第59話 国王に直談判した日
次々に墜落していく銀河連邦の正規軍たちだが、相手もこちらの戦力が想定以上なのを理解したのかだんだんと遠巻きに見る形で包囲を固めてきた。
さすがに遠くで警戒する形をとられるとニアの攻撃も届かないし、俺もエリシーナさんの護衛があるため追いかけることもできない。
いい戦法である。
「聞いてくれ、我が同胞達よ! 私は決して連邦を裏切ってなどいない! 陛下にその証拠となる取引のデータを用意してきた、どうかそこを通してくれ!」
「…………」
護衛をされながらもエリシーナさんが必死に声をかけるが、正規軍は何者かの指示を事前に受けているのか全く動揺が走らない。
これを規律が行き届いていると見るべきか、それとも最初からこういう形でハメるための作戦だったのかは……、たぶん後者だろうね。
まあこの中にも何人かは、ただ職務に忠実なだけの正規軍もいるだろうけど。
しかし相手とて、いつまでも膠着状態のままという訳にもいくまい。
そろそろ何かしらの動きがあるはずだ。
と、そう思ったところで包囲網の中から一機、見るからに豪奢な装飾が施されたまさに王族という見た目のウェポンアーマーが現れた。
その一機は戦力差を理解しているはずであるにも関わらず、悠々と俺とニアの前まで進み出てきてこう口にした。
「ふむ……。聞いていた通り、確かに物凄い戦闘力だ。我が銀河連邦に……、いや、サンダリオン侯爵家に与する英雄殿で間違いないかな?」
「与するという言い方が正しいかは分かりませんが、エリシーナさんと縁があるのは確かだね」
現れた推定王族、もしくはこの正規軍の総大将さんはそう述べるが、声色に敵意は感じない。
俺としても、まさかこれほどの戦力を差し向けておきながら普通に話しかけられるとは思ってなかったな。
それに俺がエリシーナさん達サンダリオン侯爵家の者達から英雄と呼ばれていることも知っているとなると、やはりさすがは推定王族というだけはある。
ものすごい諜報力だ。
だがそれだけに理解できない。
なぜそれほどの諜報力がありながら、貴族の流したくだらない噂などに踊らされているのだろうか?
「その声は! ヴァ、ヴァリオ殿下!? 私です、エリシーナです! 私は決して……!」
「ああ、いいよいいよ。君の事情はだいたい理解できているからね。お久しぶりだねエリシーナ嬢」
「なっ!? でしたらなぜ!」
エリシーナさんがそう叫ぶが、本当になぜなのだろうか。
事情が理解できているならば、ここまで徹底的に侯爵家を追い詰める必要などなかったはずだ。
それこそ宇宙海賊との戦闘など、いつ侯爵が死んでもおかしくない戦闘だったと聞いている。
……と、そこで俺ははたと気が付いた。
そう、いつ死んでもおかしくない侯爵が、ギリギリとはいえ生きて生還できた理由そのものが、向こうの最大限の譲歩だったのではないだろうかということに。
それこそ、その気になればもっと連邦の貴族たちは戦力をかき集められたはずだ。
それが急いでいた侯爵を取り逃すほどの戦力しか整えられず、万が一にも逃がしてはならない侯爵を相手に見逃したまま、海賊は撤退したという。
これは明らかに不自然な流れだ。
もはやこのヴァリオ殿下が意図的に宇宙海賊の戦力が最低限で済むよう調整して、わざわざ逃がしてくれたとしか思えない。
そして俺がそのことに気づいたのを察したのだろう、ウェポンアーマーに搭乗していたヴェリオ殿下とやらはくつくつと笑うと、手を軽く振って包囲していたウェポンアーマーたちを下がらせる。
どうやら茶番はここで終わりという事らしい。
「それはもちろん、政治的な力学というものがあるからさ。たとえ君たちが正しいと分かっていても、だよ。悲しいけど、多くの国が寄り集まり結成された銀河連邦の王族というのは、国家全体に対してそこまでの強権がなくてね。一度はやつらの狙い通り交戦せざるを得なかったんだよ」
「ほほーん。なるほどね」
つまり大貴族たちへの言い訳として、乗り込んできた反逆者である俺達と交戦はしてやったぞ、という建前が必要だったという訳か。
それはまた、権力のパワーバランス、その舵取りにずいぶんと苦労していそうな王家だね。
この話を聞く限り、俺たちが直接乗り込んでくるのまでは想定済みだったと考えられる。
どのような手段で挑んでくるかは分からないだろうけど、たぶん一度逃がした侯爵が再び立ち上がるならば最低限の応対をして、もしこの戦力を乗り越えてくるようであれば大義名分を得て交渉、乗り越えられないならそのまま潰してしまえばいいと考えていたんだろう。
ずいぶんと酷いことをするものだと思ってはいるが、まあ権謀術数渦巻く権力闘争の世界だ。
このくらいのトラブルは日常茶飯事なのだろうね。
ヴァリオ殿下の声色も苦笑い気味だったし、どうしようもないことだったのだろうと分かる。
「それで、直談判だっけ? 内容はそちらの英雄殿とサンダリオン侯爵家の取引のデータということで間違いはないかな?」
「そ、そうです殿下! 私達が帝国と通じていないという決定的な証拠になります。どうかこれを陛下のもとまで届けさせていただけませんか?」
「もちろん問題ない。……と、いいたいところだけど。一つ条件があるな」
おいおい。
条件があるな、といったタイミングでこっちを見るなよ。
こんなおっさんに何を要求する気だ。
ニアなんて敵の総大将がチラ見してきたことで、いまにも齧りつきそうな勢いで、ぐるる、と威嚇しているぞ。
どうどう、落ち着きなさいニア。
相手は二十メートル級の巨大ロボットだぞ。
ラブリー・シュートで爆殺するわけにもいかないし、あんなものに噛みついてもいいことないって。
「条件というのはアレだよ。一度僕は君たちサンダリオン侯爵家の庇護する英雄とやらと話をしてみたかったんだ。条件はそれだけでいい。ああ、勘違いしないでくれ。何も英雄殿に罪を被せようとしているわけではない。そこは信用してくれたまえ」
そう言ったヴェリオ殿下は、楽し気な声色からニヤリと笑いが零れているのを隠そうともせず、エリシーナさんと俺たちのことを首都惑星の中心部、王家が所有する巨大宮殿へと案内したのであった。
「どうするアニキ? あの金ぴか、アニキと話がしたいって。アニキはオレのアニキなのに、あいつは生意気だ。あいつも舎弟になりたいのかな?」
ニアにとって味方とはアニキを頂点とした、舎弟とそれ以外しかないらしい。
あまりにも極端な理屈にちょっと笑ってしまうが、これもまたニアらしいと笑って頭を撫でる。
だが話がしたいというだけなら問題ない。
こちらはそもそもエリシーナさんたちと話し合いをしにきたのだ。
何かしらの無茶ぶりはあるだろうけど、そっちがその気なら拒否などしないさ。
そう結論付けた俺は、背後でこちらの意思決定を待っているエリシーナさんに対し頷き、同意の意を示したのであった。




