「……う、わぁ。やり過ぎちゃった、アハハ」
これジハ第四話です。今回ようやく神理バトル開始ですね。だというのに地の文が多分に入ってるせいで全然スピード感がない件について。……どうしたもんかねぇ。
――五月十五日(月) PM4:05 多目的ホール C棟
「死にやがれええええええ!」
「おわッ!? っとと」
緋条理とナルナーク・フォン・アシュトレイとの新宗教聖戦は怒りに身を任せたナルナークの拳撃により幕を切って落とされた。予め靴底に仕込んだ【術式≫≫≫加速】に神力を注いで神理を発動させて爆発的な推進力を得たナルナークの拳が理の顔面目がけて放たれる。ナルナークの動きを捉えられず懐への接近をあっさり許してしまった理は間一髪しゃがみ込むことで難を逃れるもナルナークは攻撃の手を緩めない。制服の右ひじに仕込んだ【術式≫≫≫加速】を行使して拳にブーストをかけて風を纏った破壊力抜群の拳を振り下ろす。公衆の面前でツンデレ認定されるという恥辱を味わったナルナークに手加減や容赦といった言葉はない。全力を以て人体を余裕で破壊できるであろう迅速の拳を振るい理を一刻も早く壊して殺すのみである。
肉眼では到底捉えられない拳撃。しかし拳撃は捉えられなくともナルナークから駄々漏れの殺気くらいなら戦闘経験皆無な理でも察知できる。理は己の直感を信じて横っ飛びで眼前のナルナークから距離をとる。勢い余ったナルナークの拳撃が多目的ホールの床に叩きつけ鈍く鋭い音が反響する中、理はすぐさま立ち上がり体勢を整える。いざなぎ学校高等部生徒副会長たる灰吹千尋の『絶対防壁』の神術がなければ床は見事なまでに粉砕されていたことだろう。
「【術式≫≫≫火猿】!」
「ッ!? じゅ、【術式≫≫≫火燕】!」
ナルナークは神力をこめた指で手早く空間に術式を描いて神理を発動させる。結果、炎を纏った6匹の小柄な猿が理に一直線に襲い掛かる。対する理はあたふたとしつつ左手の甲に予め描いていた【術式≫≫≫火燕】を発動させ炎を纏った6羽の燕を火猿にぶつけてナルナークの攻撃を相殺する。結城リア直伝の術式の一つが早速役に立った瞬間である。うまくいってよかったと理はホッと胸を撫で下ろす。
【術式≫≫≫火燕】は俊敏性を備えた燕を召還する神理である。素早さ=力を純粋に体現し召還後も神力のコントロールで燕を操ることのできる【術式≫≫≫火燕】は基本術式でありながら中々使い勝手のいい術式なのだ。とはいえ燕をコントロールして迫りくる6体の猿を同時に破壊するのは容易なことではない。広い視野と猿の動きの予測といった脳内に送られる情報を瞬時に処理して燕を猿に宛がわなければならないのだ。危なげないとはいえ神理バトル初心者のくせにそのようなことをやってのける辺り、理の才能は案外戦闘方面に転がっているのかもしれない。
「ククッ。今のを防ぐか。なら次はこうだ!」
「なッ!?」
ナルナークは制服の胸ポケットに入れておいた術式の描かれたカードから【神術≫≫≫制限解除】を発動させる。人の体が無理をしないよう脳が掛けるリミッターを解除するナルナークのオリジナル神術が一つである。神術発動で脳が無意識に掛ける拘束から解放された指がさっきまでとは段違いの速さで空間に術式を描く。【術式≫≫≫火猿】【術式≫≫≫火燕】【術式≫≫≫火鳶】と立て続けに術式を発動させるナルナーク。理の全方位を取り囲み一斉に襲いかかる炎を纏った猿と燕と鳶の軍勢に理は驚愕に目を見開き硬直する。だがそれも一瞬のこと。すぐさま我に返った理は一直線に自身に迫りくる火燕を一つ残らず【術式≫≫≫火燕】で無効化して逃げ道を作り辛くも理包囲網を脱する。攻めるナルナーク。防戦一方の理。観戦者の誰もがナルナークが優勢だと判断する中で理はふと4日前のことを想起していた。
◆◆◆
――五月十一日(木) PM5:15 A校舎 二階空き教室
「えっと、どうかな?」
「ふむ。中々いい作戦だね。秘策と称するほどではないと思うけれど」
