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第45話 レイドイベントが始まりそうな日


 エルネシアさんが講師役としての就任を確実にしてからしばらく。

 現在は一月の下旬、もうすぐに二月に入ろうかという時期にて。


 なにやら異能学園の入学受付が始まったらしく、世間には受験戦争ブームが到来していた。

 当然、一般の高校入試や大学入試といった受験戦争も、例年通りの激戦が行われている。


 だが政府主導で進められている異能学園への入試志願者はその比ではないようだ。

 その志願倍率、脅威の一万倍を超えるらしい。

 募集定員が合計で三百五十枠だから、受験志願した人数は単純計算で三百五十万人ということになる。


 これは恐ろしい数字だ。

 更に補足すると、主に受験志願は魔法理論科に偏っているため、こちらの倍率はもっととんでもない倍率になっているかと思われる。


 ではなぜこうなったのかというと、それは数々の要因が考えられる。


 まず一つに、政府が保証する卒業生へ向けられた多くの就職支援。

 成績優秀者には政界や大企業への確実なポストが約束されることに加え、そうでなくともダンジョン攻略における銃火器の支給、その他攻略における手厚いサポートがある。

 これにより現役の学生ですら、異能学園への転入を考えて周囲には内緒でサイレント受験を申し込む人もいるらしい。


 二つに、魔法理論科の存在。

 現在でもダンジョンで魔物を倒せさえすれば、身体能力は徐々にだが上がっていくことが証明されている。

 それにドロップ品により信じられないような切れ味の刃物を手に入れたり、魔法の薬であるポーションで怪我を治癒させることもできるだろう。


 しかし人類はまだ、自らの力で魔法を扱うことはできていないのだ。

 それこそ自由自在魔法を扱い超常現象を起こすことは、人の夢であると言っても過言ではない。

 もちろん魔法科でちょっと学ぶだけで好き勝手使いこなせるわけではないが、それはまだ魔法を学んでいない受験生たちには分からないことだろう。

 つまり、ロマンがあるという話だ。


 そして最後に三つ、年齢制限が無いこと。

 老若男女、身分如何を問わず、国民であればだれでも入学試験は受ける事ができるのだ。

 それこそ会社を定年退職しゆったりとした老後を送っている方が、ちょっと魔法理論科で魔法を習ってみたいなぁ、なんて思ったらもう受験可能なのである。


 そのくらいの気持ちで、厳しい受験戦争を乗り越えられるかどうかはさておき。

 ともかく記念受験くらいしてみようかという人間は後を絶たないようであった。


 いやー、すごいな受験戦争。

 実際は摩天楼の五階層をクリアした民間の冒険者は推薦を受けられる訳だから、倍率はもっと悲惨なことになっていそうだよ。


 推薦枠の具体例で言うと、鳳勇気くんや鳳白亜ちゃん、天上ひかりさんなんかは五階層を突破しているため、推薦枠を利用してそのまま転校可能だ。

 というか、もう転校手続きは済んでいるとメールで連絡が来ていた。


 転校理由は攻略のサポートが受けられたりするのも要因の一つだが、それだけではない。

 政府が確約する人生エリートコース確定の優遇っぷりに、それぞれのご両親から強い圧を以て、絶対に転校しなさいと説得されるほどだったとかなんとか。


 異能学校だけで身につかない学力の方は、卒業生が望めばそちらも政府のサポートが受けられるため、今年小学六年になる白亜ちゃんが卒業後に中学生として復帰することも可能だ。


