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第28話 ダンジョンを公開した日



 一つ目の異世界からダンジョンコアを回収してきて、およそ一か月が経った。


 目下課題であったコアの輸入については、未発見のコアが想定より多く眠っていたので、数はそれなりに集まっている。

 たぶん十数個くらいかな。

 まだまだ未発見のコアは数多くあるっぽいので、そのうち気が向いたら輸入する予定だ。


 魔物が跋扈ばっこする異世界では人類が生存できる区域が狭すぎるのか、どうやら自分たちが生きるので精いっぱいで、人々の余力的にダンジョンコアを探せる段階にはないみたいだね。

 現地の人達から魔境とか大森林とか呼ばれている大陸の森では、まだいくつもの未発見コアが眠っていたよ。


 しかし向こうではダンジョンが自然発生するとはいえ、異世界にとって鉱山や資源ともいえるのがダンジョンだ。

 未発見コアを全回収するとかいう遠慮のない行動をとってしまうと、いつか資源に困った異世界人の方々に申し訳が立たない。


 なので、大小合わせてまだまだ数百個近くあるだろう未発見ダンジョンコアのうち、十数個くらいを拝借してきたというわけである。


 とりあえずこのくらいあれば、地球上にもまんべんなくダンジョンを発生させることができるだろう。

 なお、国ごとにダンジョンを配置するとかいう真似はしない。


 大陸の面積あたり大まかにダンジョンの数が平等になるように、くらいの気持ちでこの一か月埋めてきた。


 もちろん俺は日本在住の日本人なので、一つは日本の東京に埋めてきているけどね。

 計算上、日本の土地面積だとダンジョンコアを埋めるには値しないのだが、まあ日本政府には色々と便宜を図って貰ったしな。


 というか、あの人達はマーリンの言葉を信じて緊急記者会見をしてくれたりと、一時は世界から白い目で見られたりしつつ、大いに負担をかけてしまった。

 自国にダンジョンが一つあるくらいの役得があってもいいだろう、と俺は思っている訳だ。


 そんなわけで、世界中にダンジョンを埋めてきて一か月が経った現在。

 俺はニアとリビングのテレビを見ながら、今朝午前一時前に東京の品川区の東京湾付近にて、巨塔を模した正体不明の建造物、つまりダンジョンが突如発生したというニュースをのんびりと見ていた。


 品川区のダンジョンは高さ一千メートルにすら届く巨塔型で、現れる魔物の種類は多種多様。

 塔の階層ごとに魔物の種類が変わり、内部の環境も含め魔物がより強力になっていくタイプのダンジョンである。


 ちなみにこのダンジョンは一か月間ずっと魔力をため込んでいて、さっき行き成り地面から生えるようにして出現した。

 まるで巨大なタケノコみたいなダンジョンである。


 なお、周辺住民はマーリン・ミニコがダンジョン出現予想地点を政府にかけあっていたため、既に全員退去済みだ。

 ダンジョンが出現するくらいで無駄な死人が出るのは避けたかったからね、当然このくらいのことはする。


 一部の海外はそうすんなりと交渉が進まず、いくらかダンジョンに潰されて亡くなった人もいたらしいけど、日本人はこういう時の連帯感がすごいからなあ。

 まあ、良い意味で連帯感、悪い意味では同調圧力ともいうけども。


 そんなこんなで今朝に現れた巨塔型ダンジョンのニュースが流れ続け、ネットもテレビもSNSもその話題で日本中が持ち切り。

 今も政府の緊急記者会見の様子やら、番組に集まったコメンテーターやらが、ダンジョンについてあることないこと話し合っているのを見ているところである。


『えー、今朝一時頃。東京都品川区に出現した未確認建造物。通称、摩天楼なんて呼ばれている建造物についてですが、ゲストの大山さんどう思われますか?』


 へえ~、と思わず感心する。

 今朝出現したばかりなんだけど、もうあのダンジョンの名前がついてるんだな。

 摩天楼ってちょっとカッコいいじゃん。


 たぶんミニコの活動で、既に地域住民がどんなダンジョンが生まれるか情報が行き渡っていたからこそ、事前に取り決めていた名前なんだろうけどね。

 とはいえ、それにしても情報の決定と共有が速いと思う。


 なんでもかんでも腰の重い日本とは思えないアグレッシブさだ。


『どう思う、ですか? そんなの侵略に決まってますよ。それもこれは宇宙人による侵略です。政府は異能者だの怪異だのと馬鹿な情報操作で誤魔化そうとしていますが、そんな訳がない。あのような建造物を一夜にしてですよ? 少し変な力を持った人間やバケモノが関わったくらいで、創造したりできると思いますか? ありえないんですよ、そもそも前提が!』