リア先生の教導の元、どうにか【術式≫≫≫火燕】をマスターした理はナルナーク対策のための作戦を伝える。今しがた閃いたばかりの全く練られていない単純極まりないナルナーク攻略法である。これまで打倒ナルナーク、打倒恋愛真教の作戦を提案するもリアに一蹴されてきた理。しかし。今回思いついた作戦に限っては成功する自信があった。リアがそれを受け入れ「うん。いけるいける」と頷いていることからもリアも理考案の策に成功の道筋を見出していることだろう。
余談だがリアの神理習得講座の手法は実践重視である。ひたすら理に神理を使わせて術式に込める神力の量や神理行使が何をもたらすのかを体で覚えてもらう形だ。ちなみに【術式≫≫≫火燕】は攻撃の基本術式に属する神理である。教室内で何度も火燕を召喚し所構わず校舎にぶつけているのにも関わらず校舎に傷一つないのはいざなぎ学校全体に『絶対防壁』の神術結界が張り巡らされているからだ。いざなぎ学校高等部生徒副会長、灰吹千尋のオリジナル神術がいかに偉大なのかをまざまざと感じさせる結果である。
「ナルナークは理くんを神理の識徒なり立てで術式一つ行使できない存在だと高を括ってるだろうからね。まさか理くんが唯我独尊教の『神理』を使えるなどとは露にも思うまい」
理が提案した作戦は単純明快。ナルナークが自身の勝利を確信して油断した隙に理の切り札――唯我独尊教産の必殺技もとい神理――を発動して逆転勝利をすることである。理は神理の識徒育成学校日本支部『いざなぎ学校』に派遣される前にいざというときのためにと父さんから唯我独尊教の神理の発動方法を教えられていた。そのことを今さっき思い出したがために先の作戦の提案に至ったのだ。ナルナークにネオ・ジハードを申し込まれてから4日を経てようやく思い出す辺り、理にある程度『アホの子』属性があることは否定できない。赤松桂馬が理をバカ呼ばわりするのも宜なるかなである。
ただし。秘策を使って打倒ナルナークを達成するには条件がある。必殺技や究極魔法に匹敵するほどの効果をもたらす『神理』はただ複雑怪奇な術式に常人には持ちえないレベルの莫大な神力を注ぎ込めばいいという話ではない。セイントキリスト教やディヴァインイスラム教等のネオ宗教が有する『神理』にはそれぞれ満たさなければならない前提条件がある。制約と言ってもいい。唯我独尊教の『神理』を通してナルナークを倒したいのならまずはその前提条件をクリアしなければならないのだ。
実を言えば『神理』発動の条件を満たすこと自体は大して難しくはない。問題なのはいかに『神理』を行使するための条件を対戦相手及びネオ・ジハードの観戦者達に悟られないようにするかである。『セイントキリスト教』や『ディヴァインイスラム教』などのネオ宗教は概してそれぞれが持つ『神理』に関わる情報を門外不出の機密情報と位置づけている。タネが暴かれたら以後のネオ・ジハードで不利になったり折角苦心して構築したオリジナル『神理』が模倣されたりといった事態を未然に防ぐ目的がここにはある。ネオ宗教界において改宗が簡単に認められない現状を形作っている大きな要因である。
理としてはその程度のデメリットで『神理』の情報を機密扱いにするのは些か大げさなのではないかと思っていたのだが、リア曰く、ネオ・ジハードで不利になることはともかくオリジナル『神理』が模倣されることは時に非常にマズい事態を引き起こしかねないのだそうだ。「それってどういう意味?」と尋ねた理だったが結局「これ以上は長くなるから」とリアが話を切り上げたことで詳しい話を聞けなくなってしまった。何という生殺しだと理は悶絶したくなったのだがいずれ話を聞く機会はあるだろうと聞きたい願望を無理やり心の奥底に封印することにした。
いかにしてナルナーク勢にカラクリに気付かれることなく唯我独尊教の『神理』を行使したものか。むむむと頭をひねって考えあぐねていると「まぁその辺は私に任せて理くん。君は安心して神理習得に集中するといい」とリアが理の頭にポンと手を置く。年相応で勝気な笑みを浮かべるリアを見て珍しいなと感じつつ「わかった」と素直に頷いておく。
