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第48話 まず一撃を与えた日


 転移魔法陣が完全に起動し、輝く魔法陣から次々にレイドバトルの参加者が現れる。

 その中には俺が直接的に能力を付与した者もいれば、緊急事態ということで政府から銃火器を貸し出され身にまとった民間人もいる。


 一番比率が高いのは各国の軍隊で、仲の悪い国なんかはお互いにピリピリとした緊張感を放ちつつも、今だけは争っている場合ではないと前を向き敵を見据える。

 なお、事前に巨大なフロアで戦闘になることは伝えていたので、彼らの装備は単なる銃火器のみならず、戦車やミサイルランチャー、飛行するドラゴン対策に戦闘機などが一緒に転移されたようである。


 まあ、ドラゴン相手では現代兵器など通用しないだろうけどね。

 特に今回は爆発や熱に強いレッドドラゴンがベースの魔物だ。

 ミサイルなんて当たったところで、ちょっとした足止めにしかならないだろう。


 元来レイドボスというのはそういう存在でなければならない。

 現代兵器で潰されたら興ざめなので、ここらへんはワザと現代兵器に強いタイプの魔物をボスに選んでいる。


 そして最後に俺やニア、電子妖精として付き従っているミニコについて。

 日本発足の冒険者組合からはニアが超有名であり、電子妖精ミニコに至ってはなんでここに妖精が、と二人のおかげで周囲から物凄い注目を浴びている。


 そしてその陰に隠れる普通のおっさんこと俺。

 ここに長谷川天気のバックストーリーを知るものは少数であるため、めちゃくちゃ浮いてしまっているが、これは仕方ないだろう。


 ベストコンディションポーションを飲んで全盛期の状態で不老を維持しているとはいえ、俺の姿は平々凡々だからな。

 こういってはなんだが、けっこうな美幼女であるニアと人為的に作られた最高の美貌たるAIが相手では、どうあがいても勝ち目がないのだ。


「えへへ、みんなアニキに注目してるぜ?」


 アニキである俺が周囲の注目を集めていると知って、めちゃくちゃ嬉しそうに顔をふにゃらせ笑うニア。

 うん。でもその注目はきっと「あのおっさん、そもそも誰?」みたいなノリなんだよねえ。


 くう、いまに見てろよ。

 最強の異能者であると設定している、おっさんの真の実力を見せてやる。


 そうして周囲の状況を窺いながらしばらくの時が経ち、人類側がだいたい準備を整えるころになると、突然フロアの中央から巨大なドラゴンがのそりと立ち上がった。


 ダンジョンが生み出したこの異空間フロアは夕焼けの荒野を模しており、人間一人が入る岩陰くらいはありつつも、戦闘機や戦車が逃げ隠れできるような大きな遮蔽物はない。


 故に……。


「あ、あれがドラゴン……」

「おいおいおい! なんだあのデカさは!? 体長百メートルはあるんじゃないのか!?」

「ば、化け物だ! ダメだ、俺は降りるぞ! こんなデカブツに歩兵がどうこうできる訳がない!」


 ……と、阿鼻叫喚の地獄絵図になるのであった。

 軍人や異能者たちはさすがに逃げるそぶりは見せず、とりあえずこちらの実力が通用するかひと当てしてから考えよう、なんて思い踏みとどまっているみたいだが、民間人はそうはいかない。


 まだ低ランカーの冒険者や他国の民間攻略者など、ドラゴンの威容を視認しただけで浮足立ってしまった。


 そして一部の軍人達は、この逃げ腰の空気が周りのエリートに伝搬し、指揮系統が乱れるのを嫌ったのだろう。

 ドラゴンがこちらを認識したと同時に戦闘機や戦車を出動させ、一斉攻撃を放つ。


 これが地球史における、レイドボスへの人類最初の先制攻撃となるが、果たして……。


「い、いけーーーー!!」

「そこだ! やれ!」

「アメリカ軍の意地を見せてくれ! 頼む!」

「デカブツとはいえ、相手は生物だ。砲弾とミサイルの嵐に耐えられるわけが……」


 いまにも逃げ出そうとしていた大勢の民間戦士が、恐怖の象徴たるドラゴンへ立ち向かう軍人の姿に勇気づけられ、一斉射撃にエールを送る。

 だが、この攻撃は先ほども語ったように……。


「あれではダメだね」

「ええ。勇気くんがいう通り。相手の魔力は微動だにしていませんね」

「ええ? お兄ちゃんと天上さん、そんなことも分かるの!?」


 と、遠くでそんな声が聞こえてくる。

 しかし勇気くんたちのパーティーが言うように、軍人達の攻撃はドラゴンに掠り傷一つ付けずに終わっていた。


 土煙やキノコ雲でドラゴンへの視界が狭まる中、俺が自身に付与した透視能力で姿を確認してみる。

 するとドラゴンは先ほどまで寝ぼけていた状態から、度重なる心地よい衝撃で「え? 朝ですか?」みたいな感じで意識を覚醒させ、むしろ相手の強化をしてしまったようであった。


