第27話 祝勝会をした日
「えー、それでは。イベントの成功を祝して、かんぱーい!」
「かんぱーーーーい、だぜ!」
「乾杯ですマスター!」
鳳勇気くんのダンジョン攻略から二日後。
俺達はマリーン・ミニコが録画していた攻略組の映像をつまみに、イベント成功の祝勝会を開いていた。
当然ながらマーリン・ミニコは姿を隠しながら勇気くんと天上さんを見守り、ダンジョン攻略の最初からカメラを回していたのである。
だから一部始終を収めた記録映像はばっちりだし、なにより盛り上がったのはあのラストシーン。
いやー、あれは素晴らしい現代ファンタジーラノベ展開だったねぇ!
ボス部屋での決戦の最中。
魔力も尽きかけ満身創痍で立ち向かう勇気くんが、最後の気力を振り絞ってエリートグリーンスライムに一撃を放つ瞬間!
渾身の攻撃はエリートグリーンスライムに一歩届かず、絶対零度の氷剣が根本からへし折れ崩れ落ちてしまう。
あわやここまでかと、記録映像を見ている俺とニアは思った!
だが、そのとき!
後方でヒーローの戦いを見守っていた天上さんの、負けないで……っ、という祈りの声が勇気くんの耳に届く!
その声に導かれ、奇跡的に魔力を捻りだした勇気くんは、なんとかつてない程の威力の氷魔法によりエリートグリーンスライムを一撃で破壊したのだ!
「いやぁー! 完璧な魔力譲渡だったぞミニコ! タイミングも何もかも含めて素晴らしい演出だった!」
「いえいえ、それほどでもあります。私はマスターにお仕えする銀河最高の最新型AI、ミニコですから」
「がっはっは! その通りだ!」
「へへへ、ミニコもようやく、アニキの舎弟妖精としての心構えが成ってきたようだぜ!」
ちなみに、もちろんのことだが奇跡は特に起きていない。
勇気くんの魔力残量が底をつきそうになったタイミングで、マーリン・ミニコが彼に魔力供給をして試合を逆転させただけである。
マーリン・ミニコには異能者のトップに立ってもらうべく、それに恥じない最高レベルの魔力操作を付与しているので、この程度の離れ技はぶっちゃけ児戯である。
その辺の魔法使いには無理だろうけどね。
まあ、もともと電子情報を遠隔操作してパソコンを操れるミニコとは、こういうエネルギーの操作技術は相性が良かったのもあるだろう。
「それにしても、勇気くんに対して勇者とか言い出した時はどうなることかと思ったけどな。俺はそんな情報知らんし」
「そうだそうだ! 勇者とかいうやつより、アニキのほうが強い! えいっ、えいっ」
「や、やめなさいニアっ! こら、ちょっと!」
俺の疑問に対し、よく分からないけどアニキの意見は正しい、と思っているニアがミニコを指先でつんつんする。
しかしその後、ミニコの考えた設定を聞いてみると納得することは多かった。
というのも、勇気くんを今後日本の代表異能者として擁立し、ダンジョン攻略におけるトップランカーとして目立たせていくのであれば、それなりの箔があったほうが良いとのこと。
その箔というは人間社会では案外重要になるので、早めに布石を打ったんだそうな。
なんでも現在地球上でミニコが形成している異能者社会の中で、勇者という異能者協会に認められるほどの特別な立場があれば、下手な政治的干渉を行ってくる各国から守る盾になるらしいのだ。
つまり、もしうちの異能者協会が大事にしている秘蔵っ子に手をだすなら、我々が黙ってないぞと面と向かって言えるようになるわけである。
なにより今後、今回のダンジョン攻略報酬で、光属性の補助魔法、勇猛果敢を手にした天上さんとペアを組んでいる鳳勇気くんはとにかく目立つはず。
その点を警戒して以前から計画を練り、ダンジョンの中でわざとらしく、今後の布石として勇者の設定を伝えたのだという。
俺はこの話を聞いた時、こいつ天才かと思ったね。
いや、ミニコは超科学の結晶である最新型AIなので天才ではあるのだが、そうじゃなくて、俺の意を汲んでくれる力が凄いってことだ。
さすがコミュニケーション特化型のAIだな。
こういう流れを作って助力してくれるのは、本当に助かる。
まさに御見それしました、ってところだ。
しかし、これでようやく第一回ダンジョンイベントでの試験運用も終わり、地球上に数々のダンジョンをばら撒く土壌が整った。
政府にも近いうちにダンジョンが発生すると話しているし、剣と魔法のファンタジー異世界からいくつかダンジョンコアを輸入しなければならないな。
まあ向こうの世界で人間にはまだ未発見のダンジョンから、直接的に最下層のコアルームまで転移してコアを荒稼ぎすれば良いので、この仕事は難易度低めなただの作業だ。
ああ、ちなみに。
今回勇気くん天上さんペアが攻略したダンジョンコアは、一応攻略者の権利として所有権を主張するかどうか聞いておいた。
もちろん欲しいといえば保有を認めるし、いらないと言えばこちらで回収してそれまでた。
そう直接聞くと、勇気くん本人は自分の体質に対して決着をつけるのが目的だったから、ダンジョンコアの方は師匠の方で有効活用してくださいと言われたのでもらっておいた。
まあ彼からすればダンジョンコアが手元にあったって、どうすることもできないしな。
この事実を知ることはないだろうが、そもそも魔力を大量に放出するパワースポットに再び埋めなければ、こんなものただの石ころだよ。
持っていてもしょうがない、という訳である。
それなら師匠である長谷川が異能者協会にでもなんでも提供し、その地位を高めることに利用してくれれば、弟子として少しでも恩返しができると考えているのだろうね。
うーん、さすが俺の見込んだ最初の異能者。
勇気くんは本当に、とても良い子です。
「というわけで、俺とニアはこれから異世界でダンジョンコアを回収してくるから、ミニコは各国の政府に渡りをつけて、そろそろダンジョンが目覚めつつあると警鐘を鳴らしてきてくれないか?」
できればミニコも一緒に連れていきたいところだけど、いまも地球上で人形集団を遠隔操作している時に異世界へ連れて行けば、その操作は確実に途切れる。
故にミニコは永遠のお留守番となるのだった。
といっても俺がメインで活動する本拠地はここ地球だ。
そう長いこと放置するわけでもないので、問題は特にないだろう。
「了解ですマスター。既に作戦の状況は整いつつあります。このミニコに全てお任せください」
「頼んだ。……それじゃ、久しぶりにまた転移するか!」
「いえーい!」
俺はそう意気込むとニアを回収し、人気のない未踏の地域でひっそりと誕生しているダンジョンコアの最下層、コアルームへと直接異世界転移するのであった。