 ふむふむ、どうやらこの大山とかいうよく分からない出自の専門家は、ダンジョンを創造したのが宇宙人であると認識しているらしい。

 宇宙人うんぬんについては見当はずれな意見だが、異能者や怪異が生み出した建造物ではないとあたりをつけた部分は偶然にも正解である。


 すると俺の横で朝食のウインナーをぽりぽり食べていたニアが、この大山氏に向けてなにか物申したいことがあるらしく、むすっとした顔で意見を出してきた。


「ふぅ~。やれやれ。このおっちゃん妖精は何もわかってないぜ。世の中には自分の知らないことがたくさんある。まずはあり得ない話でも、そうなのかもしれない、って否定しないことが視野を広くもつコツなんだぜ。……この妖精はテレビに封印されてるから、もしかして世間知らずなのかな?」


 うおお、なんだお前、本当にニアか!?

 急に宇宙の真理を悟ったような賢さ見せるじゃないか。


 今のニアって、もしかして俺より成熟しているのではと思い冷や汗を流すが、すぐに「ミニコがそう言ってたぜ!」とか言って褒めて褒めて~と頭をこすり付けてきた。

 なんだよ、ミニコの受け売りかよ。

 本気で焦ったじゃないか。


 そうして上手に受け売りを使いまわせたニアに、良く出来たぞ~と甘やかしつつ、しばらくすると。

 緊急特番のダンジョン番組が終わり、なんと次はダンジョン攻略の第一部隊が突入するとの情報が流れてきた。


 なんでも、陸上歩兵としてフル装備の自衛隊がダンジョン内部に入り込み、脅威レベルの調査や攻略を目指すらしい。

 流れてくる映像では、突入部隊である十数名がダンジョンの入り口を警戒しながら調査しつつ、一人、また一人と内部へ入っていく。


 この人数は軍隊として運用する自衛隊では少ないように思われるかもしれないが、彼らの中でも選び抜かれたエリートだけが突入することで、無暗に人的被害を齎さない意図があるらしい。


 もし少数精鋭であるエリート部隊の彼らが探索に失敗すれば、ダンジョンを封鎖することも考えているのだとか。

 まあ、仮に彼らが全滅したとしても、俺が封鎖はさせないけどね。


 しかしそれは杞憂だろう。

 よほど無理をしてダンジョンの奥地へと進まなければ、最初のモンスターは異世界でも最弱付近に位置するゴブリンが相手である。


 銃火器はもちろん通用するので、人的被害がでることは早々ないだろうな。

 調子に乗って進み、五階層のボスフロアまで行くと話は変わるけども。


「ボスフロアには確か、ホブゴブリンエリートや、ゴブリンパラディンがいたんだっけかな?」

「ええ、その通りですマスター。優秀なマーリン・ミニコが調査してきた様子ですと、おそらくパラディンに銃火器は通用しません。攻撃力が足らないのです。よしんば飽和攻撃でパラディンを足止めできても、周囲のホブゴブリンエリートが自衛隊に殺到し皆殺しにされるでしょう」


 ということらしい。

 まあ、敵だって徒党を組んでいるからね。

 ゴブリンパラディンだけ倒せたって、それに時間をかけてたら取り巻きにぐちゃぐちゃにされるのがオチだ。


 あのボス戦で大事なのは、一人一人がホブゴブリンエリートの猛攻を回避するか防御するかできる、素の身体能力だ。

 つまりダンジョン攻略で少しずつレベルアップして挑めという話であり、武器の火力に頼ってずんずん進んだら痛い目に遭うよ、という訳なのである。


 基本的には、自衛隊の装備ではそもそも途中で引き返すことになるとは思うけど、その辺は彼らの正しい判断を祈るのみだね。


 そんな感じでようやく、世間に向けたダンジョンデビュー初日の幕が上がったのだった。



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