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第42話 エルネシアが地球に馴染んでいた日


 一月も中旬に差し掛かった頃。

 学生たちの冬休みも終わりを迎え、快進撃を続けていたブレイバーの攻略階層も十二階層あたりで落ち着きを見せた。


 ちなみに東京ダンジョンである摩天楼には、五階層まではゴブリン種、十階層まではスライム種、そしてそこから先の十五階層までは植物種の魔物がひしめき合っている。


 なおゴブリン種は武器が落ちやすく、スライム種は魔石を落としやすい。

 そしてなんと植物種は薬草やポーションをドロップするため、ブレイバーの影響でそれなりの回復素材がもたらされた冒険者組合は、日本中から物凄い絶賛を受けていた。


 曰く、医療革命の始まりだの。

 日本政府によるダンジョン政治の勝利だの。

 冒険者組合とブレイバーの活躍は、それはもう多大な影響をもたらしている。


 もちろん自衛隊の健闘も国民は忘れていないが、まあ民間人から現れたブレイバーという少数精鋭のパーティーは、分かりやすいヒーロー像だからね。

 ラノベの主人公がするような活躍っぷりに、世間ではこの天才的な活躍をするブレイバーが何者なのかという話題で持ち切りのようだった。


 当然、ここまでの活躍をすれば二人が青森県の高校生ペアだということは、ダンジョン攻略の関係上周囲にバレてしまっている。

 というより、摩天楼に出現した第二の転移魔法陣を利用していることから、もはや隠しようも無かった。


 しかし彼らの異能力の有無であったり、その異能力がどんなものなのか。

 もっと言えば、裏の事情に詳しい情報通なんかは、彼らが異能者協会の関係者かどうかなど、そういったことが気になっているらしい。


「ほへぇ~。ダンジョンで快進撃を続けるブレイバーさんたちですかぁ。こちらの世界でも勇者って居るんですねえ……」

「おや、エルネシアさんの世界にも勇者っていたんですか?」


 なお、ところ変わって現在。

 俺の安アパートに遊びに来ているエルネシア・オーリーさんは、早くもこの世界の電化製品や文明の利器に慣れつつも、ニュースを見て感心したように頷いている。


 今日は既にニアへの魔法の授業を終えていて、詠唱魔法の基礎となる、魔法言語なる不思議言語のロジックを詳しく解説してもらっていた。

 地球の文明に染まっているおっさんの俺では半分も理解できなかったが、ミニコはもちろんのこと、異世界人かつまだ子供として柔らかい脳を持つニアなんかは、どんどん理解して魔法言語をマスターしていっているようだ。


 いずれニアが簡単な詠唱魔法を発動する日も近いだろう。


 これを悔しいと思えばいいのか、嬉しいと思えばいいのか。

 まあニアにとってのアニキの威厳を損なわない程度には、現実改変の能力付与でチートしつつ、授業にこっそりついていこうと思っている次第だ。


「ええ。もちろん居ますよぉ~。勇者というのは、それはもう理不尽な存在なんです。エルフやドワーフなどの種族からは決して出現せず、勇者の運命を背負った人間種はその時点で一騎当千。しかも成長速度は異次元で、鍛えれば一国ですら単騎駆けで落としきりますからねぇ~。……そこに救いがあるとすれば、勇者に選ばれた人間に極悪人はいないところでしょうか?」


