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おにぎり屋ふくふく

おにぎり屋ふくふく|帰れなかった場所

作者: 絵宮 芳緒
掲載日:2026/05/06

夜のふくふく。


外は静かで、店の中も、やわらかな灯りだけが残っています。


ミケたちは、もう眠っていました。


でも――

クロは、起きています。


今日は、少しだけ落ち着かない様子でした。


窓の外を見て、ふいに、外へと出ます。


トコトコ。


夜の町を歩いていきます。

いつもより、少し遠くへ。


そして――

足を止めました。


そこは、古い路地。

人の気配も少ない、静かな場所。


クロは、じっと見つめます。


――思い出すように。

小さな箱。

冷たい風。

ひとりで丸まっていた夜。


「……にゃ」


かすかな声。

そのとき。


「クロ?」

振り返ると、ミケたちがいました。


「急にいなくなるからびっくりしたよ」

まぐろが息を切らします。


トラは、心配そう。

「ここ、こわいよ」


シロは、静かにクロを見つめていました。


クロは、少しだけ視線を落とします。


ここが――

自分がいた場所だと。


言葉はありません。

でも、空気で分かりました。


ミケは、少しだけやわらかい声で言います。

「……もう、ここじゃないでしょ」


まぐろも、うなずきます。

「帰る場所、あるじゃん」


トラは元気に。

「ふくふくがあるよ!」


シロは、そっと一歩近づきました。

「ひとりじゃないわ」


クロは、しばらく動きませんでした。 


でも――

くるりと向きを変えます。


帰る方向へ。

みんなと一緒に。


ふくふくに戻ると、ふくさんが待っていました。


「おかえり」


クロは、少しだけ早足で近づきます。


ふくさんのそばに座って、

そのまま、体を寄せました。


ふくさんは、やさしくなでます。


「ちゃんと、帰ってきたねぇ」


クロは、目を閉じます。


「にゃ」

その声は、どこか安心したようでした。


もう――

帰れない場所じゃなくて、

帰る場所があるのです。

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