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第52話 再び神と邂逅した日


 来週あたりから四月も始まろうかという、日曜の深夜。

 なんだか今日はやけに夢がくっきりはっきりしているなと思っていたら、明晰夢を受けているような感覚で、真っ白な空間に佇んでいる爺さんが見えた。


 ああ、これアレだわ。

 また何らかの用で、神の爺さんに呼び出された感じなのだろう。


「お久しぶりですね、神様」

「うむ。地球の時間軸であれば、凡そ一年ぶりくらいになるかのう」

「もうそんなになりますか」


 差し出されたちゃぶ台の上の湯飲みをズズっとすすり、ぷはぁ~と息を吐く。

 さすが神のおもてなしで出たお茶だ、とてもうまい。


 なんというか、魂に力が染みわたるみたいな感じ。

 まあ、なんの力かは知らんけどね。

 そこらへんは考えても仕方がない。


「最近はどうじゃ、楽しくやっておるのか?」

「ええ、もちろんです。神様の依頼だからという使命感はもちろんありますが、決して嫌々やっていたわけではないですよ。むしろ仲間や友人もできて、以前よりはとても充実しています」


 俺がそういうと、神の爺さんはふぉっふぉっふぉと笑い満足そうに頷く。

 え、というか何だろうこの質問は。


 俺がしっかり依頼を果たし、地球を面白くする計画を持っているのかチェックする、というなら分かる。

 だがこの聞き方ではまるで立場が逆ではないだろうか。


 むしろ俺が楽しめているかどうかの話になってしまっているぞ。


 するとそんな俺の思考を見透かしたのだろう。

 神の爺さんはちょっと困ったように頷き、理由を説明してくれた。


 なんでも力を直接与えた俺はもう神の爺さんの孫のようなものであり、そしてその力を悪用せず正しく世界を面白くする為に使っていたのも、ずっと見ていた神の視点からすれば明白。


 神の爺さんはもう十分に世界を楽しんでおり、これからどうなるのかとワクワクしながら世界管理の仕事に打ち込めているようだった。


 だが、それだけに俺という孫が無理をしていないかずっと気になっていたらしい。

 只人の身で過剰な責任を背負わせてしまったのではないか。

 ゴッドパワーで強制的にキャリアを消したが、理不尽だと怒りはしなかったのか。


 なにより、毎日ちゃんと幸せに楽しめているか。


 そんなことが気になってしまい、こうして一年が経とうかとしている時期に夢の中へ再び現れ、俺のことを直接見に来てくれたというのだ。


 この神様ちょっと優し過ぎだろ。

 もう三十数年も生きている大のおっさんが、思わず泣きそうになってしまった。


 ……いや、神の爺さんから見れば、三十数年の生なんてまだまだ幼児みたいなものか。

 うん、なら問題ないな。

 そう言うことにしておこう。


「うむうむ。幸せに生きておるなら良かった。こうして孫の顔を見に来た甲斐がある」

「ははは。大丈夫、心配には及びませんよ。これでも、いまじゃ世界中に注目されて魔王だの最強の異能者だのと言われているんですよ。それに異世界にも三つ渡りましたが、こうして五体満足です」

「ふぉっふぉっふぉ! そうじゃな、確かにその通りである」


 そうなんだよ、最初は異世界への準備とかで色々と考えることも多かったけど、いまじゃ慣れたものである。

 三度目の異世界なんて、転移条件の決め方すらプロフェッショナルだったのではないかと、おっさんなりに誇っているところだ。


 エルネシアさんという魔法講師を獲得した俺の判断を、褒めてやりたいくらいである。


 そうして再びお茶をズズズっと飲みながらも、自分の成してきた足跡を神の爺さんに面白おかしく伝えていく。

 あの時はこうだったとか、この時はこうした方が良かったかもなあ、とか。


 あとは養子にしたニアはとても良い子だったり、ミニコが頼りになり過ぎる話だったり、他にもSF世界の侯爵令嬢エリシーナ・サンダリオンさんの話なんかもした。

 直近だとエルネシア・オーリーさんとマーリン・ミニコの対立の話などが、神の爺さんにはけっこうウケていたね。


「とまあ、こんな感じです」

「ほっほっほ。なにやら楽しそうな毎日じゃのう。……して、本当は誰が本命なんじゃ?」

「……ぶふぅっ!?」

「孫の活躍もいいが、そろそろひ孫の顔も見たくなったのう? ……のう?」


 そして唐突に聞かれるひ孫の話題。

 いやまってくれ神の爺さん、その話はおっさんにはまだ早い。


 確かに周囲には美人さんも美幼女も美妖精もいるが、そういう関係じゃないんだって。

 なにせニアは年齢的に論外だし、ミニコはそもそもAIだ。

 エリシーナ・サンダリオンさんはあの世界の侯爵令嬢だから立場が違いすぎるし、唯一そのあたりの条件がフリーなエルネシア・オーリーさんだって、これからようやく夢だった先生として働く段階なんですよ。


 そんな感じで焦りながら弁明すると、神の爺さんはこれ見よがしにため息を吐いた。


「意気地がないのう。はあ~ダメじゃダメじゃ。これではひ孫の顔を見るのも当分先だわい」

「い、いやぁ、ははは……」


 そう笑って誤魔化すが、俺はかなり焦っている。

 なにせ相手は正真正銘の神、つまりはゴッドである。

 もしまかり間違ってその気になってしまえば、ゴッドパワーで強制的に事象を改変し彼女たちの心を書き換えてしまえるだろう。


 俺は神の爺さんを信じているのでそこまでの無茶はしないと思いたい。

 だがそれは神にとって人間の意思や営み、歴史や積み重ねを尊重しているからやらないとうだけであって、できないという訳ではないのだ。


 故に俺は慎重にならざるを得ないという話になるのであった。


「そんな心配せんでも大丈夫じゃよ? 孫が日々一生懸命に生きておるのに、無粋なちょっかいを出すほど神は無神経ではない。しかし、ひ孫の顔がのう……」

「だ、だだだだ、大丈夫です! いずれ、そう、たぶんそのうちひ孫の顔が見れますから! モーマンタイ! モーマンタイ!」

「じゃから何もせんし、落ち着けというとるのに」


 そうしてしばらくの間焦りながらも、パニック状態の俺がモーマンタイを連呼して事なきを得た。

 いや、そもそも神の爺さんにそのつもりは無かったみたいなので、俺の成果ではないんだけどね。


「そうじゃ。そういえば以前に訪れた二つ目の異世界。えすえふ、といったかのう? あそこの銀河できな臭い動きがあるようじゃ。しばらく行っておらんかったじゃろ? そろそろ顔を出したほうがええと思うぞ」

「ふむ……。分かりました。助言ありがとうございます」

「ふぉっふぉっふぉ」


 でもって、そんな神の爺さんと再びの邂逅を果たし。

 一年間の総まとめとして様々な話をした俺は、思わぬところで一つ、新たな助言を与えられるのであった。


 しかし、SF世界できな臭い動きねぇ……。

 なんだか嫌な予感がするが、おそらくこの予感は外れていない。


 地球上もレイドバトルというビッグイベントが終了し、最近は落ち着いている。

 いまは新たなイベントを起こすよりも、ダンジョン攻略や異能学園などといった新しい環境で、人類が地道に力をつけていくフェーズだ。


 なら少しSF世界の様子を見に行ってくるのも悪くないな。

 よし、明日起きたらさっそく準備に取り掛かることにしよう。


 そう決意したところで、俺の意識は徐々に薄れていくのであった。



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