 そういった安全性がなければ、もうどちらが魔王か分かりませんからねぇ~、とエルネシアさんは語る。

 しかも性格が歪み悪徳行動を繰り返すようになった勇者は、なぜかいつの間にかその力を失うらしい。


 これは確かに安全だわ。

 エルネシアさんの異世界で生まれた勇者限定だが、ちゃんと世界の害にならないようセーフティが実装されているようだった。


 しかしめちゃくちゃ詳しい異世界勇者の情報が入ってきたな。

 さすが勇者が実在する異世界だ、ちょっと語っただけなのに情報の解像度が高くて助かる。


 ミニコもエルネシアさんの情報にふんふんと頷き、電子妖精ボディをぴかぴかと発光させて感謝の意を伝えていた。

 きっと今後運用していく勇者ブレイバーの裏設定とかに流用するつもりなのだろう。

 さすが超科学が生み出した最新型AI、仕事が早くて助かる。


「ちなみにエルネシアさんの方は、もう異能学園のポストなどは決まりました? もし何か不便があるようであれば、こちらで色々対応しますよ」


 政府側ともサブボディで繋がっているミニコの情報によると、一応採用そのものは通ったらしい。

 しかしエルネシアさんの見た目が、緑髪に碧眼というファンタジー世界のエルフそのまんまだからな。


 ないとは想うが、もし政府側が彼女を人体実験に利用しようとしたり、万が一見た目が理由で不利な条件を押し付けられているようであれば、俺は実力行使に出ることも考えている。


 まあエルネシアさんの背景設定的に大丈夫だとは思うけど。

 なにせ彼女は異能者協会に席を置く重鎮の箱入り娘であり、人類に味方する稀有な善性怪異である精霊種を祖に持つ先祖返り。

 もしエルネシアさんに危害を加えようものなら、異能者協会の半分以上は日本政府の敵になるぞと脅しているらしい。


 もちろん全てミニコの自作自演だが、このご時世、この脅しにビビらない国は居ないだろう。

 それほどまでに異能者協会とは裏から世界に影響を及ぼす組織となっている。


 基本的には過度な内政干渉はせず、なんなら政府と連携して仕事のサポートをすることもあるので、畏れられているというよりは頼られている面の方が大きいけどもね。


 だが頼られれば頼られるだけ、それだけ影響力は増すということでもある。


「えへへ、心配してくれているんですか~? ですが大丈夫ですよ長谷川さん。わたし、こう見えても人生経験はそれなりにありますし、そこそこ強いですから~」

「え~? でもオレより弱いぜ?」

「そっ、それはニアちゃんが強すぎるだけですよう! もともとわたしは近接戦闘向きではないので~。トホホ……」


 ふむ、なら心配ないか。

 異能学園は今年四月からさっそく始動するらしいので、今からエルネシアさんの活躍が楽しみである。


 余談だが、ニアとエルネシアさんは一度ダンジョン内部で模擬戦をしていて、ニアの完全勝利という形で幕を閉じている。

 なんでもニアによると第三の舎弟に教えを乞うのはいいが、しかし第一の舎弟として本当に役に立って強いのは自分だと、アニキである俺の前でアピールしたかったらしい。


 いやあ、あの時のニアの本気にはビビったね。

 周囲の安全確保のために、五階層ボス部屋から魔物を一掃してから模擬戦を開始したのだが、エルネシアさんが詠唱を始めようとしたタイミングには既に、ニアのステッキがそっと彼女の首に添えられていた。


 五階層のボスフロアってこれでも直系百メートルはあるんだけど、この広さのだいたい端から端の状況で勝負しておきながら、これである。


 これにはさすがのエルネシアさんも冷や汗を流し、「ぶ、物理的な速度と隠密の技術では、あちらの世界の帝国騎士団長や暗殺者ギルドの長よりも上かもですぅ……」とかいって涙目になっていた。


 ちょっとニアの安全の為、能力付与で魔改造を行いすぎてしまったかもしれん。

 これでニアが安全に生きていけるなら後悔は無いので、別にいいんだけどね。


 それともう一つ。

 まだまだ本気じゃないぜとかいったニアが見せた、プリズムステッキによる愛の爆殺ビームを知ったエルネシアさんは、それはもう驚愕して原理を解明しようとしていたよ。


 彼女からすれば詠唱魔法以外の魔法技術は、すべからく未知のものだろうからね。

 ダンジョンの転移魔法陣にも興味を示してたみたいだし、この世界のことにも色々と興味を持ってくれたようでなによりである。



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