第56話 実は身から出た錆だった日
それからしばらくして、現状について詳しく聞いてみると、凡その状況が掴めてきた。
その中でもとびっきりに緊急を要するのが、銀河連邦の裏切者とされたサンダリオン侯爵への責任追及問題についてだ。
なんでもこの裏切者疑惑により、現在は領都惑星を含めたサンダリオン侯爵領の管理宙域、その全ての所領権利が凍結されかけているのだとか。
このままでは事態は一向に改善されず、大貴族としての爵位をはく奪されるのも、もはや時間の問題らしい。
いったい何が起きたのかと俺は困惑したが、そもそもの発端は俺が提供したメタル・ブラックドラゴンのあり得ない性能と、これまた異常なまでの戦果が原因だった。
帝国軍と小競り合いを続ける前線で、縦横無尽に無双するドラゴンを見たとある貴族は思った。
あの未知の技術で活躍する異常機体は、いったいどこから手に入れたものなのだろうかと。
あれは確実に銀河連邦の所有する技術ではない。
きっとサンダリオン侯爵は何かを隠しているのだ。
いや、もしかしたら帝国と繋がっているのかもしれんぞ。
なに、それはいかん、国王陛下にもお伝えせねばならんな。
などなど、噂には尾ひれがつき周囲の貴族に広まっていく。
それはもう、サンダリオン侯爵だけが所有しているドラゴンの活躍も相まって、人の持つ嫉妬と共に異様な速度で伝搬したのだ。
しかし当然、サンダリオン侯爵とて座して待っていたわけではない。
こんな根も葉もない噂で難癖をつけられ、不要な責任を追及されてはたまらないからだ。
故に、俺から譲り受けたという証拠を示すため、取引のデータや監視カメラの映像、そして何よりコロニーでの戦果を材料に直談判しようとした。
だが人の嫉妬というのは恐ろしいもので、噂が広まった頃にはもう、全ての包囲網は固まっていたのだった。
国王陛下へ証拠と共に直談判しようと亜空間航行する侯爵の宇宙船を、まるで狙ったかのように周囲の宙域に隠れていた宇宙海賊たちが襲撃した。
もちろん、全て侯爵の功績に嫉妬し、あわよくばかの機体の権利を我が物としようとする、愚かな貴族たちの指金である。
「そして結果は、……まあ、お察しの通りだ。父はギリギリで命を繋ぎとめたが、それでも護衛も最低限しか連れず急いでいた侯爵軍に対し、あの数の海賊団は数が多すぎた。あれほどまで多勢に無勢で、よく死ななかったものだよ」
対峙したのは侯爵の乗る十キロメートル級の戦艦一隻に、同じサイズの護衛艦三隻。
対して海賊の質はともかく、数はその五倍はあったという。
準備が整った全力の侯爵軍ならともかく、速度重視で急いでいた彼らにこの戦力差は、さすがにキツい。
それでも徹底抗戦した侯爵軍は最終的に海賊団を撤退に追いやるものの、護衛艦三隻は半壊。
そしてメインターゲットとなっていた侯爵の乗る戦艦に関しては、なんと丸ごと宇宙の藻屑となり、乗組員は命からがら脱出艇で領都惑星に引き返したのだとか。
そして最後まで乗組員の脱出を優先してその場に残り、かなり逃げ遅れていた侯爵は深手を負い、今は侯爵邸に併設された医療ポッドで意識不明の重体なのだという。
つまりこのまま侯爵が目覚めずに敵の貴族たちを自由にしたままでは、侯爵の命どころか、裏切者としてサンダリオン侯爵家に連なる者達全ての危機に繋がる訳だ。
話を聞き終えた俺は思ったね。
ああ、これはまずい。
だってこれ、結構な割合で俺の軽率な行いのせいじゃんと。
こりゃあ責任もって事態の収拾に勤めないと、俺を信じてチートを授けてくれた神の爺さんに合わす顔が無い。
なお、もちろん俺には侯爵の負傷を一発で癒す手段も、なんなら国王陛下とやらの場所まで一瞬で転移する移動手段もあるため、問題を解決することそのものは容易い。
