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第25話 そろそろ学生は夏休みだった日


 電子妖精となったミニコの子機ボディとも言える、操り人形集団が世界各地へと散っていった。

 様々な背景設定や外見をした操り人形たちのことは、今後ミニコがそれぞれの役割に応じて地球上で暗躍していく予定だ。


 たとえばマーリン・ミニコは異能者人形たちの頂点に立つまとめ役で、ダンジョン関連で世界情勢が不安定にならないよう、異能者集団の戦力や政府へと流す情報の均衡を保つ役割を担っている。


 他にもイギリスに拠点を置く異能者協会の重鎮、ウィッチ・ミニコが演じる魔女役の婆さん。

 アメリカのカリフォルニア州で、国から非合法な依頼を請け負うストリートチルドレンに扮した異能者、フィクサー・ミニコなどなど。


 数々の背景設定を持つミニコ集団が、ダンジョンや異能者の存在を世界中に少しずつ浸透させるため暗躍を開始している。

 その総勢はいまも少しずつ増えていて、最初に創造した人形は数体だけだったのだが、いまはミニコが必要だと思った段階で追加し創造していっている。


 なお、背景設定から人形の外見デザインまで、全てミニコにアウトプットしてもらっているため、俺は言われた通りのボディと能力付与を行いリリースするだけだ。

 これはこれで割と時間を取られる仕事だが、万年人手不足だった頃を考えると確実に状況は改善している。


 なお世界中に散らばった人形集団を見かけると、ああこいつ俺が創造した人形だわ、と丸わかりなので見間違えることはない。

 なぜなら、いつでも人形に与えた能力を取り上げることができる、現実改変能力の本体である俺特有の不思議感覚があるからだ。


 つまり土くれから創造した人形ボディを、いつでも土くれに戻すことができる感覚が付きまとうのである。

 故に見間違いは起こらないという訳だ。


 で、そんなこんなで人手不足の解消から翌日。

 今日はおおとり勇気ゆうきくんの家にお邪魔して、彼の妹に加えボーイミーツガールのガール担当である天上てんじょうひかりさんも一緒に、ダンジョンへ挑む計画を説明していた。


「……本当に君も付いて行くというのか?」

「はい。勇気くんとはもう何度も話し合いました。私の覚悟は決まっております」

「やれやれ。子供の遊びではないのだがな……」


 怪異退治の専門家、達人異能者である長谷川天気モードでダンジョン攻略への覚悟を問うと、天上さんは真剣な表情で頷いた。


 どうやらスライム退治のイベントからしばらく。

 ここ一、二週間で勇気くんとの仲をかなり深めたようで、周りで見守っている白亜ちゃんからも反発はないようだ。


 きっと不思議な力を持つ勇気くんとの関係も紆余曲折あって、家にお泊り会とかしつつ王道ラブコメ的な青春ストーリーを繰り広げたのだろう。

 まあ、師匠である長谷川に相談してきた勇気くんに対し、怪異の事件に巻き込まれた天上さんを、そばで守ってやれといったのは俺だけどね。


 こうなるのはある意味で予想通りといえる。

 だがいくら天上さんも付いてくるような雰囲気が完成していたとしても、怪異の世界を誰よりもよく知る達人異能者としては、一応否定的な態度を醸しつつ最終確認を取らなくてはならない。


 もともと地球史上初となるダンジョン攻略イベントで、命の危険など起こらないよう万全の準備は終えているが、それを彼らが知るはずもないのだ。

 ここですんなり、じゃあついて来いよ~、なんて言おうものならキャラ崩壊待ったなしである。

 それ故に、俺は天上さんの覚悟をフリだけでも問い質さなければならない。


「……やはりダメだ。今はまだ一般人である君に、小規模とはいえ怪異の中心地とも言えるダンジョンへ近づけさせる訳にはいかない」


 ちなみに、今回のダンジョンは五階層。

 出てくるモンスターはスライム系ばかりで、五階層のボス部屋には今までより少しだけ強いエリートグリーンスライムと取り巻きたちがいるぞ。


 さらにボス部屋を攻略すれば、勇気くんのペアである天上ひかりさんを意識した報酬、勇猛果敢ブレイヴ・ビートのスキルオーブを用意してある。

 勇猛果敢ブレイヴ・ビートは光属性に属する補助魔法で、味方のあらゆる能力を光のオーラで大強化し自然回復力を高める、まさに聖女といったノリの異能力だ。


 え、なんで天上さんの参加を渋っているのに、既に報酬を用意しているのかだって?