「あちゃ~」

「そう落ち込まずとも、マスター。もともとここまでは想定した通りでしたよね?」

「いやあ~、まあそうだね。でもほら、人類文明に少しくらいは頑張ってほしかったじゃん?」


 現代兵器で倒すのは興ざめであるため耐性を持たせたが、しかし効かないにしても足止めくらいにはなるかなって思ってたんだよね。

 ちょっと想定以上にドラゴンの耐久力は高かったようである。


 現実改変によって、ただでさえ硬い五十階層の強エネミーが、攻撃力や素早さと引き換えにしてさらに忍耐強くなってるからね。

 まあ、こうもなるか。


 しかしこれでは煙が晴れたら、さらなる絶望が広がりそうだなと思った、その時。


 現時点まで敵の動向を見定め、悠然と構えていたブリジット・ターナーさんが突然大声で警鐘を鳴らした。


「……!! 総員、緊急避難! 今すぐ私の周囲に集まってください! あのドラゴンから、何か特大の遠距離攻撃が来ます!」


 うん、言いたいことは分かる。

 たぶん魔力の高まり具合から、ドラゴンブレスによる遠距離攻撃をイメージしたのだろう。


 それは俺からしても間違っていないが、しかし基本的に英語で話しているからか、英語が苦手な一部の者達が内容を理解できずおどおどしている。


 一応周囲がブリジットさんに向けて駆けていくので流れには乗っているようだが、このままでは少なからず間に合わない者が出て、最悪はリタイアだな。

 いくら攻撃力調整をしているとはいえ、生身の人間がドラゴンブレスを喰らってタダで済むはずがない。


 戦車などの硬い乗り物に搭乗している人達は、たぶん問題ないだろうけどね。


 仕方ない、彼らに関しては空気の断層を作っておいてやろう。

 リタイアには変わらないだろうけど、死にはしないはずだ。


「……来ます!! 私の周囲から離れないでください! ……私に奇跡を与えたもうた慈悲の老神よ、皆を守る力をお貸しください。空間魔法、ディメンション・フォートレス!」


 ────カッ!!!


 ブリジットちゃんが空間魔法で作り出した魔力障壁を、能力の限界まで拡張した瞬間。

 視界が真っ赤に染まるほどの巨大なレーザービームが、熱という概念を持つドラゴンブレスとして放たれる。


 それはもう一瞬のことで、鳴り響いたのは爆発音というよりも、じゅわっ、という何かが蒸発するような音。

 うーん、ロマン砲。

 これぞドラゴンといった攻撃だね。


 空を飛んでいた戦闘機はさすがの速度で難を逃れ、戦車くらいになると一瞬のビーム攻撃を装甲で受け止めたようだが、予想通りブリジットちゃんの守護範囲に間に合わなかった者達は死屍累々の有様であった。


 かろうじて死んではいないだろうけど、一度撤退してポーションなどを投与しなければならないだろう。


 この圧倒的なドラゴンの戦力に、周りはしん、と静まり返る。

 うーん。

 だいたい半壊、ってところかな?

 しかし、これほどの結果をもってしても人類側はまだ諦めていないようだ。


 なにせあれほど派手な攻撃を行ったドラゴンに対し、完全にガードしきった無敵要塞、ブリジットちゃんが居るからな。

 それに……。


「負傷者の皆さん! いますぐ治療いたします! 戦闘継続はお兄ちゃんと天上さんに任せて、私が駆けつけるまで絶対に死なないでください!」


 そう、ここにはプリズムステッキ・バイオレットを持った無限ヒーラー。

 おおとり白亜はくあちゃんがいるからだ。


 彼女がステッキを振りかざすと、一定の範囲内にいる者達が次々に癒されていく。

 あのままでは完全にリタイアだと思っていたけど、どうやら人類はまだまだ粘れるらしい。


 そして極めつけは鳳勇気くんと天上さんのパーティー、ブレイバー。

 ドラゴンブレスが来る直前、どうやら勇気くんは氷の絶壁で自分達を囲い、さらに天上さんがバフを重ね掛けすることで強度を増し、自分達を完全に守っていたらしい。


 そしてドラゴンが大技を放って一息ついたタイミングで勇気くんが単騎駆けし、なんと勇猛果敢ブレイヴ・ビートのバフを受けた超人的な身体能力を以て、いつの間にかドラゴンの頭上まで駆け上がっていた。


 凄まじい判断力と行動力だ。

 どうやら冬休みの間に戦闘を重ねて、能力だけではなく戦い方そのものが成長していたらしい。


「まず、一撃目!!」

「グルァアアアーーーーーー!?」


 そしてドラゴンの脳天に直撃する、氷で出来た巨大な大槍。

 長さ十メートルもあろうかという氷の大槍は見事に決まり、脳へ貫通まではしないものの、その穂先を頭蓋に切り込ませたのだった。



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