追い詰め降参させる。それも立派な勝利と言えるだろう。


「その手があったか」

「少し考えれば思いつく事でしょうが……」


 蓮華はアリスの頭を撫でながらため息を吐き、ジト目で隼人を睨みつける。


「あのねぇ、少しは頭使いなさいよ? 何も考えないのは、人形と一緒よ? それとも私の人形にでもなってみる?」

「それだけは絶対に断る!」

「意外と楽よ? ご飯も着替えも全部やってあげるし、添い寝もしてあげるわよ?」

「犠牲にするもんが多すぎるわ!」


 衣食住の代わりに、人間の尊厳とかプライドとか、もろもろを全て奪い取られるのだから、まともな感性を持っている身としてはその生活に恐怖しか感じない。


「人形遊びは奴隷までにしてくれ」

「しょうがないわね。それよりお腹すいたわ。そろそろ何か頼みましょうよ」

「それもそうだな」


 少し前に店員が置いていったメニューを見ながら何を頼むか考える。

 さすが高級宿なだけあってそのメニューもなかなか豪華で値が張るものばかりである。


「蓮華はどうする?」

「私は宿泊料金に含まれるセットがあるからそれね」

「なら俺も定食にするか」


 こちらの世界に来てから、まだ食事らしい食事を取っていない隼人は、メニューの中から定食を選択する。

 高級宿なだけあって定食といえども少し凝った仕様になった名前が並ぶ。

・ベルデ近郊で取れた新鮮な野菜と仔牛の炒め物

・焼き鳥、朝採り野菜を添えて

トト(白身魚)のムニエル

・シェフのおすすめ(仔牛のシチュー)

 定食はこれにパンとスープが付くが、夕食の時間帯ということもあってか、どれも銅貨二枚(2000円)以上の値段が付いている。シェフのおすすめに限っては銅貨四枚だ。


「どれにしようかね。そっちのセットはどれになるんだ?」

「シェフのおすすめよ。シチューは人気らしいし、余裕があるなら食べてみたら?」

「ならそうするかな。すみません」


 隼人は蓮華のアドバイスに従い、皿を下げている途中の店員を呼び止め、注文を頼んだのだった。


サイコパスは一人じゃないよ?

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