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第53話 実家に帰省した日


 目が覚めた時、俺は今日の明晰夢が神の爺さんとの二度目の邂逅だったことを理解した。

 それにぐっすり寝ていたために、起床時間も既にいつもの朝食の時間を過ぎている。


 ニアもなかなか起きない俺を珍しく思ったのか、寝ている俺の顔を覗き込んて、ぽけ~っと眺めていたようだ。

 うむむ……。

 いつも俺の腹筋で丸まって寝ているニアより遅く起きるとは、不覚である。


 なお、先に起きていたくせに布団から出ず、しっかり腹筋の上から覗き込んでいる状況は変わらないため、ニアはやはりいつものニアなのであった。


「アニキ~」

「おう。今起きたぞ。今日は寝坊してしまったようだ」

「うにゅう……」


 こらこら、俺が起きたとたん二度寝しようとするな。

 今更だが、俺はお前の敷き布団じゃないぞ。


 そうして再び丸くなった幼女の脇を抱え、ぷらーんぷらーんと空中で揺さぶりながら起床を促す。


「ほら、まずは顔を洗ってうがいをしなさい」

「え~、魔法で綺麗にできる~」

「魔法でもなんでもいいから、はよ」

「はーい」


 ちなみにニアは三か月間ほどエルネシアさんから詠唱魔法の授業を受けた結果、その中でも一番簡単だと言われている生活魔法をついに習得した。


 覚えている生活魔法は、種火、創水、微風、清浄である。

 簡単に言えばライターの火と飲み水とドライヤーの風が出せて、そして身だしなみを魔法で整えられるというわけである。


 さすが生活魔法、サバイバルでめちゃくちゃ役に立ちそうなラインナップだ。


 詠唱魔法の教えを受けて三か月で初歩をコンプリートできるなんて、やっぱり才能があるとかなんとか言っていたね。

 これにはエルネシアさんのみならず、ニアの保護者である俺もニッコリである。


 そうして俺は物理的に、ニアは魔法で朝のテンプレートをこなしていると、ふとした瞬間に俺のスマホへと留守番電話が残っていることに気づく。

 いったいこんな朝っぱらから誰であろうか。


 近々SF世界へ赴く予定もあるのであんまり面倒な仕事は入れられないんだが、まさか日本政府からの追加依頼じゃないだろうな。

 それだと少し困るんだけども……。


「マスター、ご両親からの留守電です。向こうの様子を電子機器を通し観察した様子ですと、マスターのことを心配しておられるみたいですよ」

「え!? アニキのご両親!? あ、あわわわ……!」

「あーなるほど。そういえばここ一年ほど顔を見せてなかったな。というか、年末年始にも帰ってないや」


 地球で起こしているイベントにかかりっきりで、実家のことをすっかり忘れていた。

 会社に勤めていたキャリアはゴッドパワーで吹っ飛んだけど、今まで稼いだ給料や家族関係はそのままだったんだよな。


 一年前は色々緊張感とかもあってそれどころじゃなかったけど、もうちょっと両親のことも気にかけてやればよかった。

 いまごろテレビで話題になっているおっさんを見て、あれ、これうちの息子じゃねーの、って思ってるんだろう。


 家族の驚いている顔が目に浮かぶようだ。


「というか、ニアはなにをそんなに慌てているんだ? なんか洗面台のほうに走って行ったけど」

「どうやらマスターのご両親に挨拶することになるとは思わなかったらしく、魔法だけではなく物理的に身だしなみをチェックしに行ったようですよ」


 ええ……?