もしも第三者がこの光景を見ていれば二人の姿に仲睦まじき姉弟愛を見出していたことだろう。リアの大人っぽさが為しえる業なのか、それとも理の子供っぽさが為しえる業なのか。頭脳面はリアに任せればいい。リアならきっと必ず妙案を導き出してくれる。内心で方針を決めて神理習得の特訓を再開しようとする理の肩を「そんなことより」と掴む。
「理くん。この秘策はできるだけ使わないでいてくれないかい?」
「え? けどそれじゃあ負け――」
「わかってる。だから理くんがナルナークに負ける寸前で唯我独尊教の『神理』を使ってほしいってこと。それまではナルナークとのネオ・ジハードで神理を使った実戦経験を積んでほしいんだ。君はこれからも君の意思を貫き通すために何度か神理を存分に利用した戦闘を行わなければならないことだろう。その時に負けないように。取り返しのつかないことにならないように。勝利をもぎ取るために。今回の恋愛真教とのネオ・ジハードでなるべく経験値を稼いでほしいんだ」
「リアル娘先生……」
「それにナルナークは強敵だけど理くんを侮っている以上、唯我独尊教産の『神理』の特性使って逆転勝利は可能だからね」
理のルビー色の瞳を直視するサファイア色のリアの瞳。その真摯な瞳から純粋にリアが理の未来を憂慮した上での提言だということは容易に理解できる。唯我独尊教の看板と一人の女子生徒の身柄がかかっている以上綱渡りのような真似は避けたいと考えていた理だったが、リアのアドバイスを拒否する理由などどこにもなかった。
「うん。わかった、リアル娘先生。どこまで彼に通用するかわからないけど、やるだけやってみるよ」
◆◆◆
理はナルナークが神理で形成した火猿と火燕と火鳶の包囲網を【術式≫≫≫火燕】で迫りくる火燕を撃ち落して包囲網をギリギリで抜け出す。火燕の相殺という選択肢を選んだのは理包囲網の中でナルナークが放った火燕の数が火猿や火鳶と比べて少なかったからだ。しかし。それは仕組まれた罠だった。理の進行方向にはいつの間にか床に足をしっかりとつけて正拳突きを放とうとしているナルナークの姿がある。ギラついた目で理を射抜きニタァとあたかも獲物を見つけた肉食獣のように口角を吊り上げる様からは普段のどこぞの皇子のような雰囲気は微塵も感じられない。怒り狂ってるにも関わらず理を誘導する策を講じる辺りが何とも恐ろしい。
「まだまだァ!」
「がはッ!?」
【術式≫≫≫加速】と【神術≫≫≫制限解除】を行使したことでもはや殺人拳と言っても差支えないほどの威力を有する拳撃を放つナルナーク。これは避けられないと理はナルナークの迅速の拳を右手で受け止める。瞬間。足が床から離れ理の体が宙に浮く。クの字に折れ曲がった体勢で以て理の体は多目的ホールの壁に叩きつけられることとなった。飛距離約50m。あまりに強烈な衝撃に思わず肺の空気を全て吐き出してしまう。ナルナークの拳撃をモロに受け止めたせいでロクに機能しなくなった右腕を中心に全身を走る鈍痛に意識を手放して倒れ伏したい衝動を堪えて左手の平に前もって描いていた【術式≫≫≫氷鮫】を前方に向けて発動させる。標的は理を仕留めようと一瞬で距離を詰めるナルナーク。理が二匹の氷の鱗を纏った鮫を放つとナルナークは驚愕の声を漏らし即座に追撃を中止してバックステップで距離をとる。
【術式≫≫≫加速】に【神術≫≫≫制限解除】を使って体に多大なブーストをかけた状態で急に方向転換した反動によりナルナークの体にダメージがのしかかるがナルナークの知ったことではない。未知の神理を前に無闇に突っ込むことなくしっかりと警戒する辺り、ナルナークが神理と識徒として優秀だとされる所以の一端が伺えるというものだ。ちなみに既存の術式を全て完璧にマスターしたはずのナルナークが氷鮫を初見としたのは単純な話、【術式≫≫≫氷鮫】がリアオリジナルの術式だからだ。
「くッ、ぬ――」
(……なるべく持ちこたえる。一分一秒でもツンデレさんとのネオ・ジハードを持続させてみせる!)
