第58話 再び無双した日
サンダリオン侯爵家の希望を乗せた軍用小型宇宙船、『ホープ・セブン』が亜空間航行に入る。
その三十メートルほどの小型艇に搭乗するのは俺とニア、そして今回国王陛下に直談判する予定のエリシーナさんと特殊部隊の護衛一名だけ。
本来ついてくる予定だった侯爵はというと、ポーションにより復活したため体調的には万全であるはずだが、まだ病み上がりということで周囲の重鎮や医者たちに検査を勧められ待機しているところだ。
ここに来て精密検査など何を悠長なと思うところだが、元々直談判用のデータさえあれば責任者は一人だけで十分なのだ。
故に今回は侯爵家からはエリシーナさんが抜擢され、この領地の未来を全て託されることとなったのであった。
さて、そろそろ亜空間航行にも入ったし、俺も特殊な加速と言い張った転移能力をお見せしますかね。
「エリシーナさん、それでは船体を加速させます。おそらく出てすぐに戦闘に入るかと思われますので……」
「ああ、分かっているハセガワ。護衛の件、お前達に万事任せるぞ」
どうやら既に覚悟はできているらしい。
それならばと小型艇の壁に手をつき、あたかも魔法という謎技術で何か仕事しているかのような雰囲気を醸し出しつつも、俺は話に聞く国王陛下とやらの存在をイメージした。
……イメージよし。
では、転移!
次の瞬間、亜空間航行により周囲の景色が虹のように流れていたホープ・セブンの船体が外へとはじき出され、王家が保有する首都惑星上と思わしき場所へと無事に転移をした。
「……これが英雄殿の銀河系が持つ技術力ですか。確かに、お嬢様が信頼するだけの力はあるみたいですね」
そう褒めてくれる特殊部隊さんだが、その顔は硬く緊張が走っている。
たぶん彼の懸念は、これから正規軍との戦闘に入ることだけではないのだろう。
そんな正規軍と単騎でまともにやり合うと豪語し、なおかつ亜空間内部で加速する技術さえ保有する別銀河への脅威そのものを感じているのだ。
なにせ俺はその別銀河出身ということになっているからね。
懸念していることはさもありなん、といったところである。
「いまは御託を並べている場合ではないな。ハセガワ、さっそく始めてくれ」
「りょーかい。いくぞニア」
「おーー!」
そしてそんな感想を考えている間にも、突如として大気圏に出現した軍用小型艇に対し、俺たちを捕捉した正規軍のうちの一機がウェポンアーマーに搭乗し向かってきている。
どうやら向こうさんも周囲の貴族が何か手回しをしていたのだろうか。
やけに対応が早いというか、連絡の無い正体不明の宇宙船を調査するにしたって、着いて直ぐは迅速すぎる。
「貴様ら何者だ! ここが王家所有の首都惑星と知っての狼藉か!」
「こちらサンダリオン侯爵家長女、エリシーナ・サンダリオン。どうしてもお伝えしなければならない用件がある、至急陛下に取次願いたい!」
エリシーナさんが正規軍の誰何に対して堂々と宣言するが、たぶん相手は聞く耳持たないだろうね。
こうしている間にも武装したウェポンアーマーが次々と集まってきていて、既に光線銃をこちらに突きつけている。
彼らとしては当然の職務だけど、ありえない対応の速度から見て、最初から戦闘に入る気満々で準備していたのが伝わってくる。
それならまあ、俺も遠慮はいらないな。
そう考えた俺はいそいそとホープ・セブンのハッチを開けつつも、ニアを連れ外部へと出てから、メタル・ホワイトドラゴンを現実改変で各種能力を付与しつつ戦闘の準備した。
「なに、エリシーナ・サンダリオン侯爵令嬢だと……? あの裏切者のサンダリオンか!?」
「ち、違う! 我々は決して連邦を裏切ってなど……!」
「ええい! どんな手段を使ったか分からんが、まさか反逆者共が陛下の御前に直接現れるとはな! 我々も舐められたものだ! ……やれ、奴らを生け捕りにしろ! この反逆者共を陛下に近づけさせるな!」
やけに芝居掛かった演技で正規軍が一斉に襲い掛かる。
こうなると分かっていたとはいえ、やはりこちらの言い分すらまともに聞いてくれないのはエリシーナさんに堪えたのだろう。
軍人として連邦に忠義を尽くしてきた彼女の表情が歪んでいるだろうことが、ハッチの外に聞こえてくる悔し気な声から伝わってきた。
「さて、やるかニア。プリズムステッキは持ったな?」
「へへへ、プリズムステッキよーし! またあの、どうりょくぶ? ってやつを狙うんだろアニキ! 余裕だぜ!」
元気な声で返事をするニアを抱え、俺はホビーアイテムのメタル・ホワイトドラゴンをついに巨大化させる。
その威容は以前に見たブラックドラゴンよりもさらに大きく、おおよそ体長百メートルほどはあるだろうか。
以前は五十メートルサイズでの運用だったから、体積にすると今回は八倍差はあるだろう。
こうなると、もはや小さな要塞だな。
「な、なんだあの巨大な機体は!? いったいどこから現れた!」
「馬鹿な!? 報告にあった例のデカブツよりさらにデカいぞ!」
「ありえん、ありえん……! ありえんぞおおおおお!?」
いやー、すまんね。
こちとら神様から直接チート能力を授かった異世界人なんですよ。
調子に乗るつもりはないが、使うべきところで能力を使うことに躊躇は無いのがおっさんクオリティである。
それにしても人間スケールで能力を授けてもらった訳だが、百メートルサイズのフォルムチェンジも可能とは、いったいどれだけ神の爺さんは俺に力を授けてくれたんだろうか。
たぶんさらにデカくして首都惑星を覆いつくす、とかはできないのが与えられた力の本能的に伝わってくるけど、それでもここが俺の限界でもないことが同じように分かる。
まあ、強い分には困らないから別にいいか。
細かいことはあとで考えよう。
「いいぞーニア。どんどん撃て、撃ちまくれー」
「ラブリー・シュート! ラブリー・シュート! ……アニキ、こいつらよわい!」
「そうだな。よわいな」
まあ元々あまりにもサイズが違うし、ニアが落としきれなかった正規軍はホワイトドラゴンの尻尾ビンタで墜落していく。
こうなるともう、二十メートルサイズのウェポンアーマーがいくら群がろうが、もはや竜に群がるアリである。
これには正規軍も二の足を踏み、あまりにも現実離れした光景に悲鳴を上げながら逃亡する個体も現れ始めた。
うーん、哀れである。
「お嬢様、今の内です! 陛下の御前に直接向かいましょう」
「あ、ああ……。しかし、やはりハセガワは切り札を残していたようだな……。前回の力が全力ではないと予想はしていたが、まさかここまでとは……。ふっ、さすがは英雄といったところか。手下となった私も鼻が高いよ、本当にな」
そんな声がホープ・セブンのスピーカーから聞こえてくる。
まあ、全力かどうかで言えば、まったく全力ではないね。
というか俺の全力がどこにあるのか、その辺のラインもまだ不明なままであるからな。
現時点の理解度では、時間を止める剣が創れないことは分かっているとか、その程度である。
地球に帰ったら少し検証してみるのもいいかもしれないなと、俺は散っていく正規軍を見ながらのんびりと考えるのであった。