 なにやってんだあの幼女は。


 最近はいつも、魔法でできるもんね~とかいってズボラだったくせに。

 本当によく分からない幼女である。


「あ、いまニアの正装であるプリズムキュートの衣装を取り出しました。どうやら相当に気合が入っているようですね」

「いや実況はいいから、すぐ電話に出るから両親に繋げてくれ」


 そういってミニコに頼み折り返しの電話をかけると、電話はすぐに繋がった。

 だが出てきたのはなぜか俺の妹で、電話の向こう側から母さんと弟が妹に電話をよこせといって揉めている声が聞こえてくる。


 いつも通り賑やかな家族だ。

 どうやら一年ちょっとじゃ何も変わっていないようで安心する。


 ちなみに俺には両親と弟妹がいて、俺を含めて三兄弟だ。

 弟妹は長男である俺とはだいぶ年齢が離れていて、妹が二十四歳の実家住まい、弟が二十一歳で四月から大学生四年生となる。


 俺は現在三十二歳になるので、一番下の家族である弟とは十一年差だな。

 なお家族の名前はそれぞれ、父が長谷川はせがわ快晴かいせい、母が長谷川はせがわ梅雨奈つゆな、妹が長谷川はせがわあられ、弟が長谷川はせがわあらしである。


「おうあられ、兄ちゃんだぞ。元気してたか?」

「こらー!? 天気兄ぃ! そんな暢気なこといっとる場合かぁー! あんたテレビでニュースになってるんだけど!? なんか魔王だのなんだのって、マジ!?」

「うっわ、電話越しに大声だすなよ。鼓膜やぶれる」

「いいから答えなさ……、うわ、ちょ、なにをする嵐! こら、スマホを返しな────」


 ────ピー、ピー、ピー。


 うん、なにやら妹と弟のスマホ取り合いバトルがはじまったらしく、その影響で通話が切れてしまったようだ。

 仕方ない、一週間ほどはSF世界への準備のためにあれこれとするつもりだったが、今日のところは実家に帰って顔をみせるとするか。


 まあどうせ一週間も準備に使う予定だったんだ、一日くらい誤差だろう。

 ニアも既に準備万端で魔法少女衣装に着替えて気合いを入れているし、さくっと転移で向かうとしよう。


「ほらニア、アニキに掴まれ。転移するぞ~」

「……は、はい!」

「なんで緊張してるんだ?」


 なぜかビシッと姿勢を正して腕に捕まったニアを疑問に思いつつも、俺は能力で直接実家の玄関まで転移した。

 うーん、やはり全く変わってないな。

 そもそも会社に勤めてそれなりに忙しかったし、この風景もいまとなっては懐かしい限りだ。


 香川県の自然豊かな風景に、海が近くにある解放感。

 うちの家はその中でもちょっと古めかしい感じの古民家なんだが、いざ近くまで来ると俺の住んでいる安アパートよりもデカいな。


 庭を含めた敷地面積だと、たぶんギリギリだけど俺の住んでいる安アパートが負けると思う。

 鳳家に敗北し、実家に敗北し、もはや散々である。


「おーい、帰ったぞー」

「……はぁ!? はっや! ちょっと兄ぃ、近くまで来てたんならそう言いなさいよ!」

「天気兄ちゃんお帰り~。てか、テレビの報道ってマジ? あとその幼女だれ?」


 声を上げた瞬間、縁側からドタバタと駆け寄ってくる妹と弟。

 弟の嵐なんかはニアを見て首を傾げ、なんでここに魔法少女のコスプレをした幼女がと不思議がっている。

 ただ、妹の霰は一瞬で何かを悟ったらしく、口に手を当ててあわあわと震えていた。


 まあ、レイドバトルのライブ中継のみならず、最近は超人幼女としてめちゃくちゃ話題らしいからな。

 一目見て気づいてもおかしくないか。


「おう帰ったか天気。ツユさ~ん、天気のやつが帰ってきたぞ~」

「あらほんと? あら? あらあらあら! 天気あなた、ずいぶんと若々しくなったわねぇ! 二年前に見た時はあんなに疲れた顔してたのに、いまなんて嵐と同じくらいの子に見えるわよ?」


 そして父さんと母さんが現れ、久しぶりに見せた俺を歓迎してくる。

 そういえば俺は全盛期の状態で不老になったから、仮に全盛期が二十代中盤だとすれば、確かに大学生の嵐とそう変わらないように見えるかもしれない。


 まあ、いまのところはまだ誤差だし、ちょっと元気になったくらいの判定で済むため詳しいことを話す必要はないだろう。


 それよりも俺は会社を辞めて無職になった訳なんだが、そのあたりの状況は家族にどう認識されているのだろうか。


「しかし天気兄ぃが会社にも就職せずに上京した時は、家族みんな何事かと思ったけどさ~。あれ、突然魔法使いの世界に巻き込まれたから一人暮らしを始めたんだねぇ。水臭いじゃないの、くのっくのっ!」

「ああ、そういう……」


 なるほど、いまの妹の発言でだいたい理解した。

 どうやら俺は会社に勤めていたという事実だけがスッポリと消えて、よくわからんけど上京して安アパートに住んでいた設定になっていたようだ。


 まあこれはこれで説明の手間が省けるな。

 あえて否定する理由もないし、この設定をこのまま押し通してしまおう。


 そうこうして俺は家族と再会し、未だに緊張してカチコチになったニアと、腕輪の中で周囲の様子を窺っているミニコと共に実家へと上がっていくのであった。


 ああ、そうだ。

 せっかくだからミニコにニアのことを紹介してもらおう。

 俺がこのまま状況説明すると設定にボロが出そうだし、ここはスーパーAIに丸投げしたほうが都合よく説明してくれるだろうね。


 というわけで、ミニコ、あとは任せた!


「了解ですマスター。この私に万事お任せください。完璧なカバーストーリーを考案してみせます」


 うむ、実に頼もしい。


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