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第7話 ニアが魔法少女になりたかった日


 ニアを異世界から連れてきた一週間後。

 注文していた児童用の服も届き、新品の洋服に袖を通したニアは快適にマイルームを満喫していた。


 それはもう子供特有の圧倒的な順応速度で、今もテレビのチャンネルをポチポチ操作して、日曜朝の「守護ってプリズムキュート」とかいう女児向けアニメに夢中になっている。

 ちなみに言語翻訳の異能は初日に付与しているので、既に奴はバリバリのマルチリンガルだ。


 なお、本人は言葉が自然に通じていることを不審がる様子もなく、異能者であることに気づいていない。

 しょせんは世界を知らない女児である。


 日本で生きるなら、これだけで食っていけそうなくらいなんだがね。


 同時に、ここが異世界であることをニアはまだ理解しておらず、俺が転移能力でどこか遠い国、それこそ世界の果てくらい辺境の国に連れてきたと思っているようだ。

 まだ幼いニアに世界がどれほど広いかなど理解できているはずもなく、自分の住んでいる国から外は全て等しく外国だ。

 それがたとえ異世界だとしても、認識の区別などつかないのだ。


 それと衣食住付きで養うための交換条件として、今後勝手なことをしないよう俺の指示に従うことを義務付けた。

 というのも、異世界で共に行動するならニアの強化は必須だからだ。


 この一週間にニアから聞いたところによると、どうやら異世界には魔物や財宝を無限に生み出すダンジョンなる空間があるらしい。


 俺の目的が地球を少しずつ面白くすることである以上、そのダンジョンが非常に有益なものであることは明白だった。

 ワンチャン、ダンジョンを稼働させている本体である、ダンジョンコアなるものを現地から盗んで地球に移植できないか検討しているくらいだ。


 よって、今後の行動を共にするニアを能力付与の異能でガチガチに固め、安全を確保しなくてはいけないことに繋がる。

 しかしそうなると、今度は女児が無暗にその力を振りかざすことのないよう、ブレーキが必要になってくるのだ。


 そのために俺の指示に従ってもらわなければならない。

 だから俺の指示に従うよう言い含め、さもなくば放り出すぞとビビらせなくてはいけなかった。


 まあ、実際は放り出すつもりは無いんだけど。

 あまりにも目に余るようであれば、能力を没収して自宅待機を命ずるだけである。

 問題はいつニアに能力を付与するかだな。

 自然に、さりげなく能力を付与しないと俺がなんでもできることがバレてしまう。


 バレちゃいけないわけじゃないが、わがままな子にする訳にはいかないので、まだ内緒にしておくつもりだ。

 子供のうちからわがまま放題だと性格が歪むかもしれないからな。

 ニアの面倒を見て庇護下に入れた以上、その責任が俺にはあると思っている。


 でもって、ようやく「守護ってプリズムキュート」が怪人を愛の力で爆殺し、完全勝利したヒロインたちの雄姿を視聴し終えたニアは、なぜか顔中を涙と鼻水でぐずぐずにしながら俺の足にしがみついてきた。


「うう~、アニキ~」

「どうしたニア」

「……ぐすっ。オレも魔法使いたい」

「は?」

「オレもプリズムキュートになりたい!!」

「……ええ?」


 なんだその意味の分からん要望は。

 そんな要望が通ると思っているのだろうか?


