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ここは地雷原です

 おなかが空いてもう限界、そう言うと案外すぐに寄り道してくれた。


 ここは都市と都市をつなぐ街道に沿うように林立する小さな集落……の中にある小さな食堂。獣人用のランチを注文して、目の前にいる紳士……名前は確か……ゴールド……なんだったっけ。ゴールドなんとかさんと会話を試みる。


「私の事はお父様と呼んでくれたまえ。」


 名前が今一つ思い出せないのでこの提案は本当に助かる。この気の利きよう、伊達に女の子を"白馬"で迎えてないな。


「という事はお父様、あなたがご主人様じゃないんですね。」


 購入者とご主人様は別の人の場合もあるって誰かが言ってた。まあ個人的にはこの人がご主人様でも、全然いいんだけど。


「鋭いな、君の主人は……」


「お待たせしました、獣人用ランチでございます。」


「いただきますっ!」


 私は手づかみでむさぼり食べた。最後にまともなご飯を食べたのは一日前くらい?あっという間に一皿平らげると、お父様がやれやれといった表情浮かべてる。


「ええと、続きを言っていいか?」


「あ、ごめんなさい。おなかすいてたから。」


「そのレベルで空腹だったとは知らなかった。」


 申し訳ない、とお父様が頭を下げる。私は謝罪まで要求してないんだけど。


「で、私のご主人様は誰なんですか。」


「私の息子だ。」


 息子、ムスコか……うーん、どっちの意味かでこの先の展開が大きく変わってくるんだけど……いいや、思い切って聞いちゃおう。


「隠語の方じゃないですよね?」


「何を想像しているんだ、普通に息子だよ。」


「スペックは?」


「もうすぐ16歳、魔法学園の学徒で紅蓮術士見習いとして修業中。料理は得意だが掃除は苦手。放課後はアルバイトで学費の一部を負担してくれている。若干内弁慶なのがタマにキズだ。」


「いやそこまで言わなくていいからね!?」


 っていうか同い年なんだ、と思いながら私はお父様の顔をまじまじと見つめる。この顔をだいたい16歳くらいにすると……こんな感じ?うーんちょっと違うかな?


「ああ、気にしてるのはそこじゃないよな?」


 お父様は懐からペンダントを取り出す。小さな絵が貼られていて、そこには4人の人物が描かれていた。


「3年前の肖像画だ。これが私で、こちらが妻。息子はこんな感じだ。」


「へえー、可愛い。お母様に似てますね。」


 反射的にそう言ったけど、残りの一人……この快活そうな女の子が気になる。


「妹さんは、ご両親とは似てないんですね。」


「……この女の子は、息子の婚約者だ。」


 ……


 ………………


 は?


「ちょっと待って、婚約者がいる前提でさらに私のご主人様になるって忙しすぎない?っていうかソレって女同士で修羅場になるの確定でしょ?なに考えてるの!?」


 私の思考は言葉となって口からあふれ出た。


「もういない。」


「は?」


「私の妻……つまり息子の母と、息子の婚約者は、もうこの世には存在しないんだよ。」


 血の気が、引いた。この二人、遺影になっちゃってるんだ……次の言葉が出てこない。


「そ、そ……」


「君が気にすることじゃない。で、だ。ここからはビジネスの話になる。」


「食後のお飲み物になります。」


 私は小さな樽の中の水を一気に飲み干し、口を拭った。同時に思考がクリアになる。大丈夫、いつもの調子で。


「やっぱり私を買うくらいだし、訳アリよね。」


 お父様はゆっくり深呼吸をしたのち、口を開く。


「息子の……護衛を頼みたい。」


 護衛……護衛か。それ自体は簡単だと思うけど……


 難しいな。

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