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第57話 電撃作戦を提案した日


「お父様!」

「エリシーナ? こ、これはいったい……」


 医療ポッドの中に現実改変ポーションをぶち込んで一分が経つと、意識不明の重体だったサンダリオン侯爵が目を開ける。

 また、医療ポッドに搭載されていたAIはこの状態を完全な健康状態と判断したのか、そんな馬鹿なことがあるかと驚く周囲の医者たちを他所に、「治療完了」のサインと共に侯爵をポッドから吐き出す。


 うんうん、ご無事なようでなにより。


 とはいえ少し困ったな。

 一応、こうして依頼通りに五体満足で復活させた訳だが、さて、これからどうしようかね。


 俺の力は別銀河にある未知の超科学ということで決着をつけてもいいが、このあと転移能力で侯爵を王家へと運ぶとなると、色々俺の嘘がバレる可能性がある。

 確か以前はなんらかの亜空間航行事故が原因でこちらへワープしたと説明したが、その件について疑われるのは避けられないためだ。


 でもその情報バレが一番確実で、もっとも安全な解決手段なんだよね。


 そう考えて顎に手をやりうむむと唸っていると、父親である侯爵に駆け寄って体を支えていたエリシーナさんが、俺とニアに向き直りお礼を述べてきた。


「英雄ハセガワ、そしてニア。よくぞ父上を救ってくれたな。サンダリオン侯爵家令嬢の名において礼を言うぞ。この事件が無事に片付いたその時には、決して侯爵家の名に恥じないよう恩に報いると誓おう」


 いや、それは良いんですけどね。

 問題はその事件とやらをどう解決するかなんですよ、とは言えずに少々言葉に詰まる。


 一応軽く頷いてはおいたが、しかしこのまま侯爵が直談判用のデータを持って宇宙船を出発させても、前回の二の舞になる気がしてならない。


 それでは元も子もないということで、挨拶を聞き流しながらしばらく。

 うーんとか、ぐぬぬとか、内心で色々と唸りながら考えていたところ、俺は一つの決心をした。


 それはある意味でヤケクソになったとも言える判断だが、転移能力を直接知られるよりもだいぶ良いだろうと思っての結論だ。

 おそらく、これ以上の答えは今の俺に出せそうもない。

 ようは転移能力を誤魔化せるような条件さえ整えばいいのだ。


 俺が任意で好きなところに出現できるとさえバレなければ、あとはどうとでもなるだろう。


「しかし貴殿らの技術力は本当に素晴らしいな、この件が終われば是非とも我が……」

「よし、決めました」

「……んん?」

「俺が直接サンダリオン侯爵家艦隊を護衛するので、敵の用意した包囲網ごとぶち抜いてしまいましょう」

「な、なにい!?」


 父親を救われたエリシーナさんが気持ちよく語っていたところ申し訳ないが、もはや悠長に構えている暇はない。

 俺は驚いている周囲をあえて無視しながら、今回実行するための作戦を淡々と説明する。


 今回の作戦はこうだ。

 まずは包囲している貴族や宇宙海賊たちに足取りを捕捉されないよう、なるべくレーダーに映らないような小型艇で亜空間航行を実行する。

 そして単騎突入した亜空間航行中の小型艇に、俺が別銀河に伝わる謎技術ということで船を首都惑星の大気圏上まで加速させ、一瞬で不法侵入しつつも王様のところへ直接乗り込むという寸法である。


 この作戦のミソは転移ではなく加速であることだ。

 亜空間航行中にのみ可能な加速だとすれば、情報バレは最小限で防げるだろう。


 そしてもちろん大気圏上に急に出現するため、旗艦や戦艦といった三十キロから十キロメートル級のバカでかい宇宙船には乗りこめない。

 それこそ惑星と宇宙ステーションを行き来する、小回りの利いた小型艇でなければならないのだ。


 しかし、いやー、見事な電撃作戦だね。

 一歩間違えれば爵位の剥奪どころか、銀河連邦という集まりに対する反逆罪として処刑されてしまうだろう。


 まあ、実際はそうはならんけども。

 なにせ本当にまずそうな状況だったら、もう俺の嘘がバレるのも厭わずその場で異世界転移するからね。


 なんならサンダリオン侯爵家の人達全員を別の世界に移住させても良いくらいだ。

 俺にはそのくらいの覚悟がある。


「そんなことが可能なのか!? し、しかし! 陛下の御前に直接ワープなどすれば、首都惑星の正規軍が私達を迎撃するぞ!?」

「もちろん想定済みです。予想される戦闘の全ては俺たちにお任せください。正規軍を生かしつつも蹴散らしてみせますとも」

「な、な……!?」


 そう言って笑った俺の様子に、あんぐりと口を空けながら二の句を告げられなくなってしまったエリシーナさん。

 どうやらあまりにも常識外れの作戦に対し常識の観点から見れば否定したいが、だがもし問題を解決させるなら、これ以外の方法は限られていると知っているが故の葛藤なのだろう。


 そんな感じで口を空けたり閉じたりしながら悩むエリシーナさんの背中を、サンダリオン侯爵は軽く叩き、真剣な表情でこの作戦を肯定する。


「お前の葛藤は分かるが、たまにはこういうのも良いではないか、エリシーナよ。どうせ我々は彼が居なければ既に詰んでいたのだし、全ては今更だよ。ならば今一度、この英雄に全てを賭けてみようと私は思っている」

「しかし……。いえ、そうですね。お父様の言う通りかと」

「うむ」


 おお、いざという時の思い切りが良いな侯爵さん。

 先ほどは失敗してしまったようだが、さすが即断即決で直談判をしに行っただけのことはある。


 だが、そうと決まればさっそく出撃の準備を始めよう。

 敵は刻一刻とこちらを追い詰めてくる訳だし、もはや悠長なお喋りはしていられない。


 そう思い侯爵に声をかけようとしたところ、傍らに待機していた特殊部隊さんから予想外の答えが返ってきた。


「いえ、準備は既に完了しております英雄殿。侯爵家の私有地で保有する発着場にて、最新型軍用小型宇宙船『ホープ・セブン』が待機しております」


 おお、さすがデキる男は仕事が早いね。

 もしかして俺と侯爵家の話の流れから、こうなるだろうことを予想して裏で準備していたのかな?


 そんなことを思っていたところ、内心が俺の顔に出ていたのか、特殊部隊の彼はニヤリと笑いつつ肯定をした。


「その通りですよ、英雄殿。我々としても既に状況が詰んでいるのは理解できています。故にあなたの話を聞いてこれしかないと、私の独断で準備を進めさせていただきました。申し訳ありません、お嬢様」

「いや、良い。むしろよくやった。さすが父上が一から育て上げた自慢の暗部である。褒美は追って取らせる故、期待しているとよい」

「御意っ!」


 そうかそうか、独断であるが故にここまで準備がスムーズだったのか。

 さすが忍者っぽい恰好の特殊部隊さん、あまりにも有能である。


 しかしこれでようやく準備が整ったな。

 予想される戦闘は新しく入荷したメタル・ホワイトドラゴンに頑張ってもらうとして、今回はさらに魔力供給用の魔法石もある。


 神の爺さんから話を聞いた時は、まさか銀河連邦内部でのゴタゴタだとは思ってもみなかったけど、なんとか準備が足りていそうでよかったよ。


「んじゃ、ここはひとつ暴れてやりますか」

「おおー!」


 うむ、今日もニアは元気だね。

 難しい話をしている時は暇そうにしていたが、よく分からないけどアニキが戦うと知ってテンションはやや高めのようである。


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