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第39話 組合のホールがライブ会場だった日


「しかし、我が国にこれほどの傑物が隠れ潜んでいようとはね」


 そう言ったお偉いさんがテーブルの上の水を一口含むと、あたりに緊張感のある空気が張り詰めた。

 さすが冒険者組合の重鎮だ。

 武力的な圧力はないが、それとは別ベクトルで覇気があるな……。


 なんて思いながらも、それはそれとしてさっさと本題入ってくれ、と思わないでもない。

 なんでこうお偉いさんというのは勿体ぶるのか。

 別に今日の俺はイベントの運営予定もないし暇だからいいが、あまりニアと白亜ちゃんから目を離したくもないんだよね。


 戦力的には危険がないとはいえ、いつどこで地球の常識とは違う世界で生きているニアが、偶発的なトラブルを巻き起こすか分からないから。


 そう思って少し急かすように凄んでみると、俺の視線の何を勘違いしたのか、お偉いさんはさらに気合を入れて話の前置きを語り続けた。

 って、結局本題入らないんかい、と思った俺は悪くないはずだ。


「やはり機嫌を損ねてしまったかな? 探りを入れたことについて許せとは言わないが、しかしこちらも国家を背負っているのでね。君なら事情も分かるはずだ」

「ふむ……」


 いや別に探りを入れるのは当然だし、その件で不快に思うことはないですとは言わず、話を進める為に思わせぶりな態度で頷く。

 意訳すると、それはいいから、はよ続きを話してもらえませんか、である。

 なおこの意思が伝わる見込みは、この感じだと絶望的である。


 認識のすれ違いって悲しいね。


 それからというもの。

 頷き続ける俺に対し、お偉いさんはしばらくあちら側の事情を語り続けた。


 なんでも俺のことは調査機関で粗方背後関係を調べているが、分かったのは異能者協会に属しながらも組織のルールや枠組みには縛られず、単独行動を好むということ。

 そして異能力を眠らせた見どころのある人間を見つけては、卓越的な指導力によって才能を開花させ、驚異的な実力者を生み出していること。


 また俺本人の実力については完全なるブラックボックスであり、異能者協会の現トップである大魔導士マーリンが生涯のライバルと認めるほどの、異質なほどの才能を持つ最強クラスの異能者であるとしか分からないこと。


 その上、かの異能者協会がこれほどの異端児に枷もつけられず、これまでもずっと放置していることを鑑みるに、少なくとも協会側と一度は衝突し勝利を収めたアンタッチャブルであることは確実。

 恐らくは並みの異能者が束になっても互角にすらならないだろう、圧倒的戦闘能力が予想される。


 ……とまあ、分かったのはせいぜいそのくらいらしい。

 だがこれが分かったところで、俺という存在の力がどのくらいで、もしくはどのような力で、もっと言えばどのように振るうのか。

 そのようなことは何も分からず、結局のところ何か結論を下すには情報不足だったと言っている。


 ようするに判断材料が足りないのだ。


 だが、いやいや待って欲しい。

 やっぱりこのお偉いさん、さすがに話が長いよ。

 これだけの間で俺は、「ふむ」を二十数回は使い回している。

 もうふむふむ言い過ぎて、さすがにこれ以上は分かったフリだけをして聞き流している、何も頭に入っていないギャグみたいな人になってしまうだろう。


 うーむ、しょうがない……。

 そろそろこちらから直接的に本題を促すか。

 もう埒が明かないからね。


 何よりこのままでは俺の持つキャラクター性、最強の異能者である長谷川天気の背景設定が維持できないのだ。


「ふ、ふむ。……それで、要件というのは?」

「おっと、長々と話し込み過ぎてしまったね。君という異能者界のレジェンドに会えて、少し舞い上がってしまったようだ」


 そう言って一度仕切り直したお偉いさんは、ようやく本題に入るつもりなのか姿勢を正す。

 まあミニコから受けたカンニング情報で、本題についての内容は理解しているんだけどね。


 何を隠そうこのお偉いさん、俺をこれから設立する異能学園の特別指南役にしたいらしいのだ。

 これもまた突飛な話ではなくて、これまでの背景からちゃんと実力も実績も保証されているからこその要求。

 なんなら養子にしたニアや、弟子にした鳳勇気くんのような存在が良い例だ。


「……ということを冒険者組合のさらに上層、日本の重鎮である大臣たちが考えているらしいのだよ」

「なるほど。しかし、らしい、ということは……」

「うむ、その認識で間違いない。個人としてはこの提案には反対だ。役職上、上からの命令通りに話を伝えはするがね。もちろん、君が是非ともと言うのであれば歓迎するが……。しかし君の背景を多少なりとも洗った身としては、おそらくそうはならないと踏んでいる」