理との距離をとったまま【神術≫≫≫制限解除】の恩恵を受けて【術式≫≫≫火猿】【術式≫≫≫雷斧】【術式≫≫≫炎槍】とナルナークは矢継ぎ早に術式を展開し行使する。対する理は弧を描いて理に突き刺さらんと迫る雷を纏った斧と矢のごとく一直線に打ち出された炎を纏った槍の一群を寸での所でかわして事なきを得る。そのままの勢いで複雑怪奇な軌道で襲い掛かる火猿を【術式≫≫≫火燕】の正確無比なコントロールにより無効化して仕返しだと言わんばかりに【術式≫≫≫光鴉】を放つ。毒々しいほどに眩い光を放ってナルナークの視界を封じつつ上空から襲撃する鴉をナルナークは【術式≫≫≫闇蜘蛛】で召喚した蜘蛛の糸で光ごと絡めとる。この2m級の巨大蜘蛛も【神術≫≫≫契約】同様ナルナークのオリジナル『術式』だったりする。
「モキュルル~!」
(そろそろ限界かな)
リア扮するモキュミの森のモキュマさん(白熊の着ぐるみ)がモキュマ語で理に合図を送るのと理がこれ以上のナルナークとの戦闘続行は無理だと判断するのは奇しくも同時だった。リア先生監修の元での神理習得の特訓で使えるようになった3つの術式もとい手札は全て使ってしまっている。手札を全てナルナークに晒した以上ここから先の神理バトルの続行は非常に危ない。下手したらつい『神理』発動分の神力まで使ってしまい秘策を打ち出せずにナルナークに敗北することもあり得る。そうでなくともそろそろ集中力の限界だ。全く動かせずにプランプランと動く右腕と背中を壁に強く打ちつけたことによる全身打撲が痛覚をやたら刺激するのにももう耐えられそうにない。どれだけの時間ナルナークと戦えたかどうかはわからないがいざなぎ学校高等部一年生きっての優等生相手にここまで戦えたらもう十分だろう。理は内心でうんうんと頷く。後は唯我独尊教の『神理』を行使してナルナークとのネオ・ジハードに勝利すればいい。それで終わりだ。前提条件がすでに満たされていることはリアの合図で確認済み。問題なんてどこにもなかった。
「【神理≫≫≫絶対規律(自分ルール)】」
「ッ!? 消えた!?」
「後ろだよ」
「なッ――」
「喰らえッ!!」
ナルナークが術式を通して召喚した闇を纏った蜘蛛が幾度も放つ黒色の糸を紙一重でかわしつつ理はナルナークの元へと駆ける。防戦がほとんどだった理が攻めに転じたことにナルナークは愉悦のこもった笑みを浮かべる。大方飛んで火にいる夏の虫とでも思っているのだろう。相変わらず【術式≫≫≫加速】と【神術≫≫≫制限解除】で凶化された一撃必殺の拳を放とうとナルナークを前に理は秘策たる唯我独尊教の『神理』――絶対規律(自分ルール)を発動しナルナークの視界から姿を消し去った。煙のように消失した理の姿を捉えようと視線を彷徨わせるナルナークの背後から理が声をかける。不敵な理の声を聞いたナルナーク。理の気配を全く捉えられなかったことに驚き咄嗟に振り返ったとき、ナルナークの目に映ったのは膝を曲げた状態から今にも下から拳を突き上げようとする理の姿。直後。理の全身全霊の拳撃がナルナークの水月に炸裂した。
理の秘策の中核たる唯我独尊教の『神理』――絶対規律(自分ルール)。それは世界の仕組みを一定時間自分の好きなように改変できる『神理』だ。発動条件は絶対規律(自分ルール)の術式に少量の神力を注いだ後に言語を支配すること。言語の支配とは、言ってしまえば会話の中に『ゐ』や『ゑ』等を除く五十音を少なくとも一回口に出しさえすればいいということだ。この条件を満たしたいだけならば『いろは歌』を口ずさめばいい。言語を支配する時間が短ければ短いほど消費する神力量が少なくて済む以上、『いろは歌』は短時間で言語を支配できる夢のような手段だ。
しかし。それでは観戦者の誰かが『絶対規律(自分ルール)』の前提条件に気付いてしまうだろう。誰にも聞こえないくらい小さい声で『いろは歌』を歌って条件を満たしてもいいのだがなるべく大きい声で口に出した方がより『絶対規律(自分ルール)』の効果が高まるのだ。