 ちなみにニアの一人称はオレである。

 スラムで舐められないようにと、先輩孤児のスラム女児に言い含められていたらしい。


 それはそれとして、魔法少女かぁ。

 というか、俺にニアを魔法少女にする力など……、力、など……。

 あるな。

 めっちゃある。


 うーむ。

 いやしかし、俺には俺の予定がある。

 今後、情報収集役として活躍予定のニアの安全を第一に考えるならば、隠密能力や気配察知に重きを置いた能力構成が望ましいのだ。


 それを目立った衣装と激しい必殺技で敵をバッタバッタ薙ぎ倒すとなると、もはや情報収集もなにもないだろう。

 異邦人の俺が現地に溶け込み情報収集するにしても、雰囲気やちょっとしたしぐさの何が異世界でタブーになるか分からない以上、俺にその適正は存在しないといっていい。


 なので警戒されにくい子供であることも含め、ニアが唯一俺に完全勝利できるポジションがここなのだが、うーむ。

 とりあえず頭ごなしに否定せず、まずは俺がどうして欲しいかを伝えてみるか。


 すると……。


「じゃあ、どっちもやる!」

「え? どっちも?」

「オレが戦いになった時だけ、プリズムキュートになればいいんだぜ」

「おお……」


 さすが成長著しい異世界孤児。

 思ったよりもちゃんと考えていた。


 しかしその手があったか。

 普段は何食わぬ顔でスパイ活動をする子供の顔と、いざという時は魔法少女になって敵を爆殺するバトルモードの両立ね。


 ニアは既に自分が情報源として養われている自覚があるし、俺がいくつもの伝説級魔道具を保持する超スゲー大魔導であると思っている節がある。

 故に、仕事はちゃんとやるけどその過程でピンチにならないとも限らないから、いざというときに魔法が使える道具があればいいんじゃないのと、此奴はそう言っているのである。


 うん、一理あるな。

 そう思った俺は、しょうがないな~という雰囲気でネット通販サイトを開き、プリズムキュートが使っていた愛と魔法の爆殺ステッキなるコスプレ商品を購入した。

 自分でも自覚があるが、なんだかんだで俺は子供に甘いらしい。


 その数日後。

 交易都市から少し離れた異世界の平原にちょくちょくお邪魔しては、ニアに暗殺者もかくやという修行をつけている。

 あたかも自分が訓練で成長しているように見せかけながら、徐々に能力を付与していっている段階だ。


 既に気配の消し方と察知のやり方、体操選手も真っ青な軽業やらは完全にマスターした。

 いや、思ったよりもニアに才能があるんだよ。

 魔法世界で魔物としのぎを削る異世界人の補正なのか分からないが、能力を付与せずとも体力はぐんぐん伸びてるし、体術なんて微弱にしか能力を付与していないのに、「人間ってそんな動きする?」くらいのアクロバティックな運動力を見せつけてくる。


 異世界女児、マジでとんでもない。

 あらゆる白兵戦能力を現実改変でガチガチに固めている俺と比べたら、そりゃ格落ちはするけども、もうその辺の冒険者なんかは出し抜けるんじゃないかな。


 少なくとも異世界初日に出会ったチンピラ二人くらいなら、既にニアの敵ではない。


 また、ニアに修行をつけてから一週間後。

 ようやく注文していたプリズムキュートのコスプレ魔法ステッキがアパートに届いた。

 先端にハート型の赤いプラスチックがはめ込まれたステッキには、設定通りに敵を爆殺するビームがでるよう現実改変したが、ニアはもう大喜びだ。


 はやくステッキを使いたくてうずうずしているのが伝わってくる。

 今週もプリズムキュートを見て盛り上がっていたし、エンディングダンスまでテレビ画面の魔法少女と一緒に踊っていたくらいだ。


 ちなみに、能力付与と修行で成長したニアの体術によって、ダンスは既に完コピされている。

 体のキレと完成度がやばいので、思わず異世界の平原で動画を撮ってしまった。


 ニアも自信満々にいつかみんなに見てもらいたいって息巻いているので、あとでネットに公開しておこうと思う。

 ネット民の反応が楽しみだ。


「よし、そろそろダンジョンいくか」

「いくかー!」


 でもって、ニアの必殺ステッキも手に入り準備が整ったことで、ようやく俺達は異世界のダンジョン攻略を目指しにいくことにした。

 ダンジョンには最低ランクでもいいので冒険者の資格が必要とのことなので、まずは交易都市で冒険者登録だ。

 その後、満を持して一番浅く資源が落ちにくいとされる不人気ダンジョンへ赴き、ダンジョンコアを回収する予定だ。


 なお、不人気ダンジョンは資源が放出されずマジで不人気なので、今後無駄にダンジョンが成長する前に、近々領主による討伐隊が組まれる予定らしい。

 よって、そうなる前に攻略する予定である。



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