 なるほど、なるほど。

 とはいえ、人為的に異能力を学ぶための異能学園の指南役ねえ。


 興味があるかないかで言えばあるんだけども、この特別指南役とやらに就いて時間的な拘束を受けてしまえば、俺はその分だけイベントを運営する時間を失うだろう。


 つまり頷くことは決してないと言っていいのだが、だけども発想は悪くない。

 せっかく地球上に魔法学園ならぬ、異能学園が誕生しようとしているのだ。


 ここで出鼻を挫いてしまうのは、あまり面白くないな。

 さて、どうするべきか……。


 少しだけ熟考し、俺の持つ手札を一つ一つ確認していった。


 まず俺が現実改変により異能者を育成し続けるのは論外。

 理由は時間的なものと、現実改変による異能付与では真の意味で学問としての積み重ねがないから。


 そしてミニコへ完全に頼るのも、あまり喜ばしくはない。

 理由はミニコが全てを掌握し育成してしまうと、これまた人間自身による積み重ねが生まれないから。

 その結果、人々はミニコの敷いたレールの上だけをなぞり、自ら何かを生み出すことを忘れてしまうだろう。


 故にミニコの力は便利だが、あくまで裏方としての情報操作や、国家安全のセーフティのために多少干渉する程度が望ましい。


 で、最後に別の人間を異世界から指南役として連れてくるという案。

 特別指南役というのはようするに、魔法やスキルの力を教える講師役のことだろう。


 ならばそういった学問の発達した魔法学校ありきの異世界から、講師役を直接スカウトしてくれば良いのだ。

 リスクとして異世界と俺の関係性を探られる危険性があるが、これは現実改変とミニコの情報操作があればほぼ帳消しできるはずだ。


 なんなら事前に情報漏洩に関する厳密な契約を結び、現実改変の力でそこだけ実際の行動を縛ってしまえば良い。

 その上でミニコがスカウトした講師役のバックボーンを捏造すれば、万事解決である。


 うん、この案が割と良い線いってそうだな。

 そうして熟考していた状態から意識を浮上させた俺は、再びお偉いさんに向き直り結論を告げた。


「……なるほど。君の信頼する講師役の存在ですか」

「ええ。しばらくスカウトに時間は要するでしょうが、最終的には応じてもらえる可能性は高いと見込んでいます」


 本当は可能性が高いも低いもなく、失敗したなら成功するまで他の異世界を点々とするだけなんだけどね。

 まあ、そもそも転移する時のイメージの段階で、「実力はあるが日の目を見ず、くすぶっている魔法講師」という条件で異世界を探すので、たぶん一発で成功するとは思う。


 もちろん、この話は内緒だけども。


「うむ。大変よろしい。おそらくは上としても、それで納得はするでしょうな。なにせ、かのレジェンドが指南役として特別にスカウトする人材だ。これで納得しないようなら、私はもう知りませんよ。はっはっは!」


 提案にはしっかりと納得してくれたらしい。

 なんなら元々責任も何もない俺にここまで譲歩させておいて、紹介する人材に納得できないようであれば、もはや上層部のことなど知ったことかと言ってのけるお偉いさん。


 これくらい言ってくれるのなら、彼を信じてみてもいいだろう。


 そうして今日のところはお開きとなり、お互いに固い握手をしてこの場は解散となった。

 そして交渉が上手くいった俺は意気揚々と冒険者組合のホールへと戻ると、そこには……。


「プ・リ・ズ・ム! キューーーーーート!」

「魔法のステッキはちゃめちゃ冒険、ラ・ラ・ラ~!」

「イェーーーーーーーーーイ!」

「ニアちゃん最高ーーーー!」

「相棒の白亜ちゃんも素晴らしい歌唱力だぞー!」

「超人幼女コンビ、ここに爆誕だぁーーーー!」


 なぜか組合のホールが、幼女コンビのライブ会場となっていたのだった。

 今もニアが踊り白亜ちゃんが歌い、プリズムステッキを振り回して観客の冒険者を盛り上げまくっている。


 なにがどうしてこうなった。



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