もはや情報の漏洩を恐れて力を隠している場合ではないので、俺は最低でもエリクサー並みの現実改変ポーションを投与する予定である。
これで少しは状況がマシになるはずだ。
そう思い声をかけようとしたところ……。
「あ~、エリシーナ少佐。そのですね……」
「いや、皆まで言うなハセガワ殿。……いや、英雄殿。貴殿の行いには間違いなど、何一つとして無かったのだ。間違っていたのは我々侯爵家の油断と驕り。そして他人の功績を妬んだ、周囲の貴族たちの器の小ささだよ。貴殿は決して、自分を責めてはいけない」
いや、違うんですよ。
そういう話じゃなくて、ちょっとチートでパパっと解決するだけなんですよ。
しかし説明を終えたエリシーナさんは頑なに俺の謝罪、……と思っている言葉を拒み、なかなか会話が続かない。
ええい、こうなったらコミュニケーションを抜きにして、直接侯爵の医療ポッドにポーションを投下してやろうかと思ったところ、ここで再びニアが動いた。
「なーにやってんだ舎弟四号! いいからアニキの話を聞け! アニキは世界最強の戦士にして、無敵の大魔導士だぞ! ぜんぶ魔法でパパっと助けてくれる!」
「なっ……。ま、魔法だと? いったい何を言ってる……?」
「四号は魔法を知らないのか? 貴族なのに変なやつ。でも、魔法っていうのはこれだぞ、うにゅにゅにゅにゅ…………、えいっ!」
そして突然、創水の詠唱魔法を唱える魔法少女こと、プリズムスレイヤーニア。
覚えたての呪文は持たせていた魔力供給用の魔法石の力により、見事に効果を発揮して目の前に直系十五センチくらいの水球を作り出し、浮かべてしまった。
ふむ、なるほど。
緊急時にはこうやって実演してみせれば説得力があったのか。
先ほどに引き続き、ニアの思い切りの良さには見習うべきところがあるな。
またもやナイスファインプレーである。
「は、はぁ!? お、お前!? いや、ニア! いったいどこからそんな水を作り出した!」
「へへーん。すごい? オレには魔法の才能があるって、舎弟三号が言ってたんだぜ」
「そ、そういう意味ではない! というか、その舎弟とやらはいったい何号までいるんだ!?」
以前聞いたニア情報によると、舎弟妖精と孤児軍団を含めれば百名は固いそうですよ。
いつの間にかおっさんも偉くなったものである。
いや別に、舎弟を増やそうと望んだことは無いけどもね。
「お、お嬢様、そういう問題ではありませんよ……」
「そ、それもそうだな……。すぅー、ふぅー、すぅー、はぁー。ふ、ふむ。お、おおお、落ち着いてきたぞ……。だが何より、これで英雄ハセガワがさきほどまで何を言おうとしていたのか、だいたい理解できたな」
そうしてSF世界ですら意味不明な現象を目撃したエリシーナ少佐は、色々と混乱しながらも徐々に現実を受け止める。
加えて、俺が先ほど何を言おうとしていたのか理解できたのも大きいな。
これでようやく問題解決に向けて動ける。
「まあ、そういう訳ですので。ちゃちゃっと魔法で侯爵を復活させてきていいですか?」
「はぁ……。分かった。お前という英雄がどれほど規格外の存在かというのが、よーくな。それに魔法という謎の技術も理解の外ではあるが、まあいい。解決する手段がそこにあるというなら、私は全てを受け入れ、信じるまでだ」
そうこなくっちゃね。
そうして俺はニアのファインプレーのおかげもありつつも、自らの尻ぬぐいをするべく、フルパワーで現実改変能力を行使することに決めたのであった。
なおこれは余談であるが、実際に医療ポッドへポーションをぶん投げたところ、ものの一分で侯爵は目を覚ましたよ。
さすが神の爺さんから貰った現実改変の能力で生み出された謎ポーション、素晴らしい効果である。