よって誰にも悟られずに『絶対規律(自分ルール)』の条件を満たすためには理が対戦相手たるナルナークと少しでも長く会話する中で自然に言語を支配しなければならない。その際に自分が話した言葉の一言一句を覚えている必要があることは言うまでもない。しかし。発言の記憶を当の本人の役目とするのは酷だということで『神術≫≫≫絶対記憶』を習得済みのリアが理が口にした言葉を一言一句漏らさずに記憶する役割を担うこととなった。さらに敢えて自作の白熊の着ぐるみを装着しナルナークにツッコミをさせることで理のペースに乗せつつ会話を長引かせるきっかけをこっそりと作り出したのだ。そこから先は理の役目だったのだが理は『ナルナーク→ツンデレさん認定』の下りを通してナルナークとの長話に成功。無事にナルナークと戦う以前の段階で言葉の支配をほぼ終えたのだ。後は戦闘中に発する叫び声の中で支配のおえていない言葉を口にすることで前提条件は満たされたということだ。
かくして前提条件をクリアした後は複雑怪奇な一見意味不明の『絶対規律(自分ルール)』の術式に注いだ神力の量が多ければ多いほどより長い時間世界の真理に手を加えることができる。長い時間といっても精々十数秒程度。しかし。理が自身の背中に描いた(リアに描いてもらった)『絶対規律(自分ルール)』を発動させ、自身の体を構成する物質に関する真理に手を加えて変化させることでナルナークをすり抜けて背後をとり、理へと振り返るナルナークに凶化に凶化を重ねたオーバーキル極まりない拳撃を放つには十分すぎる時間だった。尤も、理はネオ・ジハードを一刻も早く終わらせたい一心なだけでナルナークを殺す意図など全くないのだが。一連の世界の構成の変更は理が内包する神力量に恵まれていたからこそ為せる業である。
しかし。本人に殺意はなくともオーバーキルはオーバーキル。過剰な威力の拳撃を為す術もなく喰らってしまったナルナークの体は一瞬で多目的ホールの天井に到達し勢いよく激突。その際の衝撃で意識を手放したナルナークの体が重力に従って降下し拳を突き上げたままの体勢の理の眼前に落下する。グチャリというやけに人の恐怖をそそる音とナルナークの体からにじみ出る血の匂いと頭から落下したせいか体と分離して床をコロコロと転がる緑髪碧眼の生首が印象的であったことをここに記しておく。多目的ホールに観戦者達の悲鳴が地鳴りのごとく響いたことは想像に難くないだろう。いくらいざなぎ学校学園長、メルリル・フィルシーの【神理≫≫≫再構成】の結界の効果でナルナークが生き返るとわかっているからといってもグロテスクなナルナークの亡骸を見て平静でいられるかは別問題だ。
「……う、わぁ。やり過ぎちゃった、アハハ」
多目的ホールあちこちから悲鳴の嵐が吹き荒れる中、血に染まったナルナークだったものを見つめて理は引きつった笑みで乾いた笑い声をあげる。【神理≫≫≫再構成】で生き返るのなら即刻復活してほしいと理はその場に立ち尽くしたまま心から願うも一向にナルナークが生き返りを果たす気配はない。かくして唯我独尊教と恋愛真教との看板とナルナークに気に入られた哀れな女子生徒の身柄を賭けたネオ・ジハードは終幕を迎えるのであった――
……ちなみにナルナークの再構成が始まったのはナルナークの死後三十分後だったとか。ご愁傷様である。
――Information. 主人公は人殺しを経験しました。
というわけでこれジハ第四話終了。初めてのネオ・ジハードはナルナーク殴殺エンドとなりました。『再構成』の術式があってホントに良かったですね理さん。……ちなみに実況の女子二人のセリフがない点についてはご容赦ください。戦闘シーンに彼女らの言葉を挿入する技術がふぁもにかにはなかったのだよ。戦闘に集中する理さんには聞こえなかったってことにしておいてくださいお願いします。それにしても、神理のネーミングセンスe……