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第38話 ミニコにカンニングを頼んだ日


 この度、目出度くダンジョンが一般公開された。

 いやあ、ここまで苦難の連続でしたね、っていう冗談はさておき。


 現在日本の冒険者組合は話題性にしろ実稼働にしろ、ミニコ情報によると毎日大盛り上がりらしい。

 どんな話で盛り上がっているかといえば、一つはダンジョンを日々攻略している有力者の情報。

 要するにトップランカー達の話題だ。


 日本の威信をかけた、現在最前線を走る自衛隊エリート部隊。

 鳳勇気くん率いる高校生パーティー、ブレイバー。

 ニアとおおとり白亜はくあちゃんがタッグを組み、オマケでちょこっとおっさんが混ざるパーティー、プリズムスレイヤー。


 他にもめぼしいパーティーは多く存在するが、今のところ日本最強と言われているのがこの三組のパーティーである。

 これが準最強くらいになると、一日中ゴブリンを倒し続けてレベルアップを図っている不良パーティーや、純粋に強さを求める武道家パーティー。


 珍しいところになると、運よくダンジョン内でマジックアイテムを手に入れ、切れ味増強のナイフを手に入れたパーティーなんかも存在する。


 とはいえ、まだ攻略が始まって一か月も経っていないからね。

 レベル上げによる能力上昇よりも、異能力や銃火器といった強力な外部ツールを持ている自衛隊やブレイバーが強い。


 これから先はどうなるか分からないので、ぜひ逆転を狙って努力していってほしいところだ。


「うししし。みろよハクゥア! オレたちのパーティーがランキングに載ってるぜ!」

「も~ニアちゃん。皆がいるギルドで大声だしたら、個人情報もれちゃうよ?」

「個人情報ってなに?」

「ええ~、そこから~?」


 なお、俺たちプリズムスレイヤーは現在、冒険者組合の上層部に呼ばれ、摩天楼付近に建設された組合の本部に来ている。

 ここではトップランカーの最新情報を確認できる掲示板や、パーティーを募集する冒険者たち、そしてダンジョンで発掘された武器防具にポーションなどのアイテム類が取引される情報の密集地帯だ。


 ちなみになぜ俺たちが呼ばれたのかは不明。

 ミニコに聞けば教えてもらえるだろうけど、別にルール違反を行った覚えはないので、自然体を維持して冒険者組合の待合室でのんびりしているところだ。


 ああ、それと。

 白亜ちゃんが兄である勇気くんのパーティーではなく、俺のパーティーに入っているのは、ダンジョン内の危険から白亜ちゃんを確実に保護しながら冒険するためだ。


 勇気くんと天上さんらは同じ異能者として、土日祝日あたりに無理せず自分の腕試しとしてダンジョンに挑戦していくらしいのだが、白亜ちゃんはそうはいかない。


 なぜなら勇気くんとは違い異能力があるわけでもなく、ただプリズムステッキ・バイオレットという強力なマジックアイテムを持っているだけだからだ。

 一応ステッキは以前より強化していて、回復魔法に加えて緊急時に個人用のシールドが展開できるようになっているが、それだけである。


 こんな装備だけでぐんぐん攻略していく高校生二人組についていける訳がない。

 万が一ダンジョン内部で逸れでもしたら、その瞬間詰む可能性すらあるからだ。


 というわけで俺がニアと一緒に白亜ちゃんをパワーレベリングしているのだが、うーん、もしかしてその件で組合に呼ばれたのだろうか。

 冒険者になるのに年齢制限は無いとはいえ、小学生くらいの幼女を二人も連れておっさんがダンジョン攻略は外聞が悪かったか?


 ……いやー、でもなあ。

 政府の運営方針としては、ダンジョンからいつ魔物が溢れてくるかも分からない現状、少しずつでもレベル上げをして自助努力をすることはむしろ推奨されていたはず。


 なにせ鍛えてない一般人からしてみれば、四階層のホブゴブリンエリートが市街地に発生しただけで、大人だろうが子供だろうが抵抗する術などないのだ。

 ならせめて自助努力を怠らず、安全に配慮してレベル上げをするのは悪ではない、なんて理屈を押し通し一般公開に踏み切った経緯がある。


 まあ最低限、小中学生は保護者である大人同伴を義務づけられているけども。


「予想が外れているといいなぁ~」


 トップランカーが張り出された掲示板の前で、 わちゃわちゃと盛り上がる幼女ペアを眺めながら、俺はそんなことを独り言ちた。

 そんな目立ちまくる幼女を見た周囲からは「あれ超人幼女じゃね?」とか、「ニアちゃん本人!? ……ペアの幼女は誰?」とか、「プリズムスレイヤー、伝説の三人目のメンバーがあの子ということか」などという話がこそこそ聞こえてくる。