 これは高校生である勇気くんや天上さんも同様である。

 というかむしろ、異能学園を卒業していた方が好きな学校を自由に選べるだろうね。


「思ったよりやばいな異能学園。しかも倍率一万倍だし記念受験で落ちても恥は無い。とりあえず入試受けとこって人が大勢いそうだ」

「実際そのような人が大半を占めているようですよ、マスター。就学期間も二年と短く、手ごろに出世できる宝くじのようなものだと思われてるみたいですね」


 ということらしい。

 ちなみに試験内容は年齢に合わせた最低限の筆記試験に加え、重点的に体力試験が行われるとのこと。

 比重はだいたい、七割が体力テストの結果次第といったところかな。

 唯一魔法科だけは筆記試験と体力試験が半々くらいである。


 まあ異能学園はダンジョン攻略に重きを置いているからね、そりゃこうなる。


「だが出世だけを考えるなら、確かに入試によるデメリットは感じないよこれ。どうする? ニアもこの学校入ってみたいか?」


 一応推薦枠は使えるし、学校に入る条件は満たしている。

 問題はニアのやる気次第だが……。


「やだ!」

「そうか、やだか。じゃあやめとこうな」


 と思ったが、どうやらニアは乗り気ではないらしい。

 それならしょうがない、この話はナシだ。

 別にプリズムスレイヤーとしてのダンジョン攻略活動は休日に続けられるし、ニアはもともと異世界人なので地球の文化へ無理に合わせる必要もない。


 なにより、ニアは詠唱魔法の授業をちょくちょく遊びにくるエルネシアさんから、直弟子待遇で自由に受けられるのだ。


 故にニアが嫌だといえば、それ以降はもう考慮に値しないのである。


「賢明な判断かと。マスターは油断しているようですが、ニアの戦闘力と常識で入学してしまえば、おそらく第一期の在学生とトラブルを起こします。一万倍の倍率を突破して入学した人間のプライドを甘く見過ぎです」


 うむむ、確かに。

 しかもミニコの予想によると、プライドの高い入学生とニアがトラブルを起こした場合、いろいろとカオスな状況になるらしい。


 一例としては、ニアが立ち塞がる全てを滅ぼし、学生のプライドをバキバキにへし折った結果、異能学園の女帝として君臨するパターン。

 これが最も高い予測結果らしい。


「それはアウトだな。ニアに民間人への暴力行動による成功体験を積ませるのはよくない」

「その通りかと」

「心配しなくても大丈夫だぜアニキ! オレはずっとアニキのそばにいるからな!」


 うんうん、今日もニアはアニキ思いの良い子だ。

 だけどニア、心配しているのはそこじゃないんだよね。

 こうして考えると、やはり異世界のスラムで育ったニアを一人で放り出すのはナシだな。


 短時間ならともなく、少なくとも今はまだ俺とミニコのもとでゆっくり成長していくのがいいだろう。

 俺の愚行を止めてくれたミニコの助言に感謝である。


 まあ、それはそれとして。

 こうして異能学園の依頼は完遂したし、そろそろ次のイベントの準備を進めようか。


「というわけでミニコ、アレの準備はどうなっている?」

「はい、マスター。異能者協会主体で、各国政府へ非常事態を装った緊急告知を行いました。新規ダンジョンによる巨大フロアの創造と、各国のダンジョンと新規ダンジョンを繋ぐ転移魔法陣の構成も計算済み。あとはダンジョン内部に特別な巨大モンスターを配置するだけです」


 すばらしい。

 さすが超科学が生み出した最強のAI、やはり頼れる相棒である。


 ちなみに新規ダンジョンの巨大フロアは今後も使いまわすため、周囲の人間に攻略されないよう、太平洋のど真ん中にこっそり埋めてきた。

 潜水艦もなしに海底を探索できるのは現状俺だけであるため、この巨大フロアだけが用意された新規ダンジョンが発見され、そのまま侵入し攻略されることはないだろう。


 ちなみにダンジョンは外界と隔絶された異空間となっているため、海底の水は入ってこない。

 飛び跳ねた魚なんかが侵入者判定でちょこちょこ入り込むかもしれないが、内部には巨大なだけのフロアが広がっているため、きっとそのまま死んでしまうことになるだろうね。


 またそんな謎しかない新規ダンジョン内部へ繋ぐ転移魔法陣も、ミニコが座標を計算して用意してくれた。

 あとは特別な巨大モンスターを用意し、配置するだけである。


 ……え、この説明だと結局なんのことか分からない?

 それはそうだ。


 つまり俺が今からやろうとしているのは……。


「それじゃあやるか。人類の命運っぽい感じを賭けた最強モンスターへの挑戦。……つまり、全世界参加型レイドバトルイベントを!」


 なお、このイベントに死人はでません。

 だって俺がこっそり参加するし、いざとなったらボスモンスターの戦力を随時調整するからね。


 それにほら、人類の命運を賭けた挑戦ではなく、それっぽい感じを賭けた挑戦だから。

 ここ大事なところ。


 つまり、楽しいレイドボスイベントを世界中で楽しもうという訳である。



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