 ははは、ご冗談を。

 そんなの全部、ドラマティックな展開を演出するために決まっているじゃないか。


 彼女のヒーローである勇気くんの尊敬する師匠、長谷川天気の反対を押し切ってまで参加したダンジョン攻略の果て、最後には勇気くんの隣に立つだけの力を手に入れるシチュエーション。

 そんなストーリーを描くべく、俺はわざわざ心にもない反対的意見を叩きつけているのだ。


 つまり、全てはこの為である。

 なお、ニアに関しては俺の意見が全てなので、無理にでも参加しようとしている天上さんを、ぐぬぬっ、と睨みつけて威嚇している。


 まあ、オヤブンである俺がダメだと言っているのに、言う事を聞かないじゃじゃ馬娘の態度に業腹なのだろう。

 それでも威嚇するだけに留めて直接的に突っかからないのは、決して引かない天上さんの態度を、俺があたかも認めているような雰囲気を醸し出しているからである。


 つまりニア視点では、アニキの言葉に反発するこの女は生意気だが、アニキはこいつのことを試しているような節もあるし、今は邪魔をせずに様子を見ておこう。

 という図式が成り立っているのだ。


「そんなに睨まないでくださいニアさん」

「そうだよニアちゃん! 天上さんはお兄ちゃんの信頼を勝ち取るために、たくさん準備をして今日の戦いに挑むんだからね! プリズムキュートにだって相棒はいるんだよ? サポート役は絶対に必要なんだから!」

「ぐぬぬ! ……ふんっ!」


 天上さんの援護射撃をする勇気くんの妹、おおとり白亜はくあちゃんの意見に一理あると思ったのか、プリズムキュートを例に出されたニアは「とても不本意です!」という態度のまま参加を認めた。


 ナイスファインプレーだ、白亜ちゃん!

 俺はこの、ニアが認めるならば仕方ないか、みたいな空気感を醸し出せるタイミングを待っていた。


「……ほう? 君の参加をあのニアが認めるか。面白い」

「……っ。で、では?」

「まあ、いいだろう。今回の攻略には、修行を一通り終えた勇気くんの卒業試験的な意味も含まれるからな。その本人が同行を認めるというのであれば、最終的に拒否はできんさ」


 カバーストーリー的には、ダンジョンの魔力に中てられて異能を開花させた勇気くんは、この近場のダンジョンの怪異たちとある意味で共鳴しているという設定がある。

 故にダンジョンと共鳴した魔力は、この辺の怪異を引き付けてしまうのだ。


 そこで勇気くん本人が、本体であるダンジョンを討伐し魔力的な優位に立つことで、怪異を引き付ける体質という問題に対し、根本的な解決に繋がるという設定。

 なお、これを別の人間がダンジョン攻略してしまうと、また別のどこかで発生するダンジョンが勇気くんを認めず、共鳴先として再び怪異を押し付けてくるようになる。


 ……という設定らしい。

 いや、これ全部ミニコが監修して考えたストーリーなんだよね。

 俺は青少年のダンジョンデビューを確認してボーイミーツガールしてくれれば何でも良いのだが、ミニコは設定厨なので色々と架空の設定を提供してくれるのである。


 なんて有能な舎弟妖精なんだ、ミニコ。

 マジのガチで、本当に助かる。


「ありがとうございます、師匠」

「礼はいらない。結果を出し、証明してくれればな」

「はい! 絶対に討伐を成功させてみせます!」


 そんなこんなで俺とニアは、万が一怪異が勇気くんの家族を襲った時のために鳳家で待機し。

 勇気くんと天上さんはダンジョンを討伐するため、いつもの雑木林へと出立していった。


 なお、ダンジョン内部では二人が安全にダンジョン攻略できるよう、サポート役として偶然の遭遇を装ったエリート異能者、もといマーリン・ミニコを待機させている。

 いやー、さすがにサポート役もなく放り出すほど、ガチな感じで危険を演出する気はないよ。

 まだ出来たてのダンジョンとはいえ、魔物の脅威は本物だからね。


「いっちゃったね、お兄ちゃん……」

「心配か?」

「うん……」


 先ほどの元気はどこへ行ったのか、白亜ちゃんはしょんぼりとした様子で俯く。

 どうでもいいけど鳳くんのご両親は共働きで、今日が息子のダンジョン攻略本番と知り、どうか息子を頼みますと念を押されている。


 故にここには幼女組であるニアと白亜ちゃん、そして唯一の大人である俺しか残っていないため、幼女の気持ちが分かるのは同じ幼女であるニアしかいなのである。

 というわけで、友達を勇気付ける役目は頼んだぞニア。


「へへへ、大丈夫だぜハクゥア! アニキがあんなちっちゃなダンジョンの攻略で、計画の失敗なんてするはずねーからさ!」

「……そうかな?」

「そうだぜ!」

「そっか。……うん。うん! なんかニアちゃんがそう言うなら、信じられるかも!」


 そんな幼女たちの会話をBGMにして、俺はリラックスしながら腕輪をぽんぽんと叩き、そちらに向かった攻略組の二人をよろしく頼むという合図を送る。

 姿は実体化させていないが、当然ミニコは今の会話を聞いているので、ダンジョン内部でも繋がっているマーリン・ミニコに状況を共有できるのだ。


 腕輪が振動して骨伝導を伝い、任せてください、という返答が返ってきたのを確認した俺は、夏休みっていいなぁ~、なんていう感想を浮かべながら二人の帰還を待つのであった。


 せっかくだし、ダンジョン攻略という初めての冒険を、地球史上初となる冒険者二人の青春の一ページに加えて欲しいのものである。


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