 どうやら以前投稿したニアによるフロアボス蹂躙動画が、かなり拡散されてしまったようだ。

 今やプリズムスレイヤーはアイドルもかくやというほどの人気ぶりで、ニア本人とその兄であるアニキなる人物、そして幻の三人目は誰なのか、なんていう考察がネット上で議論されているらしい。


 せっかく白亜ちゃんをダンジョンでパワーレベリングするのだから、ニアの活躍を記念に残してあげようと思っただけなんだけど、どうにも劇薬すぎたな。

 といっても、しばらくは五階層から先に進む予定はない。


 前にも言ったが、俺やミニコが無双してしまったら興ざめだからだ。

 もちろん、ニアの攻略もそれと同じ。

 なので白亜ちゃんの兄である勇気くんの攻略階層は絶対に超えないよう、トップランカーより若干手前くらいの階層でお茶を濁していく予定である。


 そんなことを考えながら、冒険者組合から呼び出しがあるまで待合室でボーっとしていると、ようやく俺の名前が呼ばれた。

 どうやら呼び出しを受けているのは俺個人だけらしく、掲示板付近で盛り上がっている幼女ペアの名前は呼ばれていない。


 まあ、予想通りなら新進気鋭の幼女ペアに紛れ込んでいるおっさんの身元を確認するだけだろうし、俺個人が呼ばれるのは納得かな。

 ニアに関しては俺の養子としてミニコが戸籍情報をいじって対応しているが、なにせ俺は無職だ。

 ニアが怪しまれなかったとしても、俺が怪しまれる理由には事欠かないというわけである。


 そんな感じで、とりあえず俺は事務員の人に案内されるがまま、組合のお偉いさんと対面するのであった。


「……座り給え」

「はいはい、どうもです。で、用件はパーティー構成についてですかね?」

「うむ。まあそれも間違ってはいない」


 そしていざ対面したのは、目つきや雰囲気がギラギラとした壮年の男性。

 武力面で強靭というよりは、どちらかというと社会的立場の高い人特有の覇気のようなものを感じる。


 例えば大企業の役員とか重鎮とか。

 とにかく組織を背負い人の上に立つ、みたいな感じの雰囲気を持つ男性だな。


 しかしパーティー構成についての話し合いではないとすれば、いったい何の用だというのだろうか?

 ちょっと皆目見当もつかないので、このお偉いさんに話の主導権を握られる前に、ミニコの腕輪を軽く叩き正解を教えてもらう。


 すると帰ってきた答えはというと……。


「……ああ、なるほど。俺の正体がバレましたか」

「さすがに頭の回転が早いね。異能者協会の異端児、長谷川天気殿。……いや、大魔導士マーリン殿と双璧を成す、日本の天才異能者と言った方が良いかね?」


 いやいやどうも~、なんて言える雰囲気ではないが、カンニングしたので話の筋は見えている。

 どうやらミニコの回答によると、政府とマーリン・ミニコが交流を重ねる上で、勇者ブレイバーである鳳勇気くんがどういう存在なのかという調査が入ったらしい。


 そこでどうしても師匠である長谷川天気の話が隠し通せず、勇気くんの家族から俺がどういった立ち位置の異能者なのかというカバーストーリーが漏洩してしまったとのこと。


 そう、カバーストーリーが漏れたのだ。

 別に俺の本当の背景が知られたわけではない。

 まあこんなもの知りようがないけど。


 だって神の爺さんが夢に出てきて、地球を面白くするために現実改変能力を貰い異世界を行き来していますなんて、誰も想像すらできないだろうからね。

 とりあえずそんな訳で、俺とマーリンの関係という創作設定を追った政府は、冒険者組合を通じて接触を図ってきたというわけである。


 しかし本当に良かった。

 もし俺が幼女ペアを囲った謎のおっさんみたいな話を切り出されたら、言い訳に苦労したからな。

 だってパーティーにおっさんが混ざっているのは、本当のことなんだもの。


 なにも犯罪には手を染めていないとはいえ、世間一般の目や偏見からは逃げようがない。

 ほんと、異能者協会繋がりの案件で安心したよ。


 ありがとうマーリン、ありがとうミニコ。

 情報操作のおかげで俺は社会的に救われた。



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