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あなたの購入者です

 じゃあナニ?みんなは「商品」の気持ちがわかるっていうの!?……私もこれが最初だから全然わかんないんだけど。


―――私たちを乗せた馬車がガタゴトと一歩一歩。馬車の荷台は揺れがすごくて、頭がくらくらする。


「止まれ。」


 男の人の声で、丸一日以上揺れてた馬車が止まった。私は荷台から外の様子を見るために、荷台のフタ……じゃなくて使い古された毛布から耳と目を出した。私たちをこの馬車に乗せた男と、ヨロイで身をまとったおじさんが二人。この二人のヨロイの許しがないとこの扉が開かないのかな。


「獣人が六匹。売却用でさあ。」


「あらためさせてもらう。」


 おじさん二人がこっちに来たから私は荷台の中に隠れる。薄暗い荷台に光がさしこみ、ヨロイ姿のおじさん二人が警戒しながら中をのぞき込んだ。今さら逃げたり暴れたりする子なんていませんよー、みんな吐き気と戦っているんだから。手足も拘束されてるし。


「獣人が六人……だな。」


「開門!開門!」


 私は再び荷台のフタから耳と目を出した。ギリギリと音を立てながら扉……門?が開く。門の向こう側は石畳の道と、レンガの家々。道と家の境目には色とりどりの花が植えてあり、はるか正面には噴水の広場。通る人の表情はどこか明るく……


「すごい!これが街ってやつ!?」


 生まれて初めて見た光景に吐き気も吹き飛んだ。


「ねえねえ、みんなも見た方がいいよ!」


 私は荷台に乗ってる他の五人にそううながしたけど、みんな顔面蒼白でぐったりしてる。


「この景色の価値がわかるのはお前だけだよ。」


 そう言ったのは馬車を繰る男で、私たちをこの馬車の荷台に乗せた張本人。


「荷物扱いだなんてひどいじゃない?」


「人間扱いすると余計にカネがかかるんだよ。」


「じゃあせめて謝って。」


「ごめんね。」


「あと私たちを数える単位に"匹"を使ったことも謝って。」


「はいはいごめんね。」


 これから私たちの身に何が起こるか……私はわかっている。


 いよいよ私たちは「商品」として人間社会の一員になるの。


「はあ……何が違うんだろ。」


 往来する人々の姿を見てげんなりする。私たちと見た目はほとんど変わらないから。このどうしても目立つ位置に生えてる耳と、尻尾があるだけで、私たちは「獣人」として、不当な扱いを受けるみたい。


「何度も説明されていたと思うが?」


 獣人と人間。その特徴の違いは大きく分けて四つ……


1.耳と尻尾


 これだけで獣人と人間は違うとわかる。


2.身体能力の高さ


 獣人はフィジカルが超強いよ。


3.泣かせるおつむ


 獣人は知能が低いんだって。


4.えーっと……


 この四つの違いで獣人は「飼える猛獣」として人間社会でこき使われてるよ。


 ちなみに私は文字の読み書きができる天才ワンちゃんだよ。


「話せる相手があなただけなんて、サイアク。」


「どんぐりドーナツでも食べるか?」


「なにソレ。」


「さっきの守衛に貰った。獣人用のおやつだそうだ。」


「ふーん。」


 私は男の後ろ手から真ん中に穴が開いてる丸い食べ物を受け取る。いい匂いが香ってくるソレを口の中に運ぶ。


「意外と美味しいのね。」


「普通の人間にとってはクソ不味いらしい。」


「はいはい私は普通の人間じゃないんですよー。」


「長くやってるがここまで話せる獣人は初めて見たな。」


「あなたは奴隷商なんて恥ずかしい商売をやめなさい。」


 そう言うと男はゆっくりとこちらを見やる。


「メシを食う為に不本意な仕事をやってる奴もいる。」


 出たよ、人間特有の意味わかんない理論。


「獣人はご飯が食べたかったら自分で捕まえるだけ。」


「それもそうか、ワハハ!」


 街の中を馬車がゆるりと一歩一歩。荷台が揺れることはもうなかった。



 ……さて。


 馬車の荷台から降ろされ、ある建物の中に入った。建物の中には小さな個室が仕切られてて、その中の一室に案内された。木組みの板に両手を拘束されたまま、小さな部屋のボロボロの椅子に腰かける。それと同時に足の鎖が椅子と繋がれた。


「では購入者が来るまでお待ちください。」


 えっ、説明それだけ?丸一日以上まともなご飯も食べてないんだけど?いや待つしかないんだけど。この状態だとさすがに逃げられないし。"待て"って何時間?何日?


「ではこちらになります。」


 さっきの人の案内に促されて部屋に紳士が入ってきた。ああよかった、この"待て"って数分単位の話だったみたい。


「私はゴールドロア=レーベルレット。君の購入者だ。」


 紳士は帽子を外しぺこりと頭を下げる。イケオジの部類にギリ入るか?入らないか?くらいの顔立ちで、とりあえず評価するなら「上品」だ。


「ひゃ……ひゃい。よよしくほれがいしまふ……」


 え、なにこの緊張感。舌が回らないんだけど。


「……名前は?」


 あ、忘れてた。相手が名乗ったらこっちも名乗らないと……


「シズクって言います。」


「なるほど、シズク=レーベルレットか……悪くない。」


「え、なんで名前を豪華にしたの?」


「ダメか?」


「いやダメじゃないけど。」


「よし、じゃあ……」


 目の前の紳士……ゴールドロアは私の手足の拘束をあっという間に解いた。


「逃げるぞ。」


「え、それってどういう―――


「ゴールドロア様!こちらにいらしたのですか!」


 女性の声が響き、ゴールドロアは私の腕を掴み声とは反対側の扉に向かい駆ける。


 扉からは光が漏れていたのでたぶん裏口。その裏口を開けると―――馬が待機してた。すぐさま二人で馬に飛び乗り、街を出た。


 また移動!?ご飯は!?……どうやら「商品」には拒否権も質問権もないみたいで。でもなんとなくだけど、ちょっとだけ楽しいな。

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