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第54話 今回は準備万端だった日


 俺が丸投げしたニアの背景設定について。

 腕輪から出現したミニコが一瞬でカバーストーリを考案し披露したところ、その反応は様々であった。


 ミニコ曰く、ニアは魔法使いの世界で親を亡くした孤児であり、頼れる大人がいないスラムで毎日綱渡りな生活をしていたこと。

 裏の世界では親を失った魔法使いの子はその魔法を扱える血を狙われ、常に危険が付きまとう。


 しかもニアの両親はその界隈でも有名な、高位の魔法使いたちであった。

 それこそ、その希有な血統を狙った者達は数知れず、これまで生きてこれたのはただ運が良かっただけなのだと言う。


 そんな中で出会ったのが俺という存在で、既に魔法使いとして大成し、術理を極めていた長谷川天気はニアを保護し守り抜くと決めたのであった。


 と、だいたいこんな感じのストーリーが語られたのであった。

 スラムの孤児だったりチートおっさんに拾われたりと、絶妙に本当のことを混ぜた架空の設定であり、完璧な演技をしたミニコの口から語られると真実味が凄い。


 これには家族のみならず、ニア本人ですら「そうだったんだ……」と完全に騙され、知られざる自分の背景設定に対し、家族と一緒に沈痛な面持ちで俯いていた。


 いや、なんでニア本人がミニコに騙されてるんだ。

 ニアの両親が高位の魔法使いだったなんて設定はただの……、あれ?


 本当にそうか?

 なにせニアはエルネシアさんが認めるほどの才能を持っている。

 詠唱魔法も基礎を三か月でマスターしたし、センスは十分。

 ニアの両親が魔法使いではなかったかどうか、決め手になるものなんて無いんじゃないのか……?


 そんなことを考え、俺すらもミニコの術中にハマリかけながらも、ならついでに周囲の空気に乗っておこうとばかりに、おっさんも真剣身を醸し出す。


 おそるべきは超科学が生んだコミュニケーション特化型AI。

 地球上の全政府を手のひらで転がすミニコの話術は、事実すらも捻じ曲げかける説得力を持つのであった。


「そうか、そんなことがなあ……」

「うぅ、ぐすっ。頑張ったんだねニアちゃん! うちの天気兄ぃは抜けてるところもあるけど、いざという時は頼りになる男だよ! 存分に甘えて、頼りにしなさいね!」

「は、はい……!」


 そして父さんと妹のあられが励まし、母さんが無言でニアを抱きしめる。

 弟のあらしは空気を読んで少し黙っていたが、その表情は硬く、ニアという幼女を残して逝った魔法使いの両親に何か思う所があるようだった。


「天気兄ちゃん、ニアちゃんを最後まで守れよ」

「当然だろ。お前の兄ちゃんを信じろ」

「分かってる。でも、同じようにニアちゃんを残して死ぬようなら、俺があの世でぶん殴る」


 ようするに娘を残して逝った両親と同じように、二の轍を踏みニアを孤独にするなという激励なのだろう。

 そんなの分かってるってといいたいところだが、全て架空の話であるはずなのにミニコが無双したため、軽口を叩けない雰囲気である。


 もうちょっと手加減してくれてもいいんですよミニコさん。

 スーパーAIは確かに任務を完璧に遂行するが、毎回が過剰火力というか、オーバーキルなんだよね……。


 そしてそんな感じでニアのお披露目も終わり、今日のところは泊っていけということで、一日だけ実家のお世話になることになった。


 なおこの間、当初の質問予定であった長谷川天気魔王説なんかの疑問は、ニアのインパクトで全て吹っ飛んでしまったようだ。

 たまにちょっと話題になりかけても、まあニアちゃんを守るためには強くて損することは無いかなあ、なんていう雰囲気になりお流れになってしまうのだ。


 というより、久しぶりに会った俺の内面が家族の良く知る長谷川天気であったため、別にこいつが今まで通りなら何も問題なくね、みたいな感じだったとも言う。


 そんな感じで翌日。

 朝から別件でやることがあると説明して帰ることを宣言し、ニアをもうちょっと可愛がりたかった家族一同に見送られながら、適当なところで転移して安アパートに戻ってきた。


「ふうー、なんとかなったな。ミニコもニアも良くやった。疲れたか?」

「そんなの全然だったぜアニキ! それよりも霰姉ちゃんと嵐兄ちゃんが優しくしてくれて良かった!」

「そうかそうか。ニアが楽しかったなら良かった」


 どうやらうちの家族に大歓迎されたことがニアは嬉しかったらしく、当初の緊張はどこへやら、もうすっかり両親や弟妹になついてしまっている。


 まあ、もともとニアは俺の腹筋の上で寝転がるくらい人懐っこいからな。

 一度心を許して安心すれば、こんなものなのだろう。


 またそんな人懐っこい幼女を良いことに、うちの家族も余計に甘やかすものだから、帰り際にはニアだけでも置いていかないかとしつこく強請られて困ったよ。

 たった一日だけで、どんだけ仲良くなってるんだと言いたいところである。


「それよりもマスター、そろそろ旅の準備をしませんと。私は人形たちの遠隔操作があるため、向こうの世界までついて行けないのですよ。そこのところ分かっているのですか?」


 いやー、実際そうなんだよね。

 ミニコにもSF世界がきな臭いかもしれないと相談し、準備万端の状況で転移することは伝えている。


 だが最近頼りにしているミニコは地球から離れられないし、恐らくトラブルが予想されるだろう向こうの世界では、俺が単独で対処しなければならないのだ。


 本来はそれが当然であるとはいえ、久しぶりに相棒であるスーパーAI無しでトラブル解決というのは、少し心細い気もする。

 いやー、ほんと、慣れっていうのは怖いね。


 いかにミニコが頼りになっていたのかと分かる思いだよ。


 そうしてSF世界で必要になるであろう各種アイテムを揃え、一週間の準備期間の後にようやく俺とニアは向こうの領都惑星、サンダリオン領へと転移する用意が整うのであった。


 なお、今回用意したのは肉体の大部分を失うような欠損すら完全回復させる、エリクサー並みのポーションがいくつか。

 そして魔力が存在しないSF世界でも奇跡が起せるよう、自ら魔力粒子を生産しため込む性質になるよう現実改変した、ホビーショップで売られていたプラスチックの宝石たち。


 それと再びウェポンアーマーと戦闘になることを懸念して、今度はメタル・ブラックドラゴンに変わり、メタル・ホワイトドラゴンを用意した。


 なんでもこのホワイトドラゴンは前回と同じく、流行りのカードゲームのエースモンスターらしい。

 店員さんの説明によれば、主人公の親友が使うブラックドラゴン以上の力を持つ、いわゆる宿命のライバルキャラが使う最強モンスターの一つなんだとか。


 最終的にメタル・ホワイトドラゴンは三体融合してアルティメットとかになるらしいけど、俺はその辺はよく知らない。

 まあなんにせよ、強そうな見た目のフィギュアがあればそれで良いので、これも前回同様一万円で購入したのであった。


「よし、準備は万全だな。用意はいいかニア?」

「プリズムステッキよーし! アニキよーし! 問題なーし! うししっ」


 うん、ニアも乗り気なようでなにより。

 今回はホビーショップで購入したプラスチックの宝石、もとい時間経過で魔力をため込む特殊な魔法石もあるし、戦力的には前回以上だ。

 きっと問題ないはずだ、……と信じたいところである。


 まあ最悪、転移で逃げればいいだけからな。

 気負い過ぎず気楽に行こうか。


「それじゃあ、行くぞ。イメージよし。……転移!」



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