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二章 一

 彼が"あの人"と出会ったのは、夏の終わりだった。


 その頃彼は、港で荷役夫とし働いていた。


 彼は父親を知らない。

 ただひとつ、海の向こうの遠い国、紗瑠詩絵(シャルシェ)の人間だということは知っていた。

 事実、彼の肌や髪の色は、それが確かなものだと証明していた。


 この国の子と異なる容姿ゆえに、彼は幼い頃から町の子供たちに無視されることが多かった。

 きっと、得体のしれない者に対する恐怖の反動だったのだろう。


 母親は通訳の仕事をしながら彼を育ててくれたが、彼が十歳になった年に病で亡くなった。


 身寄りのなかった彼は、母親の仕事仲間のつてで、住込みの荷役夫として働き始めた。

 幼く、あまり労力にならない彼を疎む者は多かった。

 誰かがわざとぶつかって彼が運んでいる荷物を落としたり、それが原因で彼が親方に怒られている様子を少し離れたところから見て笑っていたり、彼の食事や所有物がなくなっていたり、身に覚えのない言いがかりをつけられて彼が殴られるのは、日常茶飯事だった。


 彼は力が欲しかった。

 大人と渡り合える力が。

 ここから逃げ出せるだけの力が。


 港町には筆学所(ひつがくしょ)もあったが、彼にはそこに通う時間もなかった。

 だから、彼は仕事の休憩時間に筆学所から聞こえてくる音読の声を覚え、それが何を指すか分からないまま、何度も真似ていた。


 その様子を見られてしまったのが、彼と“あの人”との出会いだった。

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